裸の王様
こんにちは、なろう初投稿のマグアです!
元は別のサイトで二次小説を書いてたので、オリジナル小説は初めてです!
ここの慣習とかよく分かっていないので、直した方が良いところは是非コメントなどで教えてください!
よろしくお願いします!
「でも、王さま、はだかだよ」
とつぜん、小さな子どもが王さまに向かって言いました。
「王さま、はだかだよ」
「……なんてこった! ちょっと聞いておくれ、むじゃきな子どもの言うことなんだ」
横にいたそのこの父親が、子どもの言うことを聞いてさけびました。
そして人づたいに子どもの言った言葉がどんどん、ひそひそとつたわっていきました。
「王さまははだかだぞ!」
ついに一人残らず、こうさけぶようになってしまいました。
王さまは大弱りでした。王さまだってみんなの言うことが正しいと思ったからです。
でも、「いまさら行進パレードをやめるわけにはいかない」と思ったので、そのまま、今まで以上にもったいぶって歩きました。
めしつかいはしかたなく、ありもしないすそを持ちつづけて王さまのあとを歩いていきましたとさ。
妙齢の女性は、冷ややかなクーラーの風が体を包み込む病室で、すらっと細い…いや、か細い指で本を畳んだ。
少年は、くっきりとした目をパチクリとさせ、不思議そうに母の弱々しい目を見た。
────何で?
────なぁに?
母の目に映る少年は、今よりも純粋で。
────どうして自分を良く見せる事がいけないの?
部屋に飾られた一輪の生花の花びらが、力なく舞い落ちた。
女性は少し俯いた後、納得したように頷き、少年に言い聞かせた。
────いけなくないのよ。誰しも自分を良く魅せたいもの。……でも、王様が悪かったところがあるとすれば、騙されちゃったことよ。
────騙されちゃダメなの?
少年の声は病室の匂いに紛れて、薄れていく。
────ええ、信用できる人をちゃんと見極めるの。わかった?
────うん!
少年の笑顔が次第にぼんやりと霞んでいく。
強い日差しの差し込む病室に、蝉の声と心電図モニターの音だけが響いていた。
「っ!!!」
ベージュの羽毛布団を力一杯跳ね除け、進は薄暗い部屋の中、一人息を弾ませた。
「またか……」
幼い頃の記憶。決して悪夢ではないはずの母親との記憶の1ピースだけ。
それが何故か最近、進の夢に姿を表していた。
「はだかの王様が何だってんだよ……」
怒るような、呆れるような独り言を呟いて、進は布団を引っ張った。
イライラに任せて台所に立ち、手早く弁当を二個作ると、朝食を平らげて洗面所に向かった。
鏡は無機質に彼の姿を写していた。
短髪に高い鼻筋。 そして二重の瞼。
瞳孔は広めで吊目気味で、見た者を意図せず威圧してしまう顔である。 歯並びは歯医者で毎回褒められるほど綺麗だった。
異質な茶髪は地毛であり、学校では染めてると勘違いされ苦労している。
進はその整った顔を洗顔料と冷たい水で一気に洗い、薄く伸びた髭を剃った。
癖っ毛気味の髪は寝癖がつくと中々直らない為、一度水をぶっかけてタオルで拭き、ドライヤーをかけて直す。
歯を磨いて一度洗面所を出てテレビをつける。 今日の占い。 獅子座は最下位だ。
「ありえない事態に遭遇、不安を感じてミスを連発」。
進は鼻で笑いながらアイロンがかけられていないワイシャツに袖を通しピン型ネクタイをつけ、鞄を持ってからコートを着て家を出た。
ここ最近、親父の顔は見ていない。 戸を開けると、まだ日が出てすぐの朝焼けが広がっていた。 彼は夕焼けや朝焼けに良い思い出がない。 白いため息をつきながら、エレベーターのボタンを押した。
30階から10階に来るまで一分少々だ。 進はポケットからiPhone7を取り出し、話題作りの為にソーシャルゲーム『ハンターストライク』をかじかんだ手でタップした。
歩いて7分。 最寄り駅の改札を通り、電車を待っていると、進の頭一個分身長の低い男子高校生がイヤフォンを外しながら歩み寄ってきた。
秋以来登校してないので、冬の装いを見たのは久しぶりだったが、首の赤いマフラーは妹からのプレゼントというのは聞いている。
「あ、進おは」
「真人か。 久々の登校だな」
声をかけてきたのは進の小学校からの親友、狩野真人。 社会的に言うヒキニートだ。
コミュ障・オタク・運動音痴の三拍子が揃ったいわゆる陰キャであるが、進は見下すどころか尊敬していた。
自分の好きなことに熱中できる熱さ、誰かに物言われても自分を曲げない信念、相手の攻撃的な態度を一切間に受けない心の余裕。 その全てが進にないものである。
学校での立場で言えばそりゃ彼は低い方だが、はっきり言って上の方から彼らを見下す人間は人として屑であり、将来付き合い続けるかと言ってもそういうわけではない。
真に人間性の良い人間とさえ付き合っていけばそれでいいのだ。
まあそれはそうとして学内でほぼ唯一の友人が不登校となると、単独行動を余儀なくされ、ペアワークが地獄と化す。
決して頼れる人間がいない訳ではないが、彼らには彼らの立場がある。
いくら俺でもそれを超えてまで彼らに助けてもらおうとは思わない。
「そういえば」
頭をめぐらせていた進に、真人が呟いた。
「お前霧島さんと別れたってマジ?」
進は一瞬答えるのを躊躇ったが、すぐに頷いた。
「ああ、と言ってももう一ヶ月も前の話だが」
電車が怪音を上げながら停止する。 ドアが開き、疎らに人が降りていく。
「霧島さん。 めっちゃ良い人そうだったのに」
ドアは再び閉まり、走り出した。
その景色の動きを見つめ、進は黙っていた。
霧島怜子は、彼が本気で愛した女性だった。 容姿端麗な上に明るく、聡明で、その上自分と違い社交的だった。
進はもう二度とこんな人とは出会えないと確信し、彼なりに大事にしていたつもりだった。
───まぁ、知らぬ間に傷つけたようだったが。
明るく天真爛漫な彼女と、周りの空気をいまいち読めない進。
二人には大きな差があったが怜子と進は仲睦まじいと評判だった。
とはいえ価値観の違いから歪みはドンドン大きくなっていき、最終的に喧嘩で別れてしまった。
後悔はしていないわけではない。 けどしたから何かがあったわけではない。
学校の最寄りに着くと、人は流れ出ていった。
真人から伝染った欠伸を漏らすと、その背中を追うように電車から降りた。
無意識のうちに時は流れ、チャイムが鳴る。
始業から四時間が立ち、進はサンドウィッチを囓りながら窓の外を見ていた。
「なあ真人」
「なんだ?」
真人はコンビニで買ったすじこおにぎりを頬張りながらスマホからこちらに視線を移した。
「もしさ、遠い遠い国に行って、人生やり直せるとしたらさ、何したい?」
「……なんだよいきなり。 まあ、やるなら──傭兵とかかな。 何かの為に戦って死にたい」
答えた真人は再び携帯に視線を落とした。 真人のアンドロイドスマホは、相当古い世代の物だ。
「なるほどな──んまあ、死ぬまでに何かやってみたいよなぁ」
進はサンドウィッチを口に押し込み、水筒のお茶で流しこんだ。
喉のつっかえは取れた。 と同時に、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
──
進が気づいた頃には、もう遅かった。
クラクションの音が響きながら、こちらに迫ってくる。 身体は強張って動かない。
帰り道、突如突っ込んできたトラックに、横断歩道を渡ろうとしていた進は、今まさに轢かれようとしていた。
急ブレーキの音が木霊する。
その時、進の背中を何者かが押した。
だが、その誰かの捨て身も虚しく、全身に強い衝撃が加わった。
転がった肉塊の中から、進はゆっくりと意識を手放していった。
まあ、どうせすべてを失ってる。
こんな終わりもありか。 そう思った。
「シン様! シン様!」
身体を揺すられて、進は目覚めた。
ぼんやりとした視界に、屈みながら彼を覗き込む一人の男が写し出された。
「良かった……ご無事でしたか」
初老と思しき白髪混じりの頭、賢そうな丸眼鏡に立派な白髭。 アイロンがしっかりかけられたであろうスーツの首元には蝶ネクタイが巻かれている。
中の黒いベストが、その大人っぽさをさらに引き出している。 男はゆっくりと起き上がる進の身体を支えた。
進は起き上がった途端、呆然とした。
周囲に広がる光景は、中世ヨーロッパの城の中。
ここは赤いカーペットの敷かれた階段だった。
そこら中に取り付けられたシャンデリアは柔らかい光を揺らめかせている。
正真正銘現代日本にいた志島進は、何故か交通事故によってこんな所に来たのだ。
「これは夢か」と考えるが、ぶつけた頭の痛みは抜けなかった。
「シン様?」
隣の男性が進を覗き込む。
「ここは……どこだ?」
「……どことは? ここはリュミエール王国の宮殿でございますが……? やはり医者を呼びましょうか?」
「いや、大丈夫です」
リュミエール? 聞き慣れない言葉が耳を通り抜けていった。
男性は懐疑の目でこちらを見てくる。
首を傾げているのは、口調がおかしいのか? そう考えた進は別の口調でそれを言った。
「いいえ、大丈夫でございます」
……さすがに不自然だったか。 進は反省して他の言葉を選ぶ。
「いや、それには及ばない」
男性はようやく合点がいったのか、頷いて頭を下げた。
「畏まりました」
「実は今の衝撃が原因かわからないが、一切の記憶を無くしてしまった」
「左様でございますか?」
男性は再び心配そうに進を見つめてくる。
進は自分が記憶喪失という嘘を吐いたことを悔いたが、この場を切り抜ける最善の手段として、その感情を押し殺した。
「ここについてあらゆる事を知りたい。 俺……余の部屋はどこだ?」
慌てて言い直した1人称はビンゴのようで、会話を滞ることなく進んだ。
「なんと……記憶を失うとは大変な事です。 本当に医者を呼ばなくても大丈夫ですか?」
「ああ、取り敢えずここの事を知りたいんだ」
「こちらでございます」
男性は大きな木製の扉を押して、開いてからこちらを見た。
「どうぞ」
木の椅子に座った時、進は自らがどうやら軍服を着ているのだと気づいた。
黒い詰め襟の軍服に、金の装飾がついた外套を羽織っている。
「貴方の名前は?」
進は目の前に座った男に尋ねた。
「エルスト=ヴァイセと申します。 シン様はお忘れかもしれませんが、お祖父様の頃からここで執事をしておりまして。 お祖父様の勧めで政治も勉強し、今は宰相と執事長を兼任しております。 シン様はご自身の名前は覚えておられますか?」
「志島進だが」
進は「しまった」と感じた。 エルスト=ヴァイセという名前があるような西洋社会でシジマなんて名前はあり得ないだろう。
「シジマ? シン様はシン=クラヌス。 光を統べる者という意味です。 シジマとは?」
「いや、そうだったな。 すまない。 ところで今日は何月何日だ?」
慌てて話を逸らす。
「今日は1423年14月20日で、明日で1424年です」
数字の羅列は奇妙な物だった。 ここは地球ですらないのか、一年は12月、そして365日ですらないようだった。
「ここは地球か?」
「地球? ここはアスレイです。 やはり医者に一度見てもらいましょう」
心臓が掴まれたような吐き気が、進の全身を駆け巡る。
なんなんだ……アスレイ? リュミエール?
気が動転しそうになりながら、席を立つヴァイセを引き止め、着席させる。
「ヴァイセ、よく聞いてくれ──俺はこの世界の記憶は確かにないが、他の世界での記憶がある」
「え?」
「俺はどうやら地球の西暦2018年の11月10日の日本から来たんだ」
知らない単語の羅列にヴァイセは目を白黒させた。
「……信じられません。 いや、ですが……シン様は嘘をつくような方にはございませんから……本当なのですね?」
「ああ」
進は強く頷いた。
「では説明させていただきます」
ヴァイセは語り出した。
それから語られた内容を要約すると、ここはアスレイという惑星で、一年は295日。
この国はリュミエール王国で、進ことシン=クラヌスは王位継承者。
弟のラテ=クラヌスは遊び回っており王位を継承する気は無く、辞退の代わりに王国の重要人物を嫁として要求しているらしい。
父のキリ=クラヌスは隣国イルガチェフェに遠征中で、当分戻らないという。
リュミエールは曽祖父が隣国イルガチェフェから独立させた国で、曽祖父のカリスマの性によりたった三代で急成長を遂げ、外交、軍事、内政、経済、どれを取っても世界に君臨するレベルだという。
経済は軍需や貿易、そして併合した国々の油田を中心としており、軍事は最先端の魔法技術に世界最強の陸軍を保有している。
その為海を越えた国々には手を出しにくいが、そうでなければ圧倒的であり、外交も有利に進むらしい。
この惑星には大まかに4つの大陸が存在し、1つの大陸は南極と同じように、寒くてほぼ人は住んでおらず、また1つの大陸は魔族が住む「魔界」であり、残り2つの大陸で、リュミエール含む大国が陣取り合戦を行っているようだった。
大陸の1つはエデン大陸。 リュミエールの在る大陸だ。
リュミエール王国の領土はちょうどエデン大陸の北に存在する魔界にもあり、軍事境界線によって分割されている。
もう1つはイデア大陸。 エスプレアと呼ばれる超大国が覇権を手にしている。
横文字が得意な進は、すぐに名前を覚えた。
最も、2つの大陸で覇権争いを繰り広げている原因は、魔族の元首「魔王」による飢饉が原因であり、リュミエールは魔王討伐隊を幾度も送っているが、いずれも数ヶ月すれば連絡は途絶えてしまうらしい。
「なるほど……現在内政は誰が取り仕切ってるんだ?」
「大賢者でございます。 シュヴァルツと言いまして、魔法を極めた聡明な魔導師です。 占いや予言を元にこの国の政治を取り仕切っています」
「そうか、ありがとう」
「いえ、お役に立てて喜ばしい限りです。 また何か困ったことがありましたら、なんなりとお申し付けください。 では私は書類を片付けねばなりませぬので」
そういってヴァイセは一礼してから部屋から立ち去った。
疲れきった進は、大きなベッドに身体を差し込んだ。
感じたことのない最高品質のベッドは、柔らかいだけでなく、全身を包んで支えてくるようなしっとりとしたものだった。
それらは彼を眠りへと誘い、進はいつの間にか眠りに落ちていた。
こうして、大国を引き受けた進は、国の威信のために自らの過去を隠す『裸の王様』生活を始めたのであった。
そして同日、リュミエール王国某所にて。
「ここは……?」
一人の男が、眠りから冷めた。
白のワンピースを革のベルトで留め、ブーツ、グローブ、マントを装着したその姿は、どこかで見覚えのあるものだった。
腰には輝く剣が装備されている。
「俺は……何があったんだ?」