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厚着の王様〜異世界戦役異聞録〜  作者: 伏井出エル
伝説の始まり
6/35

現世の地獄


──騎士団side──


「トルイ団長、リュミエール空港の民間艇の全便欠航を通達しました」


「ご苦労だ、先に魔術師団の召喚士隊を通せ。 マホロに『制空権を頼む』と伝えろ」


トルイは王宮の団長室で鎧を着ながら、騎士団長補佐官の伝達に返答した。


「後は王宮からリュミエール空港への道を封鎖し、あるだけの馬車を頼む」


「既に済ませました」


「流石だな」


イノセンスを帯刀したトルイは、小走りで部屋を出た。



──魔術師団side──


リュミエール空港の近くにある魔術師団本部に到着したマホロは、廊下を急ぎ足で歩きながら、隣を歩む魔術師団長補佐官に駐屯している魔術師団に、出動要請を館内放送で通達する様言った。


「召喚士隊を優先して通してくれ、魔族には飛行できる戦力が多い。 先に制空権を取れとトルイに言われたからね」


「召喚士隊は5分、他の魔術師団は10分で整列させます」


「いや、15分でいい。 どの道騎士団が前に出ないと魔術師団は力を出せない。 魔術師団は兵站の確認をしてから整列させてくれ」


「かしこまりました」




──勇者side───


「何だよもう、王に挨拶に行ったら戦争に連れて行かれるなんて」


真人は不服そうに、小声で呟いた。

周りの馬車には重い鎧を着込んだ騎士達が、黙って座っている。


あの時、ヴァイセが居なくなって30分くらい待ったところ、突如部屋に現れた官僚に出動を要請され、不可抗力的に戦争に参加せざるを得なくなってしまった。


「仕方ないだろ、何百年ぶりかの対魔戦争開戦前にたまたま勇者がいたんだ。 連れて行かれるわな」


夜道を全速力で駆け抜ける馬車からクレアは外を覗いて言った。


「にしても妙ですね。 魔王軍が南に回って攻撃してきたのは」


リリーの顔が暗くなる。


「確かに、挟撃と言えど失敗すれば途方も無い兵力を失わざるを得ないな」


それに頷くクレアも同じ事を考えていたようだった。

確かにイルガチェフェを押せるだけの兵力を、たった一つの港を奪い返せば一網打尽にできる状況下に置くのは危険すぎる。


ただもしそれが、捨て駒だったときはかなりの軍事力を保有している事になる。

そうなった時にリュミエールは勝てるのだろうか。


「聴け! 誇り高き騎士達!」


馬車の壁に魔法陣が展開され、そこから声が聞こえてくる。


「これは?」


「伝達魔法。 声を届ける魔法だ」


真人がクレアに尋ねると、クレアは特に何の反応もなくそう答えた。


「今現在、我々はイルガチェフェに進軍中だ。 先に向かった魔術師団召喚士隊が既に魔族の航空戦力と交戦中。 制空権を確保し次第、我々は一度馬車を降り、エチオ軍立武官学校の校庭にて陣営を展開する。 心して待て! なお、魔族は一般市民を優先的に狙う。 諸君等は魔族と戦闘すると同時に市民の救出もせよ」


声は途切れ、魔法陣は消滅した。

その時、馬車が大きく揺れて、真人の着ている服から何かが金属音と共に落ちた。


「?」


クレアはそれを拾い上げ、顔を近づけて見た。

その瞬間クレアは驚いて他に落ちたソレを拾い集めた。


「これは約束の指輪。 勇者だけが持つ魔法の指輪だ」


クレアはそれをリリーと真人に近づけた。

二人も顔を近づけてみると、それは金色の指輪に小さな赤い宝石が埋め込まれており、シンプルなデザインの指輪だった。


「約束の指輪?」


真人は首を傾げながらそれを手に取った。


「約束の指輪は、勇者が選んだ仲間に手渡す物。 これを着けていれば、たとえ死んでも教会や回復魔法で蘇生できる」


クレアの説明に、真人は反応した。

リリーはその横で約束の指輪をジロジロ見ている。


「不死身になれんのか?」


「いや、死ぬと言っても魔族によって殺された場合かつ、遺体の損傷が少ないときのみだけど。 現に前の勇者パーティは落石で全員まとめて殺されてる」


「なるほどな」


死に方と死ぬ場所が重要なのか、と真人は納得しながら、それを自らの薬指にはめた。

リリーとクレアも、薬指に着けた。

残ったもう一つの指輪は、真人が懐にしまいこんだ。

と同時に、何故か真人の目の前に再び魔法陣が現れる。

眉をひそめて魔法陣を見つめていると、再び声が流れ出た。


「勇者に伝達、勇者に伝達、勇者は到着し次第、エチオ軍立武官学校の校舎内に向かえ。 繰り返す……」


真人が首を傾げると、馬車は大きな音を立てて揺れた。

驚いて外を見ると、そこは煙に包まれた瓦礫の山だった。

奥の方では、高くそびえ立つ城から炎が上がっていた。

空では無数のドラゴンと魔物が尻尾を取り合っている。


魔物に撃墜され、炎を纏って堕ちてきたイルガチェフェ軍のドラゴンから逃げ惑う一般市民。

中には、動かなくなった赤ん坊を泣きながら抱いて逃げる子供も居た。


頭半分が損壊した状態で横たわる女性にすがりついている男の子を見て、気分が悪くなる。


「これが……戦場」


真人は拳をぐっと握りしめた。



──イルガチェフェ軍side──


「くっ、友軍の援軍の到着は後どのくらいだ、レイリー」


三種の霊剣の一本、時空神剣クロノスを握りしめた赤髪の男が、燃え盛る城内の宮殿で、廊下に湧いて出る魔族を斬り伏せながら言った。


男は既に数え切れない程の魔王軍を立った一人で押しとどめており、身体は既にボロボロで、返り血を浴びて汚れていた。

束ねられた長髪と、整えられた顎髭にはかなりの汗が滲んでいた。


足元に積み重なった魔族の死体から立ち昇る煙を鎧で固めた身体に浴びながら、辛そうに喘いだ。


「早ければ後五分、最悪来ない」


レイリーと呼ばれた男は、魔王軍の下っ端を殴り飛ばして言った。

黒い短髪をバンドで立ち上げており、汗が目に入らぬ様にしている。


レイリーは溜息をついたあと、大きくそれを吸って手に持った盾を投擲した。


盾は凄まじい勢いで回転しながら、廊下の角から現れた魔族を弾き飛ばした。

彼はそれを見て駆け出し、落ちた盾を拾ってから、握り直して魔族を殴り飛ばした。


「相変わらずの物理法則無視だな、それ」


「魔法と筋肉のミルフィーユって奴だ」


倒した魔物に続く魔物を蹴り飛ばし、レイリーは鼻で笑った。


「クルト、もうイルガチェフェ軍はダメだ、ほぼ全滅したっぽい」


「ちっ、これで五分はキッツいな。 ここまで来たら最期までやるしかねぇな」


宮殿を燃やす火は、パチパチと音を立て、すぐそこまで迫っていた。


「レイリー。 仮にこの場を切り抜けられたら、俺大佐引退するわ」


「俺もだ。 もうしばらく人が死ぬとこ見たくねぇわ」


悲しそうな目で火の粉を見た後、クルトはクロノスを、レイリーは盾を構え、廊下に湧いて群れる魔族を力強い目つきで睨んだ。



──勇者side──


馬車から降り立った真人達は、急いで学校の校舎に駆け込んだ。

ドアを開けて下駄箱を抜けると、ふた手に別れた廊下の右側に立っていた騎士がこちらに手を降った。


真人達はそこまで走っていくと、そこには騎士団の幹部達が待機していた。

その中の一人である団長・トルイが真人達に気づき、立ち上がった。


「呼びつけてすまない。 勇者達」


真人は緊張しながらも、「い、いえ」と謙遜した。


「君達を戦争に呼び出したのは王の意向だ。 恐らく君達の実力を見たいのだろう。 故に君達には我々とともに前線で戦う事はさせない」


リリーとクレアは心の中で胸を撫で下ろした。

魔族に対する前線維持は非常に生存率が低い。

彼女等も死を覚悟していたが、それは杞憂に終わったようだ。


「君達には他の事をしてもらう」


トルイはそう言って近くの騎士に、きれいに丸められた紙を持ってこさせた。

彼はそれを取り、勢い良く近くの机で広げ、真人達に手招きした。


「これは前回の粒維戦争で使われたイルガチェフェ首都エチオの略地図だ。 今回の我々の任務は、魔族をエデン大陸から撤退させる事と、イルガチェフェ軍の救出だ。 イルガチェフェ軍は先程からずっと城に立てこもって防衛戦を行っている」


トルイは真人達に説明して、地図に描かれた宮殿の入口を指差した。


「我々は城に行かなければならないが、今見てわかる通り、目標の城の入口は魔王軍が押さえていて、裏口は燃えているみたいだ。 そこで魔術師団の協力により、城に穴を開けてそこから入る事になった」


トルイは視線を上げ、真人達の目を願うように見た。


「君達には、中に入って友軍に伝達し、用意してある飛行船に迅速な避難ができるよう誘導してほしい。 必要であれば魔族と交戦してもらうが、時間に余裕がない。 ので、可能な限り避けてほしい。 私も同行するが、3分以上経ったら移動する。 ところで……」


トルイは手ぶらの真人を見て、せかせかと動いている騎士の一人に、「剣と盾あるか」と尋ねた。

騎士は「お持ちします」とその場から去っていった。


「見た感じ装備も持ってないみたいだ。 我々の武器を貸してあげよう」


騎士の持ってきた盾と剣を感謝を述べながら受け取り、トルイは差し出した。


「騎士の剣と騎士の盾だ。 そこまで良いものではないが、誰でも使いやすいよう重さや形状を工夫してある」


「召喚士が到着しました! こちらです!」


トルイがちょうど説明し終わった瞬間、部屋に飛び込んできた騎士が叫んだ。


真人は剣の鞘をベルトに取り付け、盾を持って急いで部屋を出た。

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