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厚着の王様〜異世界戦役異聞録〜  作者: 伏井出エル
王政奪回
28/35

希望の盗賊団



──勇者side──


「……いないな」

真人は廃墟の辺りを見渡して気怠げに呟いた。

ピア中を歩き回ってリリーも疲れ気味である。


これだけ歩き回っていないのに、ここを占拠するほど蔓延ってるということは、どこかにアジトでもあるのだろうか。


「いや……」

突然クレアが立ち止まり、耳をそばだてる。


「どうした?」

真人とリリーがクレアに歩み寄る。

聴こえる、とクレアは辺りを見渡した。


彼女は両手に炎を滾らせ、突如振り向きざまにその炎を投げつけた。

火の玉は一直線にリリーの眼前を過ぎ去り、木陰に吸い込まれていく。


すると次の瞬間、草むらから飛び出した大型のオークがリリーに飛びかかった。

真人はパニックになるリリーの前に立ち塞がり、黒いオークの振り下ろした金棒を剣で防いだ。


オークは雄叫びをあげながら金棒を握りしめ、剣が折れんばかりに力を込めた。

真人も負けじと剣で抑え込むが、それもあと僅かな時間で叩き潰されてしまう。

クレアは慌てて紅蓮脚をオークの右わき腹に叩き込んだ。


苦悶の声とともに黒オークが退く。


「ナニモンだアンタら。 まだいるんだろ、出てこい」

真人の威嚇する声に、別の黒オークが渋々木陰から顔を出す。


「よくわかったな、勇者。 だがここからは俺たちグリム族の縄張りだ。 入るものは誰であろうと容赦しない」


「縄張りですって!? ここは元々ピアの一角。 侵略者は貴方方の方です!」


リリーが怒り心頭に声を荒げた。

ただ、リリーの声は例え怒っていても優しすぎるが故に、ダークオーク達の嘲笑を買っていた。


「言うじゃないか小娘。 だが数百年前、俺たちは勇者の侵略により『魔界』へと追いやられた。 俺たちは何年も何年も不毛の土地で飢えに苦しみながら生きてきた被害者だ。 異論があるなら俺たちを皆殺しにしてみろよ」


「神の慈悲は全生物平等に在ります。 無益な殺生など……私にはできません」


「ほう……シャリテの信者か。 俺たちを悪魔呼ばわりしてよく慈悲なんて言えるもんだな……お前達には必ず報いを受けさせる」


「下がってろリリー、コイツらは俺が」


真人が指を鳴らして指先に電気を集める。

二つのグループの先頭に立つ二人が、会話を交わす。


「さっきから見ていればペラペラペラペラと。 随分賢いオークだな」


「俺たちはグリム族。 お前らからはダークオークと呼ばれる、オークの亜種だ。 脳みそはお前らより大きいらしいな」


「どうやってそんなこと知った。 まさか人間を捕まえて解体したんじゃなかろうな」


二人の間に強い風が吹き抜ける。

寒い時期の乾いた突風は、真人のふわりとした前髪を揺らす。


「いーやその通り。 だがお前らも俺たちの仲間を捕まえては拷問し、バラバラにしているだろ」


「やかましいなお前!」


「こっちのセリフだ!」


その言葉を燧に、激戦はにわかに始まった。

真人は一撃貰えば即死、ダークオークは隙を見せれば即死な背水の陣で、互いに一歩も譲らない剣戟を繰り広げた。

周りのものはその圧倒的に美しい剣舞を、固唾を飲んで見守っている。


勝負を決めたのは、ほんの僅かな隙だった。

ダークオークが空を飛ぶ飛行船の轟音に気を取られたその瞬間、真人はダークオークのヒザ関節めがけて電撃を浴びせ、剣を胸に突き刺した。


真人が微笑と共に指鉄砲を突き刺さった剣の柄に押し当てた。


「ゼイン」


真人の呪文詠唱とともに剣から電撃が流れ、ダークオークの心臓を電気ショックで強制停止させた。


「これで……終わりだと思うな……」


ダークオークが倒れた瞬間、真人も空を見上げた。

飛行船の周りには、無数のドラゴンが飛び回っていた。

ドラゴン……?

飛行船にはイルガチェフェのマークはない。

あれは……リュミエールの国旗!?


「危ない!」


真人は一番近くにいたクレアに覆いかぶさった。

空からは無数の爆弾が降ってくる。

爆風に包まれ、二人と無数のダークオークの姿が眩む。


土が衝撃で吹き飛び、草木は炎で燃え盛る。

ダークオークも爆風で吹き飛ばされ、中にはバラバラになって飛び散ってしまう者もいた。


リリーは爆発の中、ただ呆然と佇んで破滅の光景を見つめていた。

何が起こっているのか彼女にも理解できない。


爆発が止み、ドラゴンが過ぎ去っていくと無数の魔術師団員が天使の羽を纏い急降下してくる。

だがここはイルガチェフェの首都。

いくらリュミエールでも入っていい場所ではない。

それに今イルガチェフェには少数のカプチーナ駐留陸軍しかいない。

空中戦に対応できる海軍はまだ到着していない。


取り敢えずリリーは爆発でできた小さな穴に隠れた。

影から様子を見守っていると、どうやら王宮に向かっているようだ。

今現在イルガチェフェという国に軍隊は存在しない。

これではすぐに制圧され、シン王が逮捕・処刑されることは明白だ。


祖国の侵略を目にするのは、政治という括りから離れたリリーですら良い気分にはならなかった。

早く誰か呼ばないと……。


その時、リリーの手を何者かが引いた。


「こっちだ」


男の顔はボロ布に隠されており、はっきりとは確認できなかったものの、片目に刻まれた十字傷はどこかで見たことがあった。


男はリリーの手を引きながら、目の前に飛び出したダークオークをナイフの一撃で粉砕し、そのまま廃墟を駆け抜けた。


彼は廃墟の中の一つの中へ忍び込み、その地下室への潜っていった。

リリーはそこまで来てはじめて状況を把握した。


「助けてくれてありがとうございます……ひっ」


彼女が目の当たりにしたのは、その地下室で屯する無数の盗賊の姿だった。

その瞬間、彼女は彼の正体を把握することになった。


「オルテンシア……」


オルテンシアはフードのようにかぶっていたボロ布を放り投げ、地下室の木の椅子に座った。

それから「ふう」とため息をつくと、リリーを睨みつけた。


「持ち物全部置いていけ……と言いたいとこだが、いつかの恩もあるからな。 これで借りは返した」


しばらくリリーを見てニヤついていた盗賊たちも、オルテンシアの鶴の一声でリリーから視線を逸らした。


「ここはラフレシア盗賊団の仮拠点だ。 あんたらと一悶着あったせいで、場所を変えざるを得なかったわけだ」


「ラフレシア盗賊団? なぜゼルスの加護を受けた貴方が!」


黙って聞いていたリリーは、盗賊と成り果てたオルテンシアに抗議と怒り、そして失望の言葉をぶつけ詰め寄った。

元シャリテ教信者の英雄、聖騎士オルテンシアが盗賊として生きているのは、リリーとしても納得がいくものではなかった。


「嬢ちゃんあのな。 宗教じゃ生きてはいけないんだよ」


オルテンシアは近くにあった瓶を開け、徐に飲みはじめた。

シャリテ教の戒律を重んじるリリーは信じられないと言わんばかりに目を丸くして彼の姿を見つめた。


「さて、野郎ども。 仕事の時間だ」


オルテンシアは低い声ながらも大きな声で、盗賊団員達にそう告げた。

まるで、この非常事態が好機であるかのように。


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