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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
最終章・終層地下封印区画
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エピローグ③・青閃と銀閃

 灰が舞っている。かつての栄華を異様な力で維持していたカルコサも、その力の源となっていた泥の地下都市ももう無い。ただ灰が残っているだけだ。

 イサも一応は見て回ったが、肉塊のヴォルハールはおろか魔物の死骸すら見つからなかった。きっとウロボロスを信じていたモノはその御下へ、そうで無い者は相応しい場所へと帰ったのだろう。イサは不思議とそう納得していた。

 自分の内に死者が知恵を残していったのだ。ならば魂とそれに応じた世界ぐらいもあるだろう。そして自分はそれをも見に行くのだ。


 この何も無くなった地にやり残したことがイサにはあった。



「んー、これってやっぱりやらないと駄目なんですかね」

「頭目殿にとっては重要なこと。それで良かろうよ。大体にして男のやりたがることに大した理由なぞありはしない」

「……もうセイラとカレルは二人だけで旅に出れば良いのでは?」



 呆れたようにイサは言う。

 人間関係というのは相変わらず良く分からない。この二人の関係は男女のそれなのか、純粋な仲間としてなのか、あるいは擬似的な親子関係なのか?

 少し複雑になるとイサにはもう分からない。カルコサへ来る前は単独行動派だった自分にしてからが、帰る時には仲間ができているのだから尚更だ。

 


「それはともかくイサさんは昇格断って良かったんですか?」

「私はまだ第2位神青鉄(オリハルコン)には相応しくない。この後であれば、あるいは受けたかもしれませんが……」



 モノの価値はそれぞれが決める。己が手に入れるモノはできるだけ輝いていて欲しい……イサはそう願っている。勿論、最終的には第1位位階まで上がるつもりだし、他の財宝も全ていただくつもりではある。



「……ミロンにも負けっぱなしでしたからね。最後には3人がかりでようやくでした。誰から見ようと納得の行く強さが得られるまでは保留です。第2位への昇格の話はこれが最初ではありませんし」

「ははぁ……頭目殿も随分と変わりました。欲の深さは変わりませんが、大人になられた」

「カレルに言われると変な感じがしますね」



 一党の中ではカレルが群を抜いて年長だ。それに“大人になった”と言われれば、父親におだて上げられているように感じる。イサはそこで終ぞ父親に褒められたことが無いことを思い出した。自分の子を褒める機会の無かった父は、今頃どうしてるだろうか……案外に勘当を悔いているかもしれない。



「ここでの冒険、終わってみれば収支はまぁまぁでしたね。〈太陽剣〉も戻ってきましたので、カレルに渡していた〈斬突〉が浮いたのが大きかったですね」

「遺物売るんですか? というか売れるんですかね?」

「リンギが欲しがっていたので、値を釣り上げるだけ釣り上げてから売ります……ハルモアに!」

「驚くほど性格が悪いですね……その内刺されますよ」



 嫌がらせのようにも見えるが、ここでの実入りが少なかったであろうハルモア達への気遣いなのだろう。そうであって欲しいなぁ。セイラの顔がそう語っていたが、相手はイサ。望み薄と言ったところか。



「とりあえず、損は無かったんですよね?」

「ええ、貴方達の給金含めてもね。よくやってくれました」

「えへへ……」

「この顔ぶれで再び冒険に出られるのは嬉しいこと。頭目殿、次の目的地は?」

「カレル、貴方絡みですよ。明確に土地が決まっている訳ではありませんが、遺物を追ってウロボロス教団が追手をかけてくる可能性は高い。後手に回るより、先手を取りたいので、どこか大きな街の近くですねぇ」



 〈太陽剣〉は遺物の中でも別格だ。その威力はこの地でも発揮されたが、それすら全力とは思えないところもあった。水底の主すら存在を知っていたとなれば、数千年前には既に存在していたことになる……



「〈太陽剣〉、そして〈聖盤〉。この2つが我々の手にある限り、騒動には事欠かないでしょう」

「ははぁ……カレルさんは片腕になって、イサさんも指切られちゃったのに大丈夫でしょうか……」

「義手でも探しますか、頭目殿」

「そういう遺物でもあればいいのですがね……それとその呼び方は一旦終わりです。どちらが頭目なのか、はっきりするまではね」



 イサが遠くに目をやると、小柄な影が手を振りながら走り寄ってきていた。背には大荷物が見える。

 イサ達もつい忘れていたが、アレはこの土地から出たことがない。戦闘経験豊富でも旅は初めてなのだった。ある意味においてはセイラ以上の初心者がようやく追いついてきた。



「お待たせ~、お兄さん。待った?」

「レイシーさん。遅いと思ってたらなんですか、その大荷物……ハッ! まさか私が担ぐんですか!?」

「流石にそれは断っていいですよ。さて、では……」



 レイシーはイサを見て微笑んだ。これまでのような曇天や瘴気の下ではない快晴の中で見るレイシーの笑顔は天使のようだった。それをイサは怖いと思い、怖いからこそ競う価値があると見た。


 大荷物を地面に放り投げるレイシー。慌てて拾いに走るセイラはまだ荷物持ち根性が抜けないのか。カレルは二人の父親であるかのような表情で静かに見守っている。



「では、約束を果たしましょう。ここで行われる最後の戦いです」

「うん、お兄さん。ルールは?」

「基本的には無し。魔物としての力は使わない、だけでいいでしょう」



 芝居がかった動作でレイシーが宙返りを見せる。着地した時には〈蛇神の顎〉がその手に握られていた。棒を持った子供のようにぐるぐると回す様は、犬が喜んで振る尾のようだ。

 イサも〈好愛桜〉を抜いて構える。切っ先はレイシーの急所を指し示す。互いに全力で、殺さないようにとは一言も言わなかった。



「勝ったほうが、負けたほうを手に入れる」

「負けた方が、勝った側を上と認める」



 人間関係は複雑だと言ったイサだが、この二人の関係ほど奇妙な絆もそう無いだろう。これから始まる死闘にも、不安は互いに無かった。不思議と覚悟すら無いままごく自然に……



「ボクは負けないよ!」

「勝つのは私です」



 青閃と銀閃が交錯した。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] もっと評価されるべき
[良い点] なんと言っても世界観! 滅びを認めず、枯れ果ててなお繁栄を維持しようとする亡者の王国。 神の子さえ下敷きにする根性が、とても人間らしくて好きです。 そんな場所、冒険者なら挑まないと嘘だよね…
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