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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
第3章・上層貴族区画
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第6話・意外な面倒見

 綺麗過ぎるほどに舗装された道の上を様々な靴が踏みしめていく。

 とうとう上層への侵攻を開始した探索者達。その数は中層を行き来していた頃と比べれば、悲しくなるほどに少ない。かつてはリンギやアンティアといった多数を従える者達がいた。しかし現在の魔都は探索の対象として全く割に合わない。得られる物は少なく、敵は強い。おまけに時間制限がいつ来るか分からないという具合だ。


 それでも彼らは行く。あろうことか生き残って次へと繋ぐことすら考えて。



「前。灰騎士が2体。長剣を持った方は任せます。死ぬ気で止めなさい」



 返答を待たずに銀の狼が行く。

 向かう先には身の丈を超えるか超えないかほどの長さの槍を構えた騎士が1人。顔は兜に隠れていても、わずかに覗いた目は干からびて真っ当な人間ではないのが分かる。

 その気配も人というには淡白過ぎたが、それでも武威の程は伝わってくる。


 班を率いる銀狼……高位冒険者イサはカタナを手に速度を上げて突っ込む。

 槍を持った相手は危険だ。足手まといにならない程度である部下達に相手をさせるのはむごい。

 そう考えて片方には4人でかからせて、己は1人で立ち向かう。それも部下4人は凌ぐだけで良いと言って、自分は部下が怪我をしないうちに強敵を仕留めるという意図だ。数だけで見れば全くの逆である。


 灰騎士は手練だ。冒険者の位階に換算すれば第3位浄銀。イサの階級と並ぶほどに手強いとみなされている。



「よって問題は無し」



 槍の灰騎士は足払いを仕掛けてきた。しっかりと遠心力と武器の重さを利用していて、当たれば払われるどころか防具ごと膝が砕けるだろう。

 イサはそれを軽く跳ねて躱し、同時に胴を薙ぐ構え。

 灰騎士が皮だけの顔で笑った気がした。


 灰騎士は槍を固定する力を弱めていた。地面に当たって跳ね返る反動を利用して、槍を逆走させるように振り戻した。姿勢も完璧で、明らかにイサが躱すのを読んでいた。


 そして槍は空を切る。

 いつの間にか、柄が切断されていた。無論イサがやったことだ。構えは灰騎士の方を向いていたが、カタナの刃筋は槍が来るであろう方向に置いておいたのだ。

 イサのカタナはただの武具ではない。同格の神秘で無ければすべてを紙のように切り裂いてしまう、高位の遺物なのだ。つまりは相手の攻撃を読み切っていれば、刃をそこにおいておくだけで防御が成立する。


 相手が再びの振り払いを試みる前に、今度こその胴薙が灰騎士に深く刻まれた。得物を返した状態から振り下ろすなりしなければならない灰騎士と違い、イサは刃筋を向き直させるだけでいい。その差が永遠のものとなった。

 熟練の槍使いならば、必殺だが隙も大きく狙いも見切られやすい突きをそうそう使うはずはない。基本である払いと打ち下ろしをこそ重視するはずだというイサの読みが完全に通ったのだ。


 強敵を一撃で沈めた己を賛美する間も無く、イサは方向を転換してもう1人へと踏みこむ。

 この僅かな攻防の間に、部下達の戦いは崩壊する兆しをすでに見せていた。



「全員、防に全力を尽くせ! 合図で同時にかかりなさい!」

「……はいっ!」



 軽いスティレット使いのマセラドが大きく体制を崩した瞬間に、イサは割って入った。不意打ちで片を付けれる程には、灰騎士も油断していなかった。いや、恐らくは相方が倒されたのを察知したためにイサを警戒していたのだ。灰騎士達には不思議な繋がりがある。

 イサの一撃が武器に触れたのを皮切りに、今度は激しい打ち合いとなった。剣の技量においては魔都最高に近づきつつあるイサを相手に剣戟が成立するのは流石だが、それゆえに決着は早くなってしまう。



「す……すごい……」

「化物だとは思っていたけれども……味方で本当に良かった」



 イサの刃に触れないように、そして他の兵達にも警戒を怠らないように。

 長剣の灰騎士に防戦は最初から無理があった。気にすることが多すぎるために、姿勢が見る間によろけていった。



「サグーン! コルーン!」

「「はっ!」」



 その隙をイサは見逃さない。相手の剣を大振りで弾いて間を作り出す。

 咄嗟の指示に部下二人が反応できたのは、この数日で心身に叩き込んだ恐れと畏敬のため。サグーンとコルーンは死の覚悟を持って、剣を振りかぶりながら突進した。

 

 その覚悟は正しく報われた。

 大きく姿勢を崩された灰騎士は、再び構えることはできなかった。

 二人の剣が灰騎士の両腕を切り落とす。灰騎士達の剣が溶かして塗られているためか、再生も始まらない。もっとも、その暇を与えるイサでも無い。



「マセラド、ヨリルケ」



 残る二人への指示。

 マセラドが飛びかかってスティレットを眼窩に突き刺し、ヨリルケの斧が灰騎士の首を落とした。



「やった……!」

「やったぞ……!」



 短い言葉で自身の成果を確認し合う部下たちを少し微笑ましい目で見ながら、灰騎士の足を踏んでいた自分の足をそっと気付かれないように離すイサだった。

 自分の手で倒せたという経験が彼らを一気に成長させるだろう。例え気付かれないように班長が手助けしていたとしてもだ。



「それに……この剣なら俺たちでも灰騎士を殺せるぞ!」

「そうですね。それを確認できたのも大きい。皆、よくやってくれました」



 イサの労いは余程に意外だったらしく、班員達は目を丸くしている。

 それには目もくれずにイサは思案に耽った。



「こちらは上々……他の班が気になるところです。まぁ1人だけ心配する必要も無いのがいますが」

 

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