鬼と昇天
四話目
悪寒が走ったとでも言うのだろうか?
俺達の後方に突然やばい気配を感じた。
俺達はすぐに身構えて気配の方をむく。
『血のにおいがすると思ったがガキが3匹に死んだばかりの熊が3匹か、とりあえず血ぐらいは止めれるだろう。』
そこには赤黒い鬼が立っていた。
だがその鬼あきらかに様子がおかしい、なぜなら左腕が切り落とされており右手でその左腕を持っていたのだ。血が流れ落ちている。あまりにも不気味な光景に俺達はみんな固まってしまっていた。
『ん?一匹はエルフか?いやっ臭いがうすいな、ハーフエルフか?』
鬼が笑みをうかべる。
『ハーフエルフのガキだがそれなりに魔力も持っていそうだしこいつの魂を食えば少しは回復するだろう、他のガキ共も魔力を持っているみたいだし魂をいただくか。』
(俺達を殺して魂を食うってことだよな、この鬼の雰囲気はかなりやばいぞ、なら一か八か。)
『話しているところすまないが、このレッドベアとマウントベアで俺達を見逃すことはできないだろうか?』
イルとファナが驚いた顔でこちらを見ている。
『お前俺の言葉がわかるようだな、言語系のスキルを持っているのか?』
『いやっ、そんなスキルは持っていなかったはずだが?』
「なんでレイあいつと同じ言葉をしゃべれるの?」
イルが驚いて聞いてくる。
(言葉が違うのか?同じようにしか聞こえないが、俺には言語系のスキルもなかったはずだが?もしかして転生者だからか?)
「よくわからんがあいつの言ってることがわかるんだ。」
『おいこぞう!お前面白いことを言うな!その度胸に免じて逃げる時間をやろう。』
『というとどういうことです?』
『俺は腹が減っているからこれからこの熊どもを食う。その間に決めろ!ガキ3匹で逃げるかそのエルフを置いて逃げるか!』
そう言った瞬間鬼から凄まじい殺気がファナにとんだ。
「かっ、ごほっ」
凄まじい殺気にあてられファナがその場にへたりこんでしまう。
『やめろ!』
『その足手まといのエルフを残していったらお前達は見逃してやってもいいぞ。』
鬼が嫌な笑みをうかべている。
(こいつ完全に遊んでやがるな、こうなったら何が何でも逃げてやる。)
『三人で逃げるさ』
『どこまで行けるかな?』
鬼がレッドベアの方にゆっくり歩いて行く。
「イル!ファナをかかえて身体能力向上を使って急いで逃げるぞ!急げ!」
「わっ、わかった!」
イルがファナを抱き上げて一気に加速していく。俺もその後ろを追いかけていく。
「イル!奴の狙いはファナだ、ファナを殺して魂を食うって言ってた、だからお前は死ぬ気で逃げるんだ!」
「なっ、ファナがなぜ?」
「エルフがどうとか魔力がどうとか言ってやがった!」
「エルフの方が魔力が高いから魂を食って回復しようとしてるのか。」
「ファナ大丈夫か?」
走りながらイルに抱かれるファナに話かける。
「少しきついけどもう少ししたら走れるからこの先で下ろして」
「わかった、でも無理はしないでね。」
「結構距離は稼げたがあとは、そこでファナを下ろして一緒に走るぞ!」
「わかった!」
イルがファナを下ろす。
そして再び走り出す。
「いいか二人ともよく聞いてくれ、あいつはもう動き出すはずだ、だから二人は全力で村まで行って父さんと、それとカーナを呼んで来てくれ。」
「あんたはどうする気なの?」
「俺が奴を引き付けて時間をかせぐ。」
「エリックさんはわかるけどなんでカーナちゃんまで呼ぶんだ?危険じゃないか」
「危険かもしれないが、たぶんあいつに勝てるとしたらカーナだけだ。」
「そんなっ、でもレイだけの残すなんて!」
「カーナは強いさ、それにあいつは俺達を殺して食ったら次は村に行くぞ、そしたら家族や村のみんなが殺される。だから少しでも俺が時間をかせぐんだよ。」
二人は悔しそうな顔をしている。
「俺は簡単には死なないからさ、だから急いで行ってくれ!」
俺は速度を落とし止まる。
「わかったわ。」
「ならレイ、こいつを残していく、ストーンゴーレム!」
イルが地面に手をあてゴーレムを作り出す。
「あまり役にたたないかも知れないけど盾にでも使って。」
「すまないな、使わせてもらう。」
「絶対に死なないでよ!」
「レイ、すまない。」
「さっさと行けよ!」
二人は全力で走って行く。
「さてと、どれだけもつかな。」
独り言を口にし鬼の気配をさぐる。
どうやらまだ距離はありそうだ。
「ウィンドボール!」
俺は風の玉をいくつも飛ばしていく。
(出し惜しみはなしで最初から全力でいってやる。)
ドン!どうやら奴が動き出したらしい。
(わざと大きな音を出して追い詰めて行く気か、本当に悪趣味な鬼だな)
ものすごい勢いで木がなぎ倒される音が近づいてくる。
鬼があらわれた、腕の傷からはもう血は流れ出ていない、傷はふさがっているようだ。
『待たせちまったか?』
『いやっ、たいして待ってねえよ。』
『エルフを捨てて行けばもう少し長生きできただろうにな!』
『友達を差し出せるわけねぇだろ!』
『ここいらの人間は仲がいいんだな、なら全員仲よく俺が食ってやるぞ。』
鬼が突っ込んでくる、俺は矢を射かける!
キン!
矢は鬼の肩に当たったがそのまま皮膚に弾かれてしまう。
(矢が通らない、それに早い)
ゴーレムが突っ込んでくる鬼の前に立ちはだかる。
ドン!
『なかなか頑丈にできたゴーレムじゃねぇか、だがな!』
鬼は右手に持った左腕をゴーレムの足にあてる。
ドコッ!
激しい音と共にゴーレムの左足がふっ飛ぶ。
俺はその間に矢にウィンドブレードをまとわせ一斉射を連射して事前に出しておいたウィンドボールに当ててあちこちから鬼を狙う。
ゴーレムを叩き潰そうとしている鬼の後ろから矢が飛んでくる。
すぐさま鬼は矢を弾いていく。
俺は気配を消して森に入りまた矢をウィンドボールに当てていく。ゴーレムは鬼の足にしがみつき動きを止めようとする。
『どこに逃げやがった!ちょこまかとつまらん攻撃しやがって!お前も邪魔だ!』
鬼がゴーレムを頭から叩き潰した。
その瞬間俺はストームショットを放ち鬼に直撃させる。
ファナほどの威力はててないが竜巻を発生させる。
『ふん、鬼火!』
ドン!
激しい音と共に竜巻が炎に包まれ火柱が上がり消える。
炎の勢いで竜巻を吹き飛ばしたようだ。
(全然ダメージなしかよ、こいつなんなんだよ、あと俺の魔力量を考えるとショットならあと3発か、厳しいけどイル達が逃げ切る時間は稼げるかな。)
とりあえず俺は気配を消してまた矢を打っていく、たまにウィンドアローを混ぜてみるがたいしたダメージにはならないらしい。
『小僧!さっきまでの威勢はどうした!隠れてばかりか?』
矢を弾きながら鬼が叫ぶ。
『ならあぶり出してやるぞ!いつまで隠れてられるかな!』
鬼が右手の人差し指を森に向けて
『鬼火!』
一気に木々が燃え上がる。
(なんだよあの炎、レッドベアのブレスがそよ風みたいなもんじゃねぇかやばすぎるだろ)
『鬼火!』
どんどん森に火をつけていく、こちらの方に手がむいた。
(やべっ!)
身体能力向上を全開で逃げ出す。その瞬間背中に激痛が走る。
「がはっ」
おもいっきりぶっ飛ばされた。木にぶつかって止まった。
「ごふっ」
血を吐き出す。
(骨が何本かいってるな、呼吸をかなりきついこれはやば)
『まだ死ななかったか、なかなか頑丈だな』
鬼がすぐそこに来ている。
鬼は左腕を下におき、右手で俺をつかんで高く持ち上げた。
「へっ、くそっ、風よ我が前の敵をなぎはらえ、狂え風よ!」
魔力が収束していく。
『詠唱魔法か!』
「ウィンドバースト!」
両手に風を集め鬼の右腕に一気に叩きつける。
ドン!
俺の体にも激痛が走る、俺が唯一使える風の中級の詠唱魔法だ。詠唱魔法は詠唱する分時間をとられ発動が遅くなるが威力はその分大きくなる。
そんな魔法を近距離で発動させたのだ無事なわけがない。
(これで魔力きれたな、まぁもう動けないしいいか、こいつの右腕だけでも持っていければ十分だろ。)
暴風がやむ、鬼は微動だにしていない、右腕は俺をつかんだままだ。俺の体はズタズタになっており俺の右腕は魔法によりふっ飛んでどこかにいってしまっていた。
『その歳で詠唱まで使えるとはな、驚いたぞ小僧!俺に傷をつけるとはたいしたものだ。』
小さい傷がついている。
「・・・ちいせぇ傷だな、くそったれ」
『じぁな小僧!』
鬼は俺を放り上げて鬼の右手が俺の胸を貫く。
力が入らなくなってきた。
感覚が軽くなるのを感じた。
(死んだのか)
『おっと、逃がさんよ』
つかまれた感覚を覚える。
(くそったれ)
鬼が俺を呑み込む。
『味は悪くないな、ふっ。』
鬼が満足してにやける。
俺の魂は鬼の魂に吸収されていく。
(ぐぉっわっくそったれ!くそったれ!簡単に食えると思うなよ!鬼が!)
『なかなか生きがいいな小僧!お前何者だ?こんなに吸収できない魂には会ったことがないぞ!まぁすぐに俺の魂に呑まれるがな!』
鬼が笑いながら言う。
その瞬間空気が震える。
ザシュっ!
鬼の胸に刀が刺さる。
「油断したな鬼人、逃げられると思っていたか?」
『ぐおっ』
鬼が腕を振り回す。
『なぜお前がここにいる!』
「おいおい、お前を殺す以外にこんなとこまで追ってくる理由があるかよ?」
『きさまぁ!』
「当たり前のこと聞いてんじゃないわよバカ鬼が!」
矢がすごい勢いで飛んできて鬼の太ももに突き刺さる。
(いったい何が起こってる?俺を吸収する力が弱まっているみたいだが、鬼が戦っている奴等はなんだ?)
『ちっ、他の連中もついてきていたか』
鬼の前に更に二人現れる。
(4人?何者だ?人間の男と獣人3人か?)
そこには黒い髪の男と全身黒の服装、マントにマスクをした犬系、鳥系、猿?の女の獣人がいる。
「一気に刈り取るぞ!お前ら!」
黒髪の男が刀をかまえる。犬の獣人はダガーを鳥の獣人は弓を猿の獣人は棍をかまえる。
(こいつらかなり強い、やばすぎる位に強い、エリックなんかよりもずっと強い。)
鬼が飛び出し右手をかかげる。
『地獄の炎よ、雷鳴よ!我が手に集え!獄炎召雷!』
鬼の手から黒い炎と雷が降りそそぐ!
4人はそれぞれ回避する。
「シャリー、強化発動後に右にまわれ!チェリーは魔法付与の矢を使って動きを止めろ!猿は俺のサポートだ!」
「「了解!」」
「私だけ雑じゃないですか指示が!」
「お前が素材集めしてたせいで遅くなったんだからいいんだよ!」
「なっ、それはそうですが!すいません!おっとストーンウォール!」
ふざけながらもしっかりと鬼の攻撃を完璧に防いでいく。
鬼が攻撃をしかけるがその隙にチェリーが矢を放っていく、矢はミスリル製で炎と風が付与のされておりかなり強力である。ミスリルは魔法を付与させやすく軽く丈夫な素材だ。
「だいぶ足が落ちてきたわね、アイスブレード、限界突破!」
シャリーがダガーに魔法付与させ、限界突破を使って一気に身体強化をする。シャリーが鬼の左手側から攻撃を加えていく。
『くそっ、体がどんどん重くなってきやがる、魂もさっきの小僧のせいでおかしい。』
「今度こそ死ね!」
シャリーのダガーが当たった所が氷ついてさらに鬼の動きを悪くする。
『炎武人!』
鬼が炎をまとって強化する。
(俺の魂を吸収する力が強まった、くそっ食われてたまっかよ!)
「やるじゃねぇかよ!鬼人!」
『ふん!』
鬼が切れた左腕を武器がわりに振り回す。
「エリー!鬼をぶったぎれる奴をだせ!」
「さっきのも業物なんすけど」
「これじゃぁ折れる、てか既に刃こぼれしてる!ちゃんとした物出しやがれ!」
「ぎゃーっ!このバカー!力まかせに使うからでしょ!リュー様ならちゃとスキル使ってできるでしょ!」
エリーが全力で抗議している。
「さっさと出せよ!本当に折れるぞ!」
鬼が攻撃してくる。
『さっさと死ね!』
「させるわけないでしょ!アイスバインド!」
「ウィンドスラッシュ!」
「今だ!よこせ!」
「折らないで下さいね!」
エリーが腰の袋から刀を取りだしわたす。
「いいのあんじゃねぇか、いくぜ!覚醒!限界突破!」
刀で鬼に切りつける、鬼は左腕を振り回しはじく。
『くそったれ!』
「へっ、あまいな鬼人!刀よ我が声に答えよ!」
その声に反応して刀が光り出す。
「鬼神斬!」
『ぐがっ』
鬼が肩から腰にかけて真っ二つになった。
「リュー様、覚醒に刀神の神技まで発動させるなんて侵食が強くなったらどうする気ですか!」
「うるさい!勝負つける方が優先事項だろうが、それより瓶と刀を出せ。」
エリーが袋から瓶と刀を取りだしわたす。
鬼の魂が死体から離れる。
(鬼を倒しやがったこいつら、俺もこいつから抜けださないと!)
「不純物があるな、斬魂!」
俺と鬼の魂がつながっている部分をリュー様と呼ばれてたやつが刀で切った。
(ぐぁーっ、この男俺の魂まで切りやがった)
激痛が走った。
「封印しろっ!」
「はいよー!」
シェリーが瓶をかまえて鬼の魂にむける。
鬼の魂が瓶に吸い込まれシェリーが封印をする。
「終わりましたわね」
チェリーが言う。
「こっちの魂はどうする?」
封印の瓶を持ってシェリーが男に聞く。
(俺のことか?俺も封印されるのか?)
「ほっとけ、すぐに消えちまうよ。」
「死体はどうする?鬼人の角は取っちゃっていいよね?刀の修理代にあてるからさ!」
エリーがヤル気満々で聞いている。
「好きにしろ、だが終わったら焼いておけよ。」
「こっちの男の子死体は?」
「そっちも焼いてやれ、ゾンビになるのは不本意だろうしな。」
「了解!シェリー燃やすの手伝ってね!」
「チェリーは戻る準備をしてくれ、長居は無用だ!」
「かしこまりました。リュウ様。」
チェリーが魔法袋から大きなダイヤのような石を取り出す。
「エリー、シェリーもう終わりますか?」
「もう燃やしてます!」
「では空間を開きますね、時空間の魔石よ扉を開きなさい!」
(時空間の魔石?)
空間が割れて光がさす。
リュウに続きチェリー、シェリー、最後にエリーとその光の中に入っていく。
(消えた?ワープアイテムか何かか?というか、これからどうなるんだろうか?魂のままでいれるわけないし、体は燃えてしまったし)
そんなことを考えていると魂が引っ張られる感覚があった。
(どうやら天に召されるらしいな。まぁこの世界で17年だったが楽しかったな、じゃあなみんな。)
俺の魂が消えていく。