第1章 旅の仲間 2
「お〜い、お寝坊さん。早く起きないと朝ごはんなくなっちゃうぞ?」
アナの声でショノウは目覚めた。
「おはようアナ……」
まだ意識がはっきりしないショノウは目をゴシゴシ擦る。
「ほら、もう十時だよ! 昨日ギルドマスターさんに呼ばれたんでしょ? 遅れちゃうよ」
はっと思い出し軽く伸びをして気持ちを切り替える。
「おーっす。ショノウおはよう」
「おはよう」
爽やかな銀髪のラミナが朝の散歩から戻ってきた。
ショノウは体を起こし机の上に置いてある冷めた朝ごはんを食べることにした。
「ところでギルドマスターさんからの用事が終わったらどうするの?」
アナはプレートの件は知っているがラミナには話したことは内緒にしているのでギルドマスターさんに会いに行くという話をしている。
「特に決めてなかった」
「これはどうだ? 自分の家を見に行くってのは」
ラミナが突然思いついたように口を挟む。
しかし、自分の家なんて囚われてから見ていないので見たい気もする。
「そうだな。うん、そうしよう」
ラミナの案を肯定する。
「君たちの家がどんなのか見てみたーい」
アナも賛成のようだった。
「別に邸宅とかじゃねえぞ? 普通の家だぞ?」
「それでも興味あるの」
これからの予定が決まりショノウも朝ごはんを食べ終わった。
「ところでアナ」
ショノウが切り出す。
「なあに?」
「アナは次期王子の婚約者なんだっけ?」
「そうだよ」
「じゃあ、無断で抜け出して旅に出るのはその……ちょっと不味くなかったの?」
「あ……」
急にアナの顔が青ざめてくる。
「考えてなかったああよおおおお! どうしよショノウ、ラミナ!」
半泣きになりながら助けを二人に求める。
「どうしよって言われてもな〜」
ハアっとため息をつくラミナ。
「でも大丈夫でしょ! 私、王子のこと好きじゃないし!」
そういう問題じゃないだろうと思う二人だがアナが大丈夫というのなら大丈夫と信じることにした。
「アナが大丈夫だと言うなら大丈夫だね」
「多分……」
そんなこんなで時計を見るともう直ぐお昼の時間帯だ。
「そろそろこの宿屋も出ますか」
「だな。もう昼だからギルドにも行かなきゃならないし」
各々が荷物を纏めて受付へ降り、宿屋を出た。
「ふぁ〜いい空気♪」
外の空気を吸い一気に目が覚める。
そしてまたギルドへ向かって歩き出したーー
タッタッタッ!
背後から足音が三人に近づいてくる。
「アナ様!」
大声でアナの名前が呼ばれビクッとするアナが後ろを振り向くと
短髪の黒髪で全身鎧姿の男が立っていた。
「アナ様、このような場所で何をしているのです? 早く家へ戻りましょう。エリス王子がお待ちです」
「や、やあデータ。久しぶりね。はは」
何でここにいるのとひきった笑顔をデータに向ける。
「そしてこのお連れの方はどなたでしょうか?」
「あ、ああ。こちらの人たちはね一緒に旅をしている人たちなの……」
「旅!? 旅ですと? そんなのしては行けません。早く家へ戻りましょう」
「いやよ、私もう決めたんだから」
「エリス王子がお怒りですよ?」
「王子の事なんでどうでもいいの。私はこの人たちと一緒に旅をするって決めたの!」
何故旅に対しての意志がこれ程強くなっているのかとラミナは疑問に思った。
「そんな子供たちはどうせ直ぐ魔物や亜人にくたばります。これはアナ様を思って言っているのですよ?」
「くたばる……?」
ショノウがその言葉に反応した。
「ああ、くたばるだ。お前みたいな冒険者に憧れているのか知らないがそんな若造がアナ様と一緒に旅をするなどアナ様の命が危ないわ」
「そうかい。あんたよりかは強いと思うけどな」
ラミナもイラついている。
「お前はまだ俺のことを知らないようだが俺はこの王国の近衛隊の隊長だぞ? ランクはS以上だ。そしてお前はどうだ? 所詮、高くてもBランク程度だろうな」
ハッと鼻で笑ったデータに二人は更にイラつく。
「ほう、じゃあ試してみるか?」
「面白いじゃないか若造」
ラミナがデータに喧嘩を売る。
「駄目!ショノウなら兎も角ラミナは鍛冶師でしょ? データは王国でも屈指の実力持ちだから危ないわ」
ショノウは昨晩アナに過去を明かしたがお互いがどれほど強いのかは明かしていない。だから、アナはこれほど心配するのだ。
「強さは職業や見た目で決まるもんじゃないぜアナ。強さを隠している奴らだっているんだよ」
「でも……データは」
「おい、ラミナと言ったか。錬金術師でもなく鍛冶師が俺に勝負を挑もうというのか。面白いな」
喋りながら魔法を詠唱し簡易闘技場を作ったデータ。
「この闘技場は衝撃と防音以外なんの効果もないから安心してくれ」
「分かった。そちらのタイミングで勝負を始めてくれ」
そうラミナが言うと直後にデータはラミナに向かって縮地を使い距離を縮める。
「ラミナの勝ちだな」
闘技場の中の比較的安全そうなところで見ていたショノウは呟く。
「えっ? まだ始まったばかりだよ?」
「いいか? 世の中にはとてつもなく強い奴らは本当の強さを隠しているんだ」
その言葉が分かったのか分からなかったのか取り敢えず頷くアナ。
「そして正面からラミナに突進していったあの馬鹿は負けた」
「何で? いくらラミナが強いと言ってもデータはSランク以上よ?」
「それがどうしたの?」
平然とした目でアナを見つめるショノウ。
一方ラミナは縮地を使ったデータに掌で照準を合わせ一瞬だけラミナの周りが茶色くなる。
その途端データが崩れ落ちる。
ラミナが持っている七大支配スキルの一つ、重力支配をデータに使ったのだ。
当然何が起きたか分からず急に重く感じるデータは自分にゆっくり近づいてくる鍛冶師に恐怖を感じる。
「お前……何をした?」
喘ぎながらデータはラミナに聞く。
「そんなの教えるか」
データの首に剣の切っ先を突きつけ勝ったことを証明する。
アナは驚愕の目で一瞬の戦闘を見つめていた。
「何で……何で……」
データがいとも簡単に負けたことが信じられなかったのだ。
「よし、ギルドに行くか」
「ちょっと遅刻気味だし急いがなきゃな」
「アナ行くぞ〜」
「あ、うん」
放心状態のアナは黙って二人の後を付いていく。
ラミナが闘技場から離れるとデータは拘束が解け自由になる。
自分が負けたことが信じられないのだ。八つ当たりする為に剣を投げつけたーー
「いよーっす、ガルティアーナ」
『二人』が応接間に入った。アナはギルドカウンターの裏でジュースか何かを飲んで寛いでいるらしい。
「よく来てくれたな、ほれ」
左手に持ったプレートを二人に手渡す。
その時ショノウはガルティアーナの右手が無いことに気づいた。
「ガルティアーナ? その右手は?」
少し驚いたような表情を顔に出す。
「ああ、これか。こらはな昔、戦闘でやられてな」
「そうだったのか。全然気づかなかったよ」
「ところでプレートの方はどうだ?
一応職業は商人と鍛冶師にしておいたが」
プレートを見るとレベルや職業、ステータスが表情されるのだが二人のステータスやレベルは全て一般的だ。
「最高だよガルティアーナ。ありがとう!」
「大切にするからな」
「喜んでもらえて嬉しいよ。ところでこれからどうするつもりなのだ?」
ガルティアーナにこれからの予定を聞かれる。
「これから自分の家があったところへ行くことにしたんだよ」
「そうか、脱獄してから見てないもんな」
「そうなんだよ、だから久しぶりなんだ」
「じゃあ思い出に浸ってくるがいい。俺も仕事があるからな」
「おう、ありがとなガルティアーナ」
「どういたしまして」
アナを呼んでギルドから出る。
歩いている途中に目的地を知るためアナが聞く。
「二人はどこの出身なの?」
「俺はノノディ村だよ」
「俺はエピッカ村だ」
「どちらもお隣さんじゃない! すぐに着くわよ」
「本当に!? それは嬉しいな」
「まさか隣村だったなんたてな」
「だな」
笑いながらアナの案内で付いていく。
一時間ほど歩くとショノウの出身村、ノノディに着いた。
「ここがノノディか。活気溢れてるな……」
感傷的になるショノウ。懐かしい建物もあったらしく涙を指で拭いている。
「あれが俺の家だよ」
家々が群がる外れた家がぽつんと立っている。
「あの木のお家?」
「そう、あれに住んでいたんだよ。まだ残っているなんて」
「中に入る?」
「ああ、行こう」
家に入り扉を開ける。蜘蛛の巣や埃が積もっていたがそこはかつて住んでいたところと何の代わりもない家だった。
玄関には靴が乱雑に置かれ商人らしい買い取った商品は整然と揃えられている。
ショノウの部屋に入る。
ショノウは思い出に浸りながら棚や箪笥を開ける。
暫く経ちもう思い残すことはないと家を出ようとすると一階にあったある物に視線が動く。
それは父が商人の証であった鉄製の腕輪だった。
唯一の父の形見だと思い腕に嵌めておく。
「そろそろ出ようか」
二人を誘い家を出る。
「それは?」
ラミナがショノウの付けている腕輪を指さす。
「父の形見だ」
「そうか、大事にしておけよ」
「当たり前だ」
そして隣村のエピッカ村へ歩き出した。
一時間もかからないうちにエピッカ村へ着いた。
しかし、そこは惨めな有様だった。
家々は全て壊され思い出となるものは何一つ残っていなかった。
呆然と膝を地面につき言葉も出ないラミナ。
「そんな……何故?」
エピッカ村は数年前と言ってもラミナが脱獄した後だが魔族によって襲われたのだ。
そこに住んでいた村人はほぼ全滅。家は焼き払われ跡形もなくなっていた。
ラミナが住んでいたと思われるところへラミナの後を付いていく。
ラミナの家は焼き払われてはいなかったが打ち壊されていた。
柱などの木片が残っているのみである。
「クソ!」
ラミナは叫ぶと柱を退かし始めた。それに続いてショノウとアナも手伝う。
ラミナの家は鍛冶屋であり釜は残っていた。
炭だらけの中に手を入れるとラミナの父が最後に仕上げたと思われる斧が発掘された。
それはまるで隠されたかのようであった。
「これが親父の最後の作品か……」
ショノウは腕輪が形見ならラミナはこれをと斧を抱きしめながら泣いた。
ショノウとアナがラミナの背中をさする。
二人にはラミナがどれほど辛いのかよく分かる。数年ぶりに自分の家を見ることが出来るとワクワクした気持ちで村へ向かうとそこは荒地だったのだから
そしてラミナは不意に立ち上がり燃焼魔法を釜に使い斧を焼き始めた。
そしてラミナは背後の虚空から黒色の鉱石を取り出しそれも釜に入れた。
何をしようとしているのか理解出来た二人は黙って見守る。
斧が赤く焼けたところで斧を取り出しまたもやラミナの背後の虚空から今度はハンマーわ取り出す。
この虚空はラミナが持っているもう一つの支配スキル、空間支配だ。
これは戦闘にも生活にも使えることの出来る非常に便利なスキルでラミナが使っているうちの一つの空間には倉庫として使っている。
その倉庫から取り出したハンマーで斧を叩き叩くーー
それを繰り返し何回かして終わったところで研磨をする。
そしてその斧にラミナの支配スキルを織り交ぜ完成した。
「出来た」
ラミナとラミナの父が作った最初で最後の共同製作物だ。
その強さは折り紙つきでラミナが混ぜた黒い鉱石、ダマスカスは売ると一生働かなくていいというくらい価値のあるくらい貴重な鉱石を使用したのだ。
「行こう、待っててくれてありがとう」
村を訪れてラミナは変わった気がした。何がとは分からないが兎に角そういう気がしたのだ。
二人の故郷も訪れたので本格的に旅に行こうとと王国から出るために門へ行くつもりだったがーー
「あれ何?」
アナが洞穴を見つけた。
「よし、行こうか」
「決断早くない? 危険かもしれないんだよ?」
「俺らは旅人だ。不思議なものがあったらそこに行くのが旅人だ。だろ?」
「そうだな」
ショノウとラミナのよくわからない理論の結果洞穴に入ることになった。
「まず俺から入って中の様子を見てくる」
ショノウはそう言うとジャンプをして消えたーー
アナがソワソワして数分後、ショノウが洞穴から顔だけ出した。
「見た目は洞窟っぽかったよ。面白そうだし行こうよ」
そう言うとまた暗闇の向こうへ消えた。
「洞窟は面白そうだな」
もう切り替えたのかラミナも洞穴へ飛び込みアナは一人になった。
「何で置いていくのよ! 全く」
「う、うぅ……怖いな」
二人は軽々と入ったけど下が真っ暗で様子がわからない。
しかし、旅について行くと覚悟を決めたので行くことにする。
「エイ!」
勇気を振り絞り目を瞑って暗闇の中へアナは消えたーー
ショノウは〜だよ。でラミナは〜だな。では区別しておりますwたまに忘れてますが