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3/3

・Epilogue

*1



とある日の放課後、私は千鶴と教室で話していた。内容は他愛も無い授業やクラスメイトのことから、この間の宙とのデートの話になっていく。私から惚気話をどんどん引き出そうとする千鶴に乗せられて、つい恥ずかしいことまで話してしまう。「ヒューヒュー!」とテンションが最高潮にまで達した千鶴は、このまま私と宙が結婚するんじゃないか、なんて突飛なことを言い出した。


「あーあ、幸せそうな二人の姿がありありと目に浮かぶ! でも七瀬君と花純の子供って、どんな風に育つんだろうね。花純に似たら可愛いだろうなぁ」


「もう千鶴、からかわないでよ」


勝手に想像して盛り上がる千鶴に、私もつられて笑ってしまう。

その時、ふと一人の少女が脳裏に映った。黄緑色のショートヘアの、快活そうにケラケラと笑う少女。頭に浮かんだその記憶を探ろうとした瞬間、私は尋常じゃない頭痛に襲われた。痛みに耐えきれず、しゃがみ込んでしまう。突然のことに側に居た千鶴は驚いていたけれど、すぐさま冷静になって私に早く帰った方が良いと告げた。


「家まで送るよ!」と食い下がる千鶴をなんとか説得して、一人で家路につく。千鶴の申し出は有難かったけれど、なんとなく今は一人になりたかった。帰ってからは頭痛に苛まれることもなく、夜が更けてからベッドに入った。


その日の夜、私は夢の中で少女と出会った。その少女は、千鶴と話していた時に脳裏に映った少女と同じだった。お互いを見つめ合う中で、少女は私にある花の造花を手渡す。何か言おうと私が口を開く前に、少女は消えてしまった。


ハッと目が覚めて、まるで現実のように鮮明だった夢を振り返る。すると何故か、私の手は夢の中に出て来た造花を握っていた。不思議な出来事に困惑しつつも、美しく可憐に咲くその花を机に飾った。


『その花、大切にとっておいて あなたの大切な人が、その花大好きなんだって』


突然、声が頭の中に響いた。次々と起こる現象にいよいよ本気で戸惑い始める。けれど、直感的に声の主である少女は嘘を言っていない、そんな気がした。


「分かった、この造花をとっておけば良いんだね」


私のその声に、少女が返事をすることは無かった。



ーーーそれから六年後。



私は宙に、当時起こった不思議な出来事を話す。でも宙は曖昧な返事をするばかりで、聞いているんだか聞いていないんだか分からないような反応だった。ソワソワと身につけている結婚指輪を弄っているところを見ると、何か触れられたくないことがあるのだろう。隠し事をしている時の癖が出ていた。そんな夫に早々に見切りをつけて、隣に座っている子供の頭を撫でる。しばらくしてカフェを出て、目的地である水族館に向かうことにした。


家族三人で、のんびりと歩く。今日は雲ひとつない晴れ渡った青空だった。


「お空綺麗だねー」


「遥は、青い空が好きなの?」


「うんっ、大好きだよ!」


娘と宙の和やかな会話に、思わず頬が緩んでしまう。歩きながら、ふとバッグにしまってある造花を眺める。家族でのお出掛けに必要は無かったけれど、何故だか今日持って来なければいけない気がした。でも実際持って来たは良いものの、どうすれば良いか考えているうちに水族館に着いてしまった。途端、目を輝かせる遥と宙。


「いこっ、お母さん!」


ぼんやりしていた私を呼ぶ遥の声に意識を戻して、気持ちを切り替える。せっかく来たのだから、精一杯楽しもう。愛する大切な人達が、同じように自分を愛してくれている。そんな彼らと、これからも人生を共にしていきたい。

幸せを噛み締めながら、私は遥と手を繋いだ。




*2



僕が現象に巻き込まれて二人の少女に出会ってから六年が経った。

また世界や時間……さらには並行世界の力を悪用しようと考える人間はいなくなり平和な日々が続いていた。 ちなみに、これは余談だがこの世界にいた堂園 征一まで存在が無かったことにされていた。

あまり深くは考えることはしなかったが、もしかしたら世界が消したのかもしれない。

彼がいることで世界に危険が訪れるのなら仕方のないことなのかなと考えてしまう自分が嫌になる。

以前の僕ならそんなこと考えなかっただろうに。


「お父さん、おはようございます」


目をこすりながら僕の膝にちょこんと座り えへへ、と笑う女の子。

無論、僕の子供なのだが名前は遥(ハル)。


「おとうさん、今日水族館行くんでしょ ずっとたのしみにしてたー!」


手足をばたつかせながら楽しみにしてくれている遥を撫でているとそこに花純が起きてくる。


「おはよう宙、遥」


「おはよー」


「おはようございます」


ぺこりとお辞儀をして挨拶をする遥を見ていて思う。

この子があの未来から来た遥のように成長するのかと思うと少し複雑な気分になる。


「おかあさん、はやく朝ご飯食べよ?」


「朝ご飯は外で食べるから着替えちゃっていいよ」


「はーい!」


元気よく返事をしながら駆けていく遥を見て僕たちは思わず笑う。

楽しいことや、嬉しいことがあると口角が上がるのはずっと前から変わらない。

けど、この笑みは強制されたものじゃなくて自分で心の底から思っていることだって信じれる。

そして、きっとこれが幸せなんだ。

時計を確認してから僕も着替えをするために自分の部屋に向かう。

出かけ先はあの水族館。

なぜか、あそこに行きたいと思って花純に提案した。

最初は否定気味だった花純も遥の行きたい! という熱意に負けたのか最終的には首を縦に振ったのだ。

どうせなら最高の思い出にしてやる。

窓から見える青い空に向けて僕はそう誓ったのだった。



ー***ー



相変わらず水族館のあるこの街は人でごった返していた。

はぐれないようにと僕は自然と遥と手を繋ぐのだが、遥はキョトンとした顔から一変思いついたかのように花純の手を握る。

どうやら三人で並んで歩くことをご所望のようだ。


ゆっくりと歩いていった僕たちは途中でとあるカフェに立ち寄る。

カフェの隣の席に座っているカップルのうち女性にどこか見覚えがあるが気にせずに注文して待っていると花純は何を思ったのかバッグからとある造花を取り出した。


「これ、前に話した造花なんだけど 何故か今日持ち歩かないとって思ったの」


「あぁ、そう……」


以前、花純から不可思議な話を聞かされたことがあった。 夢の中で黄緑色のショートヘアの少女がその造花を花純に手渡し大切に保管するよう告げたのだという。 誰だったんだろう? と首を傾げる花純。

ほぼ確定で花純の隣に座っている彼女が成長してそんなことをしたのだろうが、何の為になのかは僕には分からない。

気にしなくていいことなのだろう。


「え、じゃあ薫って女の子に殺されたことあるの?」


「だから、夢って言ってるじゃん!」


カップルの話声に僕は思わず吹きそうになる。

瞳夏が殺してしまった僕の別√の奥さんは今こうして誰かと幸せになろうとしている。

そのことがなんだか嬉しくて僕は自然と微笑む。

運ばれてきた料理を食した僕たちは外に出た。


「お空綺麗だねー」


「遥は、青い空が好きなの?」


「うんっ、大好きだよ!」


だったら僕と同じだね。

みんなで戻したこの空を嫌いになる日なんて絶対に訪れないだろう。

しばらく歩いて水族館に着いた僕たちは後ろで呆然と何かを考えている花純を呼びかけようとする。


「いこっ、お母さん!」


「はーい!」


こちらに駆け寄ってくる花純と再び手を繋いだ僕たちはエスカレーターに乗る。

あの時のような嫌な予感はしない。

エスカレーターから降り水族館に入ろうとした僕たちは誰かの手に止められる。


「ここにいれば会えるんじゃないかなって思ってた」


後ろを振り返るとそこにいたのは……。




*3


未来に帰れた私……七瀬(ナナセ)遥(ハル)は、仲間が待つとある会社の事務所に入る。


「ただいま、」


「あっ、おかえり」


そこにいたのは、来栖(クルス)雪(ユキ)。

雪(キヨ)の奥さんだった。


「過去はどうだった?」


「何もないよ、雪(キヨ)には会えたけれどそのキヨだってあの時代より少し後から来たキヨだし」


あの時私たちと行動を共にした来栖 キヨはあの時代から3年後の未来から来た人物だった。

欠伸をしながら私は、つまらなかったなぁ。とぼやいた。


「そういうこと言わないの、あの時代のみんなだって必死に行きてるんだし……お(・)父(・)さ(・)ん(・)にだって会えたんでしょ?」


「まぁね」


私は、その人物を見つめる。


「お姉ちゃんにも会ってきたよ、あとお望みどおりタネも撒いといた 今頃咲いてるんじゃないかなぁ」


ありがと、とお姉ちゃんは呟くとお父さんたち今日帰り遅いってーと付け加えながら奥の部屋に入っていった。

私は最後までお父さんに隠していたことがある。

それは、私が過去に行ったもう一つの理由だ。

お父さんともう一人……お姉ちゃんを救うためにあの世界に行ったのだ。

ユキも消えてないみたいだしあの時代のキヨも目的は達成したのだろう。

今回は私たちの勝利だ。

携帯を開き堂園 征一と調べる。

検索ヒットする有名な人物はいない。

私はそのまま携帯を放り投げ空を見つめる。


「もうちょっとあの空見とけばよかったなぁ……」


広がるのは変色して黄色に染まった空。

かつての青く澄み渡る空に戻すにはまだ時間がかかりそうだ。

私は自分の使命を果たすために。

次の仕事に取り掛かることにした。




*Finish



入場しようとした時に誰かの手に止められた。

後ろを振り返るとそこにいたのは……。


「なんで、お前が……」


「一つ質問するね 世界って、何だと思う?」


衝突にその人物が尋ねる。


「現象……いや、自分自身だろ?」


未来の遥から言われたことを思い出し僕は答えた。

だが、その人物は首を振る。


「私は、その答えに辿りついてしまったんだよ」


「どういうことだ?」


「あの時、遥はあなたにこう言ったらしいね 世界は自分だと ねぇ? なんで自分をそのまんま自分と解釈したの?」


少女は苦笑しながら質問する。


「……は? え、なにそれ……じゃあ……」


「この世界は現象なんかじゃない 一人の少女の手で動かされている だから、私は……そんな少女を守るために生(・)き(・)返(・)っ(・)た(・)んだって」


少女はバックから一本の造花を取り出す。

それは、花純の持っている造花と同じ……〈赤いゼラニウム〉。

それを持った少女は、ゆっくりと花純に近づいていく。 花純は涙を拭い少女を見つめる。


「あなたは……誰? なんで私……こんな」


「……」


少女はそれには答えずにおもむろに花純が取り出した造花と自分の造花をちょこんとくっつけた。

瞬間的に訪れる小さな頭痛。

花純は俯くと震える声で少女に告げる。


「どうして……、あの時あなたは……!」


「あなたのお子さんがとんでもない力を隠し持っていたんですよ 本当に驚かされました」


そう答える少女の声も微かに震えていた。


「あの時、未来の遥はあなたや堂園の被害に遭った人間から記憶を奪いました

それは恐怖という記憶を忘れさせるため でもいつか人はその忘れたことすら忘れてしまう だから、私というタネをまいたんです 忘れれば人はまた過ちを犯してしまう そんな時に自分や……大切なお父さんと花純さんを守るために」


淡いラベンダー色の髪の毛を揺らしながら白い華奢な身体を震わせながら……。

少女は……。


〈七瀬(ナナセ)瞳夏(アイカ)〉は微笑んだ。


「ただいま、お父さん 花純お(・)母(・)さ(・)ん(・)……!」


「おかえり……、おかえり……! 瞳夏ちゃん!」


涙を流しながら抱き合う二人。

キョトンとする遥を抱きかかえながら僕も涙を流す。


「私、幸せです」と呟く瞳夏を花純は強く抱きしめる。

そんな二人を見つめながら、『君ありて幸福』。 いつかの花純から聞いた赤色のゼラニウムの花言葉を僕は思い出していた。


しばらくして、人前であんなに号泣してしまった僕たちは入場ゲートの端っこで座りながら顔を真っ赤に染めながら笑いあっていた。


「お姉ちゃん、誰?」


「瞳夏だよ、今日からあなたを守ることになったお姉ちゃんだよ!」


唯一、泣かないで静観していたグループの遥の問いに瞳夏は待ってました、と言わんばかりに答える。


「ふぅーん、よろしくね! お姉ちゃん!」


一切の迷いがなく受け入れる遥。

そんな二人の様子を眺めながら花純は僕に尋ねる。


「どうして黙ってたの?」


「怒ってる?」


僕の言葉に花純は首を横に振る。

安堵した僕は正直に答えることにした。


「雪や、遥にそうするよう言われたんだよ だから僕はその約束を守ってきた」


「ありがとう、」


「え?」


花純は僕の手を握りながら静かに呟いた。


「私を選んでくれて」


「……、僕の方こそ選んでくれてありがとう」


僕と花純は笑い合う。

そんな僕たちをニヤニヤと見つめる瞳夏。


「イチャイチャしてないで、早く水族館行こうよ 私一度行ってみたかったんだぁ」


「うん、お姉ちゃんの言う通りだよ 行こっ! お父さん、お母さん!」


僕と花純は頷いて二人の手を取る。

それが僕たちの選んだ答えだから。

未来の遥がただ瞳夏を生き返らせてくれただけとは思えない。 きっと理由があるのだろう。

未来は決して幸せに包まれている世界とはかけ離れた恐ろしい世界なのかもしれない。

けれど、それでも僕たちは選ぶ。

選び間違えても次の選択肢を選ぶ。

そうやって生きて、死んで……誰かの心で永遠に生き続けるために生死を繰り返していくんだ。


水族館のゲートをくぐる。

それは、まるで新しい世界への第一歩みたいで。

自然と僕の顔は笑ってしまう。

それにつられたのか花純も瞳夏も遥も微笑む。

この水族館から出たら次は何をしよう?

帰る道はどうしよう?

明日は何をしよう?

色んな道が僕たちを待っているのだから。



さぁ、次の選択肢は何を選ぼうか?




〜END〜


最後まで読んでいただきありがとうございました。

また、私に協力してくれたお二人の作者様には最大限の敬意を。


それでは、またどこかで。

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