【そして地下迷宮その⑤】
闘技場地下迷宮
かなりの広さを誇るそれはエルグニストにおいて重要な役割を占める
その中は無数の魔物や数々の罠などが仕掛けられており、侵入する挑戦者をことごとく、排除してきた
そんな闘技場のとある通路に場違いな女性の姿があった。リリアである
入り口から入った彼女は、さほど障害もなくここまで来ていたのである
最初の店? のような場所で取得した剣を装備し、肩から斜め掛けになっている鞄を身につけ、薄暗く長いその通路をひたすら先を目指し歩いていた
『正直迷宮の中がこれほどのものとは、思わなかったわ。広いし、暗いし、あれだけの報酬の価値以上だったかも 』
この迷宮において、リリアが行わなければならないことは、かなりの高い難易度のものになる。まず対象が魔物や他の挑戦者から排除される前に、接触し保護することが最優先事項となる。またそれに付随して、この闘技場本来の各挑戦者に割り当てられている任務を完遂し、さらには出口を目指さなくてはいけないのである
「しかしこの同じ挑戦者と、1ヶ月以上行動を共にするという私の目的は、クエスト的には都合の良いものが割り当てられたわね。それに関してはここの運営に感謝かな 」
今回リリア個人の目標は[同じ挑戦者と一定の期間行動を共ににする(必ず1ヶ月を超えること)]この条件であった。これなら対象を保護してそのまま行動すれば問題無さそうであった
「その娘がどんな条件引き当てているかによるんだけど…… 」
とんでもない条件だったら、リリアも協力してそれを完遂し、彼女の目標を成功へと導き、ゴールさせることが必要不可欠になるからだ
やるべきことがたくさんあるリリアであったが、兎にも角にもまずは、対象との接触の為に行動をしなければならない
……ピピッ……
丁度その時である。待機中にしてある魔導機が反応し、電子音を鳴らす
音のない通路はいつの間にかT字路が先に見えており、魔導機の画面上には[接近者]有りとの表示があった。対象者はどうやらリリアから向かって右の通路から近づいてくるようである
身を隠す場所のまったく無い、この通路では相手を影から気配を潜め、魔導機を消して観察するということも出来ない
リリアは近づいてくる挑戦者に接触することを試みることに
数分後、右手の通路から1人の男があらわれる。女性ではない時点で今回の保護対象者でないことはあきらかである
現れたのは、若い青年で特に何かを装備している様子は無い。鞄も持ち合わせておらず、最初の宝箱を取り損ねたのであろうか?
しかしリリアにとって、この迷宮で出会う他挑戦者は、警戒に値することは間違いなかった
「初めてここで人に会ったな。それが女性になるとは思いもよらなかったな 」
黒くそれなりに長い男の髪が揺れる。至って普通の青年に見えるが、それだけにこの迷宮には場違いである
「こんにちは。あなたの通ってきた道は何かありましたか? 」
無難な挨拶と情報収集は忘れないようリリアが男に問う
「特には何も。数ヶ所別れた道には出くわしましたが、これといってなにもなかったですよ 」
「そうですか…… 」
特に気を引く情報もなかったようなので、リリアにとってこの会話は無意味であったが、為になる情報はそんな簡単に拾えるものではないと、彼女も理解はしている
「そうだ! この迷宮危険らしいので、一緒に行動しませんか? お互いに助け合いながら出口を目指せば、早く安全に切り抜けられますよ 」
良いアイデアとばかりに男がリリアに提案する
爽やかに笑顔を見せならがら青年がリリアに提案するのだが、男と行動を共にすることが、彼女にとって良い選択肢だとは思われない。逆にクエストの難易度を跳ね上げる結果に繋がることが想像出来る
『この人は多分竜太と同じような性格なのだろう 』
少し前のクエストの依頼の中で、リリアは竜太という異世界から飛ばされてきた青年に出会っていた
正義感や道徳心を重んじる人で、他人の危機に自らの身を投げ打って他者を助けていた彼をふと思い出したのだ
「ごめんなさい。私この迷宮でどうしてもやらないといけないことがあるのでご一緒出来ません 」
「やるべきこと? それなら手伝ったら早いよ 」
そうなのである。この手の人は善意からなのか、必ずこのような解答をしてくることをリリアは理解していた
「大丈夫ですよ。それに一人の方が動きやすいので、心配してくれてありがとうございます 」
そう言って男に一礼すると、彼女はT字の左手の通路へと、向かって歩き始める
ここで立ち止まっていると、更に一緒に行動しよう攻撃が続くからである。竜太の時に彼女はそれを学んでいた
完全に言葉を止められた形の青年は、自身から遠ざかっていく、彼女を見送ると自分もリリアが通ってきた方の通路を歩いていく
それは今回のゲームが開催されて、初めての挑戦者通しの接触になるのであった