一話 魔法使い
一話 魔法使い
魔法使いとは一般的には魔法を使う人のことである。
魔法と言っても色々である。なにもないところから火や水を出して自由に扱ったり、体一つで空を自由に飛びまわったり。日常的に人の力だけで行うことができない超常的現象を使うことができることである。そういった魔法や魔法使いは昔から存在しており古い文献などにも残っている。しかし現代では空想の物として扱われ見かけることはない。
さて、私は魔法使いだ。名前はルカ・ヴィード、何代にもわたり生命に関する魔法を探求する家系に生まれた次期当主だ。現代の魔法は隠匿すべきもので一般人にはばれないように名を隠し、存在を隠しひっそりと探求されている。
まあ、魔法使いなんて身勝手な人ばかりだからひっそりなんてしていないけどね。私も九条琉夏なんて偽名を使って生活しているけどばれた時には魔法であっさりもみ消すし。あえてばれる危険性を増やすつもりはないので基本的には一般人とは関わらないようにしている。
しかし今私には頭を悩ませていることがある。ヴィード家では生命を作り出す魔法を探求している、家で私の世話をしているソフィーも母が研究の上に作り上げた生命だ。私の身の回りの世話をするために母が作り上げた使い魔として魔法によって命を吹き込まれてる。
日々私のすることをいちいち注意してくる、実の母よりもうるさい。言われたことしかできないしで面倒だ。そこでそろそろ私の使い魔を作り出そうと考えて準備をしていた。
「んーどんな使い魔にしようかなー?やっぱり人型かな?母さんは魔術人形に生命を与えてたけど」
「ルカ様、人型はよろしいですがまだ人体生命を作り出すのはおやめください」
「なに言ってんのよ、生命ていったら人でしょ?あんたみたいに融通が利かないの作るつもりなんてないもの。自分で考え行動できてこそ生命でしょ」
私が思う生命は人そのものだ。知能ありし自らの肉体をもって行動ができる者、それが私の考える到達点だ。ソフィーのように生命を吹き込まれただけでは所詮作り物でしかないのだから完全なる生命体とは言えない。
母さんは完全な人である生命体を一から作り出すのは魔法であっても危険すぎるからと言って試すことはなかったらしい。人を作り出すことは生命を探求する魔法使いの究極でありながらタブーとされているのだ。魔法使いが実験の危険を恐れてどうするのよって私は思うけどね。
使い魔を召喚する魔法陣を書きながらそこに人体生成を組み込んでいく。あとは私の魔力を流しながら想像を形にしていくだけだ。簡単そうに言っているが代々受け継がれてきた技術があってこそできる技である。
想像する、生命とは生きる者、生命とは知識ありし者、生命とは思考し行動する者、生命とは
「ルカ様、人体生命は男女が性行為を行うことにより誕生する神秘です。手を付けてはいけません」
そう、生命とは男女が性行為を行うことで生まれる者・・・・・・・・・って
「よけいな雑念入れるんじゃっ・・・!?」
「これはどうしたことでしょう」
ソフィーが作り出す過程で余計なことを言ったせいで想像してしまった。男女が作り出す生命、人、赤ん坊を。・・・・・・・別に性行為は想像してないわよ。と、とにかく赤ちゃんを想像してしまったのだ、具体的な生命の形をだ。結果その通りになってしまった、生成には成功と言ってもいいはず、自信はある。しかし生まれた見た目は完全に赤ん坊である。
「はぁ~、どうしてくれんのよソフィー」
「ルカ様、私はそもそもおやめくださいと言っていたのですが」
「だぁ?ぶーばぁ」
赤ん坊はソフィーと共に呆れた態度をとっている。なんだこの赤ん坊可愛くない・・・。いやいやそうじゃないでしょ私、とにかく使い魔として私と契約させよう。
「見た目は赤ん坊でも私の言葉理解できるでしょ、さぁ使い魔として契約するわよ」
「だっ!」
「拒否しているようですね」
「なっ!ふざけるんじゃないわよ!召喚された主人に抵抗するなんて!」
「んぎゃあああああああ!」
赤ん坊は必死に拒否の意志を見せつけるように泣き叫ぶ。ふざけている、召喚された使い魔が使い魔の契約を拒否するだなんて聞いたことがない。確かに自分で考えて行動できるようと考えて作り出したつもりだが使い魔の範疇を超えることは考えていない。
使い魔として召喚される工程である程度は召喚主に対して強制的に従うように組み込まれている。主との契約により生命を維持できるように魔力の提供を得るのだ、それがなければ使い魔なんてすぐに消えてしまう。それをこの赤ん坊は拒否するだなんて考えられない。
「あなたわかっているんでしょうね?使い魔は主の魔力供給なしに存在することはできないのよ」
「んーーだぁっ!」
「ルカ様、赤ん坊が自身の力で魔力を吸収していますが・・・・」
「そんなうそでしょ!?そんなの聞いたことないわよ!?」
「ふんすっ!」
こんなにも予想外のことが起こるだなんて想像していなかった。まさか人体生命がこれほどまで未知だなんて。使い魔として契約もできない、赤ん坊だから意思疎通も難しい(絶賛ドヤ顔で威張っているのは伝わるけど)、前例のない自分で魔力を補給する使い魔、これは嫌な予感しかしないわ・・・・・。
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予想は的中だった。まず赤ん坊の面倒が見れない、夜泣きはするわ、使い魔のくせに食事を要求するわ。赤ん坊の面倒なんてみたことないのにどうしろっていうのよ!しかも母さんの使い魔のソフィーはまったくあてにならない。身の回りの世話任されてるんだから働きなさいよ、なにが「赤ん坊の面倒は含まれていません、また扱いは使い魔なのでどうすればいいのか判断しかねます」って少しは順応しなさいよ。
「あーこのままじゃ埒が明かないわね。というか睡眠不足と過労で死ぬわ」
「早急に解決案を探さなければいけませんね」
「私たちじゃ面倒見れないんだから世話できる人を探すしかないわね」
そしてソフィーにここ一体の住宅にバイトのチラシを入れさして反応を見ることにしたがまったく反応がなかった。自分でも焦っていたのはわかっていたがよく考えればあんなチラシでバイトに来る人なんているわけがない。
そう諦めたところに一人だけ履歴書を送ってきた奇異な人がいたのだ。藁にもすがる思いで詳細を送り面接に来てもらったけど最初はダメだと思った。明らかにこっちを警戒して疑っていたし子供の面倒を見れるような人には見えなかったからだ。しかし言い合いになり流れで赤ん坊を手渡してみると不思議なことにうまくいった。なんであんな愛嬌のない顔してるのに子供に好かれるのかしら?まぁこれ幸いと預けてみることにした。
「ルカ様部外者を当家に雇い入れるのはよろしいのですか?」
「緊急手段よ、とにかく今は解決法がないんだから仕方ないでしょ」
「しかし魔法使いと知られた場合の対処が」
「そこのとこのリスクもわかってるわよ。そのときは消せばいいんでしょ?とにかくあの使い魔と契約してちゃっちゃと問題解決するわよ」
こうして少年の知らぬところで危うい天秤の上に命がのせられたのであった。