おばあちゃんが来た時の話
「うん」
「そうなんだ」
「わかった」
生返事を繰り返して
別におばあちゃんを鬱陶しく思ったわけじゃない
ただ、目の前のゲームは1秒毎の効率を争っていて僕がサボると他の4人に迷惑がかかってしまう。だからゲームから集中を切るわけには行かなかった。
本当は振り返って返事をしてあげたかった。
(それじゃあ、もう帰るね)
たぶん、おばあちゃんはそんなことを言ったんだと思う。だけどその時ちょうどチームファイトが始まってしまって、僕の全神経はゲームに奪われていた。
バタンと扉が閉まる音が聞こえた気がした。
……………。
いつものお決まりの戦犯探し、もとい罵り合いを経て僕のチームは負けた。
背もたれに深くもたれる。疲労感がどっと押し寄せてくる。
「そういえば、さっきの話だけどさ」
そう呟いて
返事がかえってこなくて、部屋が静かな事に気がつく。振り返るとおばあちゃんはもう居なくなっていた。僕はふらふらっと立ち上がると玄関の方へ歩いていった。(靴を見ればおばあちゃんがまだ居るか分かると思ったからだ)
その途中で机の上に書き置きを見つける。
元気そうで安心したよ。お腹空いたらこれ食べてまた頑張ってね!↓
書き置きの先にはタッパーに入った筑前煮が置いてあった。
たぶんそれは、本当ならお昼に一緒に食べようと思って持ってきてくれたみたいだった。(何故なら台所の水切りかごおばあちゃん用の茶碗が洗われて置いてあった)
筑前煮を一口食べてみた。
「美味しい…」
また、やってしまった。
涙が止まらなかった。
おばあちゃんはきっと寂しかったと思う。帰る時に玄関まで見送りもされず一人で扉を閉めた時の気持ちはどんなだっただろう?
今すぐにでもおばあちゃんに謝りたかった。
そもそも浪人生の僕が勉強もせずに昼間からゲームをしてる姿を見ておばあちゃんはきっと不安に思ったんじゃないだろうか。
だけど、それでも、こんな僕なのに信じてくれているおばあちゃんの優しさが、
僕の全身のやさぐれた感情の錆びに突き刺さって
只々、痛かった。
僕は泣きながら筑前煮を全て食べるといてもたっても居られずおばあちゃんに電話した。
「おー、ちーちゃん。もうゲームの方は大丈夫になったのかい?」
「う、うん。あの筑前煮のお礼を言いたくて、ありがとう。すごく美味しかった。」
「おーそうかそうか。よかったよ。わざわざありがとね。」
「それとさ…」
「んー?」
謝ろうと思って、ふと言葉に詰まる。
僕はただ許されたいだけなんじゃないか。
きっとおばあちゃんは許してくれる。
だけどそれはおばあちゃんに寂しい思いをさせた償いにはならない。
それでも
「さっきはごめんね…。ゲームに夢中になっちゃって」
「おー、いーんだよ。ちーちゃんがあんなに一生懸命にやってるんだから邪魔しちゃ悪いさね。勉強ばっかりして疲れてやしないかと心配してたけど元気そうで良かったよ。あ、でも運動はしないとダメだよ。」
うん、ありがとう。今度来てくれたときは二人でご飯食べようねと言い、また涙を堪え切れなくなりそうで電話を慌てて切った。
こんな事はもう辞めにしないといけない。
もうゲームはしない。明日からはちゃんと予備校に1限から行って、午後からは自習室で勉強して、帰ってきてからは家事をちゃんと手伝って今日の1日を夕飯で報告して心地よい疲れとともに眠る真っ当な生活をしよう。
ああ、そうなったらいいのに。