魔人と変身
七話目
窓を突き破った俺はそのまま地面に落下していった。
どうやら2階の窓から飛び出したようだが建物自体が大きく5メートル以上の高さがあった。
庭に落ちた俺は体を確認する。
(窓を割ったのにかすり傷一つないしあの高さから落ちたのに痛みもない、というかこの腕に足、体はなんなんだ!前世で見た映画に出てくる鉄の人みたいじゃないか、鏡が見たい。)
いろいろ考えていると
「きゃー化け物!」
後ろから悲鳴があがった、どうやらこの屋敷のメイドが俺を見て言ったようだ。
屋敷の2階からも先程の隊長さんらしき男の大声が聞こえる。
『さっさと逃げろよ』
「わかったよ、現状くらい確認させてくれよなまったく。」
周囲を見渡すと屋敷はどこも大きな壁に囲まれているようだった。
『とりあえず気配感知を使って警備が手薄なところに行け!あの程度の高さの壁なら身体能力向上を使えば飛び越えられるはずだ。』
「了解!ならそれでいこう!」
ここで俺は違和感を覚えた。
気配感知の範囲が異常に広いこと、体も見た目が鉄だから重いかと思っていたがすごく体が軽いことだ。
(これってこの体の力か?魔力も前の人の体の時とは桁違いに感じられる。)
「こっちだ!殺してかまわん!急げ!」
兵士達の声に我にかえると身体能力向上を使って一気に走り出す。兵士達の中にも身体能力向上を使っている者がいたようだが全く追い付けない、すぐに屋敷の壁にたどり着いたのでそのままの勢いでジャンプして壁を飛び越える。
『とりあえずあっちの森に逃げ込め、すぐには追い付けまい。』
「おう!この体ならすぐに兵士達もまけるさ!」
俺は身体能力向上を維持したまま森の方に走って行く。
ひたすら走って街道から森の入り口に到着した。
追ってはかなり後方、というか全然見えない。
そのまま森の中に入っていく。
ある程度進むと小川が見えてきたのでとりあえず休憩をすることにした。
川の水に顔がうつる。
(やっぱり見間違いじゃないか、無表情な鉄仮面って感じな顔だな。)
屋敷の窓をぶち破ったときに見た顔が見えた。
『面白い者に転生したな。』
「どこが面白いんだよ、こんなんじゃ街も入れないし人に出くわしたらみんな逃げて行くぞ。下手したら討伐されるわ!」
『お前が転生したのは魔人族だ、さっき屋敷の主が言っていたようにウッドドールの上位種のアイアンドールと言うやつだ。』
「アイアンドール?やっぱり魔人なんだな。」
『アイアンドールはウッドドールと違ってある程度意思を持つ魔人だ。だが魔神の失敗作とも言われている。』
「失敗作なのか?どういうことだ?」
『アイアンドールは特殊なスキルを持っているんだがそれが失敗作と言われる原因だ。』
「どんなスキルだ?」
『変身だ』
「変身することができるのか!?」
『そうだ、変身して敵対するところに侵入して情報を奪ったり国の重要機関の上役に成り代わったりできるはずだったんだが』
「だか?」
『このスキルの欠点は魔力の消費が多いと言うことなんだ、変身している間も魔力を消費するからいつか魔力切れで正体がバレてしまうんだ、おまけにバレたとき魔力が切れてるからまともに動けずにやられてしまうんだよ。』
「変身をこまめに解いておけばいいんじゃないのか?」
『意思を持っていても命令に忠実過ぎてそういう細かいことができなかったみたいだ。』
「もう少し考えて作ってやるとよかったのにな。」
『ということでお前も変身すれば街に気にせずに入れるぞ、それにお前の魂は特殊だから魔力も多いし魂の吸収を利用すれば魔力を貯めておくこともできる。』
「かなり俺にとって都合がいいんだな。」
『お前の為に運命の女神が仕組んだことだろうからな。』
「ババアと言うのは改めるとするか。」
『あまり失礼な言葉を吐くと罰がくだるぞ。』
「わかったよ、というか今疑問に思ったんだがザイルはなんでそんなに魔人のことやスキルのこと境界のことと詳しいんだ?」
『ただ長生きなのといろんな奴等とやりあってるからだよ。』
「そうか、まぁいいや、変身ってどうやるんだ?」
『まずは変身する対象の魂が必要だ、そして体に魔力をまとって変身する対象を想像しろ、イメージが固まったら普通にスキルを発動する感覚で使えばいいはずだ。』
「俺の魂の場合どうなるんだ?」
『必要なのは魂の情報だから俺と会ったときの姿になれるはずだ。』
(えっと、とりあえずレイリックのイメージを固めて・・発動!)
鉄の体が黒い霧に包まれたかと思うと一瞬にして姿が変わった。
俺は川にうつる自分の姿を見て安心した。レイリックの姿だ。
だが問題が発生した。裸だったのだ。
「服とかは想像ではできないんだな、さすがにこのままはまずいな。」
とりあえず魔人の姿に戻る。
「とりあえず衣服を手に入れないと変身はできないな」
『お前の魔人としての力の話だが、魔力操作で目に魔力を集めてみろ、おそらく魔眼が使えるはずだ。』
「魔眼って?」
『中級魔人のスキルの一つだが、相手のステータスを見れたり相手に幻術や催眠をかけたりすることができるものだ。』
「すごいな、それって自分のステータスも見れるのか?」
『見れるぞ、試してみるといい。それと注意だが、魔眼を使うと目が赤く光るから使う場所は気を付けろよ。魔人だとばれるかもしれんからな。』
「わかった、気を付けよう。」
俺は自分のステータスを確認してみる。
称号:導けなかった者、呼ばれし者、
職業:はぐれ魔人
固有スキル:魂の解析、変身、魔眼、夜目、運命の女神の加護、■■■■■、
スキル:剣術、弓術、戦斧術、下級剣技、中級剣技、下級弓技、中級弓技、上級弓技、下級戦斧技、中級戦斧技、武術鍛練、魔力操作、魔力鍛練、身体能力向上、気配感知、剛力、下級風魔法、中級風魔法、下級闇魔法、中級闇魔法、鬼火、部分鬼人化、鬼甲化、魂吸収、火耐性、闇耐性、
魔法属性:風、闇
(なんかいろいろと増えてるな。ザイルのスキルがいくつかと、アイアンドールとしてのスキルが追加されているな、)
「ザイルのスキルがいくつか入ってるみたいだけど部分鬼人化と鬼甲化ってなんだ?さっき使ってたやつだよな?」
『お前の体を一部分鬼人化させるスキルと鬼甲化はさらに堅くする能力だ、普通の剣や矢はまず通らんぞ!それに俺の魂が強くなれば全身を覆うことができるようになる。』
「鬼人になるのは少し抵抗あるがまぁ強くなる為なら仕方ないか、運命の女神の加護ってなんかわかるか?」
『確かいろいろな面倒に巻き込まれる加護じゃなかったか?』
「なっ、ほんとにそれだけか?」
『正直、珍しい加護だからあまり聞いたことがないからわからん!』
「まぁとりあえずいいか、そのうちわかるだろ、ステータスで見えなくなってるやつは何かわかるか?」
『見えない?おそらくだが、ある程度の条件で発動するスキルか成長すると発現するスキルではないか?』
「なるほどね。」
(そういやぁカーナにも見えなくなってる部分があったな。)
「ザイルって戦斧使えるんだな、中級戦斧技があったけど。」
『使えるぞ、だが俺は超級戦斧技まで使えたぞ!』
「でも中級までしかスキル出てないぞ?」
『それはお前の体がまだ扱いきれないか、技術が足りないからだな、お前が強くなって経験が増えればすぐに出てくる、例えば身体能力向上と剛力を発動してもう一度スキルを確認してみろ。』
「身体能力向上!剛力!魔眼!」
確認してみる。
称号:導けなかった者、呼ばれし者、
職業:はぐれ魔人
固有スキル:魂の解析、変身、魔眼、夜目、運命の女神の加護、■■■■■、
スキル:剣術、弓術、戦斧術、下級剣技、中級剣技、上級剣技、下級弓技、中級弓技、上級弓技、下級戦斧技、中級戦斧技、上級戦斧技、武術鍛練、魔力操作、魔力鍛練、身体能力強化、気配感知、剛力、下級風魔法、中級風魔法、下級闇魔法、中級闇魔法、鬼火、部分鬼人化、鬼甲化、魂吸収、火耐性、闇耐性、
魔法属性:風、闇
剣技と戦斧技の上級がそれぞれ増えていた。
「すごいな、スキルを組合せれば技も増えるんだな。」
『そうだ、あとは経験を積めば超級以上が取れる。』
「けっこう時間かかるのか?」
『それなりにかかるだろうがお前には魂の解析があるからそれを使って少しは短縮できるはずだ、まぁひたすら戦って魂から経験を吸収していけばいいんだよ。』
「そうだな、がむしゃらにやってくしかないか、できれば人間は殺したくはないがな。」
『そんなつまらんこと言ってると足元すくわれるぞ。』
「わかってるよ。」
俺はため息混じりに呟く。やはり平和な国で長く生きていたからなのだろうこの世界とのギャップを感じる。
「あとは称号は、導けなかった者は運命の女神からの嫌味だな、呼ばれた者ってどういうことだ?」
『召喚された者だからだろう。』
「そういやぁこの姿になったショックから忘れてたけど境界で助けてくれって言われてたの忘れてた!」
(やっと思い出してくれたんですね。)
「おわっ、また声が聞こえた。」
『俺には聞こえんぞ!』
(私はラーラと言います、獣人の白虎族の巫女をしておりましたが私達の集落が戦争に巻き込まれてしまい戦争奴隷としてこの地に連れてこられました。)
「魂として俺の中にいるのか?」
『その感じはしないからおそらくは残留思念というやつだな、強い未練や想いがあるから本来は召喚の贄になったとき全て消えるはずが残っていたんだろう。』
「なるほど残留思念か。」
(話を聞いてますか?)
「あっ、すいません。」
(お願いいたします、一緒に連れてこられた妹のジュリをどうか助けてください。)
「妹か、わかったよ、きっと助け出してやるよ。」
(ありがとうございます。)
胸が少しすっとした気がした。
『ほっとけばいいものを。』
「俺にも妹がいたんだよ!だから助けてやろうと思ったんだよ!」
『わかったよ、まぁこれも運命の女神の導きだろうしな。』
「ザイルって信心深いよな?それに知識もすごいし正直俺はお前のことただの野蛮な鬼だとしか思ってなかったぞ。」
『うるさい、つまらないことを考えるな。』
「照れてるのか?」
『うるさい!それより周りを警戒しろ!』
「わかってるよ、でも気配感知には全然引っ掛からないし追っての兵士達は森の外で待機してるみたいだぞ。」
『もうすぐ夜になるから兵士達はなかなか入り込めないんだろう、だがこれだけ大きな森で魔獣と遭遇しないのも不思議だな。』
「夜行性の魔獣が多いのか?とりあえずどこか野宿できそうな洞穴でも探すか。」
俺は気配感知を発動させたままとりあえず森の奥へと進んでいく。
少し行くと洞穴があったので中に何も住んでいないか確認して入っていく。
「とりあえず夜まで様子をみてみるか、この体はとりあえずお腹も空かないみたいだしな。」
少しすると日も完全にしずみ森が真っ暗になっていく。
外に出て森の外の兵士達のいる辺りを探ってみる。
兵士達は少し増えており20人くらいになっている、どうやらまだ森に入ってくる気配はないようだ。
(やはり夜は入って来ないようだな、森の中はっと)
森の中、自分の周囲に意識を向けて気配感知をおこなう。
大型の魔獣が少しと中型、小型の魔獣が複数いるようだ、やはりこの森は夜行性の魔獣が多いの森のようだ。
「どう思う?とりあえず力を試してみるか?」
『とりあえず試してみろ、そして早く魂をくれ、昼間に力を使ったから魔力が切れてる。』
「わかったよ、とりあえず近いのから行きますか!」
俺は近くの中型の魔獣がいる方に向かってみる、そこには一匹のイノシシの魔獣フォレストボアがいた。前世でも狩ったことのある魔獣だ。ランクは下から2番目のEランク。
「ザイルどう思う?武器なしだが素手でいけるかな?」
『腕を鬼人化して身体能力向上や剛力を使っていけば問題ないだろう、だがやつの突進はまともに受けると多少ダメージはうけるかもしれんな。』
「了解、ならやってみるか!」
フォレストボアにバレないように近づいていき、右腕を鬼人化し一気に距離をつめて不意打ちをする。
突然現れた俺にも驚きフォレストボアが慌てている。そこを右手で思いっきり殴り付ける。
フォレストボアの左顔にヒットし牙を砕きフォレストボアは3メートルほどぶっ飛んだ。
吹っ飛ばされたフォレストボアは転がりながらもすぐに体勢を立て直しこちらを睨み付けてくる。
『身体能力向上くらい使え。』
「身体能力向上使わずにどれくらいの強さか確かめる為だよ!どれ程の攻撃力があるかわからないと手加減するときにできないだろ!」
『またそんなことを!手を抜いていると俺みたいに死ぬぞ!戦う時は常に全力をだせ!』
言い合っているとフォレストボアが突進のかまえをとった。
『来るぞ!』
「わかってるよ!だったら全力だ!」
俺は身体能力向上と剛力を発動し腰を落として右腕を腰元にかまえる。
フォレストボアが勢いよく突進してくる、俺はそれに合わせて右腕をフォレストボアの頭に撃ち込む。
『ばかっ、それだと』
グシャっと言う音と共にフォレストボアは頭から潰れるまでは良かったのだが、肉片が飛び散り身体中が血まみれになってしまった。
『なんでグシャグシャにしちまうんだよ!』
「お前が全力って言ったからだろうが!」
『魔核までぶっ飛ばしやがって!あれがないと魂が吸収できないんだぞ!』
「そうなのか?ってかそういう大事なことは最初に言っておけよ!」
『ちっ、魂がそこまで強くない魔獣は死んだら魔核の中に魂が入るんだ、その魔核を潰して魂を吸収するんだよ!』
「魔核ってそういうものなのか、魔獣の魔力の源としか聞いてなかったしただの売れる素材としか思ってなかったぞ。」
『確かに人族からしたらただの魔力がこもった石って認識だろうな。とりあえず探すぞ!』
こうして魔人に生まれ変わっての初めての猟は後始末がたいへんという落ちで終わった。