決意の一歩
──王side──
日が昇って間もない頃、アレンは王座継承の儀式が執り行われる儀式の間に足を踏み入れていた。
好き放題そこを歩き回り、置鏡の前で指でっぽうを撃つふりをしてみたりしていた。
「さてと」
アレンが突然何かを探し出した。
神棚や棺に似た木の箱や、机の引き出しの中。
終いには玉座の下やらを探り始めた。
「ないなぁ」
アレンが探していたのは、『神王の王冠』。
普段王が身につけるものではないが、王座に座る者に与えられる貴重な品である。
純金のフレームに魔石がいくつも取り付けられたその王冠は、国を豊かに、平和にすると言われている。
初代王の頃から続いてきた伝統の儀式である。
しかし、なぜか神王の王冠がないのだ。
「さてはヴァイセか……まあいい。 王冠等偽物で十分だろ」
「何を言っている」
アレンの投げやりな言葉を戒めたのは、大賢者シュヴァルツの声だった。
「あれは初代から続く伝統的な王の証。 偽物で王位を受け継いだ王は偽物にしかならぬ」
ちゃんと探せ、とシュヴァルツはアレンに言い放ち、その場を去っていった。
「ふん、置物ジジィが。 伝統なんてブッ壊してやる」
アレンはそう吐き捨てながらも王冠を探し歩いた。
部屋を出て、廊下を見渡しながら歩いた。
妙だ。 アレンはそう思った。
そこに居たのはマホロだった。
しかし今日はマホロは休暇を取っているはず。
なぜ王宮に来ているのか。
「どうしたマホロ」
「いや、ちょっと忘れ物を」
何か隠し事しているのだろうか、目が泳いでいる。
アレンはその事に気づいていない。
「そうか、気をつけて。 あ、マホロちゃん。 今度俺と飯でもいかないか?」
「別にいい」
「冷たいねぇ、んじゃまたね」
アレンは片手を振り、もう一方をポケットに入れて去っていった。
かっこつけているのがバレバレである。
「ふぅ」
マホロが後ろに回した腕には、神王の王冠が握られていた。
「危なかった」
「何をしてるのだ、マホロ」
「ひっ」
一番会いたくなかった男が、マホロの前に姿を現した。
目の前を通りすがったのは大賢者シュヴァルツ。
マホロが王国立ヴィセン学園という学校で問題行動を働く劣等生だった頃、シュヴァルツはそこの教授であり、一人だけその才能を認めてマホロを弟子にしたのである。
当然問題児を弟子にする器の持ち主、非常に厳格で甘えを許さない性格だ。
マホロが世界で一番怖いものを挙げろと言われれば彼を挙げるだろう。
「なんでもないですよ」
「まさかシン=クラヌスに加担する様な真似はしてないな?」
シュヴァルツは昔から没個性的で温室育ちの引きこもりであるシン=クラヌスをよく思ってなかった。
故にヴァイセはそれを気に入っているマホロを必要以上に警戒している。
「シン=クラヌスは周囲に破滅をもたらす。 これ以上関わるのはよせ」
「すみません……」
「イタズラも程々にな」
シュヴァルツはマホロの元を離れていく。
それを見届けたマホロはその場から逃げるように去っていった。
──勇者side──
「で、街の離に来たわけだが」
「何もないな」
クレアが欠伸をしながら真人の独り言に応えてみせた。
辺り一面に広がる草原。
まさに自然の溢れた世界である。
都会育ちの真人はほとんど目にしたことがない。
ふと見上げると、草原の奥の方に大きな物が見えた気がした。
「今何かなかったか?」
真人はよく目を凝らしてみる。
するとそこには、藁や木で作られた家々が並んでいた。
「あっちに集落があるようですね」
リリーは手に持った双眼鏡を覗いている。
「双眼鏡? どこで買ったの?」
クレアが問うと、リリーは「王都で買ったんです」と答えた。
「行ってみようか」
真人は歩き始めた。
二人もそれに続いた。
集落に人は居なかった。
家の中は荒らされており、血が飛び散っている所もあった。
金目の物はあらかた盗まれており、残っていたのは金庫だけ。
4桁のナンバーは全て0に揃えてあり、開きそうにもなかった。
物音が聞こえないかと耳を澄ましたが、風が吹き抜ける音以外何も聞こえなかった。
真人が家の中を探し回っていると、みすぼらしい木の机の上に手紙が乗っているのを見つけた。
手紙は封筒に入れてあり、裏面には「この手紙を読んだ方へ」と書いてある。
真人は封を開けて中の紙を取り出した。
「私はこの家の住人です。 この手紙を書いた日、この村はルネッサンスに襲われ、私の娘は奴らに捕らえられています。 どうか娘の命だけでも助けていただけませんでしょうか。 金庫の番号は娘が知っています。 もし助けていただければ金庫の中身はお譲りいたします。 どうかよろしくお願いします」
それは、母の痛烈な思いが刻み込まれている手紙だった。
この前会ったあの人攫い集団は人も殺すのか。
真人は腹に沸々と込み上げる怒りを感じた。
「クレア、リリー。 これを見てくれ」
ガラクタ探しに興じていた二人が集まって手紙を読み始める。
「行こう、助けに」
真人は早足で家を出た。
大きく肩を揺らして歩く事で怒りを堪えている。
「何言ってるの? だって私達の任務は魔物狩りだぞ? ルネッサンス討伐はクルトさんの任務だから、クルトさんに任せればいいじゃないか」
クレアはさっさと行こうとする真人を引き止める。
真人は振り向いて真剣な眼差しでクレアの目を見つめた。
「頼まれたのは、俺達だ。 この手紙を読んだのは俺達。 違うか?」
「そうだけど……」
クレアが口ごもっていると、真人はいきなり歩みを止めた。
「……おっと、喧嘩なんかしてる場合じゃなかったな」
真人が王宮でヴァイセに貰った赤褐色の剣「銅の剣」を引き抜いて構える。
その剣先には、ドロドロとした生命体が無数に蠢いている。
「……ドロイムね」
蛍光系の緑色を発する生命体は、敵意こそあれど攻撃はほとんど出来なさそうである。
「行くぞ!」
クレアの拳と真人の剣が無数のドロイム向けて解き放たれた。
クレアはドロイムを殴り飛散させ、真人も剣でドロイムを捌いていく。
だが、ドロイムは細かくなってもくっついて復元されていく。
量も多く、今度はドロイムたちが二人に絡みついてくる。
それは口元にまで達し、二人は窒息しそうになる。
「クピア!」
リリーの咄嗟の回復で、延命措置がなされたあと、リリーはさらに「ヒール!」と呪文を唱える。
リリーの持っている杖の先に光が集まったかと思うと、いつの間にか絡みついたドロイムは離れていた。
「助かったリリー!」
真人は再び飛び上がるドロイムを微塵切りにした。
その残りカスはクレアが発火させ、燃やし尽くす。
これで復活はできまい。
二人はその場に倒れ込んだ。
死と隣合わせである戦闘を何回もやらされるのは精神的に辛い。
「でさ……」
空を仰いで軽く喘ぐ真人は、一息つくとクレアに尋ねた。
「ドロイムって懸賞金貰える?」
クレアは真人のボケに軽くため息をついた。




