森と街
九話目
俺は小川に行き魔獣の血や泥を洗い落とした。
「さっぱりした!」
『さっぱりしたところで魂を吸収しろ』
「お前なぁ、少しはゆっくりさせてくれよ、走り回ってつかれたんだから。」
デスバットの死骸の所に歩きながらザイルに文句を言う。
「ところでデスバットの魂解析したら翼を出したりできるのか?」
『残念ながらそれは無理だな、魔獣の魂じゃ弱すぎるんだ。翼が欲しいなら鳥系の獣人か翼をもつ魔人の魂を解析するんだな。』
「そうか、残念だな、翼があれば飛べるからいろいろ楽だったのにな。とりあえず解析と吸収っと。」
俺は魔核を取り出し握りしめる。
魂を解析し吸収する。フォレストボアを吸収した時と違い体力や魔力が回復する感覚を強く感じた。
『なかなかいい魂を持ってたな、俺の魂も回復したぞ。スキルもちゃんと確認しとけよ。』
「わかってるよ。」
俺は魔眼を発動し確認する。
称号:導けなかった者、呼ばれし者、
職業:はぐれ魔人
固有スキル:魂の解析、変身、魔眼、夜目、運命の女神の加護、■■■■■、
スキル:剣術、弓術、戦斧術、下級剣技、中級剣技、下級弓技、中級弓技、上級弓技、下級戦斧技、中級戦斧技、武術鍛練、魔力操作、魔力鍛練、身体能力向上、気配感知、気配隠蔽、剛力、突進、下級風魔法、中級風魔法、下級闇魔法、中級闇魔法、鬼火、魔粘糸、念音波、部分鬼人化、鬼甲化、魂吸収、悪食、吸血、火耐性、闇耐性、麻痺耐性、
魔法属性:風、闇
「すごいな、気配隠蔽、念音波、吸血、麻痺耐性、4つも増えてるな。」
『それだけ強い相手だったからだ、強ければスキルも多く持ってるからな。正直あの場所だったから勝てたようなもんだ。』
「気配隠蔽は使えそうだな、麻痺耐性とかなんとなくわかるけど念音波と吸血ってどんなスキルだ?」
『念音波は気配感知系のスキルの1つだがそれ以外に相手に意思を飛ばすことができるスキルだ、吸血は相手の血を吸って体力や魔力を回復するスキルだな。』
「吸血はあんまり使わない方向で。」
『何を言ってやがる!最高のスキルだぞ!戦いながら回復できるんだからな!』
「どんだけやばい戦い方しなきゃいけないんだよ!」
『俺が死ぬ前ならぜひとも欲しいスキルだがまぁいい、ところでこれからどうするつもりだ?まだこの森で狩りでもする気か?』
「いやっ、まずは服をどうにかして街に行って情報収集をしようと思うその後にあの屋敷に戻ってジュリって子を助ける。」
『そうか、まぁ今何処にいるのかもわからんしな、助けた後のことも考えておかないといかんしな。』
「そういうことだ、なので気配隠蔽で追っ手の兵士達のとこ行ってから着るものを拝借します!」
『がんばれよ!』
「そういうとこは他人事なんだなお前。」
俺は気配隠蔽を発動し追っ手の兵士達がキャンプをしている所に向かう。
キャンプには兵士が20名ほどおり、見張りは5名であとは休んでいるようだ。
俺は誰にも気づかれずに見張りに出ている兵士達のテントに忍び込んだ。
兵士達も急ぎで派遣されていたようでテントに荷物は少なく、着られそうな物も上と下の下着があるくらいで普通の服は見当たらなかった。俺はとりあえず下着を拝借し置いてあったマントを羽織ることにした。
(このままだと捕まりかねないな、変質者だ。)
『おい、思ったのだが顔だけ変身してマントを羽織っていけば魔人だとすぐには気がつかれないんじゃないか?胴体が隠れておれば薄手のアイアンメイルを着ているようにも見えるし、とりあえず街に入って服はそこから手に入れればよかろう?』
「ザイルってたまにいいアイディア出すよな。」
『たまには余計だ。』
「それでいこう、マントだけ貰って下着は置いていこう。」
俺は下着を元に戻してテントを後にする。
森に戻る前に兵士の一人が用をたそうとしているところだったので魔眼を使い催眠をかける。
「近くの町はどこにある?」
「街道をあちらの方向に行くとスベラという町があります。」
「ありがとよ、この後お前は大きな魔獣がいると騒ぎ立てろ。」
「はい。」
俺はとりあえず兵士に催眠と幻術をかけて森に入って行く。
『町に向かうんじゃないのか?』
「服を手に入れる為に金がいるから何か魔獣を狩って素材を持っていくんだよ、ボアの肉や牙くらい取っておくんだったよ。」
『デスバットに遭遇した時の場所に置いてきたボアの死体は?』
「なんとなく場所はわかるがもう何もないかもしれないぞ。」
『その時は死体を食いに来た奴を狩ればいいだろう。』
俺はとりあえずフォレストボアの死体を探しに行くことにした、気配感知で探って進んで行くと3匹の魔獣の反応があった。
「そこまで大きくないけどいるみたいだな。」
俺は気配隠蔽を使い3匹に近づいて行く。
3匹の魔獣は俺が倒したフォレストボアを食べているところだった。
『ただのブラックウルフだな。』
(俺が住んでたとこにはいなかった奴だな、強いか?)
『弱いが集団で来られると面倒な奴等だ。』
(ならとりあえず数を減らすか。)
俺はウィンドアローを連続で唱える。
1匹に命中したが他は避けられてしまった。
残り2匹が唸り吠えてくる。
「うるさい犬だな、さっさとこいよ。」
2匹が同時に飛びかかって来た、だが1匹は俺が張っていた魔粘糸に捕まりもう1匹は鬼人化した腕で刺し殺す。
捕まえた1匹にもとどめをさす。
「あっさり勝てたな。さて、素材をいただきますかね。」
『魂忘れるなよ』
「わかってるよ、そんながっつくなよ」
俺は3匹のブラックウルフの解体を始める。
ちなみにナイフは先程キャンプで一本拝借しておいた。
素材として売れそうな部位としてとりあえず毛皮と牙と爪を取っておく。それが終わったら魔核を取り出す。
ちなみにフォレストボアの肉はやはり売り物にはなりそうもなかったが牙が残っていたのでそれは回収しておく。
次に魂の解析だが威嚇と嗅覚向上のスキルを獲得できた。
ザイルの話しでは、威嚇は相手を恐慌状態にすることができるらしいが相手との実力に大きく差がないとあまり効果がないらしい。あとコツとしては相手をびびらせてから使うと効果的らしい。
「さて、素材も手に入ったし空が明るくなる前に町にいきますか。」
俺は急いで街道に出て町に急いで向かう。
町が見えてきたところで気配隠蔽を使い様子を伺う。
町は2メートルほどの高さの壁で囲まれている。
門があり門兵が二人で見張りをしている。
門兵は眠そうにあくびをしながら二人で話をしている。
「ザルだな、鬼火でも出して気を引こうかと思ったけどこのまま壁を飛び越えていくか。」
『まぁ所詮小さな町の警備だからな、近くに凶悪な魔獣もいないのだろう。』
俺はそのまま壁を飛び越えて町に進入する。
闇にまぎれてそのまま町の中を走って行く。
とりあえず俺は朝になるまで路地裏に隠れて休むことにした。
「ばがやろう!おりはまだ飲むっていってんだ!お前が勝手にきめんじゃねぇ!」
「ばがやろうじゃねぇ!兄貴は飲みすぎだって言ってんだよ!」
おっさん達の怒鳴り声にうとうとしていた意識がはっきりとする。
「おりが飲む量はおらが決めるんだよ!」
「明日の仕事に差し支えるって言ってんだろうが!」
「この程度でおりが仕事出来なくなるわけねぇだろうぎゃ!」
「もう知らねえかんな!そこら辺で寝るんじゃねぇぞ!先に帰るぞ俺は!」
「ばかにすなよ!さっさとけぇれ!」
(酔っ払いは何処の世界もうるさいねぇ)
『俺もまた酒が飲みてぇな。』
(・・・頑張れ。おっと、こっちに来る。)
怒鳴ってた兄貴がこちらにふらふらと歩いて来る。どうやらまだ別の店に行くようだ。もう一人の方も別の方向に歩いていっている。こちらは帰るようだ。
俺は見つからないように路地の建物の上に飛び上がる。
おっさんをやり過ごし俺はまた寝ることにした。
朝になり俺は顔だけ魔力をまといイメージをし変身をする。
マントを羽織りまずは素材を換金してくれる所を探す。
市場などで聞き込みをした結果、素材の買取りは市場の素材屋か武具屋、そして冒険者ギルドの3ヵ所である。
俺は市場の素材屋に行くことにした。冒険者ギルドはさすがにこの格好では行けないし武具屋も同様でこの体を見られるのは困る。
「すいません、この素材を買い取ってもらいたいんですが。」
「あいよ、ってあんた冒険者じゃないのかい?」
対応してくれたのは大柄なおばさんだった。
「冒険者じゃないけど、なんかまずいのかな?」
「いやね、鎧着てる人間が来たら冒険者かと思うじゃない?冒険者ならギルドに持っていった方が本来いろいろ評価とかもあるからね。」
「そういうことなんですね、とりあえず買い取りお願いします。」
俺は受付台の上にブラックウルフの皮と牙と爪を3セットとフォレストボアの牙を置く。
「なかなか状態がいいわね、こっちの牙もなかなかのサイズだし。」
「いくらくらいになります?」
「そうだね、銀貨2枚と銅貨3枚でどうだい?」
「相場がわからないからおばちゃんを信じてそれで!」
「あらそうなのかい?じゃぁ安く叩いておけばよかったね」
おばさんは笑いながら銀貨と銅貨を出した。
こうして俺は無事に服を買う資金を手に入れた。
ちなみに、こちらの世界のお金は銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚という感じでわかりやす。
「ありがとうおばちゃん。」
「こちらこそありがとね、また売りに来とくれよ。」
俺は手をあげて答えて店を後にする。
次に訪れたのは服屋である。
俺は無難な服を選び買うことにした。
『地味じゃねぇか?』
(いいんだよ体を隠せれば、マントあるしな、そして安いからな)
俺は商品を受け取りそのまま路地裏にいき服を着る。
そして全身に魔力を纏い変身する。
「どうよ?ばっちりだろ?」
『まぁ、やっぱり地味だな。』
「そこかよ!まぁいいや次は武器だ」
俺は武器屋に向かう。
武器屋は市場の外れにあった。工房もかねており音のもんだいやらで少し離れているらしい。
店構えは古めかし木造の建物だ。
ちなみに今の俺の所持金は銀貨1枚と銅貨9枚だ。正直まともな武具は買えないだろうが弓矢くらいはどうにかなるだろう。
とりあえず中に入ってみる。
(なかなかすごいなこの量は)
剣、槍、戦斧、弓、等々、店の中には所狭しと並んでいる。
『店はボロいが商品はなかなか良い物もあるな。』
「いらっしゃいませ。」
店のカウンターに若い男が座っていた。
「弓矢が欲しいんだけど安くていいのあるかな?」
「弓矢かい?そっちの奥の棚が比較的安くてあるよ、君は冒険者?それとも狩りにでも使うのかい?」
「冒険者じゃないよ、なんで?」
「冒険者なら割引とかあるからね、物によっては2割引になるものもあるよ。」
「なら冒険者登録をしてから来た方がいいのかな?」
「まぁそれもいいかもしれないけど冒険者登録にもお金はかかるから安い物を買うならたいして関係ないかな。」
「ちなみにいくらかかるの?」
「えっと、確か銅貨5枚だったかな?」
「今の所持金じゃちょっと危ういかな、とりあえず見させてもらうね。」
俺は奥の弓が並んでいる棚を見ていく。
木の弓矢のセットが銅貨8枚で販売されていた。ちなみに鉄の弓が銀貨3枚で他にも銀の弓やミスリル合金製など町の規模の割にいい武器が揃っていた。
「お兄さん、なんでこんなにいい武器が揃ってるの?」
「ああ、ここの町は素材になる鉱材が手に入りやすいんだ、それに親方の親父さんが昔冒険者もやっててその時集めた武器なんかも出してるからね。」
改めて店を見て回ると魔力を帯びた剣や槍などもあり金額もすごい金額がついていた。
「まぁ高すぎてめったに売れないけどね、でも親方達の腕もいいからたまに大きな街からも買いに来る人達もいるからね。」
「すごいですねぇ、ちなみにお兄さんの後ろにかざってある弓も売り物なんですか?」
店員の立っているカウンターの後方にもいくつかの武器がかざられていた。
それらの武器は店の商品に比べて見た目はシンプルな作りだが不思議な感じがした。
「これか?これはさっき話した親方の親」
「どわっ!」
店の奥から男の叫び声と物が壊れる大きな音がした。
「ギザさん、ちょっと大丈夫すか?」
カウンターの男が店の奥を覗きこんで大きい声で話かける。
「階段を踏み外しただけだ!大丈夫だ!」
男が奥から店の方に歩いて来る。
「軽く打っただけだから平気だ、それより兄貴は帰って来てないのか?」
「本当に大丈夫すか?すごい音でしたよ?ガザさんならまだ見てないですよ。」
「あの馬鹿兄貴が!またどっかで寝てやがるな!」
よく見ると夜明け前にケンカをしていた酔っ払いの一人だった。
「って、お客さんか、びっくりさせてすまんかったな。」
ギザは俺に気づいて軽く頭をさげた。
「そうだった、説明の途中だったね!この武器はガザさんとギザさんの親父さんが作った武器なんだ。」
「なんだ?この武器に興味があんのか?使える奴がいないからただの置物になってるぞ。」
ギザが笑いながら言う。
「俺達の親父はドワーフ族でな、腕のいい職人だったんだが冒険者でもあったんだ!そんでもって親父は勇者のパーティにいたんだぜ!」
「それほんと?」
「本当だとも!西の魔王が攻めて来たときは勇者達と一緒に戦って魔王を追い詰めたって話だ!」
「そんな人がなんでこんな町に?」
「がっははっ!そこか!親父は偏屈で面倒なことが嫌いだったから爵位や領地は拒否して好きに生きることを選んだのさ!そんで人族の嫁をもらってこの町に住み着いたんだ!」
「じゃぁおじさんはハーフなんだ。」
「そうだ、だからドワーフほど小さくはねぇのさ!そんでそこの武器は親父が当時の仲間の武器をもとに作ったレプリカなんだがこだわり過ぎて普通の人族には使えないんだよ!」
「だからかざってるだけなんだ。」
「いやっ、ただかざってる訳じゃない、親父は死ぬ前にこの武器を使える奴がいたら渡せって言ってな、そんで今まで沢山の連中が試したが認められたのはダガーとレイピア、バスターソードと兄貴が認められた戦斧の4つは嫁に行ったんだ。それでこいつらがまだ残ってるんだ。」
さらにギザは指を指しながら語ってくれた。
「この武器は特別な金属を使ってるから強度は異常に高いが重さも異常なんだ、戦斧を持つ兄貴が言うには相性があるとか使い方は武器が教えてくれるとか言ってたが俺にはわからんかった。俺が扱おうとしたら突然重くなって振るえなくなっちまってな、別名呪いの武器とまで言われてる!」
ギザがにやにやしながら語ってくれた。
「俺も試してみたいんだけどいいかな?」
「おう、かまわねぇぞ!どれ試してみる?見たところ武器らしいものは持ってなさそうだが?」
「いろいろあって武器は紛失しちゃってね、とりあえず弓と剣を試してみたいんだけどいいですか?」
「2つか?まぁいいだろう、こっちに来い、」
そう言ってギザは俺を店の裏庭に案内してくれた。