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青閃と銀閃の灰都探訪  作者: 松脂松明
最終章・終層地下封印区画
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エピローグ②・冒険者達

 かつてこの地には魔都と呼ばれた遺跡があった。

 それが今や何もなかった。冒険者達を狙った商人達も荷物を積み込み、どこかへと旅立つ準備をしていた。


 地上都市カルコサの崩壊は言うに及ばず、地下都市もまた水底の主が消失したことにより、時の流れに身を任せた。後に残ったのは崩れかけた灰の建造物と、そこに縛られていた魔物達だったものの灰だけだ。

 ここに用があって来るとしたら、もはや酔狂な学者ぐらいになるだろう。


 冒険者達を相手に商売をしていた家屋などは、解体する手間も惜しいとそのまま捨て置かれた。今、人が入っているのは一軒のみだ。

 今日は冒険者組合カルコサ支部の最後の受付日となっている。


 元は飲食店だったであろうカウンターの店員側で、組合長はリズム良く印を押していく。もう自暴自棄としか思えない連打具合で、見ている側が苦笑する有様だった。



「――はい。これにて終了だ。皆、それぞれの証書を受け取っていきたまえ」



 その言葉にわっ! と歓声が上がり、積み上げられた書類は瞬く間に取られていく。押し合いへし合いした結果、けが人も出たが誰も気にしていない。

 この建物につめかけていた30名ほどの冒険者は全員が水底の主討伐に参加していた者たちであり、カルコサ支部長は参加者全員の位階を一つ上げるという決断をしたのだ。

 出立した時は50名を超えたのが、帰ってきたのは30名きっかり。その30名も五体満足とは言い難い者が相当数いた。それを思えば、このぐらいはしてもいいと支部長は考えたのだ。


 これからは銀の仮面だけがカルコサにいたという冒険者の証になる。


 用が済んでしまえば冒険者達はあっという間に散っていって、残ったのは支部長を入れて6名だけだった。支部長はカウンターの下から分厚い瓶を取り出して、小さな器に注いで飲み干した。それから思い出したように人数分、同じように用意した。凝った出来の硝子瓶をしげしげと眺めてため息を付くのも忘れなかった。



「高かったんだがな、この酒。結局閉店の今日まで、誰も注文しなかったよ」

「……いや、カウンターの下に置いておいたら誰も注文するわけねぇだろ。単に勿体なかっただけだろ」



 客側の席に腰掛けて、その酒を飲み干したのはサーレンだった。馬の仮面は外して、神経質そうな顔を空気に晒している。すると、横に鎧姿の巨漢が座って椅子が悲鳴をあげた。こちらも熊の面を外したコールマーだ。



「君たちは本当に良かったのかね? 神青鉄(オリハルコン)への昇格など早々機会があるわけでもない。せっかく生き残り、伝説の武具を手に入れたのだから……」

「れもよぉ……イサの奴が受けないって言ったから、こっちもうけるわけにはひかねぇじゃん?」

「……店主殿。この酒、かなり度が強いぞ。火酒かなにかか」



 意外に酒に弱いのか、それとも酒が強すぎたのか。ろれつが既に怪しいサーレンは後ろで控えている後輩達を手振りで引き寄せた。サグーン、ヨリルケ、コルーン……生き残った元イサ班の三人だった。



「三人とも次は弾力鋼(ウーツ)を目指して頑張って欲しい。この酒はまぁその前祝だよ」

「うわ、ケチくさいですね組合長」

「これからどうするか、考えればケチくさくもなるよ。支部地が無くなった支部長は私が世界初じゃないだろうか……?」

「支部長はともかく、これからこの三人は我らのところで面倒を見る。位階をさらに上げるのも夢ではあるまい」


 

 ここでの戦いで気心の知れた二人は今後も組んで行動することに決めていた。リンギやアンティア、ハルモア達とも連動していく計画を練っており、誰かさんに対して高水準の人員を揃えて対抗するつもりなのだ。


 イサの部下だった三人は紅一点を欠いて、男だけのむさ苦しい一行となっていた。彼らは水底の主に実際に武器を打ち付けたことと最後まで戦線にいたことが評価され、こっそりと2つ位階を上げている。

 三人は小さな盃を掲げて、神妙に言った。



「「「マセラドに」」」



 そしてぐいっと飲み干して……揃ってむせた。

 見ていたコールマーとサーレンがこれまで見たことのないような顔で笑い転げた。

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