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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
最終章・終層地下封印区画
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第1話・新しい目的

 再び集いだした探索者達。

 正直なところ上層区画まで残った面子は、これほどの賑わいは想像していなかった。もし集まるにしても、もっと時間がかかるだろうとは誰もが思っていた。

 ヒトは案外に利益や道理だけで動くものでも無いらしい。生まれ変わった魔都は再び蟻のように群がられている。かつての姿を知るものは先の姿をひと目見ようと、知らぬ者は物見遊山に。未知が人の心に再び火を点けた。


 それは良かったが魔都カルコサは全て(・・)崩壊したのだ。瘴気の薄かった入り口街も例外ではなかった。多少崩落の伝播は遅かったが、それでも最終的には地下へと崩落していった。

 結果としてスラム街めいた即席の町が出来上がった。出来栄えは玉石混交で、様式もばらばら。一応は通りを作るように場所だけは配慮されているが、これも売上のために様々な争いがあったためだろう。



「この雑多な感じの方が俺は落ち着くねー。ここもなんだか、外の町に似てきたよ。新興の町とか大体最初はこんな感じで、段々特色が出てくるんだ。前の町がそんな風にできたところだった」



 朴訥そうな顔を少し緩めて、語りながら歩いているのはイサ班のサグーン。いや……



「班長がいれば、喜んだでしょうね。あの人、こういう雑多な感じ好きそうだったし。変人」



 彼らも元イサ班と言った方が良いだろう。イサは今も行方知れずだ。

 短い付き合いだったが、本人達にも意外なことに彼らは結構イサを認めていたらしい。地獄の特訓に実戦などなど良い思い出なぞ無いはずなのだが、いなくなってみるといかにも寂しい。

 あの崩落で死線をくぐり、今も魔都に残っている彼らだからこそそう思えるようになった。



「レイシーさんって、班長のことをまだ探してるんだろ? 俺たちも合流するか?」

「こう言うのもなんだけど……あの崩落からもう数ヶ月。生きてはいないだろう……それにコールマーさんとサーレンさんが付いている。我々の出番は無いよ」

「カレル隊も大きくなったから、私達にも役目がある。全うすべき」



 紅一点のマセラドの言に皆が同意した。

 イサに鍛えられた彼らは中堅として、いなくては困るぐらいには成長しているのだ。安易に抜けて良い立場ではない。上位冒険者達が好き勝手に行動する分、手堅い存在の重要性が増している。



「班長か……形見ぐらいは見つけたいな。潜るときは目を光らせるぐらいには、気をつけていよう」



 崩落の日。彼らは王城へと向かうイサを止めることができなかった。

 実力的に不可能であるし、あんな結果になるとは誰も読めない。そもそもイサ自身の自業自得に近い。イサ班の班員達は長の行方不明についてはなんの責任も無いとされた。

 それはそれとして何とも後味が悪い結末に、納得がいかないこともあるのだ。彼らがイサをまだ班長と呼ぶのはそのあたりに理由があるのだろうか……



/



 水底の遺跡は奇妙だ。

 先頃まで地上にあったカルコサの遺跡は、高度な文明の跡が極めて良好な状態で存在していたというのが奇妙さだった。その理由は水底から搾取した力で状態を保存していたからだ。

 そうした凄さというものを水底の都市は持っていない。豪華な装飾があるわけでも、現代もかくやというような城があるわけでもない。強いて言えば水路が緻密に張り巡っているところだが、それもカルコサ様式であるために水底の文明だけで築いたわけでもないらしい。この水路は崩壊後も残っている。


 湿気に覆われた平凡な建造物の集まり……それがかえって不気味である。


 地上にあったカルコサは崩落して、この地下に降り注いだのだ。不可思議の力が失われ脆くなったところで、衝撃が大幅に緩和されたとも思えない。にも関わらず平凡な水底の建造物は……大した損傷を受けていない。

 

 上層区画攻略まで居残っていた学者は、カルコサが状態を保持する力を水底から奪った力で発揮させていたが、水底は常時その状態にあるのではないか? そう考えていた。

 なにせ小国並の大きさの都市全体を覆っていた力……その発生源なのだ。何があろうと驚くには値しない。

 とはいえ、魔法の専門家など存在しないため単なる推測ではある。



「どうせなら床も保護してれば良かったんだ。それとも連中にとってはこれが普通なのか? 歩きづらいにも程が有るぞ……」

「確かにな。とはいえリンギの送ってきた鉄鋲打ちの靴は大したものだ。ぐんと動きやすくなる……乾いている場所には及ばんがな」

「一度入れば無いとやってられんことに他の連中も気付くだろう。そうするとこれを全探索者が買おうとして……うへぇ。あいつどこまで儲ける気だ。冒険者ならではの視点を商売に活かしてやがる。絶対在庫抱えてる」



 そんな地を二人の冒険者が行く。片方は鉄棍を携え、もう一人は槍を担いでいた。

 今やこの街の探索者中でも最強を論じる際に名が上がるように成った高位冒険者……サーレンとコールマーだった。


 あの日漏れ出して都を覆った泥は未だにへばり付いている。黒い泥は足を一歩動かすたびに、靴裏にくっついてきてまるで古い油のようだ。今の所はいつまでも乾かないということぐらいしか分かってもいない。

 リンギはご丁寧に名の知れた冒険者には無料でコレを送りつけてきた。流行を作り出すつもりなのだろうが、確かに土地には合っていた。伊達に自身も第三位冒険者の地位に付いてはいない。

 それでも平地を歩くようには行かない。結果として体力も人並み外れている二人は、ますます追う対象から遅れを取ってしまう。サーレンとコールマーの身体能力をもってしても先を行かれる……そんな対象は勿論、一人しかいない。

 


「おい、レイシー! あんまりひょいひょい進んだって、見つかるもんも見つからねぇぞ!」

「着いて来て欲しいなんて言ってないよ」



 子供のように小さな影が、ぬかるみも地形も無視しているかのような速さで先へと進んでいる。凶刃とさえ呼ばれた腕前を持つ麗人……第2位冒険者レイシーだ。現在行方知れずの高位冒険者イサの相棒でもあった。

 優れた戦闘者として知られるが、今のレイシーは子供そのものに見えた。



「クソガキ!」

「レイシー、イサを探すのならもっとゆっくりと進むべきだ! どこに流れたのか、まるで分からんだろうに!」



 サーレンではなく、コールマーの言でレイシーは肩を落として歩みを止めた。

 それを見てサーレンは同じ言葉を再び言った。



//



 小さな火が燃えている。

 鐘が存在していた頃とは違い、もう昼と夜とで魔物の種類が変化したりはしない現在、こうした冒険らしい光景も見られるようになった。

 火の周りに、サーレンとコールマー。それにレイシーが静かに座っている。



「ふん、だ。二人ともお兄さんが生きているなんて信じてもいないくせに……」

「まぁな。どう考えたって生きてねえし。王城から流れた時点で普通は死んで、そっから数ヶ月行方不明でさらに3回は死ねる。まともな食い物どころか水もねぇ……魔物食ってればタークリンの二の舞だしな」

「やつならあるいは……とも思えるところが恐ろしいがな。信じてもらえんだろうが、我輩としてはあの小生意気な男が生きていて欲しいと思ってはいるよ」

「けけけ。生きてたらちゃんと棺桶に突っ込んでやる」



 どうにもこの二人もイサのことを心配しているらしい。

 それが分かった途端に、自分がひどく子供っぽい態度を取っていたような気に襲われて、レイシーは焚き火から目を逸して暖かい茶を口に含んだ。



「……別に信じて貰わなくていいけどさ。ボクはここの血も混ざってるせいか、分かるんだよ。お兄さんはまだ生きてるって……」



 小さな声に返す言葉は無い。

 膝を抱えて静まるレイシー。ヒゲを擦りながら、それを見守るコールマー。

 

 そしてサーレンは今の一言で意外な反応を見せた。思考に耽っている。

 ……この地下都市の血を引くレイシーが存在を感知できる? それは単純に感覚が鋭くなっているのか? それとも……イサが既に人間ではないのか?


 答えは出ない。

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