#153 精霊印で揉める四人とアリス達と合流!
お待たせしました。第153話公開です。
魔道列車の中でアドナルを捕り逃がしてしまった三人は、アドナルが仕組んだ爆弾により、魔道列車が爆発し、今はファングの体の中で休憩を余儀なくされていた。
「はぁ、ファング、まだ体の修復は終わらないの? 退屈で仕方ないんだけど! ‥‥‥バッキ、モグモグ、ゴックン‥‥‥!」
「レン、お前ちょっと態度悪くなってないか?」
ファングは周辺の細胞から目を出して、レンの方を覗き込むと、レンが横になって食べ物を飲み食いしているので、ファングがレンに注意していた。
「別に僕がどんな態度を取ろうと関係ないよね? そもそも、誰のせいでこうなったの?」
一番の原因はファングにあるので、原因を作った本人はレンに言い返せる言葉がなかった。
「うっ、それは‥‥‥全部俺のせいだけど‥‥‥レンの態度とは違うだろう? そりゃあ、レンが機嫌が悪いのは分かっているけど、お前のその姿を見ると俺も嫌になるんだよ。だから、せめて、俺の前では優しいレンになってくれよ、頼むよレン!」
ファングがまた泣き出しそうな声で話すので、聞いているレンとレイスは頭を痛めていた。
「はぁ、相変わらず、レン師匠の前だとダメ人間ですね! てか、今は精霊だから、ダメ精霊の方が正しいのでしょうか?」
「好きに言えよ、レイス! 俺はお前らに迷惑を掛けちまったんだから、何も言い返せる言葉がないぜ! レン、レイス、本当に悪かったなぁ!」
ファングがひたすら二人に謝るので、レンとレイスは呆れていたが、レンだけはファングの時間稼ぎを見抜いていた。
「ファング、僕達に何回も謝るのは良いけど? 体の修復はどうなっているのかなぁ? まさか、僕のことを体の中で触れられるからって、わざと体の修復を遅らせる、時間稼ぎとかしてないよね、ファング?」
「えっ、まさか、そんなこと俺がするかよ! それこそ、レンの信用を失うだろう!」
ファングは真剣にレンに向かって否定していたが、レンがいる周辺の細胞達が突然、音を響かせながら活発に動き始めたので、レンとレイスが不振な目で周辺の細胞を見つめていた。
「レン師匠、ファングは否定していますけど、体は正直ですね‥‥‥」
「うん、そうだね。ファング、ここまでして僕を失望させたいんだね! バカファング!」
「違う、俺はそんなつもりじゃあないんだよ! あぁ、何でレンの声に反応するんだよ、バカ細胞達! 動かなければ、もう少しレンの温もりを体の中で感じられたのに!」
ファングの本音がタダ漏れだったので、レンは暗い表情を見せながら、ソファーに飛び込み、頭を押さえて何か悩んでいた。
ファングのバカ! これじゃあ、ますますファングの体は僕の言いなりに動くってことだろう!
ファングの細胞がレンの声に反応して、行動を起こすので、レンが些細な一言を言って暴走を起こすのでないか危惧していた。
もう、ファングといると本当に悩みの種が増えるよ! あぁ、今すぐファングとの契約が解除出来るのなら、解除したいよ!
レンは暫く、レイスを無視して、ソファーで蹲りながらファングの事を考えていると、いつの間にかファングがレンの背中に乗って、レンのことを抱きしめていた。
「レン、何時まで悩んでいるんだよ! もしかして、さっさの事を怒っているのか?」
「ファング、抱き付くのダメだって言っているでしょう? てか、ちゃんと反省しているの?」
「あぁ、反省しているから許してくれよ、レン!」
「はぁ、絶対に反省してないね! それとファングが抱きしめると、僕の体がファングの中に取り込まれるから、レイスから見たら、異様な光景だよ! 僕の体が一部、ファングの中に入っているから!」
レンは必死にファングを遠ざけようとしたが、ファングはレンを離さないので、見ているレイスは冷たい視線で二人を見つめていた。
「相変わらず、仲が良い二人ですね!」
「レイス、これのどこが仲が良いに見えるの? てか、男同士でじゃれ合うとか僕はそんな趣味はないからね! こいつは化け物なんだよ!」
「レン、酷いよ! 俺は元人間なんだからなぁ!」
「ファング、言い訳しないで離れて!」
「嫌だね。レンが許してくれるまで俺はこのままでいる!」
レンとファングの激しい攻防は暫く続いたが、レンとレイスがいる場所はファングの体の中なので、レンに勝ち目などなかった。
「はぁ、はぁ、いい加減にして!」
「レンが許したら、離れてやるよ!」
「分かったから、離れてよ! それと、僕とレイスを外に出して!」
「あぁ、良いぜ! その代わり、もう少しレンに抱き付かせてくれ!」
レンは呆れながらファングの要求を呑むと、ファングは暫くレンの温もりを感じてから、二人を一旦フォレストの中から出していた。
フゥ、とりあえず、外に出て見たけど、ここはどの辺にいるんだろう? 見渡す限り、森、森、森だし‥‥‥。
レンとレイスは互いに周囲を見渡したが、見える物は魔道列車が走っていたレールと森だけだった。
「レン師匠、ここはカルド森林の何処ら辺なんでしょうか?」
レン達は敵を追って、カルド森林東部地区エリアからローズ山脈に入っていたが、二人はアドナルを乗せた魔道列車に乗ってしまった為、カルド森林東部地区エリアに引き返されていた。
「うーん、何処ら辺って言われてもなぁ? カルド森林東部地区エリアは広いから、僕達がどの辺にいるのか分からないよ?」
カルド森林東部地区エリアの範囲は余りにも広すぎる為、二人がいる位置がカルベル王国に近いのか、ローズ山脈に近いのか判断に悩んでいた。
「確かに‥‥‥ならレン師匠の精霊は使えないんですか? 上空から見て貰えば、ある程度の位置は把握出来るんじゃないんですか?」
レイスが珍しく頭が冴えていた為、レンは腕をポンと叩いて頷いていた。
「あっ、その手があったかぁ! レイス、珍しく頭が冴えているよ! 精霊を使えば、周囲の事が分かるね!」
「えっ、そうですか? ファングみたいにバカでなくてよかったですよ!」
レイスの些細な一言がファングの耳に届いている為、ファングが不機嫌そうにレイスに話し掛けていた。
「おい、レイス! 聞こえているぞ! それ以上俺をバカ呼ばわりしたら‥‥‥!」
「ファング、うるさい! 少しは黙って、体の回復に専念しなよ! ファングはレイスに反論出来る立場にないでしょう?」
ファングは二人に迷惑を掛けているので、レンが注意するとファングは急に大人しくなっていた。
「うっ、確かにレンの言う通りだけど、俺だって、自分の立場がぁ‥‥‥」
「ファング、文句あるの?」
「うっ、文句はありません」
「なら、少し黙ってよ!」
「はい、分かりました」
「はぁ、相変わらず扱い辛いんだから! アクト、アルトニス、エレント、エレナ! 僕の名の下に命じる、今すぐ僕達がいる場所を確認して!」
レンはファングに呆れながら、手に刻まれている契約印を翳すと、アクト達に命令と呼び出しを同時に行っていた。
「レン師匠、アクト達が居ないのに、命令を下して大丈夫何ですか?」
本来は精霊がいる目の前で契約印を使うのに、アクト達がいない場所でレンが契約印を使っていたので、ちゃんと契約印が機能しているのか、心配な表情でレンに質問していた。
「うーん、多分大丈夫じゃあない? 契約印がちゃんと光っているから、アクト達に命令が届いているハズだよ!」
レンの手のひらの甲を見ると、四つの契約印が激しく光っているので、アクト達に命令の信号が届いているとレンは思い暫く待つ事にしていた。それからほんの少し待っていると、レンの上空で四つの光が激しく光り、やがて光りが消えるとそこにアクト達の姿があった。
【レン、俺達に命令するなんて久しぶりじゃないか? やっと俺達を扱き使う気になったのか?】
アクトは額に刻まれている契約印を光らせながら、レンに嫌みを言うので、レンは頭を押さえながらアクトに注意していた。
「いや、別に扱き使う気はないよ! 今回は緊急だから、契約印を使っただけだからね!」
【ふーん、そうなのか? アルトニス、ちょっと残念だよなぁ!】
【うん、そうだね。もっと僕達に命令して欲しいかなぁ! 折角、レン君の為に恥ずかしさを押し殺して、こうして契約印を発言させたまま指示を受けているんだから、遠慮しないで欲しいよ!】
アルトニスの契約印はお腹付近に刻まれているので、レンが命令すると、アルトニスのお腹が激しく発光し、周りから見えれば何かが生まれる光と錯覚をしてもおかしくなった。
【まぁ、アルトニスの契約印の位置はちょっと不運ですわね?】
エレントの契約印の位置はレンと同じ右手の甲なので、特に目立つことはなかった。
【エレント、不運とか言わないでよ! 僕は別にどこに契約印が現れても気にしないよ! だって僕はレン君に助けて貰った恩があるんだから、契約印がどの位置に現れようと気にしないよ! それを言うなら、エレナだって恥ずかしいんじゃないの?】
エレナの契約印の位置は背中にあるので、命令が出るとエレナの背中は激しく発光する為、他の人から見ればエレナが天使のように輝いていた。
【アルトニス、余計なこと言わないでよ! 余計に恥ずかしくなるでしょう! この姿を見て良いのはレンだけだからね!】
【えっ、レン君だけって、それは無理でしょう? 普通に僕達も見ているんだから? 見て良いのは、レン君とアクト達じゃないの?】
精霊四人は体に刻まれている紋様を光らせながら、精霊印について揉めているので、アクト達がレンの命令を受けているのか、レンは疑問に感じながら、疑惑の目線をアクト達に向けていた。
「ねぇ、アクト? 本当に僕の命令は発動しているの? さっきから契約印を光らせながら、ずっと四人で話しているんだけど?」
レンが疑いの目を向けて見ているので、アクトはため息を吐きながら、レンに説明していた。
【あのなぁ、レン。前に説明しなかったかぁ。契約者の命令を受けるか受けないかは、俺達が決めるんだよ! 別に契約印が発動していても、俺達が嫌なら命令に背く事が出来るんだよ! まぁ、命令に背くと契約印が俺達の理性を強制的に正そうとするから、抵抗するにもそれなりの体力と魔力が必要になるけどなぁ?】
アクトが淡々と難しい説明をレンにするので、聞いたアルトニスが頭を痛めながら補足説明をしていた。
【アクト、それは他の精霊達の例でしょう? 僕達はレン君の命令に抵抗してないでしょう? レン君、君は何か勘違いしているから、僕から説明するけど! 僕達の精霊印が光っている理由はレン君の命令が終わってない事を教えているんだよ! つまり、複数命令されても、僕達はレン君の契約印から送られる命令を常に信号として頭に送られるから、レン君が命令の事を忘れても、僕達の精霊印が光っている間は、命令が終わってない証拠なんだよ! 確かに、レン君の契約印に歯向かえば、僕達は体に刻まれている精霊印の力で、強制的に理性などを制御されるけどね! まぁ、一番良い例はそこにいるファングだよ、いつもレン君に歯向かって操り人形みたいに動くから‥‥‥ファングも抵抗しなければ、僕達みたいに本当は理性を保てるんだよ!】
アルトニスがファングを題材にしてレンに説明するので、聞いていたファングはアルトニスに怒っていた。
「アルトニス、俺を題材にして説明するなよ! 確かに、レンの契約印を使って、操り人形になっていたけど、あれはあれでかなり楽なんだぞ!」
ファングが精霊印に頼っているので、聞いているレンやレイス、アクト達が残念そうにファングの方を見ていた。
【お前、本当にどうしようもないなぁ! そこまでしてレンの力を借りないとやって行けないのか?】
「あぁ、そうだよ。俺にはレンがいないと何も出来ないんだから、いちいち俺を罵声するなよ! レンも俺が嫌なら好きに言って良いからなぁ!」
レンはファングと契約を解消するんじゃないかと、一瞬冷や冷やしながら聞いていたが、ファングは契約を解消する気はなかったので、レンはホッとした表情を見せながらファングと話していた。
「僕はファングを嫌いにならないけど、言いたい事はちゃんと言うから、それで良いんじゃない? 僕はてっきり、契約解消するのかと思ったよ!」
「はぁ、誰がお前と契約解消するかよ! 俺はお前の相棒なんだから、死ぬまで一緒だろう? アクト達もずっと俺とレンの会話を聞いてないで、さっさと命令を実行しろよ! お前らの精霊印が光っているから、逆に目立っているだよ!」
ファングが怒鳴りながらアクト達に指示を出すので、アクト達はファングを見ながら苦笑いしていた。
【お前、自分で招いた結果なのに、よく俺達に命令出来るよなぁ!】
【アクト、ファングがいつも通りになったからそれで良いんじゃん?】
【アルトニス、お前はレンと似てあまい部分があるんだよ! ファング、俺達が戻るまでしっかり反省しながら、レンを監視しろよ】
「あぁ、分かっているぜ! レンは俺に任せておけ」
【なら、アルトニス、エレント、エレナ、四方に分かれて周辺を確認するぞ】
【了解!!!】
アクト達はファングにレンの監視を頼むと、レン達がいる場所を上空から見渡して、周辺の状況を確認していた。
はぁ、何でアクトは、いちいちファングに僕の監視を頼むかなぁ? 別にその場から動かないんだから、監視は不要だよね?
毎回誰か一人、監視役をレンに付けるので、レンは日々仲間に対して強い不満があったが、仲間に不満を言うと全て却下されるので、レンは仕方なく監視役を付けることを許可していた。
「レン師匠、顔色が悪いですけど、大丈夫ですか? もしかして、どこか体調が悪いんですか?」
レイスは暗い表情を浮かべるレンを見て、心配そうに声を掛けていたが、近くで監視しているファングも心配な声でレンに語り掛けていた。
「レン、体調が悪いなら、今すぐ俺の中にある家でゆっくり休めよ!」
「えっ、僕は別に体調は悪くないよ! ちょっと監視役をつけることで悩んでいただけだよ! てか、二人は僕の顔色だけで判断しているよね?」
レンが二人に指摘されると、ファングは黙り、レイスは顔を背けていた。それから暫く三人はその状態の関係が続き、上空で周辺を見渡したアクト達は三人の姿を見て、呆れながらレンに話し掛けていた。
【レン、とりあえず周辺を見たけど? ここはカルド森林東部地区エリアのど真ん中だぜ!】
【レン君、一応目印になる物を探してみたけど、目印になる物は無かったよ】
【レン様、これからどうする予定ですか?】
【レン、次の指示を頂戴!】
精霊四人から一通り説明を受けたが、アクト達がやる気に満ち溢れていたので、レンは苦笑いしながら、アクトに指示を出していた。
「とりあえず、僕達がいる場所が分かったから、アクト達は引き続き、上空から周辺を確認してよ! 万が一、モンスターと遭遇する可能があるから!」
【あぁ、分かったぜ、レン! 俺達は上空からサポートするから、そんなに嫌そうな表情を見せるなよ! ファング、レンの事は頼んだからなぁ! アルトニス、エレント、エレナ行くぞ!】
アクト達はレンの指示を再び受けると、上空から周辺を見渡して、モンスターがいないか確認を始めていた。
「ファング、何時まで黙っているの? 君は暫く僕の影の中で休みなよ! 君はまだ体が本調子じゃあないんだから! 僕のマナが一番受けやすい影で魔力を回復させなよ!」
ファングは自力で、体の修復と魔力を回復させようと、必死に魔力になりそうな物を黒い触手で掴んで、黒い球体の体に放り込んでいたので、レンが呆れた表情を見せながら、ファングに注意をしていた。
「うるさい、レン! 俺はこれ以上、お前に迷惑を掛けられないんだよ! 俺はレンに頼りぱっなしだから、少しでも直したいんだよ!」
「はぁ、今さら直すとか遅すぎ何だけど! フォレスト、言い訳は良いから、食べた物を排泄して、さっさと僕の影に入りな!」
ファングの行動に見飽きたレンは、さっさと契約印を使って強制的に食べた物を吐き出させると、ファングは抵抗しながら影の方に移動を始めていた。
「レン、俺はこれ以上、お前に‥‥‥うっ、オェ、オェ‥‥‥」
「ファング、僕の方に排泄用の管を何本も出して来ないで! てか、僕に分かるように食べた物を見せるなぁ!」
レンはファングに指示をしていたが、ファングはレンの命令で食べ物を吐き捨てているので、ファングが不満を漏らしていた。
「いや、お前が契約印で命令するからだろう! 俺はお前の命令に従っているだけ何だからなぁ! ‥‥‥うっ、マジで命令を止めてくれよ、レン、オッエ‥‥‥ベッチョ、ベッチョ‥‥‥」
「レン師匠、ファングさんの姿がやばくなっていますよ!」
ファングの体から次々と排泄用の管を出して、食べ物を全て吐き捨てようとしていたので、レイスが目のやり場に困っていた。
「アハッハハ、ごめんレイス、少し見苦しいよね? フォレスト、遠くの森の中で食べた物を吐き捨てたら、僕の影に入りな! いいね、フォレスト!」
レンはフォレストに命令した内容を変更すると、フォレストの目線は遠くの森に目が向き、勢いよく森に向かって移動すると、奥の方からファングの呻き声が響いていた。それから暫く、待つとフォレストはフラフラの状態で宙に浮き、レンの影の前に来るとファングが弱々しい声でレンに話し始めていた。
「レン、俺は影の中にいないとダメなのか?」
レンの影に入るとファングが行動出来る範囲が制約されるため、ファングはレンにあえて命令の確認をしていたが、レンはファングに出した命令を取り消すことは無かった。
「ごめん、ファング、命令は取り消さないよ! 多少、行動に不便はあるけど、僕から離れるわけでないんだから、そんなに心配そうな目を向けないの! 分かったらさっさと僕の影に入りな!」
「はぁ、分かったよ、影に入るから怒るなよ‥‥‥レイス、俺が回復する間、レンを頼むなぁ!」
「はい、分かりました! ファングさんはゆっくりと体を休めて下さい!」
ファングは寂しそうな目を二人に向けた後、体を黒い液状に変化させて、レンの影と一体化していた。
「レン、こんな感じで良いのか?」
ファングはレンの影と一体化したか、レンに確認していたが、レンの影から大量の目が出現していたので、レンとレイスが引いていた。
「ファング、毎回言っているよね、大量の目を出すなって! 気持ち悪いからやめてよ! てか、頼むから大人してよ!」
「うっ、ごめん! 別にお前を怒らせるつもりはなかったんだよ! ただ、ちゃんとお前の影と一体化しているか見て欲しかったんだよ!」
「はぁ、分かったからいちいち謝らないで! ちゃんと一体化しているから、ファングは安心して休みなよ! 僕がずっと君の影の傍にいるから!」
ファングはレンの言葉を聞いて安堵したのか、次第に大量の目が閉じていくと、ファングはレンの影の中で体の修復や魔力の回復を始めていた。
「はぁ、相変わらず、ファングさんには困り果てますね!」
「アッハハハ‥‥‥まぁ、ファングだから仕方ないよ! とりあえず、ファングはこのまま影で回復させるから、その間に二人で出来る事を考えようか!」
「はい、分かりました、レン師匠!」
レンとレイスは、カルド森林の周辺を見渡しながら、知恵を絞り出していたが、なかなか良い案が見つからなかった。
「うーん、やっぱり、見渡す限り森だから、完全に遭難だよね?」
三人はカルド森林東部地区エリアのど真ん中付近にいるため、助けを求めるにも、どうやって知らせるか悩んでいた。
「やっぱり、木とか燃えやすい物で火を興して、煙で知らせるしかないでしょうか?」
木材類を燃やして火を興せば、煙の狼煙でレン達の居場所を他の人に知らせる事は出来るが、逆にモンスターを呼び寄せるリスクがあるため、レンは悩んでいた。
「うーん、確かに煙の狼煙で人がいる事を他の人に伝えられるけど、モンスターが来ないか心配だよね? それと来なかった場合は僕とレイスはここで野宿になるんだし!」
煙を使って居場所を知らせても、カルド森林に人が居なければ、レン達はカルド森林内で一夜を過ごす事になるので、レンに取っては悪夢しかなかった。
「レン師匠、野宿になると毎回嫌そうな顔を見せますね!」
「えっ、まぁ、昔‥‥‥野宿で苦い経験があったから‥‥‥ちょっと野宿が苦手なだけだよ、アハッハハ‥‥‥」
レンは過去にエレントと一緒に寝た事を思い出していた為、レイスに気付かれないように、頭を振って忘れようとしていた。
「とりあえず、煙を使って居場所を知らせてみようか? どの道、今はむやみに移動するのは危険だし」
レンが野宿の話を逸らしていたので、レイスが苦笑いしていた。
「レン師匠、昔野宿で何があったか聞きませんけど、もう少し話の逸らし方を考えた方が良いですよ!」
「うっ、やっぱりレイスには通じないかぁ! とりあえず手分けして燃えやすい物を探そうか」
「はい、では僕はこっちで燃えやすい物を探しますね!」
二人は火を興す為、手分けして燃えやすい物を探し始めていた。
「ねぇ、ファング! 体の具合はどんな感じなの?」
普段のファングなら、野宿の言葉に敏感に反応するのに、今回に限って反応を見せなかったので、レンが心配な表情で声を掛けていた。
「あぁ、だいぶ良くなったぜ! お前のマナが影を通して流れて来るから、体の修復も早く終わりそうだよ! だから、お前は俺の事を心配しないで、今やれる事を頑張れよ! 俺はお前の影からちゃんとサポートしてやるから!」
ファングがだんだん元気を取り戻していたので、レンは少し笑みを見せながら、周辺に落ちている木々を集めていた。それから二人は、集めた木々や燃えやすい物を積み重ねると、アルトニスに頼んで火を興していた。
【レン君、これで大丈夫かなぁ?】
「うん、ありがとうアルトニス! またつまらない事でアルトニスを使ってごめんね!」
【えっ、何で謝るの? 前も言ったはずだけど、僕は別に嫌だと思ってないからね! 僕達精霊はレン君に使って貰える事が一番の幸せなんだから、遠慮しないでどんどん命令してよ!】
アルトニスが変な事を言うので、アクトがサポートに入っていた。
【レン、アルトニスが言っている事は正しいぜ! 俺達はレンに使って貰う事で幸せが生まれるんだから!】
アクトもアルトニスと同じ事を言うので、レンやレイス、精霊のエレント、エレナが苦笑いや困った表情を見せていた。
【レン様、アクトとアルトニスが言っている事は忘れて下さいわ】
「アハッハハ、まぁ、二人がそれで良いなら、僕は遠慮しないけどね! アルトニス、エレナ、契約印が恥ずかしいと言っていたから、ここで慣れさせようか!」
【えっ、良いの、レン君】
【レン、今すぐでなくても良いんだよ】
「いや、どの道、もうすぐ日が沈み始める頃だから、僕達はここで野宿するよ! 二人は夜になるまで、特訓に付き合ってあげるね! アクト、エレント、君達はアルトニスとエレナの鬼になってくれないかなぁ? 僕の命令でアクトとアルトニスを捕まえるように、アルトニスとエレナに命令をするから!」
レンが鬼ごっこを精霊四人に提案すると、アクトがやる気を見せていた。
【ヨッシャア、ならアルトニス、俺を捕まえてみろよ! 精霊界の学校での借りを返してやるぜ!】
【へぇ、アクトやる気だね! 毎回、僕に負けている癖に意地を張らないで欲しいなぁ!】
【はぁ、お前がいつも邪魔するからだろう?】
【えっ、僕は邪魔した覚えは無いけど? アクトが勘違いしているんじゃあないの?】
【何だと‥‥‥!】
【文句あるのアクト?】
【相変わらず、熱い二人ですわ! エレナ、お手柔らかお願いしますわ】
【うん、分かったけど! 私は手を抜かないからね!】
すでに精霊同士が火花を散らせながら、互いを睨み付けていたので、レンが頭を痛めながら四人の様子を見ていた。
「みんな、やる気を出すのは良いけど、あんまり目立つ行動はしないでよ!」
【はーい、分かったよ!!!!】
【レン!】
【レン君!】
【レン様!】
【レン!】
四人がハモるように返事をするので、ちゃんと約束を守るのか不安だった。
「とりあえず、アクトとエレントは先に逃げなよ! 僕が命令するまでが逃げる時間だから!」
【あぁ、分かったぜ! アルトニス、俺は捕まらないからなぁ!】
【エレナ、先に行きますわね! 頑張って私を捕まえて下さいね!】
アクトとエレントが足早に逃げると、アルトニスとエレナがウズウズした表情を見せながら、レンの命令を待っていた。
【レン君、早く僕に命令をしてよ! アクトにあんな事を言われたら、負けるわけには行かないよ!】
【うん、私もエレントに負けたくない!】
「はいはい、分かったから、いちいち僕の方を見ないの! じゃあ行くよ! レン・フォワードの名の下に命じる、アルトニスはアクトを、エレナはエレントを捕まえて、僕の所に戻って来て!」
【了解!!】
【確かに、命令は受け取ったよ、レン君】
【必ずアルトニスと私でアクトとエレントを捕まえてくるよ!】
アルトニスとエレナは精霊印を光らせると、逃げているアクトとエレントを捕まえるため、猛スピードで二人の所に飛んで行った。
はぁ、あんまり目立つ行動だけはしないでね!
レンは精霊四人を見送ると、火を興した傍に座り、足を広げて楽な姿勢で休んでいた。
「ねぇ、ファング! もう、体の方は修復出来て、魔力も回復出来たよね!」
ファングはレンの影に入ってまだ数時間も経過してないのに、レンが無茶な質問をして来るので、ファングは困った表情をしながらも、正直に自分の体の状態をレンに説明していた。
「悪いレン、まだ体の方が本調子じゃあないんだよ! 何とか、お前のマナを貰って直しているけど、アドナルに肉体の一部を奪われたから、それを補うまでにもう少し時間が必要なんだよ!」
ファングが珍しく、自分の体の状態を正直に話すので、レンが驚いた表情を見せながら、影の中にいるファングに話していた。
「ファング、僕に嘘を言わないんだね! 普段のファングなら、絶対に‥‥‥レン、もう体の修復が終わったから、俺の中で休めよ! どうせここで野宿するんだろう? だったら、俺の中に作った家でゆっくり休みなよ‥‥‥てきな事を言うと思ったのに?」
レンがファングの言いそうな事を、ファングのいる前で堂々と言うので、ファングはため息を吐きながらも、特に反論する様子は見せなかった。
「レン、俺は昔みたいに嘘は言わないと誓ったんだよ! 自分に正直になるために、色々と努力したんだよ! そりゃあ、多少の過ちはあるかも知れないけど、俺はもうレンに失望や不安を与えたくないんだよ! だから俺は正直に今の状態をレンに伝えたんだよ!」
ファングがレンに言われた事を忠実に守っていたので、レンは少し頭を痛めていたが、ファングが成長していることには変わりないので、このまま状態で話を進める事にしていた。
「そっかぁ、ファングも意外と学習するんだね!」
「レン、それは俺に対する嫌味なのか?」
「別に、ファングが成長している事は僕だって嬉しいけど、面白みがねぇ! ファングの取り柄はバカなんだから、多少の嘘くらいは付いて欲しいなぁ」
レンがファングを説教したい趣旨の事を言うので、ファングの声が次第に震え、怯えた声でレンに話していた。
「レン、そこまでして俺の事を苛めたいのか! てか、今まで失態を積み重ねたから、俺に深い恨みでもあるのか?」
「確かに、ファングはたくさん僕に失望させたよね! 特に僕の前で全て嘘をついた事など色々ねぇ!」
「うっ、グッホ、グッヘ‥‥‥レン、あれはもう過去の自分なんだから、昔の俺を掘り起こさないでくれ!」
「えっ、良いじゃあん、ファングの失態の思い出なんだから!」
ファングは影の中で過去の自分に葛藤しながら、過去の自分を振り払おうとしていたが、レンが次々に過去の事を話すので、ファングが死にそうな声に変わっていた。
「レン、頼むから、もう過去の俺を話さないでくれ! 俺が立ち直れなくなるから!」
ファングは影の中で体を修復しているのに、逆にレンの精神攻撃を喰らっていたので、ファングが立ち直れない状況に追いつめられていた。
「ごめん、ファング! 別にからかうつもりは無かったんだよ! 何か真面目過ぎるファングだと、調子が狂うから、少しからかってみただけだよ! でも、ファングは自分で過ちしている事は認めているんだから、ファングにもそれなりの自覚があるって事だよね?」
「うっ、確かにそうだけど、お前と話すといつも本音が漏れちまうよ! やっぱり、お前と話すと隠し事は出来ないなぁ!」
ファングは改めてレンの偉大さを感じると、ファングはレンの影から出て、レンの背中を抱きしめていた。
「ファング、まだ体が修復していないのに、出て来て大丈夫なの?」
「あぁ、もう大丈夫だよ! こうして、お前の事を感じられれば、俺の肉体は活発化するから! それに俺の体はもうお前の物なんだよ、レン!」
ファングの体は既に契約を交わした時点で、レンの物になっていたので、ファングはレンに全ての体を捧げていた。
「ファング、気持ちは分かるけど! 僕はファングと一つになるつもりはないし、ファングの体は僕のではなくてファングの物でしょう?」
「レン、俺はお前が何を言おうと、この体は既にお前に蝕まれているんだから、レンが責任を持って俺の事を導く道理があるんだぜ! まぁ、お前が俺と一つになりたくない事は分かったけど、この体はお前の肉体の一部でもあるんだからなぁ!」
ファングはあくまでも、自分の体をレンの体の一部と言うので、レンはファングを見ながら諦めた表情を見せていた。
「はぁ、好きにすれば、どうせ僕が拒絶しても、ファングは無理やり僕と一つになるんでしょう? それが何時になるかは分からないけど、それがファングの望み何だよね!」
「あぁ、そうだぜ! 俺はお前と一つになって、お前と世界を冒険するんだよ! そうすればお前の体は不死身になって、俺はお前の体から養分を常に得られながら、進化出来るだぜ! そうなれば、俺はお前を更に強くする事も出来るし、俺の分身で一緒に行動出来るだろう?」
ファングがレンと二人だけの世界を妄想していたので、となりでずっと聞いていたレイスが反論していた。
「ちょっと待って下さい! 何でそこに僕が居ないんですか?」
「あぁ、お前は自分のなりたい将来があるだろう? 俺はもう人間として生きていくのは無理なんだから、レンと一緒に世界を見るんだよ! お前にはお前なりの生き方があるだろう?」
レイスはファングの説明に納得してないのか、レンに直接質問していた。
「レン師匠は、僕と一緒に冒険しては行けないんですか?」
あくまでもレンと一緒に、ずっと冒険をする前提で話が進むので、レンが暗い表情を見せていた。
「いや、別に一緒に冒険してはダメとは言わないけど、レイスだって自分の将来があるんじゃないの?」
「確かに、僕の家庭は貴族間の騎士ですけど、それはあくまでも家の家業ですよ! 僕は別に家を継ぐ予定はないので、レン師匠と一緒に世界を見て回りたいです!」
「はぁ、そうですか! なら、レイスのやりたい事をしなよ」
「はい、そのつもりですよ、レン師匠!」
結局、レンの将来はいつもの仲間と冒険する前提で話が進んでしまったので、レンは頭を抱えながら死にそうな表情でファングとレイスの会話を聞いていた。
もう、死にたいんだけど! どうして、僕の将来までこの人達は付いてくるんだよ! これじゃあ、僕には自由がないんじゃあないの?
今はファングとレイスの将来の話しだが、レンの仲間にはアリスやレオス達もいるので、それを含めれば結局は全員同じ事を言うのは明白である。
はぁ、僕の将来は波乱含みなんだけど、すでに黄色信号だよね! アリスやレオスに隠せば、絶対に怒られるし! 結局全員、僕と冒険する羽目になるんだろうなぁ!
三人はそれぞれの思惑を見せながら、暫く火を興した傍で休んでいると、遠くの方で聞き覚えのある声が響いていた。
〈‥‥‥レン、居たら返事してくれ!〉
〈‥‥‥レン君、近く居るんでしょう? 僕とテオを悲しませないで!〉
「うん? 今、リオスとテオの声がしなかったか?」
ファングは遠くで響く、リオスとテオの声に反応していたが、レンとレイスはリオスとテオの声が聞こえていなかった。
「えっ、声がしましたか、レン師匠?」
「うーん、僕は聞こえなかったよ? 本当にリオスとテオの声だったの? 聞き間違いとか無いよね、ファング?」
「いや、微かだけど、あれはリオスとテオの声だよ! 俺が聞き間違いるわけがないぜ!」
レンとレイスはファングを疑いながら、もう一度ファングが聞こえた方に耳を傾けてみると、微かだが遠くの声で声が聞こえていた。
〈‥‥‥レン、頼むから返事をしてよ! ‥‥‥俺と兄さんを置いて行かないでよ!〉
〈‥‥‥レン君、頼むから返事して‥‥‥テオが今にも泣き出しそうだから、早くレン君の声を聞かせて!〉
「レン師匠、聞こえますよ! かなり遠くですけど、あれはレン師匠が持つ双頭の黒竜ですよ!」
「うん、間違いないね! ファング、お手柄だよ! やっぱり精霊だから、耳が良くなったんだね!」
「レン、褒める所おかしくないか? まぁ、あいつらと合流出来るのは嬉しいけど、あいつらに何て報告すれば良いんだろうなぁ‥‥‥!」
「ファング、落ち込まないの! 僕が傍にいるから、安心しなよ! それよりも、まさかリオスとテオがドラゴンの姿で僕を探すとは思わなかったよ! それだけリオスとテオは僕の事を心配しているだね! オーイ、リオス、テオ、僕はここに居るよ!」
レンは皆に心配掛けた事を悔やみながら、大空に向かって大声で叫ぶと、遠くで飛行しているリオスとテオの耳にレンの声が響いていた。
「‥‥‥オーイ、リオス、テオ、僕はここに居るよ!」
〈兄さん、今の声!〉
〈うん、間違いないよ、レン君の声だよ! テオ、聞こえた方向分かるよね!〉
レンの声が聞こえた途端、リオスとテオの表情は急に明るくなっていた。
〈うん、問題ないよ!〉
〈なら、その方向にゆっくり飛行‥‥‥!〉
〈うん? どうかしたの兄さん?〉
リオスはレンの聞こえた方に首を振り向くと、遠くで煙の狼煙が上がっているのが見えていた。
〈テオ、あれ見て!〉
〈うん‥‥‥! あれってまさか!〉
〈うん、あそこの煙の下にレン君が居るんだよ!〉
〈なら、あそこに目掛けて飛行すれば良いんだね!〉
リオスとテオが急に明るく話す声が聞こえていたので、背中に乗っているアリスが声を掛けていた。
「ねぇ、リオス君、テオ君、急に声が大きくなったけど? もしかしてレン君が見つかったの?」
アリスが不安げにリオスとテオに質問して来たので、リオスとテオが明るく答えていた。
〈あぁ、レンを見付けたぜ、アリス! あそこを見てみろよ!〉
リオスとテオが首を動かしながら方向を示すと、遠くに一つだけ煙が上がっているのが見えると、アリスがホッとした様子を見せていた。
「レン君‥‥‥良かった、本当に良かったよ!」
「アリスお姉ちゃん、急に泣いてどうしたの?」
「レオス君、あれを見てよ! あそこの煙の下にレン君が居るのよ!」
アリスが指を指すと、レオスも涙目になっていた。
「アリスお姉ちゃん、本当にあそこにレンお兄ちゃんがいるの?」
「うん、居るからこうして泣いているんでしょう? レオス君だって、嬉しき泣きしているじゃあないの! クラック先生、レン君達を見つけましたから、少しスピードをあげますね!」
「はい、分かりましたわ! それにしても彼らは凄いですわね! ベリッド先生!」
「あぁ、そうだなぁ! 流石は俺の教え子だぜ! ファブリルの教え子も無事みたいだぞ」
「ガハハハ、当然だぁ! なんせ、俺の教え子だからなぁ! それよりも、俺は早く地面に降りたいんだが‥‥‥」
「はぁ、ファブリル先生、威勢以前に高い所を克服して欲しいですわ。それでは生徒に笑われますわよ」
アリス達がリオスとテオの背中で盛り上がっている中、双頭の黒竜は煙が上がっている方向に向かってスピードを上げると、煙の下に人影がいくつか見えていた。
「オーイ、リオス、テオ、こっちだよ!」
「リオスさん、テオさん、僕達はここにいますよ!」
〈レン、見付けたぜ、兄さん、あそこにレンがぁ‥‥‥〉
〈うん、そうだね。テオ、降りられそうな場所を見つけて降りようか!〉
〈うん、分かったよ、兄さん!〉
リオスとテオはレン達を見つけると、嬉しさのあまり勢いよく降下を始めていたが、双頭の黒竜の背中からアリス達の姿が見えると、ファングは俯き加減になりながら、アリス達が地面に降り立つのを待っていた。
「はぁ、アリスやレオス、先生達までいるのかよ!」
「ファング、さっきも言ったけど、僕が傍についてあげるからアリス達の前でそんな顔をしないの!」
ファングはアリス達にアドナルの事を話したくなかったが、アリス達は双頭の黒竜に残って来てしまったので、ファングは諦めた表情を見せながらも、必死普段通りの表情を作っていた。それから暫くして、双頭の黒竜がレンの近くに降り立つと、レン、レイス、ファングはアリス達の再会に喜んでいた。
「リオス、テオ、心配掛けてごめんね!」
〈ううん、大丈夫だよ! レンが無事なら俺と兄さんは何も言わないから! アハハハッハ、くすぐったいよ、レン〉
〈レン君、あんまり僕とテオを悲しませないでよ!〉
「うん、ごめん、リオス‥‥‥次からは気を付けるよ」
〈なら良いんだけど、あんまり無茶だけはしないでよ、レン君が居なくなると、テオが悲しむから! テオは唯一、レン君だけには心を開いて懐いたんだから、ちゃんと僕とテオを育ててよ、レン君!〉
レンが無茶した罰として、一生リオスとテオをレンの召喚獣として傍に居させてと、リオスから言われたので、レンは困った表情を見ながらも、二人に答えていた。
「うん、分かったけど、僕はまたどこかで君達に無茶な命令をするよ! それでも君達は僕の傍にいるの?」
〈当然だよ、レン! 俺はレンのドラゴンなんだから、お前が多少無理な命令でも、俺と兄さんが入れば何処にでも連れて行けるぜ、そうだろう、兄さん!〉
〈うん、そうだね! 二人の力を合わせれば、何とかなるし! それに僕とテオはそこら辺のドラゴンとは違うんだよ! なんせ君達の魔法なども扱える珍しいドラゴンなんだからね!〉
レンはリオスとテオに難しい質問をしたが、結局は簡単に受け流されたので、レンは苦笑いしながら、二人の首筋を撫でていた。
「はぁ、相変わらず君達は自信に溢れているよね! まぁ、僕のドラゴンだから仕方ないかぁ! これからも僕のドラゴンでいてよ、リオス、テオ!」
〈あぁ、任せておけよ、俺と兄さんが入れば最強のドラゴンだぜ!〉
〈テオ、最強はちょっと言い過ぎだと思うよ! レン君、これからも僕とテオを君の傍に居させてね!〉
レンがリオスとテオの首筋を撫でながら話していると、背後からアリスが抱き付いて来ていた。
「レン君! 何時までリオスとテオ君に話しているわけ?」
「うぁ、アリスかぁ! 急に後ろから抱きしめないでよ!」
「だって、私がレン君を心配していたのに、レン君は足早にリオスとテオ君の所に行くんだもの!」
アリスはすぐにレンが迎えに来て、言葉を掛けて貰えると思っていたが、何故かリオスとテオの方に移動していたので、アリスが不満げな表情をレンに見せていた。
「いや、リオスとテオの頑張りがあって、ここまで来られたんだから、普通はアリス達を運んだリオスとテオを先に感謝するのが普通でしょう?」
「うぁ、レン君の真面目な部分が出たよ! そこは普通‥‥‥アリス、無事だったんだね! 怪我がなくて良かったよ、僕のマイハニとか何か台詞を付け足して、私を心配するのよ!」
アリスが変な妄想を見せながら、レンの前で色々言うので、近くで聞いているリオスとテオが、若干引き気味になりながら人間の姿に戻っていた。
〈レン君、僕とテオは少し向こうで休むね!〉
「えっ、ちょっと! まだ話しの途中‥‥‥」
〈レン、アリスが終わったら、また話しを聞いてやるから、俺と兄さんは向こうで休ませて貰うぜ!〉
リオスとテオはアリスに関わると、ろくでもないことに巻き込まれる事を学んでいたので、足早にレンを置いて、火を興した傍で休み始めていた。
「ちょっと、レン君、聞いているの!」
「聞いているから、一旦、僕から離れてよ!」
「はぁ、仕方ないわね! ほら、離したから、ちゃんと私の話しを聞きなさいよ!」
「うん、分かったから、簡潔に話してよ!」
レンは簡潔にとアリスに頼んだが、暫くアリスの妄想が淡々と続くので、レンは嫌そうな表情を見せながら、アリスの話しを聞き流していると、レオスがレンの体に抱き付いてきた。
「レンお兄ちゃん、アリスの話しは全部妄想だから、聞かなくても大丈夫だよ! 早く向こうに行って、僕を撫でてよ!」
アリスが話しをしている中、レオスが割り込むようにレンの体に触れていたので、妄想を話していたアリスが我に返っていた。
「ちょっと、レオス君! いつの間にレン君の体に抱き付いているの! 今すぐ離れなさい!」
「嫌だね。レンお兄ちゃんは僕の兄さんなんだから、僕が何をしようと勝手でしょう!」
アリスは、レンにしがみつくレオスを引っ張ろうとしていたので、レンが呆れた表情をしながらアリスを止めていた。
「アリス、別にそんな無気にレオスを引っ張らなくても良いじゃあないの? レオスが嫌がっているよ?」
「はぁ、レン君は甘いわよ! レオス君は猫被りなのよ、レン君の前だけ良い面見せているだけでしょう?」
レオスはゼロの前で本心を見せていたので、アリスはゼロの事を話すと、レオスが睨み付けるようにアリスの方を見ていた。
「レンお兄ちゃん、アリスお姉ちゃんが恐い顔をしているよ」
「なっ、私が恐い顔ですって! レオス君‥‥‥そうやって私のイメージを悪くしようとしてないかしら?」
「僕はそんなことしないよ、アリスお姉ちゃんの勘違いでしょう?」
「なっ、レン君! レオス君を借りるわよ! さぁ、こっちに来なさい!」
「イヤァー、レンお兄ちゃん、助けて‥‥‥」
レオスはアリスに引っ張られると、森の中に連れて行かれた。
相変わらず、アリスはレオスと張り合うなぁ! それにしても、ゼロはどうしたんだろう?
レンはアリスとレオスを見送った後、周りを見渡したがゼロの姿が見えなかった。
まぁ、レオスと気が合わなかったから、ローズ山脈に置き去りして来たのかなぁ?
レンはアリス達がやりそうな事を想像していたが、一番気掛かりなのが、ゼロがドラゴンの姿でレン達を探していないかだった。
とりあえず、ゼロがドラゴンの姿であっちこっちに飛び回ってないことを祈るしかないね!
レンは若干暗い表情を浮かべながら、火を興した場合に向かって歩いているのであった。
次回更新は未定です。温かくお待ちくださいm(_ _)m