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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
第3章・上層貴族区画
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第2話・隊長決め

 全ての探索者で一つの集団を作る。

 それはいつの時代でも試みられる考えであると同時に、いつも上手く行くことはない構想だった。増して、このカルコサには冒険者以外にも大きなところだけを挙げても学者達と騎士に自由戦士達がいた。帰属意識に同属意識。職業差別と幾つもの要因から、当然に頓挫していた。



「しかし今なら成立する。現在この街にいる探索者を所属問わず集めても百どころか五十が精々だろう。皮肉なことだがここに来て我々は初めてまとまる機会を得たわけだ」

「そのために、まずはこの冒険者による十数人の集団をまとめようってわけか」



 サーレンの発言に組合長は頷いた。

 カウンター側が気に入ったらしくカップを磨いたりしながらだが、組合長なりの落ち着き方なのかもしれない。

 居並ぶ冒険者達は拒否するような態度は見せなかったが、唸って腕組みをする者も多い。この人数まで行っても纏まれる気がしないのだ。



「あのぅ……冒険者以外に使える人たちって残ってるんで? 騎士達なんか街から早々に撤退したじゃないっすか」

「もっともだ。だが、物好きというのはどこにでもいる。特にこれまで目立たなかったのは機会が無かったからだ……そう考えている者はね」



 遠慮がちに手を挙げて発言した下級冒険者。その姿にイサもいい傾向だと感じる。階級に囚われない土壌が出来つつあるのを感じるからだ。



「幾つか、制限を設けるのならば私は賛成します。上層区画は異常を引き起こして小さくなっているが、それでも灰騎士は百を数えると見たほうが良い。実力者が複数を相手にしようとしても、魔都側も上位騎士を出してくれば身動きは取れなくなります」



 先日の戦いで討ち取れた上位灰騎士は一体のみ。少なくともかつてイサを敗北させたザクロースは生き残っているだろう。イサとレイシーの他にザクロースを倒せるのは、行方不明のもう一人の神青鉄と第一位冒険者ミロンぐらいのものだ。

 可能性として挙げはしたが、謎の神青鉄がレイシーと同格の実力者というのはまずあり得ない。ミロンは恐らくは最強と呼んで良い男だろうが、積極的に敵を蹴散らしていく意思が感じられない。魔都を攻略する気があるのなら、隙を見て一気に動くタイプか。



「イサ君。制限とは?」

「別に大したことじゃありません。裏切らないとかありきたりな誓約をしてもらうこと。そして隊長を決めて、その指示には理不尽でない限り従うこと。あとは隊内で班を作成することです」

「なんだそりゃ。意味あるのか?」



 サーレンの発言に数人頷いた。ソロとして活動することの多いサーレンにはいかにも窮屈で、その念を持つものは多い。そしてここからの活動は単純に理想を追い求めてのことだということもあるが……まとまった人の脆さというものをイサは良く知っている。

 イサ自身、本来ならば自分勝手に動き回りたい性質を持つ。しかし、負けるのは避けたい。負けることも楽しいが、それでは先の景色が見れなくなってしまうのだ。



「前者は勝手に突っ走った者の後追いで全滅はごめんだから。後者は上層区画の地形と建物が歪んでいることから、全員揃っているという贅沢な状況が常にあるわけではないから」

「ふむ……総長はやはりイサ君かね? 階級的に言えばレイシー君だが」

「いえ、カレルを推します」

「頭目殿!?」



 カレルは珍しく慌てた顔で自分の長を見た。汗をかいているのは珍しいとイサも思うが、適役はカレルしかいないのだ。確かに能力で言えばイサかレイシーになるだろうが、リーダーはそれだけで務まるわけではない。求心力という数値化できない力が必要なのだ。

 レイシーはその点論外。イサは無いわけではないが一桁までをまとめるのが関の山。何十人をまとめるとなればカレルしか該当しない。



「騎士と冒険者の双方に顔が利く。実力が高く、上に立っても文句が出難い。また太陽剣を持つために、上位灰騎士にもトドメを刺せるであろうことから適任だと思います」



 冒険者組合が麻痺したため鉄の位階で止まっているが、片腕になったことに適応した現在のカレルの実力は浄銀に匹敵する。太陽剣の能力と冷静な立ち振舞を合わせれば、外ならば第2位位階でもおかしくはない。

 もう一つ、水薬の供給源であったウロボロス教団への畏敬の低下がある。教団が撤退したことに憤りを感じる者にとって、彼らから太陽剣を奪取したと見られるであろうカレルはその点においても格好の旗印だ。些か陰湿の感があるためここはイサも口には出さなかった。



「私は班の長を希望します。そして各班の長は私同様に遺物持ちが優先的に就任してもらう。運良く地上王の下にたどり着けても、倒せないのでは意味がない」



 班の形を取れば、配下は長を守るように動く。人の本能とも言える。

 正直に明かすことがあるならば、イサは残存勢力のほとんどが城の最奥にまでたどり着けるとは思っていない。最後に立っているのは結局は地力のある面子だと考えていた。

 そこに自分を含めているのがイサらしいが、選ばれた者のためにその他大勢には犠牲になってもらう必要がある。有象無象の中から新たな戦力が出るのならそれはそれで良いことである。


 遺物持ちを生き残るように動かさねばならない。地上王とやらが上位灰騎士よりも更に上の存在であるとしたならば、腕だけでなく特殊な武器が必要だ。

 そしてイサは必要ならば、魔都の象徴である鐘の破壊を考えてもいる。あるいはあの鐘こそが魔都の心臓であるかも知れないという漠然とした予感があるのだ。



「何かお前がぽんぽん進めてるし、お前がリーダーで良いんじゃねぇの? ムカつくが腕は確かなんだし」

「面白さを優先して行動する者が長で良いはずもないから、私は無理でしょう。カレルがどうしても固辞するなら後はコールマーになるが、この場合は騎士の力は宛にできなくなります」

「……褒められているのか? しかし我輩も余計なことを考えるよりは、暴れる方が好みだ。我輩の傘下のためにも班長が良いのだが」

「と、言うことだカレル。やってくれるか?」



 勝手に進む話にカレルの顔は青くなったり、赤くなったりしていたが大きく息を吐くと平静に戻った。

 元騎士であるという点を利用されるのは気に入らないことだろうが、カレルが個人的に忠誠を誓うイサの頼みである。感情を置いておくしかなかった。



「分かり申した。その代わり、探索中は頭目殿にも従って貰うことになりますが……」

「当然ですね。示しが付かなくなりますから。お前の指示に従うのも私にとっては楽しそうなので、そこは気にしなくても結構です」

「……ではイサ(・・)。頭の中に残ってる案を全部吐き出せ」

「はい。カレル隊長」



 イサの嫌味っぽい態度に、温厚なカレルの顔に血管が走る。しかし、己の頭目の子供っぽい考えに気付いて感情を和らげた。……影で動く実質的な長にして二番手を気取りたいのだろう。

 イサのことは気ままな子供か自然現象のように考えておけば良いのだ。



「カレル隊長の下……班の長は私、レイシー、サーレン、コールマー。それと騎士側から一人とその他から一人の6班で構成する。騎士とその他はカレル隊長の直属にして色んなやりくりを同時に担当してもらいましょう」

「え、ボクも? ってお兄さんと離れるの!?」

「仕方が無いだろう。遺物持ちが共倒れだけは避ける。それにこの班分けは平時と、隊が分裂した場合の構成だからさほど窮屈にはしません」



 というよりは急ごしらえの隊に役割を固定化すれば、あっさりと瓦解するだろう。ゆるい繋がりで集団の利を最低限確保することが目的だ。なおそのための細かい動きをカレルに押し付けるためでもある。



「ぶー。お兄さんと一緒が良かったのになぁ。セイラは?」

「カレルに付ける。気心の知れた者がいないとカレルもへそを曲げますから」



 それと荷物持ちとしての経験を活かしてもらおうとも考えていた。

 集団行動では少人数よりも物資の管理が面倒だった。


 イサはその他にいくらかの注意点を伝えた後、この場にいない者への交渉をカレルと組合長に押し付けた。

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