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・The first part

*この作品は、複数人がそれぞれ書いた物語を結合させ一つの物語にしたものです。

0.Prologue



「もし仮にあなたが生きているせいで、世界が滅ぶとしたらどうする?」


少女が呟くように告げる。

発せられた言葉どころかこちらを見る目すら酷く冷たい。

まるでお前が存在しなければこんなことにはならなかったと言いたげな睨むような雰囲気に僕は圧倒される。 質問しといて向こうはこちらの意見に耳を向けることなんてないだろうに今更そんなこと聞いてどうすんのかな。

まぁ、向こうの言っていることも正しいし事実なのだから仕方ないのかもしれないけれど。


「それで、君は何をしたいの?」


「当然、決まってる あの人がお前と結ばれれば最悪の未来が訪れる なら……ここでお前の命を奪う!」


その言葉の裏腹に隠された確かな決意。

そっか、これが僕に無かったもの。

そのせいでみんなを危険な目に遭わせてしまった……。


こちらに向かってどこから取り出したのかも分からない日本刀で斬りつけようとする少女を僕は見据える。

案外その姿が格好良かったから取り出すところ見たかった。


「本当に……強いな」


僕に無いものを持っているこの少女が羨ましい。

避けるように促すみんなを止めて……僕は、せめて最後に何か告げなければと考える。


「終わりだ、ナナセ ソラ!」


考えて……、考えて……。

考えた結果。

直前まで来ていた彼女の手から刀を地面にはたき落とす。これだけは言っておくことにした。


「知らねぇよ、何で僕がお前の都合に付き合わなくちゃいけないんだよ」


少女の腹部に隠し持っていた銃を取り出し、銃口を当てる。


「!?」


「うーん、僕ってこんな強かったっけ?」


そのまま有無を言わせず引き金を引く。

吹っ飛ぶ少女を横目に僕は後ろにいる仲間に告げる。

……多分、笑いながら。


「んなわけで、さっさと逆転劇始めましょうか?」




1.Departure



話は遡る。


私……七瀬(ナナセ)瞳夏(アイカ)は、旅立つ前の最後の確認をしていた。

おそらく、人生最初で最後の大旅だ。

万が一のことがあっては困る。

身分証明書や財布 何日分かの食料は絶対に忘れられない。


「よし……!」


確認し終えた私はリュックサックを背負い込んで誰もいない家を去る。


「行ってきます」


そう微笑みドアを開けようとするとふと視界の端にある写真が映る。

家族三人で撮った記念写真。

どうせなら……持って行こうかな。

写真をリュックにしまって、今度こそ私は家を後にした。

さて、先程 名前だけ自己紹介を済ませたわけだが改めてもう一度……。

私は、七瀬 瞳夏。

2036年、時間と呼ばれる現象が私達を支配していた。全ての人に平等に渡される筈だったソレは善い行いをした者が多く受け取れる仕組みに変わった。

悪い行い、反抗的な態度を取った者には死が訪れるのみ。

そんな時代で絶賛中学生活を謳歌していた私は一大決心をしたわけだ。


「世界を救ってやる……!」


何ともまぁ、厨二くさい発言だが、これにはちゃんとした理由があった。

まず、前提として話さなくちゃいけないことがあるのだが、それは両親に関することだ。

私の母親は私がまだ幼い頃に他界し、父親も一ヶ月前に亡くなった。

それについて悲しいとか寂しいだなんて感情は抱いたことはない。

ただただ、苦しいのだ。 吐き気とも言える症状が今この段階でも私を襲っている。

少し油断しただけで、きっと私は胃の中にあるものを全部吐き出すことができるだろう。

しかも、私の父親が死んだ理由も悲惨なものだった。

時間という現象に母と抗った結果、世界から追放された。

ありのままを話すとこうなるのだが、詳しいことはまた今度話すこととしよう。

ともかく、私の父親は母親と会わなければ 今を生きていられたのだ。

なぜなら、母が亡くなったせいで父は時間を恨むようになったのだから。

そして、私の心に穴が空いた理由はもう一つ。

父が亡くなる日、私は父と喧嘩をしていた。

私が最後に放った言葉が「二度と会いたくない」なんてモノなのだからもはや笑えない。

くだらない反抗期を迎えてしまった私はついに謝ることも出来ないまま父と二度と会えなくなってしまった。

罪悪感よりも先に訪れたのは自分への怒りと呆れ。

だから、私は決心したのだ。

理不尽な死を父に追い込ませた時間に私も抗おうと。

この制度になったのは2018年、自らを時間の神と名乗る預言者が国を支配したからだ。

だったら、そいつをその時に殺してしまえばいい。

そのために私は父が死んでから一ヶ月間、必死に善い行いをした。

その結果、時間を逆行する許可がついに降りた。

世界だけじゃない、父も救ってみせる。

そして、謝るんだ。

素直になれなかったあの時の自分に見せつけてやるんだ。

携帯を取り出し、とあるアプリを開いた私は政府に繋がる電話番号を入力する。

しばらく、着信音が鳴り響き繋がると若い女性の声が聞こえた。


「七瀬 瞳夏……時間を逆行します」


「ナナセ アイカ様……許可が降りてます 何年に行かれますか?」


「2018年7月25日……でお願いします」


「わかりました、時間逆行システム起動します」


すると私の周りを青白い光が包み込む。


「ナナセ様、最後の確認をさせていただきます 当然、既にお聞きでしょうが……過去での歴史改変は法律違反となります くれぐれもご注意下さい」


頷いてはみせるが表情はぎこちないだろう。

何故なら今からまさにその歴史改変をしに行くのだから。

歴史改変は未来に深刻な影響を及ぼす。

最悪の場合、世界が崩壊する恐れがある。

未遂だとしても捕まれば死刑。

最悪の場合、加害者の家族も殺される。

もっとも、私にそんな家族はいないのだが。


私を包み込んでいた光はやがてどんどん明るくなっていき、前方を確認することすら出来ないほど発光する。

次の瞬間、私は先程よりもやや古臭い街に立っていた。


「ここ……、もしかして……?」


近くの公園に置いてある日付を表す機械には〈2018年 7月25日〉と書いてある。


「本当に来れちゃったよ……」


こうして、私の人生最初で最後の旅の幕が上がったのだった。




2.Restlessness



嫌な夢を見た。

見知らぬ少女が昏い目で自分を睨みながら、身体を崩れさせていく夢。

ベッドから飛び起きて、荒れた呼吸を落ち着かせる。脳裏にこびりついた少女の目は刃のように鋭く、自分に対する激しい憎悪が宿っていた。

押し寄せたなんとも言えない不快感に煽られ、早朝だというのに、つい彼氏にメールを送ってしまう。


『おはよう。』


朝の五時半に送るには身のない内容だが、メールを見て戸惑う彼の姿を想像して、少しだけ気が紛れた。


私、藤咲(フジサキ)花純(カスミ)には同い年の彼氏がいる。この人は、楽しいことがあったりすると人目を憚らずニヤついてしまうような、まぁ少しズレた人間だけれど、自分を一番に想ってくれる優しくて素敵な人だ。彼との日々は幸せで、今日もデートの約束をしている。


「早く起きすぎちゃったな……ま、時間に余裕を持つのは良いことだよね!」


ねー! と枕元に置いているクマのぬいぐるみに話しかける。以前、彼が部屋にいる時に思わず同じことをしたら、ドン引きされた。

満員電車の中で一人でニヤついている彼もなかなかだと思うけれど、癖なので仕方がない。だから私も仕方がない。仕方がないカップルだな〜なんて呑気に考えながら、まずは顔を洗おうと洗面所に向かった。


朝ご飯を食べ、着替えて用意もして、暇を持て余していたところで携帯が鳴った。画面を見ると、一番の親友の「千鶴(チヅル)」からの着信。


「なんだろう? こんな時間に珍しいな」


不思議に思いつつ、携帯を耳に当てる。


「もしもし?」


『あ、花純! ごめんね、こんな朝早く 今日ってさ、七瀬君とデート行く日だよね?』


「うん、そうだよ どうかしたの?」


普段から明るくハキハキと喋る千鶴は珍しく、慎重に少し煮え切らないような口ぶりで話し始めた。


『最近ニュースにもなってるんだけど、爆破テロがよく起こってるらしいんだよね

この街の近くでって訳じゃないんだけど、色んな所で起こってるみたいで 今朝もそのニュースやってて、今日花純がデート行くの思い出してさ それでなんか、つい不安になっちゃって……万が一のことがあるかもしれないから、気を付けてよ!?っていう電話!』


「爆破テロか……確かに最近、よくテレビで見るかも でも大丈夫だよ、私達が巻き込まれる訳ないじゃん 心配性だなー、千鶴は」


思わずふふっと笑うと、今までどこか焦っていたような千鶴も、電話越しで『だよね!』と笑った。


『まぁとにかく気を付けて、無事行って来てよ? 惚気話待ってるから!』


「分かった、心配してくれてありがとう」


電話を切って、爆破テロの言葉を思い出す。


「まさかね」


なんとなく携帯を見ると、一件のメールが来ていた。開くと彼から『おはよう。』の返信。自分が送ってから数時間後の短い挨拶に、彼らしいなぁと思わず笑ってしまう。電話をしていたら意外と時間が経っていたようで、そろそろ行こうと鞄を持って部屋を出る。


待ち合わせの池袋駅に向かう為に、地元の駅へと足を運ぶ。ここ新しいパン屋さん出来たんだ、あ、いつも会う猫だ、と色々な発見をしながら歩いていると、あっという間に駅に着いた。まばらに人がいる駅前で、花壇をじっと見つめる一人の少女がふと目に入る。

淡いラベンダー色の髪に白い肌、学生服を着て植えられた花を見つめるその少女は、どこか浮世離れした雰囲気を持っていた。思わずしばらく見つめていると、少女がパッと振り向き、目が合う。


その途端、私は言いようのない不安に駆られた。今朝の嫌な夢を思い出させるような、焦燥にも似た感覚。


突然のことに動揺した私は、ついその場から逃げたくなって改札に向かおうとする。少しでも少女から距離を取りたくて一歩を踏み出したその瞬間、


「ねぇ、お姉さん!」


辺りに響いた声。周りに人はいるのにも関わらず、直感でその声は自分に向けられたものだと分かった。思わず足を止めてしまった私を挑発するかのように、少女は言葉を紡ぐ。


「これからデートでしょ? オシャレしちゃって、幸せオーラ全開です! って感じ 羨ましいね! でもさ、一つだけ言わせて? お姉さん、今のうちに彼氏と別れた方がいいよ お姉さんの幸せ、奪われちゃうから」


嘲るように告げられたその言葉にカッとなった私は、何を根拠にそんなこと、と反論する為に振り返った。しかしついさっきまでそこにあった少女の姿はすでに無く、心に大きな疑問と不安感だけが残った。


陰鬱な気分のまま電車に乗って、待ち合わせ場所に着く。電車に乗っている間も、あの時の少女の言葉を思い出していた。


『お姉さんの幸せ、奪われちゃうから。』


脳裏で反芻される少女の声。知らず知らずのうちに落ち込んで、俯きながらしばらく待っていると、向こうの方から彼が歩いて来るのが見えた。手を振りたくなったけれど、気分のせいか腕は鉛のように重たくて、彼を見つめるのが精一杯だった。


「おはよう、待たせちゃってごめん」


そんな私の様子を見てか、声を掛けながらも少し戸惑ったような顔をする彼。


「花純?」


不安げに呼ばれて、ハッと意識を戻す。


「え、あっ、うん……おはよう」


「……大丈夫? 何かあった?」


心配そうに私を見る彼。その姿に申し訳なく思った私は、気持ちを切り替えようと首を振った。さっきまでのことを忘れる為に、笑顔を見せる。


「何も無いよ、ごめん」


「なら、良いんだけど……」


少し安堵したような彼の顔を見て、落ち着きを取り戻す。あれはきっと空耳だったんだ。それか、私じゃない誰かへの言葉。そう自分自身に言い聞かせる。今日のデートを、心から楽しむ為に。あんな言葉に惑わされていたら、今日という日が勿体無い。


「大丈夫、私は私を信じる」


密かにそう決意して、隣にいる彼の腕を引っ張った。




3.Aura



嫌な夢を見た。

小さな少女が自分の目の前で消えていく夢だ。

最後まで僕は、その子の名前を叫んでいた。

けれど……、少女は微笑むばかりで……。


「あぁ、気分悪い……これから出掛けるってのに」


僕……七瀬(ナナセ)宙(ソラ)は目頭を押さえながらゆっくりと立ち上がった。

自分の部屋を出てキッチンに行くとすでに朝食はできていたらしくパンと目玉焼き、ハムが一枚の皿に置いてあった。

ソファで寝っ転がっていた妹の亜紀(アキ)は携帯をいじりながら「もうお母さんは仕事に行ったよー」と呟く。


「もう? 今日は早いな 午前中から仕事あったのか」


「そうじゃない?  ……ってかお兄ちゃん今日花純カスミさんとデート行くんじゃなかったの? こんな寝坊しちゃっていいのかなぁ?」


若干煽り気味で問う亜紀を睨みながら「午後からだよ」と告げる。

とはいえ、今は十時半。

待ち合わせ時刻の十二時まであまり時間はない。

急いでパンを口に放り込みコーヒーで流し込む。


「ごちそうさま、」


食器を急いで洗い、着替えた僕は携帯を開く。

五時半くらいに花純から『おはよう。』とメールがきている。


「起きるのはやっ……」


まーた、お気に入りのクマの人形と喋ってたりして……。

『おはよう。』と短く返した僕はそのまま家を出ようとする。


「じゃあ、亜紀 行ってくる」


「んー、行ってらっしゃい」


ニヤニヤとこちらを見る亜紀を再び睨んでから僕は勢いよく駆け出した。

自然と口角が上がるのを押さえられない。

昔からの悪い癖だ。

楽しみなこと、嬉しいことが起きると自然とこうなる。 それは良いのだが、親や亜紀……それどころか花純にすら気持ち悪いだなんて言われるもんだからいい加減顔の筋肉を操作できるようにしたい。

待ち合わせ場所の池袋には電車を使う必要があるので、地元の駅に向かう。

15分くらいだろうか、特に何事も無く歩き続け駅に着いた僕はバスロータリーでしゃがむ少女に気が付いた。

淡いラベンダー色の髪の毛に白い肌、どこかの中学校の制服を着た少女は神妙な顔で街路樹を眺めていた。

どこかそんな様子に惹かれた僕は、つい少女に話しかけてしまう。


「何を見てるの……?」


そんなことを聞いてから内心で激しく後悔する。

(何してんの……!?僕は!)

こんなことをしたら、まるで不審者のような感じに……ほらほら見る見る少女の顔が訝しむような顔になって……「見つけたっ!」


「へ?」


突然、手を掴まれ嬉しそうに微笑む少女に僕はそんな間抜けな言葉で返すことしかできない。

少女は、僕の手を離すとゆっくりと先程まで自分が見ていた木を指差す。


「アレ、気をつけた方が良いよ?」


「あれ……? あの木のこと?」


少女は頷くと静かに口を開いた。


「あれは、夾竹桃って言うんだけどものすごく強い毒があるの なんでこんな木がまだ街路樹にあるのかなぁ……って思ったから見てただけ」


あぁ、何をしていたかの質問に答えてくれているのか。


「夾竹桃……聞いたことある 枝が危ないんだっけ?」


「そう、よく知ってるね」


そう言うと少女はまた微笑む。

なんだかむず痒い気分に襲われた僕は頭を掻きながら「たまたま本で知っただけだよ」と告げる。


「というより、さっき僕に見つけたって言ってきたよね? 僕を探していたの?」


「うーん、まぁ わりとね でも会えたから今日はもういいや また今度会えたらその時たくさん話そ」


少女はお辞儀をするとその場から去っていった。


「……今度、また会えたらって あの子と僕知り合いだったっけ?」


記憶を辿ってみても思い当たる節は特にない。

なのに、何故だろう?

いつもずっと一緒にいたような気がする……。

あまり深く考えないようにしようと僕は今度こそ駅に向かう。

この時、少女が示してくれていたヒ(・)ン(・)ト(・)に気づけば少しは違う未来が訪れていたかもしれないのに。

僕は微塵も気づけないまま電車に乗るのだった。



ー***ー



「おはよう、待たせちゃってごめん」


待ち合わせ場所に無事に着いた僕はすでにいた花純に挨拶するが花純は呆然としていた。


「花純?」


「え、あっ うん……おはよう」


「…… 大丈夫? 何かあった?」


ぎこちない返事に思わず聞き返すが花純は首を振り笑顔を見せてくれた。


「何も無いよ、ごめん」


「なら、良いんだけど……」


花純は深呼吸をゆっくりしてから僕の腕を引っ張って歩き出す。


「大丈夫、私は私を信じる」


「え、何? やっぱり何かの陰謀に巻き込まれた感じ?」


「ほら、最初は水族館でしょ? 早く行こっ」


「無視かよ!!」


僕の言葉にクスクス笑ってくれるあたり、多分大丈夫なんだろう。

僕も余計な心配せずに楽しもう。

引っ張られている腕を離してもらって、今度は一緒に歩くために手を繋ぐ。

うん、やっぱ幸せだ。


「あっ、また口角が上がってる」


「……癖なんだよ」


そう言い返した時だった。

突如として脳裏に浮かぶ街路樹に咲いていた花。


「夾竹桃……」


「えっ、どうしたの? 急に花の名前なんか言っちゃって」


「いや……」


(どうして今になって思い出す?)


何か嫌な予感がする……。

この時感じた予感に僕は心の底から感謝することになる。

そう思っていたから僕はすぐに対応できたからだ。

エスカレーターに乗ってすぐに下の階で人々の騒めき声が聞こえてくる。


その騒めきが僕の心に何故か恐怖を植え付けた。


「ッ!!」


花純と手を繋いだまま、降っていたエスカレーターを逆走する。


「ちょっと!?」


「危ないだろ!」


なんて怒声が聞こえてくるが僕はそれでも足を止めようとはしなかった。

いや、したくなかった。

登り切った後、息を荒げる僕を花純は「どうしたの?」と心配してくれるが僕はまだ油断出来なかった。

心にある恐怖が無くならない。

とりあえず、その場から離れるよう花純に告げる。

花純は疑問を口にはするものの従ってくれた。

ある程度離れたその時だった。

先ほど僕たちがエスカレーターで降っていた建物から爆発音が響いた。


「えっ……?」


人々の悲鳴と同時に黒煙が上がっている。

吹き飛ばされ血と肉でグチャグチャになっている人だったものが転がった。

吐き気が僕を襲うが、震える花純を安全な場所に連れて行くのが先だと自身を奮い立たせ僕たちは走り出す。

警察や消防隊が先ほどの施設に向かっているのを横目に見るが何だかその人達からも嫌な予感がする。

近くのコンビニに逃げ込んだ僕たちはため息をつく。


「どうして分かったの?」


「なんだろう、単なる勘ではないと思うんだけど……、」


すぐに僕の脳裏に浮かぶのは夾竹桃。

やがて僕は思い出す。

昔、本で見た微かな記憶。

夾竹桃の花言葉は……。


「注意、危険……」


(あの少女は、まさか僕に危険が訪れることを忠告する為に?)


そんな偶然あるわけないのに何故か僕はそうだと断定できてしまう。

あの少女は一体……?

その時、僕の思考を打ち破るかのように人々の悲鳴が聞こえてくる。


目の前からトラックが猛スピードで突っ込んでくるのだ。


「花純ッ!!」


意味の無い自己犠牲。

そう頭は分かっていても身体は花純を守るために身を投げ打つ。


「宙……!」


脳裏に浮かんでくる今まで出会ってきた友人や両親、亜紀に花純、そして……あの少女。


全てを覚悟した時だった。


「まだ死ぬには早いよ、お(・)父(・)さ(・)ん(・)」


いつの間にか先ほどの少女が自分の前に立ちトラックを片手で抑えている。


「せぇーの!」


少女はもう片方の手で思い切りトラックを殴る。

すると、殴られた部分から徐々にトラックが透けていきやがては見えなくなってしまった。


「なるほどねぇ、未来の人物を消すわけにはいかないから 私の方が優先的に生き残れたってわけかぁ……」


感慨深そうに頷く少女を呆然と見ることしか出来ない僕と花純。

少女はやがてこちらを向くと微笑みながらこう告げた。


「これから起こること全部教えてあげるよ? だからお願い、その人と別れないで」


花純を指差しながら告げる少女。

頭の整理が追いつかない僕。

そして、青ざめた顔から一変怒りを隠せない表情で少女を睨む花純。


この出会いが世界を変えるキッカケになるだなんて今の僕たちは思いもしていなかった。




4.Grasp



一瞬、何が起こったのか分からなかった。

逃げ込んだコンビニに物凄い勢いでトラックが突っ込んで来て死を覚悟した時、目の前に現れた宙の背中。


「宙……!」


駄目、やめて!

そう叫びたかったのに喉は彼の名前を絞り出すことしか出来なくて、これから起こるであろう残酷な結末が頭の中で巡った。


あぁ、何もかも終わったーーー。


そう思った刹那、宙の前に一人の少女が現れた。


「なるほどねぇ、未来の人物を消すわけにはいかないから 私の方が優先的に残れたってわけかぁ……」


突如現れた少女は宙の前に立つと、片手で思いっきりトラックを殴った。その途端、トラックは殴られた部分から徐々に透けていき、最後は跡形もなく消えてしまった。


静寂に包まれる周囲。


え……? 何、今の……。

何が起こったの……?


目の前で起きた光景を瞬時に理解することが出来なくて、脳内のキャパシティはオーバー寸前。数十秒の間の出来事はとても人間技とは思えない、まるでフィクションの世界にいるようだった。


しばらく呆然としていると、少女はこちらに振り向き口を開いた。


「これから起こること全部教えてあげるよ? だからお願い、その人と別れないで」


私を指さしながらそう言って微笑む少女。唐突に告げられたその言葉に疑問を浮かべながら、少女と目が合う。その瞬間、頭の中に一つの記憶。


『お姉さんの幸せ、奪われちゃうから。』


目の前にいる少女は、私が駅で出会った少女と瓜二つだった。その事実に気が付いて、私の中で言いようのない怒りが生まれる。何の根拠も無いのに自身の幸せを脅かすような発言をした後に姿を消したこの少女。先程のことをどう反論しようか、と戦闘モードに入ろうとしたところで私の頭に一つの疑問が浮かんだ。


この子、本当にさっきと同じ女の子かな…?


外見は瓜二つだけれど、よくよく見てみればこちらを見る眼差しが先程の少女とは全く違う気がする。前に出会った少女は馬鹿にし切った表情で瞳に侮蔑の色さえ含んでいたのに、今私の前にいる少女は敵対心も何も無い、とても穏やかな瞳をしていた。目が合った瞬間は同じ人物だと決めつけてしまったけれど、持っている雰囲気や、声や仕草がまるで違う。

自慢ではないけれど洞察力には自信がある方で、人を見る目があることは自分自身よく知っている。その場合、外見が瓜二つなのはそれもまたそれで疑問だけれど、あの時の少女とは別人だと確信した。


「あなた、さっきの……?」


確信しつつも、一応尋ねてみる。これで「さっきはどうも!」などと言われたら多分スイッチが入ってしまうけれど、少女は首を傾げた。


「さっき……? お姉さんとは、初めましてですよ

私は瞳夏、よろしくお願いします」


嘘をついているとは思えない無邪気な笑顔で自己紹介をしてくれた彼女に対して、少し罪悪感が生まれる。

関係ない年下の子を勘違いで睨みつけてしまった…!

と内心猛省しながら、私も自己紹介をする。自分が知らないところで繰り広げられているやり取りに目を白黒させていた宙だったけれど、誰よりも早く冷静になって他の場所に避難するよう提案した。



ー***ー



一旦近くの学校に逃げ込んで、屋上に辿り着く。屋上から街を見ると、現実とは思えないような怪現象が至る所で起きていた。いつもは眺めの良い風景から一転、空気全体が変色していて、壊滅的な被害を受けている建物がそこら中にある。あちこちから黒煙が上がっていて、先程までの平和な光景とは180度変わってしまっていた。


あまりの変わり様にみんな言葉を発することが出来ずにいた中で、突然、後ろから一つの足音が聞こえて来た。


「誰だ!?」


宙が声を荒らげ一斉に振り返ると、そこには私も見覚えのある人物。


「え、雪……?」


現れたのは、クラスメイトの来栖(クルス)雪(キヨ)君だった。宙の友達で、私も何度か話したことがある。


まさかの登場に驚いた私達を他所に、雪君は「街やばいな」なんて呑気に言いながら宙の隣に並んだ。


「いや、お前なんでここにいるんだよ!?」


その冷静さ理解不能!といった様子で目を剥く宙に曖昧な返事をしながら、雪君は屋上のフェンスに背を凭れた。


「宙が卒業したら就職する店あるじゃん 俺、実はそこでバイトしてるんだよね」


「は……? それが今何の関係が、」


「だから、宙は俺の後輩になんの 後輩が先輩の言うこと聞くっていうのは、当たり前だろ? だから今から俺が言うこと、信じろよ」


「はぁ!?」


雪君が宙に負けず劣らずの不思議くんなのは知っていたけれど、この状況でさえも飄々とした態度でよく分からないことを言うのはある意味大物だなぁ…と思わ

ず感心してしまう。案の定「何言ってんだこいつ?」

とでも言うような表情をありありと浮かべる宙を鼻で笑った雪君は、一つ溜息をついて口を開いた。


「今この街で起きている現象を止めるには、宙が死ぬか、瞳夏ちゃんが未来に戻るしか無い」


告げられたその言葉に、またも脳内がキャパシティオーバー。宙が死ぬ?か、瞳夏ちゃんが、未来に戻る?非現実的過ぎる文字の羅列に、もしかしてここで理解出来てないの私だけ!? とプチパニックに陥る。すると隣にいた瞳夏ちゃんが、俯きながら「あの、」と話し始めた。


「ごめんなさい、私は未来には戻れないです お父さんの命を狙ってる奴ら……組織から、お父さんを守らないといけないから だから、帰れないです」


心底申し訳なさそうにそう呟く瞳夏ちゃんと、驚きで目を見開くことしか出来ない私と宙。


私がしっかりしなきゃ。


沈黙に包まれた空気を変える為に、私はそもそもの疑問を投げかけることにする。


「えっと、なんで宙は命を狙われているの?組織って言ってたけど……宙、普通の男の子だよ?」


努めて平常心で、瞳夏ちゃんと雪君を気負わせないように尋ねる。愕然としている宙も心配になって、握りすぎて白くなってしまっている拳をそっと開かせて手を握った。その時、自分の手首から今日の為につけてきた香水が香る。お店で試してすぐ気に入ったこの香り。この花は確か、ビオラ。花言葉は、「安心」。少しでも宙の気持ちを落ち着かせたくて、握った手に力を込める。

私の質問に答えてくれたのは、雪君だった。


「藤咲さんも見てたと思うけど、本来ならさっきの爆発で宙は死ぬはずだった その未来がねじ曲がったことによって、2つの新しい未来……つまり分岐が生まれたんだ」


分かりやすく話してくれた雪君の内容をまとめると、未来の分岐点にいる宙は特異点となって、その身体に未知のエネルギーを宿した。そこで瞳夏ちゃんが言う「組織」は大人しく従うはずの無い宙を殺して、遺体を自分達の物にしようとしている、ということらしい。彼はどこまで巻き込まれ体質なのだろうか。


「組織の名前は"帝国政府" 未来から来た時間を好きなように扱う集団なの 向こうでも好き勝手やってる連中で、ちょくちょく事件を起こしたりしてた」


補足で説明してくれる瞳夏ちゃん。


「その組織のリーダーって、誰なの?」


「堂園(ドウゾノ)征一(セイイチ) ご存知ですか?」


「堂園……あっ!」


堂園征一とは近頃有名な人物で、ついこの間も「神の予言」という本を出版し話題になっていた。本に書かれていた予言の幾つかは現実の世界でも本当になっていて、雑誌では「突如現れた予言者は、この世界の救世主か!?」とまで書かれていたことを思い出す。


私があれこれ考えている間に落ち着きを取り戻したらしい宙は、真っ直ぐ雪君を見据えた。


「時間を好きなように扱うって、どういうことだ?」


宙の眼差しを受けながら、少し表情を暗くした雪君は静かに口を開いた。


「今、こうして瞳夏ちゃんが宙の子どもとして振舞っていることを君たちが何の疑いもせずに受け入れている……これがまさにソレなんだよ」


雪君の言葉は私たちの頭を静かに通り過ぎていく。

そして自然と視線が瞳夏ちゃんに向いていく。

重苦しい空気の中、ついに瞳夏ちゃんは語り出す。

平凡で壮絶で悲惨な過去の話を。




5.Confession



私に降りかかる視線が少し痛い。

だって私を見る彼らには少なからず疑いという感情が混ざっているのだから。

深呼吸をした私はゆっくりと口を開いた。


「まず、改めて自己紹介させて下さい 私の名前は、七瀬 瞳夏……七瀬 宙の子供です、でも藤咲 花純さん あなたの血は受け継いでいません」


私の言葉に反応する花純さん。

きっと頭の中で色んな疑問が浮かび上がっているのだろう。

そして、先ほどの雪さんの言葉で自然と答えに辿り着くのではないだろうか?


「彼女は、宙が藤咲さんとこのまま付き合って生まれた子供じゃないんだ つまり、あまりこういうことは言いたくないんだけど……二人が別れた歴史で生まれる子どもなんだ」


雪さんが私の代わりに詳しく説明してくれる。

そして、私は自分の過去について告げることにした。

そのために私は過去に来たのだから。

重苦しい空気の中で私は全てを打ち明ける。

それが自分の運命を変えるとは知る由もなく。



ー***ー



さて、再び話は遡る。

お父さんや、花純さんには冒頭で私が過去に行くところも説明しなくてはいけないのだけれどこの物語を見ている人あなたたちからすれば蛇足以外の何物でもないだろうから省略する。

過去に来た私は、必要のないことのような気がするがまず時間の奪い合いという概念を生み出した人物について調べることにした。

近くの本屋では予想通り目当ての人物が出版している本があった。

堂園 征一……全ての元凶だ。

本屋を出て近くの公園で私は未来での出来事を思い出し覚えている限りの堂園の人格を思い出す。

幼少時代、虐められていた経験から人との接触を断ち占いや予言といった分野に興味を示す。

その後、た(・)ま(・)た(・)ま(・)予言が当たったためにこの世界の救世主と言われる始末になってしまった。

そして着々と信者を増やし続けた彼は親が政治家だったこともあってやがて日本の首相となる。

首相となった彼の政治は特別酷いものというわけでもなく人々の反感をあまり買わなかった為に長く首相の座に就くことができた。

そんな彼は極秘である研究を重ねていた。

自らを神の声を聴くものとして憚らず常にアピールして来た彼にも誰にも邪魔されたくない一種の趣味があったのだ。

それこそ、彼の人生のテーマ〈時間の掌握〉だった。

学生時代の数少ない友人と共にこの研究を熱心に取り組んでいた時彼はついにある大発見をする。

それが、並行世界と呼ばれる別の時間軸の世界である。

ここで、彼はある仮説を立てた。

その並行世界の力があればこの世界の法則など容易く変えられてしまうのではないだろうか?

そして、それは当たっていた。

想像よりも遥かに強大な力でこの世界の因果法則を捻じ曲げることに成功したのだ。

その結果生まれたのが七瀬 宙のような分岐点となり得る人物、特異点だった。

彼は人々から賞賛と危険視する声を浴びながら一人嫉妬していた。

誰よりも関心を持ち挑んだはずの時間という法則。

それを捻じ曲げる力があることは分かったのに実行する力は自分にはないのだ。

何故、自分が特異点じゃない?

自分は神の声を聴く者だぞ?


そして、彼はある答えに辿り着く。


「私が特異点になればいい」


特異点となる様々な人物を拉致監禁し、非人道な実験を繰り返した。

何人もの研究仲間が咎めてきたが彼は聞く耳を持たず反感を抱く者を口封じに殺し始めた。

彼はその行為に次第に快感を覚え始めた。

全て自分の思い通りになる結果に酔いしれてしまったのだ。

やがて彼は一人の男を見つける。

男は、強力なエネルギーを体内に隠し持ち幸せに暮らしている。

嫉妬、そして醜い考えに溺れた彼はその男の力を奪うことを計画する。

まず、元首相として政治の実権を握った彼は自分にとって都合の良い者を善い行いをした者として奪った時間を与え忠誠を誓わせ、逆に反発する者は時間を奪い続け脅していく。

時間を完全に奪うことはできないのだがその人間の死期を早めることに変わりはない。

この制度のタチの悪いところは、堂園を慕う人が長く生き残ることだ。

堂園の支配は衰えるどころか脅しに屈した人間が忠誠を誓う為、増していくばかりだった。

だが、それでも反発する人間がいた。

それが、強力なエネルギーを体内に秘め堂園から狙われていた男……七瀬 宙でありこの世界の宙の妻であり瞳夏の母親である七瀬 薫(カオル)だった。

二人とも時間を奪われその短い生涯を終えた。

だが、薫を殺されても諦めることなく立ち向かった宙はついに身体を奪われることはなく遺体はどこかに仲間によって埋葬された。

私と口喧嘩した後まともに話すことなく……。

あの時の父の心境は一体どんなものだったのだろう?

ともかく私はそうして過去に降り立った。

歴史の分岐点でもう片方の未来を本来の歴史とし私の生きた未来を消すために。

それをよしとしない堂園率いる組織、すなわち帝国政府が宙を殺すためにこの時代にやってきた。

帝国政府は宙の抹殺だけでなく宙を救おうとする私にも攻撃をしてきた。

そんな中、出会ったのが雪さんだった。

雪さんのおかげで何とか帝国政府に見つかることなく今日、宙と花純さんに会えたのだ。



ー***ー



私が言い終える頃にはとうに日がくれていて、街灯が付かない代わりに各地でサイレンが鳴り響いていた。


「そろそろ、ここを出ようか この辺りから離れた方がいい」


「どうして? 外は人でごった返してるってのに……」


宙の質問に雪さんは苦笑する。


「そういえばまだ説明していなかったな……この辺りの空気が変色してるだろ? これは、瞳夏ちゃんが来たことによる時間の歪みのせいなんだよ そして、その瞳夏ちゃんがここに来た理由は……お前だろ?」


「つまり、歪みはこの辺りしか起きていないんです お父さんを中心に広がっているだけですから」


「そうか……、その帝国政府だっけ? そいつらに位置が特定されるのか」


「そゆこと」


雪さんは頷くと一枚の紙を取り出す。

地図のとある部分に赤丸がしてありその隣に黒い文字でどこかの住所が書かれている。


「そこにとりあえず向かえ 仲間がいるから俺の名前出したら匿ってくれるはずだ」


「お前はどうすんだよ」


「俺は……、帰るんだよ」


宙と花純さんは首をかしげる。

本当にシンクロしているみたいに。

この2人が結ばれる世界があるの納得いくかも……。

なぜか分からないけれど……少し悔しかった。


「雪さんはね、3年後の未来から来たの 私と同じでお父さんを救うために」


「お前を救わないと時空が歪んでその歪みで起きた現象で俺の相方が死ぬからね それは許せなかったわけ」


「僕を救うためじゃないのかよ!? ってか3年後のお前恋人いたのかよ! 誰だよっ!」


声を張り上げる宙、それをおちょくる雪さん。

そんな二人がどこか面白くて少し萎えていた心が安らげた。

隣でクスクス笑っている花純さんに私は話しかける。


「さっき、花純さんは私に「貴方、さっきの」って言ってましたよね 少し詳しく聞かせてもらえませんか?」


「え?」


雪さんも花純さんの方を向き「俺も知りたいな」と一言。 みんなの視線が花純さんに集中する。


「え、えっと……あれは勘違いで……」


「はい、私と誰かを間違えたのは何となく察しました、だからその誰かを知りたいんです」


「俺からもお願いするよ、聞かせてもらえるかな?」


雪さんの言葉に花純さんは項垂れるとため息をついた。


「わかった、話すね あれは私が今朝……」


こうして、花純さんは自分の身に起きた不可解で不愉快な出来事を私たちに告げたのだった。




6.Raid



宙と会う前のことをみんなに話す。私の話を聞いて驚きながらも何かを考えている宙、神妙な面持ちで頷いてくれる瞳夏ちゃん、じっと私を見据える雪君。反応はそれぞれ違っていて、話し終えた後、真っ先に雪君が口を開いた。


「未来に戻るのはやめだ 考えたいことがあるから、先に行ってる」


私達に印が描いてある地図を渡してそう言い残すと、雪君は一人で屋上から出て行ってしまった。


雪君が出て行った後、今まで黙って話を聞いてくれていた瞳夏ちゃんが「あの、」と話し始める。


「考えたんですけど、花純さんが今朝出会ったのは、時間の分岐点となるお父さんの子供……私のコピーだと思います つまりその、人口AIですかね なので私と瓜二つの外見をしていたんじゃないかと」


「AI? どうしてそう思うんだ?」


疑問を投げかける宙。


「実は、未来では今よりも科学が発展していて、いくつか人口AIの試験体が起動しているんです きっと堂園が私達を混乱させる為に、こっちの世界でも取り入れた可能性が高いです」


そして、と続ける瞳夏ちゃん。


「私と瓜二つの存在がこの世に居るということは、はっきり言って無いです 分岐点……特異点と言いましょうか その子孫は特別だから、世界は個々の区別をつける為に似ている顔を生み出すことはありません」


「世界……?」


宙の呟きに瞳夏ちゃんが答えようとした瞬間、聞き慣れない落下音と共に一つの塊が空から降って来た。凄まじい音を立てて屋上に着地したのは、一人の少女。風に煽られて視界が狭まった中で見えた少女の顔に、私は見覚えがあった。


その時思い出したのは、今朝感じた唐突な不安感と、言いようのない不快感。


突然のことに静まり返る周囲。降って来た少女を射抜くような眼差しで見ていた瞳夏ちゃんが、少女に向かって「あなたは?」と尋ねる。ゆっくりこちらを見た少女は、嘲笑うかのような表情で私達にこう告げた。


「私は、ナナセアイカ 藤咲花純さんを助けに来た」




7.Counterattack



「私はナナセ アイカ 藤咲花純さんを助けに来た」


困惑と怒りを隠せない花純を後ろに下がるよう告げる。


「やっぱり、私のコピーですよね……」


瞳夏はため息をつくと瞬間的に相手の懐に潜り込み殴りかかる。

その拳は少女の腹部に直撃する。

しかし、トラックのように少女の身体は透けることはなかった。


「!?」


「私も未来から来たのに、そんなの効くわけないじゃん」


少女は薄く笑うと瞳夏を蹴り飛ばした。


「瞳夏……!」


急いで駆け寄り傷の具合を確かめようとしたが特に外傷は見当たらない。


「大丈夫だよ、お父さん……私は未来の人間だから死ぬことは無い それよりこれを」


僕は瞳夏からあるものを受け取る。


「死ぬ事は無いって……、」


「私達がこの世界で死ねばその人間は歴史から追放される……つまり消滅という形で死を迎えるの」


「消滅……?」


「消滅した人間は全ての人の記憶から消えるの」


「そう、それは私もだけどね」


少女はそのまま花純に近づいていく。

後ずさる花純を見て残念そうに笑うとこう問いた。


「お姉さん、私の忠告無視しちゃったんだね」


「近寄らないで!」


「酷いこと言うなぁ じゃあ何でそんなこと言ったのか理由を教えてあげる」


少女は立ち止まると瞳夏を指差し嘲笑うかのような口調で喋り始める。

けれどその間もこちらの方には視線を何度か向けており僕は動くことができなかった。

体格からして絶対にひねり倒せる少女なのに。

身体は危険信号を発していた。


「あの七瀬 瞳夏が生まれたのは今から3年後、じゃあ何であなたと七瀬 宙が別れたのか? 考えなかったの?」


何も言い返さない花純。

ただ、目だけは依然として少女を睨んだままだった。


「それはね、お姉さん……七瀬 宙アイツはあなたを見捨てたんだよ……! この先起こるテロ組織の攻撃であなたは七瀬 宙を庇って命を落とすことになる でも七瀬 宙は死にゆくあなたを看取ることもせずにその場から走り去り何年後かにはテロ組織の長の娘と付き合う始末だった!」


少女は目を見開きながらクスクスと笑い続けはっきり言ってしまえば異様な光景を醸し出していた。


「だからね、お姉さん 私達に着いて来てよ あなたの幸せは私達が守るから」


しばらくの沈黙。

だが、花純は立ち上がると徐に歩き出し僕と瞳夏の前でしゃがむ。


「どうしよう?」


「え?」


花純の神妙な顔にまさか、と顔を曇らせる。

今の言葉で心が揺らいのだとしたら……。


「あの子、自信満々で何か語ってるけどアレ、全部嘘だよね」


「洞察力には自信あるし!」と花純こそ自信満々で言う。

心が揺らぐなんて事はなく、いつも通りの花純がそこにはいた。

それはそうか。

クマの人形と喋る奴だもん。

あんなわけのわからない奴の言葉に耳を貸すほど人間は脆くない。


「ごめんね、花純はやっぱり僕を選んでくれるみたい

……僕だって花純を選びたいんだよ 悪いんだけど引き返してくれるかな」


花純の身体から少しする香水の匂い。

何の花なのかはわからないけれどすごく安心する匂いだった。

瞳夏は、そんな僕達を見て嬉しそうにけれど、どこか寂しそうに笑った。


少女は爪を噛みながら僕を睨む。


「ねぇ、もし仮に貴方が生きているせいで世界が滅びるとしたらどうする?」


少女が呟くように告げる。

発せられた言葉どころかこちらを見る目すらも ひどく冷たい。

まるでお前が存在しなければこんなことにはならなかったと言いたげな睨むような雰囲気に僕は圧倒される。 質問しといて向こうはこちらの意見に耳を向けることなんてないだろうに今更そんなこと聞いてどうすんのかな。

まぁ、向こうの言っていることも正しいし事実なのだから仕方ないのかもしれないけれど。


「世界が滅ぶって……そんなスケール大きい話だった? ってか、それで君は何をしたいの?」


「当然、決まってる 藤咲 花純あの人がお前と結ばれれば最悪の未来が訪れる なら……ここでお前の命を奪う!」


その言葉の裏腹に隠された確かな決意。

そっか、これが僕に無かったもの。

そのせいでみんなを……花純を危険な目に遭わせてしまった……。


こちらに向かってどこから取り出したのかも分からない日本刀で斬りつけようとする少女を僕は見据える。

案外その姿が格好良かったから取り出すところ見たかった。


「本当に……強いな」


僕に無いものを持っているこの少女が羨ましい。

避けるように促すみんなを止めて……僕は、せめて最後になにか告げなければと考える。


「終わりだ、ナナセ ソラ!!」


考えて……、考えて……。

考えた結果。

直前まで来ていた彼女の手から刀を地面にはたき落とす。これだけは言っておくことにした。


「知らねぇよ、何で僕がお前の都合に付き合わなくちゃいけないんだよ」


少女の腹部に隠し持っていた銃を取り出し、銃口を当てる。


「!?」


「うーん、僕ってこんな強かったっけ?」


そのまま有無を言わせず引き金を引く。

吹っ飛ぶ少女を横目に僕は後ろにいる仲間に告げる。

……多分、いつもみたいに口角上がってるんだろうなぁ。 かっこよく決まったのに台無しじゃんか。

やっぱり、筋肉の操作できるようになりたい。


ヨロヨロと立ち上がりこちらを睨む少女。


「どこからそんなもの取り出した……!」


「教えるわけないだろ、お前AIなんだろ? なら、考えてみろよ」


少女は出血したい部分を手でかざした。

するとみるみる傷口がふさがる。

落ち着いた状態で黙り込みやがて少女は答えにたどり着く。


「七瀬 瞳夏か……なら、あの銃は……!」


「そ、瞳夏から渡された未・来・の銃 過去の現象が意味ないなら未来の機械ならどうだろうって思ったんだけどやっぱり聞くみたいだな 堂園はお前より銃を愛用してるみたいだし」


「ッ!! お前ごときが……マスターを語るな!!」


頭に疑問マークが浮かんでいるであろう花純と納得したように苦笑する瞳夏。

二人に僕は静かに告げる。


「んなわけで、さっさと逆転劇始めましょうか?」


人のデートどころか未来まで捻じ曲げようとしたんだ。 そう簡単には許さない。


未来の僕が時間というか……支配者に反抗したんだ。

僕だってしてみたい。 瞳夏から堂園の話を聞いて少し不快だったし。

銃を構え直し僕は深呼吸をした。

こちらに向かって叫びながら襲いかかってくる少女に向かって発砲した。




8.Hero



目の前で起こっている異様な光景に思わず目を疑う。

ただ、巻き込まれてしまっただけの平凡で根は優しい自分の父が未来から来た人口AIとバトル漫画のような攻防を繰り広げている。

そこにリュックサックを背負った雪さんが駆け寄ってきた。


「……覚醒したか、」


「雪さん、どうしてここに?」


私の質問に雪さんは苦笑する。


「なかなかついて来る気配がなかったから何が起こったんだろうってのを確認しようと思ったのと……もう一つはある仮説の証明かな」


「仮説?」


花純さんが首をかしげる。

その間も花純さんの目は心配そうに宙を見つめていた。


「藤咲さんはさっきこう言ったね、宙は普通の男の子だって そもそも前提が間違っていたんだ」


AIの振りかざした刀をひらりと避けた宙は少女を蹴り上げる。


「あんな事をやってのける奴が普通なわけない」


「それは……、」


「分岐点……特異点が身体能力が人よりも上だなんて事例はない なら答えは一つなんだ」


そこで私には雪さんの言っていることが理解できた。


「そうだ、私何で気づかなかったんだろう……確かに時間の序列のことは話したけれどもう一つの隠された序列は話したことなんかなかった

なのにお父さんはそれを平然と当てて それを私は特に何も思わず聞いていた」


「序列?」


花純さんの問いに雪さんは答える。


「堂園は時間を掌握していることは説明したね、人の死期をある程度早めることも……でも、やっぱり堂園はすぐに人を殺せる力が欲しいと願った そしてその力を手に入れた」


「自分の大切なものに序列をつけていくんです そして序列の低いものは序列の高いものに逆らえない」


「……の結果、あの少女は銃に勝てないんだろ? 確か堂園は銃も好んでいたからね 奇跡が起こることはない」


主人に武器よりも愛されていないって……なんだか少し同情したくなったけれど私と宙の命を狙ったんだ。

少なくとも私は助けようだなんて思わない。


「そして、宙はその序列を知らなかったのに言い当てた……おそらく聞いたんだろうな」


「聞いたって、誰に?」


「世界だよ、」


雪の言葉に花純さんは固まる。

私も分かっていたはずなのに改めて聞くと戸惑いを隠せなかった。


「普通の男子高校生が、時間の分岐点? その段階で普通なんかじゃなかったんだ」


いつの間にか戦いは決着が見えていた。

息が上がり疲れ果てている少女に対し宙はまるで疲れた様子を見せない。

それどころかどんどん身体の動きは鋭く素早くなっていく。


「宙は重要な役(・)職(・)になったからこそ、分岐点という特別な存在になったんだ 瞳夏ちゃん君のせいで宙が分岐点になったんじゃないよ 君もまた宙に惹かれたのだから 気に病むことじゃない」


私が目を見開くと雪さんは優しく笑っていた。


「世界という現象がある、世界がない限り僕たちは生きていけない そんな世界だってずっと俺たち人間を見守ってきた」


「……ねぇ、宙は……」


「その世界は常に選び続けてきた、そしてその選ばれた人間は何かを救うためにその世界を生きていく だから、そんな奴を殺すことは許されないんだよ」


「花純さん、お父さんって昔から何か楽しいことや嬉しいことがあるとニヤケるの知っていますか?」


私の問いに頷く花純さん。


「普段から……癖だって話してた」


「決まりだな」


そう呟いた雪さんは戦闘中の2人に近づくと声を張り上げた。


「瞳夏ちゃんのコピー体!!」


「……?」


人口AIはその澄んだ目で雪さんを見る。

ただ、その目の奥にはまだ決意が隠れていてお父さんにこれだけやられても諦めている様子はなかった。


「お前のマスター……、堂園 征一に伝えておけ お前はとんでもない誤算をしでかしたってな」


「誤算だと……!?」


「そこにいる七瀬 宙はお前らの未来で最後まで時間に抗った七瀬 宙とは違う お前も何となく察しているんじゃないか?」


「……」


「どうして、ただの人間が……いくら序列の高い武器を使用しているからと言って未来人いや、人口AIに勝てるのか? ってさ」


「あぁ、そうだ! 考えている!」


「答えは簡単だよ、こいつは世界に好かれているんだよ そんな人間をたかが未来から来たAIが殺せるとでも……?」


「ふざけるな……! 私はあの人を救うんだ……! こんな奴ごときに……」


「やめといた方がいい、こいつには誰も勝てない それがついさっき確定したんだ」


「さっきからどゆこと?」


七瀬 宙本人の疑問に雪さんが答えることはなくため息混じりに呟く。


「この世界が七瀬 宙を選んだ それに反抗した者の末路はとてもじゃないが想像したくない」


「僕が世界に好かれている? もうわけわからないんだけど」


「お父さん、その銃使いやすい?」


明らかに混乱している宙に私は突拍子もない質問をする。 宙は一瞬、戸惑うがすぐに口を開いた。


「銃なんて初めて使ったよ、けどなぜか途中から一般的な使い方から誰も考えもしない使い方まで思い浮かんできたんだ」


「ほら、分かっただろ? ただの人間がこんな無茶苦茶なご都合主義展開になるわけないだろ」


AIはそれでも立ち上がる。


「私は、それでも負けられないんだ……藤咲花純さんは死なせない……!」


突然、AIは花純さんの方に走り出す。


「ッ!?」


「せめて、あなただけでも……!」


刀を振りかざし花純さんを斬りつけようとしたところで刀は粉砕される。

一発の銃弾が刀をボロボロに崩したのだ。


「ほら、なんだよ 銃弾が刀を壊すって……聞いたことないよ」


その場に座り込む雪さん。


「お前は……何者なんだ」


震える声でAIは問う。

それに宙は答えない。

今、彼は怒っているのだろうか?

それとも……。


「宙はまだ自分の正体を知らない、だからあえて俺が言うよ」


「……」


「七瀬 宙は世界に選ばれた人間なんだよ、宙を止めることができるのは……世界か……藤咲さんのどちらかだ」


「……、」


「世間一般では、宙のような人間をこう呼ぶ」


宙が静かに動き出す。

その瞳は黒から緑へと変色していた。

見たこともない現象に私や花純さん…AIまでもが固まる。 ただ一人、雪さんだけが呆れたように笑う。




「七瀬 宙はこの世界の主(・)人(・)公(・)なんだよ」


宙を中心に広がっていた世界の変色が無くなっていく。 時間までもが進み出し、先程まで夜だった光景は暑い日差しが照り返す夏の昼時に変化する。


この瞬間、確実に歴史は……未来の時間は変わった。



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