天への導き
俺はこの塔の門番をしている。
門番といってもただの受付みたいなものだ。
「こんにちは、ここはどういった施設なのですか?」
「こんにちは。ここは天への導きという施設です。我が国が世界へ輸出しようといている文化の中枢ですよ。旅人さんですか?」
「えぇ、昨日到着したばかりですが」
この施設の事を聞くと大概の人は驚くのだ。
激昂する人も感心する人も人それぞれだが、俺は感心する人とは仲良くなれるとは思わない。
「もし時間があるのであれば見学していきませんか?パン1つ分程度の金額で見学できますよ。この施設はどなたでも見学ができ、とても人気なのですよ。海外からお金持ちの方が来ることもあるんです」
「それはすごいですね!ぜひ見学させてください」
「では代金をいただきますね……はい、丁度いただきました」
俺は交代を頼み彼女についていく。
「では一緒に行きましょうか」
「基本的にはこの部屋から見ることになります」
「これから何が行われるのですか?」
「天への導きですよ」
そう言うと隣の部屋に人が入ってきた。
「ここはマジックミラーになっているので向こうからは見えませんよ」
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私は今まで幸せな人生を送ってきた。
小学校から私立に行き、大学では研究が大成功し、光栄なことに学会で賞をいただいた。
大学院でも研究を評価していただいたが、私は結婚をする事を選んだのだ。
主人は先に行ってしまったが、子供はすくすくと成長してくれて孫の顔も見れた。
私の人生は順風満帆だったと言えるだろう。
「みんあ、今までありがとうね」
「おばあちゃん、お礼を言うのは私たちのほうよ。私が高校でイジメられた時も助けてくれたし、就職で落ち込んでた時も助けてれたじゃない」
「ママが居てくれたから仕事を続けながらこの子達を育てられたのよ。こんなに立派になって」
「義母さん、妻と娘達だけでなく、私のことも気にかけてくれてありがとう」
わたしはこんなにも幸せなのね。
「そろそろ時間です」
「よろしくお願いします」
家族の人が外に出て行きおばあさん一人だけが残る。
そこへ一人の男性が入ってくる。
「本日の導き手を勤めさせていただきます、山田です」
「あなたが私の最後の人なのね。ありがとう」
「はじめます」
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そしておばあさんは射殺された。
「きゃあああああぁぁ」
彼女は正常なようだ。俺はこの国の人々が普通だとは到底思えない。外から来る人の反応で私は正常なんだと思う。
「この国では人生に疲れた人や、満足した人、それに生きることのできない人は射殺されます。これがこの国なんです。あなたも入国時にお金を払ったでしょ?それがここで使われる弾の値段です。あなたも望めばこうなりますし、働けなくなってお金がなくなってもこうなります」
「あなた方は狂ってる」
「これがこの国の福利厚生なのですよ。ほら、次が始まりますよ」
既に彼女だった物は既に片付けられた。
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「い、いやだ!死にたくない!やめろ!さわるな」
今度は中年のおじさんが入ってきた
連れてきた男は無言で銃を構える。
そして躊躇なく引き金を引いた。
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「あの男はニートになり、貯金も尽き自分の食い扶持も稼げなくなりました。家族ももう諦めるそうです。なので今日射殺されました」
「もし弾代を払っていないとどうなるのですか?」
青い顔をした彼女言う。
「天の救済という基金がありまして、ここへ入場料で運営されています」
「もういいです」
そう言うと彼女はきた道を引き返していく。
彼女が正常なのだ。
尊厳ある死だとか、福利厚生だとかそう言う言葉で隠しているが、他人のために金を払いたくない。弱者を保護したくない。そう言ったエゴなんだ。
自分がされる時納得してる人がどれだけいるのだろうか。
年金を払うより、鉛玉を一発あげたほうがはるかに安い。
でもそれはどんな世界なのだろうか。