【魔の森】
……魔の森……
それは人の侵入を拒む魔物の巣窟
幾度となく魔物と人間による数多くの争いの舞台となった場所
魔王ゼストラーダの墓標
多くの人間が近づかない人類不当。それが魔の森である
誰が作ったのか、いつからそこに存在するのか
中心部へと延々と続く果てしなき細く小さな道
森はすべてを覆い隠すよう辺りを浸食し、今もなお入る者を拒み続ける
日の光を通さず、昼でも暗いそれはいっそうの雰囲気を醸し出している
ゼルガストで新たなクエスト依頼を受けたリリア達一行は、竜太の回復を待って魔の森へと足を踏み入れる
リリアが当初、思い描いていた
暗い
恐怖
一度足を踏み入れると、群をなした魔物が襲いかかってくる
などということは全くなく(先入観とは非常に怖いものである)
1日の行程で多少の魔物は見かけものの、向こうが逃げ出す始末で拍子抜けもいいところである
あくまで森に入ってまだ間もないと、言われればそれまでだが
こういう時は、休める時に休む
魔の森のような危険な場所での鉄則みたいな感じでもないのだが、ちょうど近くに綺麗な川(水位が深いちょっとした水浴びが出来そうな場所)があったので、満場一致で今日はここでキャンプすることに
「それじゃいきましょうか 」
食事を終え満足感を覚え、寝転がる竜太をよそに3人が立ち上がる
「どこに? 」
「み・ず・あ・び 」
竜太の問いに嬉しそうに答えるリリア
「いってらっしゃーい 」
手を振り見送る竜太を残し、3人は川へと向かう
「わーい 」
エレーナが服を岩場に置いて水に浸かる
「きっもちぃー 」
全裸で足をバタバタさせている姿は、はたからみたら子供そのものである
「はー。やっぱり気持ちいいわね 」
脱いだ服を木にかけ、リリアが水に浸かる
胸もしっかり出て、腰も綺麗なくびれがあり、キュッと引き締まった良い身体である
「そうですね~。気持ちいいです~ 」
漆黒の黒髪を上で束ね、リリアをも上回るプロポーションのファリオも、布一枚着けずに水の中に入ってきた
池のように少し川の流れが止まる場所。大小の石により流れが制限されて、天然の水溜まりのようになっているここは、水浴びにはかなり適していた。一番深い所はエレーナの背丈を越えるようである。これだけの天然の水浴びポイントは、めったにお目にかかれない代物である
「そうそう。ファリオに聞きたかったことがあるんだけど 」
「何ですか~?リリアさ~ん 」
「この指輪、宝石の色が変わったんだけど 」
言って腕をあげファリオに指輪をみせる
それは当初の燃えるような赤い色から、淡い青色へと変化している
「それはですね~。3回使うと壊れるからですよ~ 」
「え!? 」
今、凄く大変なことをさらっと聞いた気がするリリア
「赤から薄い青になって、もう一度使うと青くなりま~す。青になったら次使うとしゅ~りょ~みたいな。言ってなかったですかね~ 」
「き……聞いてないわよ。もう1回無駄に使っちゃったじゃないの 」
「あらら~。言ってたと思ってました~」
特に悪びれもせず、脳天気に言うファリオ
できれば使う前に言って欲しかった。と思うリリアであった
「もう1つ聞きたいんだけど 」
「は~い。どうぞ~」
手のひらに水を溜め、顔に浸すファリオ
「大賢者のアスカさんってどんな人? 伝承的なことしか、知らないんだけど 」
「う~ん。つかみ所がない方ですかね~ 」
ファリオが視線を移すと、エレーナが川で泳いでるのが見える
「かなり高位の賢者って聞いたことがあるんだけど。その人に動いて貰った方が、手っ取り早いんじゃないかなって思うんだけど 」
「あの方にですか~? 絶対いや~って言われて終わりますよ~ 」
汗を拭くような色っぽい仕草をみせるファリオ
「あったことあるんだ 」
「ありますよ~。そうそうあの方両方いけちゃうので、リリアさんは気をつけた方がいいですよ~ 」
「へ!? 」
今まで大賢者と聞いていたので、老婆を想像していたリリア
「アスカさんって、おばあちゃんみたいな人じゃないの? かなり昔から話しに出てくる人だよね 」
……!? ……
リリアの言葉に彼女の顔が青ざめる
「リリアさん 」
「は……はい 」
いつになく真剣な表情のファリオが、リリアの両肩を軽く掴む
いつものように語尾も延びていないことから緊張感が伺える
「絶対本人の前で年齢の話しをしたら駄目ですよ! してしまったら…… 」
「う……うん 」
ファリオの迫力に、異様なプレッシャーを感じたリリア
この話しはもう辞めておいた方が、良いのかもしれない
変な汗が出たので顔を拭うリリア
そのリリア背後から忍び寄る小さな手が、彼女の胸を鷲掴みにする
「あっ! こら 」
エレーナが、自身の凹凸のない可哀想なものと、リリアの胸を交互に触り比較する
さらにリリアの胸を見、自身の物を見る……
「こんなに大きいのはズルいと思います。少しくらい私に分けてくれても、罰はあたりません 」
「大丈夫だってエレーナも、大きくなった……ら…… 」
リリアの言葉が、途切れ途切れになる
そんなにショックを受けたのか、エレーナの目から涙が
「わたし、モーモー印のミルクいっぱい飲んでるんですよ。いっぱい! 」
「エレーナちゃんは、もう成長止まっちゃったんだね~ 」
お馬鹿
ファリオがエレーナの地雷を踏んだようだ
「ムキー!! 」
壊れたエレーナが、ファリオとリリアの胸を揉みまくるのだった
……同刻……
竜太は気配を殺し(殺せないけど)、水場の方へと進む
明石 竜太(20歳)
童貞
いや違う
それはこの世界に来る前の俺
経験済み
カスティル(童貞卒業)
[NEW]ミラルカ←!?
この世界に来るまで、周囲には女のおの字も無かった男
そう俺はモテモテの主人公になったのだ
やはりヒロインが水浴び中という、美味しいシチュエーションを、逃すわけにはいかない
「明石竜太。逝ってきます! 」
お約束のヒロイン
ファリオは破壊的なプロポーションだし、リリアは理想的。エレーナはもう少し頑張れ
何やらエレーナが、リリアとファリオの胸を揉んでいる
……パキッ……
木が折れます。これからお約束通りの展開ですね。わかります
3人の視線が集まり……
「あら~竜太さんも水浴びに来たんですか~ 」
「貴方も入ったら? 気持ちいいわよ 」
大事な所を隠す様子もない2人
「酷いんですよ竜太さん。リリアさんもファリオさんも、大きすぎて反則です 」
何やら反応が違うご様子
もしかして俺、男として見られてない?
こんなの俺の理想のヒロインじゃない
「あれ? 入らないの竜太 」
リリアの声に立ち上がり、その場から離れる竜太であった
昨夜の水浴びでかなりリフレッシュした様子の3人と、何故か意気消沈してる竜太
3人の雰囲気と竜太の様子が、あきらかに違うものがあるが、それは触れないことにしておこう
一行は大賢者【アスカ・ミストラーナ】の住処を目指し、さらに魔の森を進む
森といっても鬱蒼と茂った森ばかりでなく、開けてる場所もあれば岩場や川、湖なんかもあるようで広大で手つかずな森といえよう
確かにこれほどの土地が野放しになっているのであれば、王国などが欲しがるのも納得できる
昨夜のキャンプを張った場所から一路、目的地へ
少し森が開けた場所に一行がさしかかったあたりで、それまでと空気が一変する
「何か居るわね 」
纏わりつくような嫌な風、空気がピンと張りつめているような感覚
このような時は必ず何かが起こる。 リリアの冒険者の感ともいえるのであろうか
それは音もなく、何の前ぶれも無しにリリア達の前に現れる
闇が辺りを支配する
空間が大きく揺らぎ漆黒の中より出ずる者
人間のような見た目をした男が2人。その者らに付き従うようにいる大型の魔物である
外観はサイクロプスであるが、何か違和感がある。大きさもリリア達の倍ほどあるだろうか
「待ってたぜお嬢ちゃん 」
大型の斧、防御力の高そうな鎧、トレードマークともいえる無精髭を生やし、リリア達を執拗に追い回すあの傭兵男である
「しつこい男は嫌われるって知ってる? 」
「おいおいつれないねー。こんな危険な場所までわざわざ出向いてきてやったのに 」
男が肩に担いだ斧を地面に置き、その上に足を乗せる
「それで、そっちの執事さんみたいな人は? 」
「これはこれはご無礼を。私はジークと申します。以降お見知り置きを 」
胸に手をあて慇懃無礼にお辞儀をする
「あんまりお付き合いしたくないかも…… 」
「まぁそう言わずに。非礼をお詫びして心ばかりのお出迎えを致しますので 」
言って左手を挙げるジーク
闇が蠢き、辺りに数体の魔物が現れる。
『ヤバい囲まれた 』
予想外の展開に困惑するリリア
『敵の数が多すぎる。こっちはまともに戦えるのは私とファリオの2人だけなのに 』
リリアが辺りを見回す
中級程度の魔物が数体周りを囲み、正面には傭兵とジークとサイクロプス
取り巻く状況はかなり絶望的
「ファリオ、ジークとサイクロプス相手に出来る? 」
ファリオにしか聞こえない程度の小声で問うリリア
しかし
「やっとみつけましたよ~。あなたパステルの子飼いでしょ~ 」
ファリオの言葉にジークの顔が青ざめる
「私はパステル様のことなど知らない 」
「ふ~ん。パ・ス・テ・ル【様】ね 」
「!? 」
動揺のあまり、様をつけてしまったジーク
「くっ……ブライト。後は任せるぞ 」
「はいはい。任されましょう 」
男の返事を聞くとジークは
……スッ……
その場から居なくなった
「あらあら~逃がしませんよ~ 」
……フッ……
ファリオがジークの後を追いかけていった
「なっ!? 」
ファリオが追いかけて行ったことにより、さらに絶望的な状況に追い込まれるリリア
せめてもう1人。戦える人がいれば少なからず勝算も見えてくるのだが、竜太は戦いの素人。エレーナに至ってはまだ子供で戦えるレベルに無い
「お嬢ちゃん。挨拶がまだだったな 」
「そういえば名前を聞いてなかったわね 」
「ブライトだ。俺の名前はブライト・ベール。さてそろそろ始めるか 」
ブライトがリリアに告げ
……パチン……
指を鳴らすと今まで律儀に待っていた魔物が、一斉に襲いかかってくる
「氷の爆撃 」
魔法の発動とともに、辺りに無数の氷の刃が召喚され、オークめがけて飛んでいく
対象のオークは殲滅。さらにその近くにいたオークの足に着弾し、動きを止めることに成功する
「おいおい。いきなりはズルいだろ 」
ブライトが斧を構えて突進してくる
リリアは剣で受け止めることも考えたが、パワータイプの相手に接近戦は分が悪い
「暗黒の爪 」
横に頭から飛ぶ形でブライトの一撃をやり過ごし、地面に左手をついて一回転。その手をついた際に魔法発動と離れ技をやってのけるリリア
地面に細い3本の亀裂が走り、オークにぶつかると身体が3つに裂ける
……グォォェア……
サイクロプスがリリアの着地点に拳を振るう
『ヤバっ上手くあわされた 』
……ドスッ……
自身の回転の速度と、サイクロプスの打撃の威力にリリアが吹き飛ばされる
「ぐっ 」
倒れながらも受け身をとるリリア
「かはっ 」
地面に叩きつけられてもすぐさま体勢を整える
『痛いけど、残りのオークは3体。1体は凍りついてるから2。竜太少しだけ持ちこたえて 』
「やるなぁお嬢ちゃん。本気であんたに惚れそうだぜ 」
ブライトが斧を肩に担ぎながら、リリアの動きの良さに感心する
「惚れたのなら手加減くらいしなさいよ 」
「そいつぁできねーな 」
ブライトが、斧をその場で振るう
『魔法!? 』
直感的にその場から右へ飛ぶ
先程までリリアのいた場所に、風の渦が発現し霧散する
「よくわかったな。こうでなくちゃ楽しめねーな 」
サイクロプスを後ろに従えたブライトの笑い声が響き渡る
竜太とエレーナは2匹のオークに襲われていた
戦い慣れしていない竜太は剣もまともに使えない
オークが雄叫びをあげると身体全体が震える
怖いながらもエレーナを守る為に必死だった
足が震える
身体も震える
でも自分の後ろにはエレーナがいる
必死に自身を鼓舞しオークと向き合う竜太
『こぇぇ。まじこぇぇ……でも 』
……ゴォォォ……
しびれを切らした一匹のオークが突進してくる
戦い慣れしていない竜太は、何を思ったかそれを剣で受け止めようとする
「ぐわぁ 」
吹き飛ばされる竜太
近くの木に背中からぶつかり、息ができなくなる
「竜太さん!! 」
「竜太!! 」
ブライトの一撃をよけながら、リリアが声をあげて駆けつけようとするが、阻まれて動けない
「エレーナ後ろ! 」
「へ!? 」
リリアの絶叫にも近い声に、エレーナが後ろを振り返ると、もう一匹のオークが……
エレーナの裏拳によって吹き飛ばされた
「え!? 」
呆然とするリリアと竜太とブライト
「あなた戦えるの? 」
「そこそこにですけど 」
リリアの問いに普通に答えるエレーナ
そう言ってるうちに、もう一匹のオークを跳び蹴りで沈黙させるエレーナ
「話しが違うじゃねーか 」
ブライトがサイクロプスを引き連れて逃げ出したのは、それから間もなくのことであった
「リリアさ~ん。足が痺れました~ 」
「私はちゃんと働いたじゃないですか 」
部屋の床に正座させられているファリオとエレーナ
その近くには、椅子に座って侍女に包帯を巻かれている、リリアと竜太がいる
先の戦闘でリリア達はブライトが逃げた後、残っていたオークを殲滅し、 怪我をおしてアスカの家まで、たどり着いていたのである
ここに着くなりアスカから
「怪我の治療が先だな 」
と言われ怪我を負っていたリリア、竜太の両名の治療をおこなっていた所
「すみませ~ん。逃げられてしまいました~ 」
などと言ってファリオが戻って来たのである
ファリオはいきなり居なくなったから。エレーナは今まで黙っていたという理由で、正座させられているということである
治療と反省が終わり、アスカが部屋へ侍女から呼ばれてやってくる
全員が席に腰をかける
「最初に聞いておきたいが、ここに来たということはそれなりに経緯を知ってる前提で話しを進めていいのか? 」
アスカの問いかけに、リリアと竜太が首を振る
ファリオをに視線を移すアスカ
「忘れてました~ 」
「だろうな。性格からして 」
「あはは~ 」
笑ってごまかすファリオ
「エレクシアーナあんたが説明するか? 」
「!? 」
「なんだ。それも説明不足か 」
アスカがため息をこぼす
「女神エレクシアーナは、そこにいる少女のことだ 」
あかされる驚愕の事実
「ちっぱいエレーナが女神様? 」
「ちっぱくないもん 」
竜太の驚きに即抗議するエレーナ
どうやら女神様は胸の大きさに、かなりコンプレックスを持っているようである
「まぁちっぱい女神がな」
「アスカさんまでちっぱいって…… 」
目に涙を浮かべるエレーナ
「まぁそうだな…… 」
「ちょっとまちなさいよ 」
アスカの言葉を遮るリリア、なにやら身体を震わしている
「どうしかしましたか~リリアさん~ 」
「どうかした? じゃないわよ。あなたたちわかってるの。女神よ女神。エレーナがそんな化け物っておかしいでしょ 」
「リリアさん。化け物は酷いです 」
涙目で抗議するエレーナを無視し、テーブルを両手で叩くリリア
「彼女2回も攫われてるのよ。それほど強いのなら自力で帰ってこれるでしょ 」
「確かに 」
リリアの説明に納得する竜太。一緒に攫われていた時も、オロオロしてただけのような気がする
「私、人間に危害加える気はないですよ。よほど自身が危ない状況にならないと動きません 」
「でもこの間の戦いでは、手を出してなかったか 」
「だってあれは魔物ですもん。それにやたらめったら神力消費させてたら、結界なんてあっという間に消えてしまいますし、人間の皆さんに私のことがすぐにバレてしまうじゃないですか 」
エレーナが自身の神力を用いて動かない理由は、そこに集約されているようである
「なるほどね。まだ信じられないけど理由はなんとなく理解したわ 」
少し冷静になったリリアが、テーブルについてた両手を離し、椅子に腰かけなおす
「あ……その、なんだ……続きを話しても大丈夫か? リリアのお嬢ちゃん 」
「どうぞ 」
……コホン……
アスカが咳払いを一つ入れて、話しを再開する
「結界の効力が弱まったから力を貸して欲しいと言ってきてな。私が、とある石を持ってくるようにお願いした訳だ 」
「とある石? 」
「お前さんが持ってる光の魔石のことだな 」
リリアが指輪の宝石を見る
「それじゃないぞ。レオンハルトと一緒に見つけたやつだ。それはちっぱいの力を借りる指輪だろ 」
「レオンハルトってあの子供のこと? 」
盗賊のアジトやお店で、武器を譲ってくれた少年のことを思い出す
武器を安く売ってくれたり、宝石を見つけるように誘導したりと、よくよく考えたらおかしな話しである
……コンコン……
ノックして侍女がプレートに、珈琲を乗せて入ってくる
カップからは湯気が上り、辺りによい薫りが立ち込める
侍女は全員に配り終えると、一礼して部屋から出ていく
「それは私自慢の特製珈琲だ。竜太君が居た次元の物より美味しいぞ 」
薦められるままにそれを飲む一同
「これマジで旨いな 」
「そうだろそうだろ」
自身特製の珈琲を竜太に褒められ、上機嫌になるアスカ
「おっとまた話が脱線したな。光の魔石とエレクシアーナの力、さらにある物を使って彼女の神力を使わずに、結界を維持させるのが目的の1つだな 」
「目的の1つ? 」
「ああ。他の目的は今はあかすことはできないがな。取り急ぎエレクシアーナの神力が尽きる前に結界を維持させないと、上級魔物で世界が溢れかえることになるな 」
コーヒーを飲んで喉を潤すアスカ
「ここからはクエスト云々の話しじゃなくて、世界のお話しになります。出来ればリリアさんのお力もお借りしたいのですが。凄く大変なことになるので、よく考えたうえでお答えを聞かせてください 」
エレーナが立ち上がって、ペコりと頭を下げる
「あまり時間は無いが、ゆっくり考えることだな 」
予想をはるかにこえた緊迫の事態に、言葉を失うリリアであった
月が見える丘
大きな月が頭上に輝き、その月明かりが辺り一面を照らしている
下に目を向けると、見渡す限りの広大な森が広がっていて、その木々が生い茂る光景は、さしずめ森の絨毯といったところであろうか
丘に続く道を上がったこの辺りで一番高い場所にある、大きな岩の上に腰かけているリリアの姿があった
この最近立て続けで起こる、自身の想像をはるかに上回る出来事に正直気が滅入っていた
『エレーナが女神か…… 』
正直これには驚きを隠せなかった。ファリオあたりは、もともと得体のしれないものがあったが、まさかエレーナまでとは彼女には思いもよらなかった
……カッカッ……
天を仰ぎ、後ろ手を付いて足をブラブラ前後に動かすと、ブーツの踵部分が岩にあたり音を奏でる
発育の良い胸が強調され、黒いシルエットで見えるその姿は、天から舞降りた天女の如き美しさを醸し出している
「どうすれば良いんだろあたし 」
誰にでもなく呟くリリア
クエスト自体はエレーナを、ここまで送り届けた時点で完了である
額面的にも危険な魔の森の護衛ということで、多少割高ではあるものの、普通に考えれば特に問題はないレベルだ
『クエスト済んだから私はこれで 』
みたいな感じで帰っても、だれにも文句は言われないであろう
「はぁ 」
自然とため息が零れ落ちる
「んー!! 」
両手を突き上げ伸びをしてそのまま後ろに身体を倒す
……ゴンッ……
「痛ったーい 」
勢い余って岩に後頭部を打ちつけるリリア
眼前には美しい月が目一杯広がっている
「本当にどうしたらいいんだろう 」
静寂に包まれた誰もいないこの場所に、微かに人の足音が聞こえてくる
「殺気も無いし、この気配は竜太ね 」
警戒して起きるわけでも無く、リリアはそのまま月を見つめていた
……ザッザッザッ……
音が徐々に大きくなり、リリアの近くまでくると止んだ
「隣いいか? 」
言って返事を待つこともなく、そこに腰をかける竜太
「貴男はどうするの? 」
「俺!? 勿論最後まであいつら手伝うよ 」
言ってリリアと同じように岩に寝そべる
「そう 」
「俺な 」
途中まで言って勢いよく上体を起こす竜太
「別の次元の人間だけど、好きになったんだよな。この世界 」
「そう 」
リリアが月の光を遮るように、腕を右目にあてる
「戦いじゃ役に立たない。それどころか足引っ張るけど、俺に出来ることがあるならやりたい 」
そう言い切る竜太は真っ直ぐな目で遠くを見ている
「死んじゃうかもよ 」
呟くように吐き捨てるリリア
「そうだな。死ぬかもしれないな。でもお前の為に頑張れればそれでいい 」
「あはは 」
竜太の言葉に笑いがこぼれるリリア
「死ぬかもしれないからリリアから1つだけ、貰っておきたい物があるんだけど 」
「いいわよ。何が欲しいの 」
……チュッ……
「!! 」
腕で遮られた視界のリリアの唇に、口づけする竜太
「それが欲しいもの? 」
「あぁ…… 」
言って立ち上がる竜太
「リリアも早く帰って寝ろよ 」
言って歩き始める竜太
「竜太が生きて帰ってこれたらエッチしてあげるよ。だから必ず生き延びるんだよ 」
「リリア生還へのご褒美は? 」
「考えとく 」
竜太は返事の代わりに左手を挙げて帰っていった
腕に隠されたリリアの表情がどうなっているのかは誰にもわからなかった……
マイは走っていた
全力疾走で森の中を
仲間から託された物を持って
……遡ること少し前……
魔の森深層部に到達した、ギルド特別討伐隊は数匹の魔物と遭遇する
そのうちの一匹は抹殺対象である
凶悪な見た目に違わず、恐ろしいほどの力を持っていた
ギルド内では無類の強さを誇るSRランカー達が、手も足も出ず一方的にやられていった
頭から食いちぎられたり、魔物に捕まり犯された後、殺された人もいる
マイは魔物に乱暴されている仲間の女性を助けようと試みるが、力及ばず自身も捕縛されそうになる
犯られていた女性がそんな状況にもかかわらず、わずかに魔物の注意そらしてマイを逃し、ある物を彼女に託す
討伐対象が所持していたミリィが探し求めている物である
マイは彼女の思いを無にしない為、それを受け取りそこから走り去る
別の討伐対象をたった1人で追撃しているミリィに渡す為である
森の中を全速力で疾走するマイ
彼女は本来、連絡用員としてパーティーに編成されていて、主な役割は大量に魔力を消費する召喚魔法を用いて、ギルドと連絡を取ることであった
仲間を助けようとした際、戦闘で魔力を大量に消費したため、物をどこかに隠し専用召喚獣でギルドと連絡を取って、場所を伝えておくなどの方法はもう使えない
今の彼女に出来ることは、ただひたすらに逃げることのみである
「はぁはぁ 」
かなりの距離を走ってきたマイだが、流石に苦しくなってきた
魔物が追ってきているのかわからないが、しかし足を止める訳にはいかない
万が一魔物が追跡しているのなら今のマイでは戦うこともままならないのである
……!?……
何かに足を取られ
……ドサッ……
そのまま前に倒れ込むマイ
慌てて後ろを確認するが、魔物の姿は見えない
「はぁはぁ。大丈夫みたい 」
息も途切れ途切れに立ち上がったマイだが、目の前に魔物が……居る!
……ガァァァ……
振りかぶった一撃が立ち上がったばかりのマイに直撃、後ろに吹き飛ばされる
「ゲホッ 」
背中から地面に激突する
衝撃で気を失いそうになるが必死にこらえる
……ゴァァァ……
……ビリィッ……
馬乗りになり、マイ衣服を破り捨てる魔物
「くっ 」
身体をバタつかせ、左足の太ももに仕込んでいたナイフを、手に掴み魔物の脇腹へ刺すが、魔物は意に介さずマイの身体を蹂躙する
「いやぁぁぁ 」
おさげに纏めた髪を振り乱しながら抵抗する、マイの悲鳴が辺りに響く
……ゴォォ……
魔物が雄叫びをあげたその時
……ザシュッ……
魔物の首が跳ね飛ばされた
「大丈夫か? 」
マイの悲鳴を聞き、近くにいたミリィが駆けつけてきたのだ
彼女は鞄から布を取り出すと、マイの身体にかける
「ミリィさん 」
かけられた布を手に握りしめ、マイがその場に立ち上がる
「部隊が、皆が…… 」
「そうか…… 」
涙を流すマイを、ミリィは抱きしめるのであった
最後まで手伝うことを決めたリリアであったが、借金の都合上、一度魔導銀行のある街に寄らないといけない。そのことを話すと、ファリオがエスクードに行き、カスティルに振り込みをお願いしてくれるらしい
ファリオが出かけたその日、リリアはアスカの仕事部屋にお邪魔していた
よくわからない魔法器具などがたくさん置いてあり、見たこともない液体の入った物などが、あちらこちらに置かれるている
「ファリオっていつも急に消えたり、現れたりするけどあれってなんなの? 」
「 [次元を飛ぶ] だな 」
両手に魔法器具を持ったアスカが答える
「次元を飛ぶ? 」
言われた言葉の意味が、リリアにはまったくわからない
「そうだねぇ。この世界の上級クラスの魔物が空間を飛ぶのは知ってるかな? 」
「つい先日もそれは見たわ 」
ジークがやっていたのを思い出すリリア
「あれはな、自身が思い浮かべた場所に移動する手段なんだ。だから行ったことない場所なんかは行けないわけだ 」
確かに好きな場所に行けるなら、直接本人の所に何回も現れたりするだろう
……ポンッ……
何かの液体がアスカの魔法器具の中で音をたて煙が立ち上る
「あの娘が使ってるのはそれとは違う次元を飛ぶだな。これは行ったことのない場所だろうが、異世界だろうが、どこにでも行ける 」
「それって魔法なの? 」
「魔法ではないな。単なる時間短縮の為の、移動方法みたいなものかな 」
アスカが手に持った魔法器具を台の上に置く
性格的なものなのか、台やテーブルの上はゴチャゴチャと散らかっている
「論より証拠かな。ちょっと待ってな 」
……フッ……
音? 風? と共にアスカがその場から[消える]
・・・・・
……フッ……
消えて5分も経たないうちに、同じようにリリアの目の前に現れるアスカ
「ほらこれ 」
アスカからリリアに髪留めのピンが手渡される
それはどことなく見覚えのある物であった
「あっ! これ家に置いてあったやつだ 」
「カスティルさん? だったかな。一応彼女に断りを入れて持ってきたから 」
今おきたことが、俄には信じられなかった。この場所からエスクードまではかなりの距離がある。リリア達も実際ここまで来るのに随分時間を労したのである。それをわずかな時間で往復したことを考えると、とてもじゃないが恐ろしいことである
「貴女何者なの? 」
喉が乾く、さらには嫌な汗が出る
「私かい? そうだねぇ。あるお仕事を引退したお姉さんって所かな 」
アスカが笑いながら呼び鈴を手にとり、鳴らすと侍女が部屋にやってくる
「彼女が飲み物をご所望だ。ついでに私のもお願いするよ 」
「アスカ様。いい加減ここを片づけて下さい。嫌なら私がやりますよ 」
部屋を一望した侍女が、アスカに苦言を呈す
「わかったよ。それより先に飲み物を頼むよ 」
アスカの言葉に侍女が溜め息をつき、部屋から出て行く
「仕事って王国の宮廷魔導士のこと? 」
侍女との会話が終わったので、リリアが話しを続ける
「それじゃなくてな、いわゆる次元管理を生業としてたのさ 」
侍女に言われたからなのか、手元にある魔法器具を手にとってはみたが、どう片づけていいかわからず、その場に戻すアスカ
「次元管理? 」
「これも論より証拠だな 」
アスカが目一杯両手を広げる
……ブゥン……
彼女の手の間の辺りに、モニターのような物が現れる
モニターに手を当てると丸いものが拡大されていき、中にリリアの姿が映し出されている 」
「なっ!? 」
「ちょっと叩くからな。リリアのお嬢ちゃん 」
言ってモニターに映し出されているリリアの頭を叩いてみる
……ポカリ……
「痛っ!! 」
リリアが叩かれた訳でもないのに痛みがあった
「なにこれ? 」
リリアがモニターに触れてみるが……
……スカッ……
何も起こらず空振りするだけである
……ブゥン……
音と共に消えるモニターのようなもの
「簡単に言うと、この世界以外にも、竜太君が居た次元など、ありとあらゆる場所を管理してたのさ 」
アスカの話しが途方もなさすぎて正直ついていけないが、瞬間で移動したことや、先程叩かれたことを鑑みるに、言ってることは本当のことなのだとリリアは思う
「お待たせしま…… 」
侍女が珈琲を持って来たのだが、散乱したままのテーブルを見て絶句する。何やら額に(#)←こんな文字が浮かんでいる
珈琲の置かれたプレートを、台のあいている場所に置き、散乱しているテーブルの前に立つと
……ガシャーン……
右手でテーブルの上の魔法器具を全て払い落とした
「ギャーーー 」
発狂するアスカを尻目に珈琲のカップをテーブルの上に置く
「それではごゆっくり 」
嬉しそうに部屋を出て行く侍女とは対照的に、アスカは涙目になっていた
置かれた珈琲を飲み喉の渇きを潤すリリア
「これほど凄いなら貴女じゃないにしても、この世界を救えるんじゃないの? 女神云々抜きにして 」
「出きるだろうね。でもそうやって管理者に生かされ、動かされた世界で君は何がしたいと思う? そんな意味がなく、味気ない世界は必要ないのさ。自分の未来は己自身で創るものだからね。だから面白いし、生きてる価値があるのさ 」
アスカの言葉にレオンハルトやファリオが、急に居なくなったりする理由がわかったリリア
「それでファリオは居なくなったりするのね 」
「そういうことだな。それにしてもこの惨状どうしよう 」
涙目を浮かべるアスカの悲鳴が、部屋の中に響くのであった
リリアとアスカが話をしている頃、竜太とエレーナは家から近場にある川に来ていた
リリア達に同行するのは良いのだが、今まで本当に足手まといにしかなっていない竜太は、最低限度の護身術をエレーナから教えてもらうつもりなのである
「竜太さん。どうしたのですか? 急に二人っきりで出かけたいとか言って。もしかして愛の告白とか……キャッ 」
独りで言って悶えるエレーナ
「いやそういうのじゃないから。無いチチ少女に興味無いっす 」
……ガーン……
とか聞こえてきそうな顔をするエレーナ
多分無いチチ少女に反応してのことだろう
「エレーナに格闘技を教えて貰いたくて。この間魔物相手にやってただろ? 」
「うーん。別に構わないですけど、役に立たないと思いますよ 」
竜太の提案に少し戸惑いを見せるエレーナ
「え!? どうして」
「だって私格闘の際、神力使ってますから。竜太さんが魔物相手にやってもびくともしないと思いますよ 」
普通に考えると確かにそうである。以前オークの突進を剣で受けた竜太は吹き飛ばされている
「回避能力とか上がったりしない? 」
「上がるかもしれないですけど、それこそ血のにじむ修行とかが必要だと思いますけど 」
エレーナの言うことがもっともなのである
ほんの数日やった所で何か身につくわけでもない
「試してみます? 」
「お願いするよ 」
竜太が身構える
……サッ……
エレーナが消えたと思ったら既に目の前に
……パチン……
額を指で軽く弾かれ後ろに数歩よろけながら後ずさる
「どうですか? 」
「無理だな。動きすら見えなかった。人間諦めが肝心だな 」
「諦めるのはやっ! 」
突っ込みが早かったエレーナ
「俺、格闘の才能はないようなので、魔法を覚えるとか 」
「魔法ですか? 」
魔導書で契約して確かに魔法を覚えるのが手っ取り早いのかもしれない
「それなら良い方法がありますよ 」
言って竜太に手招きするエレーナ
「そこでしゃがんで下さい 」
言われるまま跪く竜太
『女神エレクシアーナの命により盟約せよ 』
……チュッ……
竜太の額にキスするエレーナ
彼の身体が光に包まれる
「どうですか? 」
「どうってなにが? 」
エレーナが目をパチパチ瞬かせ
「うん。魔法も諦めましょう 」
「まじかー 」
「格闘も無理、魔法もダメダメって、竜太さん才能無さすぎじゃないですか? 」
悲しいかなこれが現実である
異世界に飛ばされた人間が、すぐに剣や魔法に適応するのなら、世の中達人で溢れかえってしまう
一握りの才ある人間が、努力を重ね強くなる。それが当たり前のことなのだ
「俺って何の才能も無いんだな 」
早くも挫折を味わった竜太は川の横まで歩いて行き、座り込む
「仕方ないですよ。何か他の才能があるんですよ竜太さんには 」
エレーナが隣に座り、靴を脱いで川に足を浸す
「んー冷たい 」
足をバタバタさせ、水遊びしている姿は神秘的な美しさをみせていて、元気に満ち溢れいる女神そのものである
「何か? 」
竜太の微笑ましい視線に気がついたエレーナが怪訝な表情を向ける
「いやそうやって無邪気にしている姿を見てると、本当に女神様なんだなと思って 」
「あらぁ照れるじゃないですか 」
嬉しそうに頬を抑えるエレーナ
「それで貧相な胸が完璧ならそれこそ……痛てぇー 」
竜太が言い終わる前に、頬を思いっきりつねあげる
「どうせ他の人と比べると、小さいですよー 」
「ありがとな 」
「何がですか? 」
「慰めてくれて……わぷっ 」
足を激しくバタつかせ、エレーナが竜太に水をかける
「駄目なものはダメで、きっぱり諦めましょう。そうだ 」
立ち上がり、近くに置いてあった袋を取って戻ってくる
「私特製の手料理ですよ。竜太さんには特別に食べさせてあげます 」
袋から箱を取り出すエレーナ
「まじかー。苦節20年、可愛い娘の手料理が味わえるなんて 」
「そんなー可愛いだなんて 」
箱を開ける
[でろーん]という言葉が適切なのか?
[ゴチャ]って感じなのか、エレーナの作ったそれは凄まじい破壊力であった
「見た目は少し微妙ですけど美味しいですよ 」
「・・・ 」
固まる竜太
それは少しというにはかけ離れた物でこの世界に来て、竜太は一度も見たことない物であった
「どうしたんですか? ははーん、アーンして欲しいんですね。わかりました。特別ですよ 」
自己完結させて竜太の口にそれを放り込む
……!? ……
竜太の思考が停止する
口の中でジャリッという音があり、ゴリゴリする物もブレンドされている
美味しい云々の話しの前に食べられる物なのかもわからない
……ジャリ……
……ジャリ……
……ゴリゴリ……
……ゴックン……
やっとの思いでそれを飲み込む竜太
「美味しいでしょう。ぜーんぶ竜太さんに食べさせてあげますからね 」
……!? ……
満面の笑みを浮かべエレーナの『あ~ん 』攻撃は竜太が全部食べ終わるまで続くのであった
それから2日後
一人の女性がこの家にたどり着く
大きめの布を1枚だけ身体に羽織り、全身いたるところ傷だらけ。女はたどり着いた途端、安心したようで気を失って倒れる
女性の名前はマイというらしい
信じられない話しなのだが、魔の森深層部から逃げてきたそうだ
逃走時のものなのであろうか、身体中痛々しい傷がいたるところに存在していた
彼女が言うには、ミリィと呼ばれる女性からこの場所を教えられ、とある物をアスカに届けて欲しいと頼まれたそうである
黒く闇のような漆黒を纏いし宝石
光の魔石と対をなす、闇の魔石である
「うぅ…… 」
マイが目を覚ます
……ガバッ……
目覚めると同時に、起き上がろうとする
「ぐっ 」
身体中が、痛みで悲鳴をあげている
「まだ起きなくていいから寝てろ 」
アスカが諭してマイを横に寝かせる
「ここは? 」
「アスカさんの家ですよ。貴女ここに着いてすぐに倒れたんです 」
アスカの反対側に座っているエレーナが答える
部屋にはマイのベッドを挟む形で、アスカとエレーナの2人が、横に椅子を置き座っている
「私の持ってきた物を 」
「預かっているぞ。私に届けてくれたんだろ 」
アスカは彼女が、必死になって届けてくれた、黒い宝石をマイに見せる
「君が身を挺してこれを持ってきてくれたおかげで、結界用の装置が作れる。ありがとな 」
マイに頭を下げるアスカ
彼女の状態を見ると苦労してこれを入手したことが、よくわかったからである
「任務ですから。それよりファリオさんという御方はこちらにいらっしゃいますか? 」
「えっと今は出かけてて…… 」
「いますよ~。先ほど帰ってきました~ 」
エレーナの言葉を遮り、ファリオが部屋に入ってきた
「そうですか。ミリィさんからの伝言です。すべて無事処理済みだそうです。よくわからないのですが 」
「いいえ~。よくわかりました~。ありがとうございます~ 」
マイに頭を下げるファリオ
「失礼します 」
侍女が、包帯や医療用具を持って入ってくる
どうやらこれからマイの包帯などを、巻きなおしたりするようである
「これから処置か。それなら私達は、結界用の準備に取りかかるかな 」
3人が一斉ににたちあがり、部屋を後にした
アスカ邸 地下 魔導儀式用の部屋
ここにアスカが4人を呼びだしていた
床の中心部分には大きな六芒星が描かれており、室内は魔法の薬品のような匂いで包まれている
壁に添うように棚などが並べられていて、そこに魔法器具の類が所狭しに置かれている
ちょうど六芒星辺りの所が広いスペースになっていて、この場所で魔法の契約などが行われているのであろう
「私は物が揃ったので、結界用の装置をこれからつくるのだが、エレクシアーナの本来の神力を摂取しておきたい。エレーナお願いできるかな? 」
アスカの問いに無言で頷いて、エレーナが精神を集中させる
……フッ……
風の通らないこの場所で風が舞う
祈りを捧げるように手をあわせたエレーナの身体が宙に浮く
辺りが浄化されてるような、神々しい神気で満ち溢れる
エレーナの身体がまばゆい光に包まれて、体や手足が伸び、一般の大人くらいの背丈になる
「美しい…… 」
竜太の言葉が、無意識にもれる
それほど女神エレクシアーナは美しすぎた(胸のサイズは変わらないようだが)
「しばらくそのままな 」
アスカが、何かの器具を必死に操作している
……キュィィーン……
機械がけたたましい音をあげる
「本当に女神なのね 」
リリアが呟く
この状況を見せられては、もはや疑う余地はなかった
「よしもう充分だな 」
アスカが器具を止めると
エレクシアーナがエレーナへと姿を変える
女神が姿を変えているのは、おそらく神力の低下を防ぐ為であろう
エレクシアーナになった彼女の神力は、それほどまでに凄まじいものがあったのだ
「これで私は結界の発生装置に専念することが出来るな 」
アスカの言う結界発生装置とは、女神の神力のみで賄っている現結界を、僅かなものでも維持出来るようにするサポート的なものである
これにより今のような多大な神力を使わなくても、結界の維持が可能になるという優れものらしい
「あれほど美しかったエレーナが残念な姿に 」
「竜太さん酷いです 」
竜太の失礼な物言いにムッとするエレーナ
「さて~それじゃ~私達も出かける準備をしましょ~ 」
「出かけるってどこへ? 」
リリアがファリオに問う
「もちろん魔の森深層部にですよ~ 」
「えっー!? 」
リリアと竜太の声が同時にこだますのであった