そして地下迷宮その⑦
……ヒュン……
ボウガンの矢が、少女の顔の横辺りを通過していく、何者かからの狙撃のようだ
入り組んだ通路。少女から見て2つ先、右側にある通路に身を隠して対象は彼女を狙っているようである
隠れている相手に対して、このまま通路の中央にいるのは、どうぞ狙って下さいと言っているようなものだ
危険を察知した彼女は、自身も手前にある通路脇の道に身を潜めて様子を見ることに
彼女には少し気になっていることがある。対象が接近してきたにもかかわらず、魔導機が反応しなかったことが疑問符となっていた。少し前に遭遇した際は、他者の接近を知らせて来たこれが、今回は何も伝えなかったのである
「暗器に付随するものに、魔導機のセンサーを回避するものでもあるのかな? 」
自身がいる通路は左へと曲がる道。そこからひとつの扉を挟んで更にその奥にある脇へ逸れる通路に敵の存在がある
このまま隠れていてもらちがあかない。彼女はそろそろ行動を起こすことにする
……ヒュン……
……ガスッ……
次のボウガンが放たれたが、それは少し手前の壁を射抜くことで、終わってしまう
「フッ! 」
掛け声とともに猛ダッシュをかける少女。動きが尋常でなく早い
「!? 」
対象が慌てて矢を装填しようとするが、人のそれを超えるほどの動きであっという間に少女が間合いを詰めてくる
「ガッ…… 」
予想を超えた速さで、狙撃手にたどり着いた少女は、手にしていたボウガンを蹴り飛ばす。手からそれが零れ落ちるや否や、対象の女性が太もも辺りにつけているダガーを引き抜こうとするが……
「駄目です。それ抜いたら私本気になりますよ! 」
すごみをきかせ、少女が彼女に警告する
ダガーに近づけていたそれを頭の上に掲げ、降参のポーズを見せる
目の前にいる少女の凄みに屈する格好となった女性
「とりあえずは…… 」
少女が女性の太もも辺りに取り付けられたサスペンダー諸共ダガーを外して、先程蹴り飛ばしたボウガンの方へと投げる
さらに身体中触り身体検査の要領で他の武器の有無を確認する
「あんた何者だ? 普通の動きじゃなかったぞ 」
両手を頭に当てて無抵抗の意を示す女性が、少女に尋ねてみた
「普通の冒険者ですよ。まさかいきなり襲われるとは夢にも思いませんでしたが 」
女性の武器所持を確認し終えた少女の真っ赤な髪が揺れる。見た目はどこにでもいる少女そのものである
「逆に聞きたいのですが、何故私に襲いかかってきたのですか? 」
少女の淡く吸い込まれそうな青い瞳が、女性を捉える。確かに襲われる理由が少女には無かった
特に目の前の女性に恨みをかっているわけでも無いのだ
「私の条件だよ! というよりもう手は下ろしても良いだろ? 」
「条件ですか!? 」
「それ以上は言う気はないよ。流石に言ってしまうと条件達成が困難になる。狙ったのは悪かったけど、私も無事にここを出たいからね。あんたには危害はもう加えないよ 」
茶色の短いその髪を抑えるように挙げていた両手を降ろしながら、女性が少女に謝罪する。大胆に太もも辺りをちらつかせている盗賊御用達の洋服に身を包んでいる女性
出るとこもしっかり出ていてかなりのプロポーションである
「とりあえず危害を加えるつもりがないなら、お互いに出来る範囲で情報交換しましょうか? 」
「いきなり攻撃した私のこと信用するの? なかなか面白い娘ね 」
意外と割り切っている目の前の少女に関心しながらも、転がされたボウガンとダガーを手にした女と少女の二人は戦闘を繰り広げた際、両者の間にあった通路の扉を開けて中へと入ることに
部屋の中はそれ程広くなく乱雑に箱などが山積みされており、部屋の殆どをそれが覆い尽くしている
倉庫ともとれる部屋の中に入った二人は、その辺りに山積み されていた箱の上に互いに腰を下ろす
「とりあえず自己紹介からですかね? 私はエレーナ。参加者の1人で旅の冒険者ですよ 」
ついでに食事も済ませるつもりなのか、エレーナが肩にかけられている鞄から携帯用チューブを取り出し、キャップを外して口に含む
「エレーナさんね。私はエシャロット、エシャロット・プリーガーよ 」
「軽く食事してから情報交換しましょう。食糧無いなら少しならありますよ 」
彼女の言葉に軽く首を振り、鞄の中から袋入りのパンと水を取り出す
「いいわ。条件など言えないこと以外はそれに乗ることにするわ 」
エシャロットはそう言うと、袋を開けパンにかぶりつき水で押し流すと話しをするためにエレーナと向き合うのであった
エシャロットと情報交換を終え、彼女が出て行った後もその部屋に残っていた彼女であるが、今回少なからず得るものがあった
ボウガンの狙撃で、魔導機が反応を示さなかったことは、どうやら魔導機のオプションを彼女が入手していたことによるものであった
この地下迷宮には、宝箱や木箱などの中に稀にアイテムなどが隠されていたり、魔物を倒すことで入手出来るアイテムがあったりするようである
彼女がそれを知り得た理由は、木箱を開けた際に例の如くに手紙が入っていたとのことで、それを読んだらしい
『一筋縄ではいかなそうな迷宮ですよね 』
エシャロットが出て行った後にこの部屋で見つけた真新しい木箱が彼女の目の前に置かれている
山積みになった箱の奥に隠されるように置かれていたものである
「罠探知 」
エレーナが最初のお店? で購入したものが、これと食糧だけである
基本的に格闘で戦うスタイルの彼女にとって武器は不必要だったからである
「反応無いみたいですね 」
木箱を開け中身を確認すると、金貨が1枚に携帯用チューブとボトルの水が入っていた
どうやらこの木箱のメインは金貨のようである
『ハズレなのかな? 』
それらを鞄に詰め込むと特に用事の無くなったこの部屋の扉を開けて、エレーナは外の通路へと歩みを進めることにする