鏡よ鏡、60
「独身でさ、子どもとかいなくても全然幸せなのにさ、なんか世間がほっといてくれないのよね」
「ほっといてくれないねえ」
「ひとみさん、あんた、彼氏がいるから」
「森さんも彼氏つくればいいじゃん」
「そうじゃなくて。たとえばさ、バツイチとかシングルマザーとかだったら、ほっといてくれるじゃん」
「なるほど」
「ひとりもんがチワワとかと暮らしてると、さびしそう、とか言われてさ。よけいな心配しなくていいんだよ」
「うんうん」
ひとみは少し離れたテーブルに自分にむかって笑顔で小さく手を振る女性に気がついた。前に付き合ってた人とよく行ったスナックのママだった。
ひとみも笑顔で小さく手を振り返した。
「知り合い?」
「カラオケ屋さん」
「へー」