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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
最終章・終層地下封印区画
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第3話・殻の中身で

 その空間は異様だった。

 延々と平らな地面が広がり、三色に綺麗に分かれていた。どうやって綺麗に3分割しているのかは全く不明だが、ここではさして気にすることも無いようだった。

 何よりもここには空が無かった。遥か上の方には水だろうか? 少しばかり揺らぎが見えているだけだ。

 元より現実の世界では無く、この場所は“彼ら”の会合の場である。


 色の収束点にはこれもまた奇妙な存在が3つあった。3つであり、三人ではない。それでも三人なのだが。

 灰色の上に置かれた鉄兜が厳かに声を発する。



「では今回のすり合わせを行う」

「異議なし」

「……」



 青の上に置かれた銀狼の頭部はそれに応えたが、浮かぶ剣は何も応えない。

 密接に繋がった状態の今……三色の境界線に集まっているならば言葉が無くとも意思は他の二人にも伝わる。それを受けて2つの頭がカタカタと揺れた。

 他の二名と比べても、この刀剣の意思は異質だった。存在としては同格でも、思念の強さが別次元がために衝撃に似た感覚で言葉を聞く。



「まず、外殻を作って行動するという考え自体は成功だった。……同胞を救うことも可能であったのは望外のことである。緑の君には感謝したい」



 灰色の兜は如何にも生真面目な気質の持ち主だ。そして、そのような者を見ると混ぜ返したくなるのが銀狼の性質だった。



「あれが救いになるとは……文化が違うというやつでしょうかね? 確かに哀れには見えましたが、本人は存外に幸福だったかも知れませんよ? まぁこんな形になっても我々に他者の気持ちなど理解できませんがね」

「……!」



 他人の考えなど永劫に分からない。

 それに何か感じるモノがあったのか、緑の上のカタナは空中で激しく身震いした。世界を占める緑の割合はあっという間に均衡を破って、他の色を押し込んでいく。



「雑念は控えろ。現在の状態ですら微妙な均衡の上に立っている。そこの彼女が大幅に譲ってくれなくてはあの形を保って行動するのは不可能になる」

「それを言うのなら我々全員が不可欠ですよ。外に干渉するには貴方の力が、形を保つのには私の力が、それを支える燃料は彼女が。誰か一つでも欠ければ成り立たない」

「分かっているのなら余計に止めろと言うのだ。貴様が外へと戻りたくないというのなら話は別だがな。我が身はどうせ朽ちるのを待つのみで、それでも困りはしない」

「仇を取らずに……か。色々複雑なようで、羨ましい限りです」

「……」



 狼の舌が回転するのを止めた。それを機に色の割合は元の状態へと戻っていく。この奇妙な空間は綱渡りで成立しているらしいことが分かる。三者がそれぞれ譲り合わなければあっさりと瓦解するようだ。



「仇と言えば……“あの男”を仇としているのはむしろ貴様の方だろう。しかし、今の状態では勝てまい。お前の記憶を見る限りではだが、負けないのが良いところだ」

「戦闘能力の向上は飛躍的です。そのようには思えませんが……」

「お前は時々ひどく間が抜けるところがあるな。芯の無い強さなど、土壇場で脆さを露呈して終わりだ。事実としてお前はそのようにして良いように利用されただけで終わっている。外を取り替えたところで、中が変わらなければ結果は同じだ」

「……」



 鉄兜は酷く哀れな存在を見るように、狼の首へと視線を向けていた。

 こうして存在を接続している今、狼を一番理解しているのは灰色の男だった。狼はその貪欲さで数多の勝利を掴み取ってきたように思えるが、その実何も得ていない。そして、既に得ている物の価値に気付いていない。



「狡猾で貪欲のみが狼の強さではない。お前に必要なのは、己の真を見出すことにある。作り出した外殻の強さを堅固にするにも、外へと戻るのにもまずはそこからだ……何も成し得なかった男の言うことだ。少しは聞いておいて損はないぞ」



 自分と同じ轍を踏みたく無ければ……続きを聞いた気がして銀狼の首はため息をついた。

 どこかでもそう言われたが、今更自分の内面など知ってどう役立つというのか。それは面白さに繋がってくれることだろうか……?

 思いながら三色の世界を見渡す。


 あいつは生まれたときからこんな世界を見ていたのだろうか? それはさぞ生き難いことだったろう。他人の気持ちなど分からないと言う狼は、しばし懐かしい存在に思いを馳せた。

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