VS剣姫クロエ
「カイトの第四の相手と言うのは、貴様か?」
「ええ、私です」
「違うよ!?」
カイトの否定も虚しく、睨み合ったまま一歩も引かない二人の女性。
「私はクロエ・リーザベルト。リーザベルト侯爵家の長女だ。巷では剣姫と呼ばれている」
「私はコレット。コレット・トルカと申します。苗字の通りこのトルカ村の村長の娘です」
セレーネが敵となった事件から七日後。カイト達の村の入口に、一人の女剣士が現れた。引き締まったしなやかな体躯に、豊満な胸。顎先で切り揃えられた燃えるような赤い髪に、狼を彷彿とさせる鋭い金色の目。胸と腰、関節部分の最低限の防御を残し、動き易さを最優先させたビキニアーマー。
こんな田舎ではまずお目にかかれないお色気美女の登場に、村中の男達が湧いた(ちなみにセレーネは転移魔法後すぐにコレット宅に移動し、現在も軟禁中なので目にした村人はいなかった)。
「あのクロエさん、いきなりですけどセレーネに説明してほしいことがあるんです。そして彼女を王都に連れ帰ってくれませんか、説明しづらいんですけどちょっと大変なことになってまして」
クロエはカイトより一つ年上の十九歳である。その大人びた雰囲気と剣士の気迫に相まって、カイトはクロエには敬語で接していた。
少々不穏な雰囲気ではあるが、まさかクロエまでセレーネの二の舞になるわけないとそれなりの信頼もしていた。
「勿論だ。私は君達を迎えにここまで来たのだから。それと……コレット、と言ったな」
「し、紹介するよクロエさん、こちらコレット、僕の“唯一の”婚約者」
初っ端で遅れを取ったが、クロエにまで妙な誤解をされるわけにはいかない。少々わざとらしく口を挟んだカイトが、しかし次の瞬間言葉を失った。
「はい、第四夫人予定の婚約者です」
「だから違うよ!?」
「ふん。もう四人目気取りか。だが残念だったな、カイトは否定しているぞ?」
「クロエさん?」
「貴様が第四を名乗れるのは……第二夫人である私の許可を取ってからだ!」
「クロエさん!?」
ビシ、と目にも留まらぬ速さでクロエがコレットに剣を突きつける。コレットの金色の前髪が一房、ふわりと剣圧で切れ落ちた。
「私と勝負しろ、コレット・トルカ!……あ?」
次の瞬間には、剣が宙を舞っていた。
「きっさまぁああああ!コレットに何するんだあああああ!!」
音速の速さで聖剣を抜いたカイトが、クロエの剣を弾き飛ばしたのだ。
「チッ、折り損ねたか……」
油断していた。完全に油断していた。まさかあの剣姫クロエが。剣に生き、互いに切磋琢磨し、共に魔王を倒した頼りになる仲間が。まさかコレットにその誇りである切っ先を向けるとは思いもしなかったのだ。
「くっ、邪魔をするなカイト!これは女同士の闘いなのだ!」
素早く剣を拾い、クロエが構えを取る。聖剣を構えたカイトがそれを睨みつける。
「カイト?何だその目は……カイト?」
もうアレは仲間ではない。敵だ。殺すべき敵だ。コレットに剣を向けた。コレット(の髪)を切った。コレットを殺そうとした。刺し違えてでもここで殺さねば、コレットが危ない。殺す。絶対に殺す。
「ここが貴様の墓場だ、クロエ・リーザベルトぉおおおお!!」
「やめなさい!」
「へぶっ」
身体強化。時間操作。強者の威嚇。怒りの波動。業火炎流つるぎの舞。いくつもの魔法を重ねがけし、魔技を組み合わせ渾身の力でクロエに斬りかかろうとしたカイトは、一瞬で全ての魔力の自由を奪われ反動で倒れた。
「一緒に魔王を倒した仲間に!未来の奥さんになんてことするの!?謝りなさい!」
コレットの制止の声は、いつだってカイトの魔力の暴走を止めてくれる。今回のように敢えて暴走させた場合でも、例外ではなかった。
「カイト……?何故?今、本気で私を斬りに……」
また、クロエも同じく動きを止めていた。動きを封じられたからではなく、ただの驚きによって。
同じ剣士だからわかる殺気。カイトに本気の殺気を向けられていたことを悟り、クロエは呆然と呟いた。
「あ……」
ヨロヨロと起き上がり、ようやく冷静さを取り戻したカイトも気づいた。
先程クロエがコレットに向けたものは、殺気“めいた”ものであり、殺気ではなかった。今己がクロエに向けた純然たる殺意には程遠い。
「謝りなさい!カイト!」
コレットの凛とした声に、急速に頭が冷えていく。
「す、すみ、すみません、クロエさん、俺、クロエさんを……コレットが殺されると思って、目の前が真っ赤になって」
セレーネの一件で、仲間への信頼が揺らいでいたせいもあった。クロエまでもがコレットを四番目などと嘲笑い、第二夫人などとふざけたことを言い出すから、頭に血が上った。
「そうか、クロエさんは、コレットが俺の婚約者だから、実力を確かめようとしただけなんですね……?かつて、勇者の俺の実力を確かめようと斬りかかって来た時みたいに」
「あ、ああ、婚約者だからというか、婚約者に相応しいかどうか確かめるために」
二年前。魔王討伐の旅に出るため、カイトが初めてクロエと引き合わされた時。『軟弱そうな奴だ。私は私より弱い男には従わぬ』とクロエはいきなり斬りかかってきた。なので咄嗟に魔力を爆発させて受け流し、クロエが驚いている隙にその剣を弾き飛ばした。その甲斐あって、『我が剣は勇者カイトに捧げる』と仲間に加わってくれることになったのである。
その時だって初っ端から失礼なことを言われ、殺気めいたものは感じたものの、どれもカイトの実力を確かめるためにしたことで本気ではなかったと後から聞いた。
思えば今回感じた殺気もその時と同じような……いや、その時以上のものであったような気もするが、流石に魔物等に向けるような純粋な殺気とは違っていた。
「殺す気で斬りかかってしまったことは、申し訳ありません。取り返しのつかないことをするところでした」
「い、いや、元はと言えば私が先に剣を向けてしまったから……」
どうもクロエは誰もが剣で分かり合えると思ってるというか、力が全ての基準だと思い込んでるというか、格好良く言えば戦闘狂、有り体に言ってしまえば考え無しの脳筋なところがある。戦闘においては頼りになるのだが。
「許してくれなくて構いません。僕も許せそうにないので」
「別に構わな……え?」
今まで戦闘においてパーティを引っ張ってくれたことには、感謝している。勝負となると周りが見えなくなるタイプであることも知っている。しかし。それとこれとは話が別だ。
「本気でなかったとはいえコレットに剣を向けたこと、コレットを侮辱したこと。到底許すことはできません。もし次同じようなことがあっても、やっぱり僕は殺す気で貴女に剣を向けるでしょう」
「私は許すわ。貴方も許しなさいカイト。私の言うことが聞けないの?」
「コ、コレットぉ~!」
コレットを背に庇いながら、きっぱりと決別の言葉を告げ……たところで肝心のコレットにひっくり返される。
「剣を向けられたのは私よ。許す許さないは私が決めるわ」
「で、でも!あいつコレットを四人目とか馬鹿にしてぇ~!」
「あら、それは事実じゃない」
「ちーがーうぅううう!僕はコレットだけ!コレット一筋、コレットしかいらない!コレットが世界一!」
「我儘言わないの!お嫁さんになってあげないわよ!」
「うわあああ嫌だぁああああ結婚してよコレットぉおおお」
コレットは本気だ。これは言い出したら聞かないやつである。カイトがクロエを許さなければ、本当に結婚してくれない。
「ふっ、う、ぐっ……クロエ……さん、生意気言ってすみません……許しますから許してください……」
苦虫を噛み潰したような顔で、カイトがぎこちなく頭を下げる。
最愛のコレットを侮辱し、剣を向け、髪を切り落とした今生の敵に、頭を下げなければいけない。身を切られるような思いだった。
「何故?何故だカイト、何故その女が一番になる?一番は、正妻は私達の中から決めると約束だっただろう!」
「は?」
「僅差でセレーネに遅れを取ったことは今は諦めよう、私の落ち度だ。しかしこんなどこの馬の骨ともわからぬ女に正妻を譲れなどと!」
「は?」
人はあまりに理解の及ばないことを言われると、きちんと聞き返すことすら出来なくなるらしい。頭の上に大量のハテナマークを浮かべ、カイトはただただ硬直した。
「一年前っ、夫婦星の丘でのプロポーズを、反故にするというのか!」
「はああああ?」
プロポーズ。全くもって覚えがない。カイトがプロポーズをしたのは、後にも先にもコレットただ一人である。
「そう、夫婦星の丘ね……私も新聞で読んだわ。夜空の下結婚を誓う恋人達の聖地……ロマンチックでいいじゃない」
うっとりと呟いたコレットに、カイトが即行で反応し振り返る。
「え、コレット夫婦星の丘に興味あるの?コレットが行きたいならいくらでも連れてってあげるよ、いつがいい?明日にでも行く?二人で星を見よう!」
「そうね。新婚旅行で皆で行くのもいいわね、カイト達にとっては思い出の場所だし」
「し、新婚旅行……!なんていい響きだ……ん?皆?思い出?」
「だってカイト、その丘でセレーネ様達と四人で輪になって星を見上げて、全員に『この旅が終わったら結婚しよう』ってプロポーズしたんでしょう?色んな新聞の一面を飾ってたわよ」
「はい?」
コレットに嘘を言っている様子はない。そんな内容を報じる新聞があったのは事実なのだろう。ではいったい何故。
「そうだ!寄り添う夫婦の星が見える、あの丘で!『この旅が終わったら結婚しよう。まだ一番を決められないからすぐには無理だけど、待っててほしい』と!言ったではないかカイト!」
「え?あ、ああっ!?」
そして突如割り込んできたクロエ。その瞬間、ようやくカイトは思い出した。
一年前の旅の途中。魔物がはびこる前は、夫婦の星がよく見える絶景ポイントとして賑わっていたらしい丘に野宿した時のことを。
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「折角ですからテントはやめて、星を見ながら寝ませんか?こんなに晴れて綺麗な夜なんですもの」
「このあたりの魔物は一掃したしな。気温も問題ない、いいだろう」
「念のため結界を張ったよ。一晩は持つかな」
旅の途中立ち寄った村からの依頼で、村外れにある丘に巣喰い、度々住民を攫っていく魔物を倒してほしいというものがあった。
その丘がかつて恋人達のデートスポットとして有名だったことも話の流れで聞き、カイトはいつかコレットと来たいとこっそり思っていた。
「さあ、寝ましょうカイト。こっちですわ」
「ほらカイト、こっちに来い」
「こっちだよカイト、はやくはやく!」
「あ、うん」
そんな考えごとをしてるうちにその日の晩はテント無しで寝ることになっていて、まあ今からわざわざ反対する程のことでもないと皆に合わせた。こっちだこっちだと皆が皆違う場所を指すから、とりあえず最初に言ったセレーネに従って。
一刻も早く魔王を倒し、コレットの元へ帰るためにも、今はしっかり寝ようと目を閉じたところで。
「ねぇ、カイトはこの星達を見てどう思いますか?」
「んあ?」
左隣にいたセレーネに話しかけられ、浅い眠りから覚めた。
「あの村の村長が言っていただろう?この丘から見える、二つ並んで輝くこの星達を『夫婦星』と呼ぶのだと」
「んー」
右隣のクロエが続いて言う。
「それでこの二つの星に永遠の愛を誓った恋人達は、一生幸せになれるんだって。村人が言ってたよ!」
「へぇ」
よし、コレットと来よう。ルナリアの言葉に改めて決意して、カイトが星を探して夜空を見上げた。
「そこそこ大きい星が四つあるな、どれが夫婦星だろう?」
「そう、ですか。カイトには四つに見えるのですね」
「ふぅ……全く、そう来たか」
「あははっ。もぉ、カイトらしいね」
星の判別がつかないくらいでそこまで呆れることなくない?と内心思いながら、それでも目を凝らして探し。
「でしたら、カイトは……結婚のことは、ちゃんと考えていますか?」
「え?」
この星とあの星かな、と目星をつけたところでセレーネに話を振られたせいで見失った。
「結婚……結婚か。そうだね……この旅が終わったら、結婚したいと思ってる人はいるよ。正式な婚約じゃなくて口約束しかしてないし、本当に了承してくれるかどうかはわからないけど」
「え、それって」
「それは……!」
「そ、それ、もしかして」
王族貴族でもやはり女の子は恋バナに目がないものなのか、女性陣が色めき立つのがわかる。
口に出すと帰りたくなってしまうから、旅の間は敢えて故郷のことには、特にコレットのことには触れないようにしてきた。
しかし結婚と聞いては、どうしてもコレットのことを思い出してしまって。
「でも、結婚するには……一番……が、いるから……待ってて……」
コレット、と最後に小さく呟いて。世界で一番素敵な指輪が欲しいと言っていた、大好きな人を思い浮かべる。その懐かしい思い出に浸りながら、カイトは睡魔に引きずられていった。
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「えええええ!?アレが!?アレがプロポーズになるの!?」
ようやく全てを思い出し、カイトは驚愕で叫んだ。
「って、アレ?ってことはクロエ……さんも、第二夫人って本気だったの!?コレットを挑発するためにワザと言ったんじゃなくて!?」
カイトは未曾有の大混乱の中にいた。ということはセレーネも、同じ理由であんなに自信満々だったのか。
「確かに最後の方寝ぼけてたから、待っててとか言った気はするけど!それがなんで『この旅が終わったら結婚しよう。まだ一番を決められないからすぐには無理だけど、待っててほしい』になるんだよ、その前に結婚の約束した人がいるとも僕言ったじゃん!」
「そ、それが!私のことだろう!お前に打ち負かされた時に、『我が剣を捧げる』と!私から求婚したではないか!」
「あれプロポーズだったの!?」
それでは。セレーネの方は、しつこい娼館の客引を追い払う時に言っていた、あの『私の夫に何か用ですの?』が。そしてその後の冗談が。結婚の口約束ということになってたのだろう。
「嘘だろ……」
もう、まともな仲間がルナリアしか残っていない。昨日の敵は今日の友なら逆も然り。昔の仲間が今は敵、三人中二人が敵に。
「そうだ、ルナリア、ルナリアは?ルナリアはまだ十二歳になったばかりだ。まだ子供だ。まさかルナリアまで正妻がどうのとか言ってるわけはないよね?」
「ああ……ルナリアは、違う」
それでも万が一を警戒し気を張っていたカイトが、クロエの答えにホッと息を吐いた。ルナリアすまない、疑ってごめんと。
「もともと、三番目でも文句無く受け入れていた。四番目の噂を聞いた時も、カイトが選んだなら受け入れると。だから、セレーネや私のように特に急ぐことはなく、通常の手段の馬車でこの村に向かっている」
立ち尽くすカイトとクロエの間に、ヒュゥウウと一陣の風が吹き抜けた。近くの木の枝から千切れた木の葉が風に舞い、頼りなく地に落ちる。
「そっか。良かった、ルナリアちゃんとはすぐ仲良くなれそうね」
「コレット……?ここまで聞いてもまだその感想……?」
もう誰も信じられない、とカイトはその場に崩れ落ちた。
◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆◇◆◆◆
「コレット、もう一度しっかり話し合おう。話し合いと言っても簡単だ。次に言うことを理解してくれたらそれだけでいい。僕はコレットが世界で一番好き、コレットだけをお嫁さんにしたい、OK?」
「駄目よカイト、誰にでも『君が一番だ』なんて調子いいこと言ったら。セレーネ様の言う通り、第二以下はちゃんと正妻を立てなきゃいけないのよ」
「コレットにしか言ったことないよ!いくらコレットでも怒るからね!?」
「でも、新聞では、カイトは……それに、セレーネ様が」
「あああああもう!」
何回目かわからない堂々巡りに、カイトが頭をかきむしる。セレーネ、クロエに話が通じなかったことはまだいい。あれらは既に敵だ。
しかしコレットまでここまで頑ななのは何故なのかと。
「どうして、どうして信じてくれないんだ、コレット……」
「カイト……」
幼い頃から、ずっとずっとコレットが好きだった。昔から可愛くて強気で優しくて村の人気者のコレットを独り占めしたくて、駄々を捏ねては『しょうがないわねぇ』と頭を撫でられて。粘って粘って粘り勝ちで結婚の約束を取り付けた時は、天にも昇る気持ちだった。
「コレットは……コレットは、四人目なんかで、いいって言うの」
独り占めしたいのは。誰にも渡したくないと思うのは、自分だけなのか。コレットにとって自分はその程度なのか。もしコレットに同じことを言われて他の男を紹介されでもしたら、カイトなら相手も自分もどちらの命も保障できないのに。
それなのにコレットは、三人でも四人でも平気だと。
「……ごめんね」
「え……?」
いいわよ、最初からそう言ってるじゃない。そんなふうに明るく返されるのが怖くて、カイトが俯くと。
下を向いた耳に届いたのは、僅かに震える泣きそうな声だった。
「コレット?今なんて、どうして君が謝」
「カイト、少しいいか」
「は?」
放置してた敵(又の名をクロエ・リーザベルト)が口を挟んできた。
「話を総合すると、カイトはこのコレットという女を正妻に据え、私達の順位を繰り下げようというつもりなのだな」
「どの話を総合すればそうなるんですか?」
先程からクロエは地べたに座りこんでブツブツと何かを呟くだけの彫像に成り果てていたので、一旦放置していた。しかしその結果、彼女の中で新たな理論が組み上がってしまったようである。
「当初は予定通りこの女を第四夫人として迎える気だったが、二年ぶりに会って昔馴染みとして情が湧いた。もしくはこの女が正妻になりたいと駄々を捏ねた。どちらにしろ絆されたカイトは彼女を正妻にするため、私達の中から正妻を選ぶという約束を“寝ぼけてただけ”と無かったことにしようとしている。違うか?」
「違いますね」
そのまるで『やれやれ、気の多い夫を持つと妻は苦労するな』とでも言いたげなドヤ顔に、カイトは思わず再び聖剣に手をかけそうになった。というかかけた。
「私達の愛情に胡座をかいて、傲慢になったものだなカイト」
「そんなところに胡座かくくらいなら火山で正座した方がマシだ」
しかしクロエは止まらない。自身の推理に絶対の自信を持ってるようだ。
「口約束とはいえ結婚の約束も、カイトからの正式なプロポーズも無かったことにして……この女を正妻に据えて。それでも私達はカイトから離れないと高を括っていたのだな?」
「僕の大事な人を“この女”なんて言うな」
「フッ、図星か」
カイトは光速で聖剣を抜いた。
「こんなことをしても、私達はカイトから離れず、この女を正妻として認めて順位が下がることも受け入れるだろうと。ふふん、半分正解で半分外れだ。事実ルナリアは受け入れてるしな」
「コレットぉおおお!駄目!?やっぱり斬っちゃ駄目!?峰打ちにするから!」
聖剣を構え、カイトがコレットを振り返って叫ぶ。
「駄目よ!カイトの力は人を傷つけるためのものじゃないって、いつも言ってるでしょう!」
「う、うう……」
視線を戻すとクロエも剣を抜いていた。
「だが!この私まで大人しく受け入れると思うな!私はこんなポッと出のどこの馬の骨ともわからぬ女を正妻と認める気も、第三夫人になるのに納得する気もない!」
クロエが地面を蹴り上げ、天高く舞い上がる。その目ははっきりとカイトの背後にいるコレットを見据えていた。
「認めさせたければ!納得させたければ私を倒してみせろ!貴様にカイトの正妻に足る力があるか、証明してみろコレット・トルカァァアア!」
「業火炎流……盾の舞ぃいいい!!」
斬っては駄目斬っては駄目斬っては駄目斬っては駄目。
目を血走らせて己に言い聞かせたカイトは、攻撃に全振りしそうな力を何とか防御に注ぎ込み、炎で覆った結界を作り出して今生の敵クロエ・リーザベルトを弾き飛ばしたのだった。
次回、VS幼女賢者