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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
第3章・上層貴族区画
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第13話・第一探索目標

 魔都が朱に染まる。

 朱はそれまでのように血の朱では無かった。ある者には暖かさをもたらし、またある者には地獄の苦痛を与える炎。その名を太陽という。

 隻腕の騎士が動く枯れ木に剣を振るえば、枯れ木は燃え上がりのたうち回る。元々動物から発した存在ではない魔物が“痛み”を覚えて震え上がっていた。

 人間大にまで異常成長したネズミに突き立てれば、断末魔と共に炭と化しながら元の大きさまで縮んで行く。


 太陽剣の後継者にして、今やカルコサの騎士を代表する者。そして探索者達の総大将ともなった騎士カレルが向かうところ、全ては照らされて滅んでいく。太陽は破壊と再生。そして沈んでは登るモノ。〈蛇神の顎〉とは違う形で永遠を許さない剣だった。


 そうして無双の剣を振るうカレルだったが、その胸中にあるのは恐れと共感だった。誰が評したのか、最上位遺物とされる太陽剣……その異能は単純にして強力だ。炎熱を操る。

 この太陽剣は一定の操縦が可能な遺物だった。手に持ち、戦う意思を見せると手足が一つ増えたような奇怪な感覚が現れた。実に表現し難い体験をすることになったカレルだったが、すぐにその威力とそれに相応しいじゃじゃ馬ぶりを味わうこととなった。



「くっ……これは……なるほど。人の手に余る……!」



 突然そんな機能を与えられて、十全に使える人間などいない。否。たとえ熟練しようともだった。

 炎熱を操るという能力は扱う立場になって初めて分かる。ほぼ全ての目撃者が太陽剣は切ったものを燃え上がらせる剣だと考えていたが、そうではない。やろうと思えば、炎を噴射することさえ可能だろう。

 だがそんな機能が何の役に立つというのか。狙い澄ますには余程集中しなければならず、戦闘中にそんな暇はない。隠れて行うには目立ちすぎた。

 何よりも太陽剣が熱から守るのは所持者のみだ。炎を纏わせたり、放とうものなら敵よりも仲間の方に被害が行きかねない。探索するための場を焼け野原にも変えてしまうだろう。



「デメトリオ……お前が一人きりで動いていたのはこういうことか……」



 あれほどに偉大な騎士が常に単独で動いていた理由を思い知る。悲しいことにウロボロス教団には彼に追従できる戦士がいなかったのだ。

 結果としてこの部隊の総大将であるカレルも乱戦の最中に、味方からある程度の距離を置かざるを得ない。太陽剣の担い手と共にあるには只人は脆弱に過ぎた。

 最低でもイサ程度の実力が無くては、どちらかがお荷物になりかねなかった。



「カレルさん! 1人で離れ過ぎです! もう少し下がって!」

「大事無い! むしろ、1人で良い!」



 細い矢が巨大ネズミの額に突き刺さる。流石に魔物だけあって即死はしないが、余程に堪えたのか隙だらけになる。隊員達もここで見逃すようなことはせず、太い首を切り落として見せた。

 あの痩せこけた未熟な冒険者がよくぞここまで……という年寄りじみた感慨を覚えながらも、カレルは頭を巡らす他はない。三翼に別れた部隊の中心がカレル直卒である。その役割は相手の真ん中を突き進む矢にして、同時に餌でもある。

 その重責は重いが、両翼で奮闘するのが雇い主だとくれば……カレルにも意地がある。なんとしても連中(・・)を引き寄せるのだ。こんな即席めいた魔物を相手に苦戦している場合ではない。



「私が中心で切り進む! 騎士は盾を前にして脇を固めろ、他の兵はその影から地道に敵を潰せ! お前らの武器も遺物としての処理がされているのだ! 伝令はサーレンとコールマーを呼び戻して来い!」



 幸いにして本隊が一番人員が多い。

 そして、コールマーとサーレンという二大浄銀がいる。彼らならば今のカレルとも連携が取れるはずだ。社会的には自分よりも格上の者らを子分として扱う奇妙さは感じるが、今の状況では楽しむ余裕は無い。

 しかし幾ら道理に沿っても、総大将が先槍を兼ねようというのは如何にも無謀に見えた。しかしこの第一回の探索では必ず一定の成果を上げなければならない。

 自分が例え討たれるとも、元より隊長が似合いの者はまだいる。



「サーレンさんと、コールマー殿が見えました……! が、あれは!?」



 サーレンとコールマーの隊がこちらに向かってくるが、救援に来たとか命令を聞いたという余裕が隊員達に無かった。そして、肝心の二人は……こちら側に顔を向けておらず、前に立つ者達を相手にしながら徐々に下がってくる。命令を出すのがわずかに遅れたのだ。

 しかし同時に待ち望んだ好機でもある。



「来たぞ……! 連中が我々の狙いだ! 絶対に逃さぬよう、態勢を組め。陣を敷き、我々の邪魔をさせぬようにしながら、同時に雑魚どもは任せた!」

「はっ!」



 かなり無茶な要求だが、班員はよどみ無く応答した。

 かねてよりの計画で、この敵が来ることは分かっていたのだ。できるかどうかは不明だが、心構えだけはできている。

 技巧のサーレン、膂力のコールマー。彼らを押し込んで止まらない……その敵はやはり灰騎士。ただし鎧も武器も全てが輝いており、干からびた顔の眼窩には知性の光がある。



「上位騎士……! 王城の近衛共がようやくおでましだ! 出迎えるぞ!」



 第一回の探索では、厄介な灰騎士とその長達を可能な限り減らして置かねばならないのだ。地上の王と連中を同時に相手取るのは避けねばならないがため。

 しかし……できるのだろうか? 上位騎士を倒した経験のあるイサとレイシーの助けは恐らくは間に合わないだろう。彼らは彼らで敵に出会っているはずだ。

 ここにいる者達だけでやらねばならない。


 班員達が唾を飲む。セイラは青ざめて、カレルは決死の顔に変わる。

 死闘が始まった。

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