ドラゴン、また頭おかしい子と出会う
そのエミールはオレの手を握ったまま。オレは馬車に揺られていた。
貴族街に入り、オレは屋敷に連れてこられる。
「私の部屋で語りましょう!」
「か、語る?」
何を語るのだろう。
オレは屋敷に入っていき、私の部屋というエミール。
オレは中に入ると…。思わず、うわと呟いてしまった。
「なにこのドラゴンだらけの部屋…」
ドラゴンの鱗、小さいドラゴンの頭の剥製。何なんだこの部屋。狂気しか感じないぞ。
オレは思わず立ち止まる。
「ドラゴン部屋です! ああ、カッコいいっ…! ドラゴンはいつ見てもかっこいいままですねぇ」
「…あんたドラゴンじゃないの?」
「え? 私は人間…」
「え、単なるドラゴン好き?」
「あなたもですよね!? あなたからはドラゴンの匂いを感じるんです!」
……。
なるほど。匂い、か。たしかに匂いにまでは気を使ってなかったが…。それでも気づくのか?
それにしても…ものすごいな。このドラゴンの鱗たち。オレが見たところ少しばかりニセモノもあるが本物の方が多い。
「ど、ドラゴンねー。うん、オレも好き」
「本当ですか!? では何のドラゴンが!? 私はヘヴンドラゴンが今一番の推しなんです! 近くに来てるのに見に行けないっていう悲しさ…」
こいつオレに気づいてるのか?
ヘヴンドラゴンが目の前にいるんだよ。あー、悪い奴ではなさそーなんだけど…。なさそーなんだけどっ!
「ヘヴンドラゴンのあの白さ! アレはいいですよ! 心が汚れないという潔白さをきっと表してるんですね!」
ごめんなさい。いつも白いのは汚れたら生え変わらせてるからです。
「あとヘヴンってつくくらいなんですからきっと天国…神様の使者です!」
すいません。神様がいるかは知りません。
神様がもしいるとしてもそうではありません。人間がつけた名前だからどういう意味なのかは知らねーけどよ…。
「あの白く硬い鱗…欲しいなあ…。ヘヴンドラゴンに殺されるなら本望かも…。むしろ嬉しくて幽霊になって付き纏うかも…」
「何こいつ…」
アリィといいこいつといい。身近な奴は頭おかしい奴しかいないのか。
「あんた貴族令嬢だろ。オレみたいな平民と話してていいのか?」
「構いませんよ。それに、平民ありきの貴族ですので他の方には文句は言わせません」
「ドラゴン以外はマトモなのか」
「ドラゴンもマトモです!」
いや、マトモじゃねえよ。オレに殺されてもいいって言ってる時点でマトモじゃねえよ。
オレは部屋の中をみる。貴族の屋敷というだけありでかく、窓の外に広がる庭の景色もなかなかよかった。
「貴族の屋敷ってこんなんなのな。見た目だけはいい」
「舐められますからね。形だけでも豪勢にしないと…」
「ふぅん」
人間は弱いのに仲間内でも比べ合う。
それもそれで美しいという奴もいるだろうがオレはそうは思わんね。
「まあ今は貴族のことはいいです。ドラゴンについて語らいましょう!」
「どうしてもか…」
オレはオレ以外のドラゴンのことは知らねーぞ。
貴族の屋敷で語っていると太陽が沈んでくる。
「もうこの時間ですね。冒険者ギルドまで送りましょう。悪いけど馬車の用意を頼めるかしら」
「かしこまりました」
侍女がそういって馬車の手配をしていた。歩いてもいいがここは貴族街だからオレが一人で歩いてたら疑われるか。
ここは平民は基本入れねーからな。
「また今度遊びに行きますね」
「おう」
馬車の手配をしたということでオレは門の前に用意されていた馬車に乗り込む。
ったく、貴族か。貴族っつーもんはあまり好まないがエミールは多少信頼できるかもな。




