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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
第2章・中層平民区画
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第17話・見せ馬達

 敵がいない時ならば、中層区画の探索はむしろ下層よりも早い。

 それは冒険の醍醐味というよりは報酬そのものである財宝の探索を打ち捨ててのことであり、そんな選択をする者は限られている。例えばイサ達のように。



「ふんふふ、ふ~ん」

「ご機嫌だな、セイラ」



 一党が揃って復帰して初の探索行。最初がいきなりの戦闘だったために気持ちは分かるのだが……また厄介事に巻き込まれるとは思ってもいないらしい。

 呑気に鼻歌なぞ歌うセイラの頭をカレルは優しくなでた。

 

 見た目で言えばもっとも幼いのはレイシーのはずなのだが、この新米冒険者は時折奇妙に子供っぽかった。理由はおおよそ察しが付くので触れようとは思わないが、カレルとしては放っておけない気性らしい。下手をすれば親子ほどに歳が違うが、何くれと世話を焼いてやっている。



「カレルの女性の好みは些かおもしろい気もしますね」

「それを頭目殿が言いますか?」

「ああ、レイシーか……」



 そもそも女性なのかどうか誰も知らない。というよりはイサにとってどうでもいい部類にある。



「美人ですし、特に問題は無いと思いますが?」

「ああ、団長殿の実家って……」



 そこでカレルは言葉を切った。彼とてかつては騎士。聖職者の内部事情についてはある程度知っているし、そこにいちいち突っ込んでいてはキリがないのだ。

 ともかく今は目の前に問題があるので、バカ話にだけ興じるわけには行かない。



「聖職者を浮かべて思い出しましたが、来ますかね連中。なぜあんなに熱狂しているのか、とんと理解に苦しみますが……流石に元同輩としてはそこまでバカではないと思いたいもので」

「つまりはまともなのは来ないが、バカは来るっていうことでしょう? やっぱり来るんじゃないですか。それにその手のバカは得てして周りを盛り上げることは得意ですし……カレル、あなたは戦わなくてもいいですよ?」

「意外とおやさしい。しかし、昔はどうあれ今は今。それにこの状況で仲違いを推進するような連中は、昔の私でもやはり討つべきだと思うでしょう」



 そうですか、とイサ。

 本人の決意に水を差すのは趣味ではない。だが、同時に相手が馬鹿すぎると少しばかり盛り下がるのだが……などと考えている。

 イサとカレルが問題視しているのは勿論、最近にわかに活気づいてきた騎士達についてだ。

 

 カルコサ騎士勢力も冒険者達と同様に、近頃の灰騎士達の襲撃によって大きな被害が出ている。去るのなら早めに、残るのなら一致団結を……というのがまっとうな判断と言える。

 だが騎士達は冒険者に歩み寄るどころか、喧嘩を売っている始末だ。余りにも見え透いているため乗る気にもならないが、冒険者達の側から暴発させたいように見えるのだ。

 

 騎士達の行動はどうにも短絡的過ぎる。本人たちが聞いていればイサにだけは言われたくないだろうが……



(短絡的といっても、目先に餌があるのだから仕方がありませんか。騎士とて全員が全員、裕福なはずもない。博打のチャンスがあるだけ確かに幸運と言えるのやも……)



 リンギのおかげである程度の動きは察知できている。裏側にウロボロス教団がいて煽っていること、勿論頭の良い騎士達は静観していること、そして……察知されていることに気付いていることもだ。

 分かっていてやっているのだ。全世界に支部を持つウロボロス教団を相手に組織としての力で挑むのは得策とは言えず、カルコサ支部は抗議も難しい。

 騎士側も同様であり、どちら側も現場の喧嘩で終わらせたい。そのはずなのだが……



(リンギからの受け売りですが、ウロボロス教団は大胆過ぎる。まるで、ここが一番の勝負どころとでも言うかのよう。狙いが分からなければこうする他ないか)



 どうにも我々の一党の評価は妙に高い。

 考えを弄びながら、行動は予定通り。路地を抜けて、開けた空間に出る。そこにはイサ達の役割が待っていた。


 広間に整列する騎士達。その隊列は微妙に乱れており、質というよりは不慣れなのであろうことが目に見えた。当然に甲冑も不揃いであり、どこか滑稽な絵面だ。

 灰騎士ではない。人の騎士達。

 かつて冒険者達は上位の足を引こうとして止めたことがある。一番槍で死ぬのは嫌だという理由からだったが、彼らはどうなのだろう。



「カルコサの冒険者、イサよ……命が惜しければレイシーをこちらに引き渡せ」

「はい?」



 一歩前に出た年かさの騎士から厳粛な声が絞り出された。

 内容も奇異なら声も妙だ。その年齢まで前線の騎士であり続けた威厳が無い。それだけで熟練者はもとより、新人であるセイラにすら『なんか大したことなさそう』というイメージが湧き出てしまう。


 仮に同じ内容をデメトリオやミロンが言ったのなら、恐怖が背骨を伝うだろう。あるいはカレルのような者が発言したのなら、緊張が場を覆うだろう。

 しかしこれでは彼らを脅かすことができない。老騎士には厚みが不足していた。その結果として間の抜けた空気が漂う。



「えっ、僕? お兄さんが恨み買ってボコボコにされる流れじゃないの?」

「いや、そんな恨みを買うようなことはしてませんよ……多分? うん、きっと。レイシーこそ、なにかしたのでは? 敵を斬る時に一緒に巻き込んでバラバラにして馬の餌にしたとか」

「イサさん、イサさん! この街に馬はあんまりいませんよ。あと向こうの人たちが凄い睨んでいて怖いです!」



 好き勝手なことを言う一団の空気に居並ぶ騎士達は、憮然としている。侮られているのだから当然だろう。

 元騎士であるカレルはやれやれと言わんばかりに、一応言うべきことだけは言っておくことにする。



「……フォーバー。悪いことは言わん。止めたほうが身のためだ。騎士がどうこう、ではない。単純に頭目殿達にはお前たちが束になっても及ばん。いや……今この状況でうかうかと乗せられるような貴様らでは、今の私すら倒せん」

「黙れ裏切り者! 片腕を失っても、その態度は治らんか!」



 もう付ける薬が無いと、カレルは肩を竦めた。

 以前がどうあれ、老騎士達に対して果たす義理はもうない。実のところカレルは騎士であった頃から彼らに貸しはあっても、借りは無いのだ。



「しかし……人数だけは相当なものですね。ひぃふぅみぃの……100近い……馬鹿がこれだけ集まると壮観ですね。では各々取り決め通りで」

「はーい」

「まぁ私なんかはそっちのほうが楽です。人相手はどうも苦手……」



 一向にレイシーを差し出す様子のなさに苛立った集団が一歩前に出ようとした矢先に、イサの命令が飛ぶ。



「では皆さん! 逃げますよ!」

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