つばめとニワトリ
小さなニワトリ小屋で、1羽のニワトリが目を覚ましました。
ニワトリは大きく羽を広げて伸びをして、てこてこと窓辺へあがると、深く息を吸って
コケッコッコーー!!! と高らかに鳴きました
朝がきたことを教えるのは、ニワトリの大事な仕事なのです。
一仕事を終えたニワトリは、エサが届くまで てこてこ歩きまわります すると
ぴるるるるる
どこか遠くから鳴き声が聞こえてきました。
「おやおや。暖かくなったと思ったら、もうすっかり春なのね。今年もつばめさんがやってきたわ。」
ニワトリがてこてこ外へ出ると、ちょうど つばめが近くの木へとまりました。
「やあニワトリさん、お久しぶり。海を渡りきったらあなたの声がしたから、真っ先にあいさつしにきたんだ。」
「おや。うれしいねえ。長旅おつかれさま。大きくなったねえ。」
「ありがとう!これから巣を作って奥さんを探してくるよ。じゃあまた!」
つばめは泥と枝であっという間に巣を作ると、ぴるるるるる と鳴きながらお嫁さん探しをはじめました。
ニワトリが3回朝の仕事を終えると、つばめは忙しそうに巣を行ったり来たり。お嫁さんに餌を運んでいました。
「つばめさん、こんにちは。可愛い奥さんが見つかってよかったねえ。」
「ああ、ニワトリさん。バタバタと申し訳ない。実は困ったことになっていて。」
つばめはニワトリのすぐそばの枝にとまると、難しい顔をして話し始めます。
「実は、どうしても卵ができないんだ。それで奥さんがふさぎ込んでしまって。」
ニワトリはけらけら笑ってこたえます。
「なあに心配いらないよ。旅の疲れが堪えただけさ。まだ時間はあるんだ。焦らない焦らない。」
つばめはホッとして巣に戻りました。
ニワトリが朝の仕事を終えると、海の向こうの飾りをつけた、つばめの奥さんが待っていました。
「おやおや。どうしたんだい。」
「あなたはなんてひどいニワトリなんでしょう!」
つばめの奥さんは突然そういって怒りました。
「わたしたちつばめは短い期間で子育てしなければいけないの! そうでなければすぐに冬が来てしまう。子どもたちもわたしたちも西へ渡れなくなってしまう!それなのに、焦らなくていいですって!?
ニワトリはいくらでも卵を産めるけど、わたしたちつばめは2度しか卵を産めないのよ!?」
つばめの奥さんはつばさを大きく広げてニワトリに言いました。
ニワトリはそんな奥さんをじっと見つめて、てこてこと歩み寄ります。
「そうさ。ニワトリは毎日卵を産む。人間たちのご飯のためさ。
焦らなくて大丈夫。お母さんがどっしり構えていれば、安心してこどもたちが来てくれるから。」
つばめの奥さんは慌てて巣へ戻って行きました。
「ニワトリさんニワトリさん! 卵が出来ました。4つも出来たんです!」
興奮したつばめは、ニワトリが仕事をする前に報告に来ました。
「あらあ。おめでとう!さっそくみんなに知らせないと!」
ニワトリは早足でてこてこ歩いて、朝がきたことより先に、つばめのことを報告しました。
その日、つばめの巣へたくさんの贈り物が届きました。
ぴーぴー ぴーぴー
朝早くからへたくそな鳴き声が聞こえてきます。
ニワトリはしばらく朝の仕事をお休みしました。
とうとう巣立ちのときです。
ニワトリは盛大に コケコッコー!! と鳴くと、つばめたちを見送ります。
まだふらつきながら、何度も枝にとまって親鳥へついていくこどもたち。
あと2回も仕事をしたら、もう見えなくなるけれど、立派に羽ばたけるようになることをニワトリは知っています。
つばめたちが黒い点ほどになると、ニワトリはてこてこと寝床へ入ります。
ニワトリにはまるで似合わない光る石をそっと撫でると、ふわりと座って眠りにつきました。
Fin.