ボルタ編 その4 完結編
ボルタ編も大詰め。
いよいよ最終決戦です、
ジタンの全力攻撃が炸裂します。
ジタンに勝機はあるでしょうか。
いざ!勝負!!
11 首
ジタンは空中を跳ぶようにやって来た。
天足の術。
天に鳥形の凧を上げ、渡した糸につかまりショートカットをする。
鳥形の凧も『式術」によって自在に操作されていた。
文字通り空中を歩く様に移動する。
三匹の従者もそれぞれ天足を用いて続いていた。
森の入り口付近が最後の結界施設場所になっている。
魔法士の一団と護衛の衛士の一団が集まっていた。
風の様に現れたジタンに、周りに居合わせた兵士達はさぞ驚いた事であろう。
ジタンのいでたちはバロー鳥の大羽根二本を左右に刺したテンガロンハットを頭にかぶり、薄手の皮の手袋にブーツはいかにも軽装である。
黒く汚れたマントに金属の棒を袈裟掛けに担ぐ。
普通は鎧に兜であろう。
まして薄いチェニック風の上下の衣裳では吟遊詩人を想像させ、その姿は場違い間違い無しであった。
周りの兵士や魔法士からそんな風に思われてあるであろうが、ジタンはサッパリ感じた風も無く、中央に進み出た。
総司令部一団の先頭に黒のローブにつつまれたレインを見つけた。
レインの側近達が気づく前にジタンはすーと司令部の中に入り込んでいた。
『なぜ結界を閉じない」
ジタンの問いにレインは振り向き、答えた。
『ゴルディン総司令官が戻らぬ」
『な?!」
なんでゴルディンが中にいる?と眼で聞いていた。
わからん、とレインは首を横に振る。
『俺が中に入る、時間が無い。ゴルディンは」
その時、空から何かが人の群れの中央に落ちて来た。
いやな音をたてて地に転がる。
前線基地にしていたテントの前。
人が集まっていた所に落ちた為、どっと人が動いた。
人の輪が出来る。
ジタンはそれを見た。
『!」
レインも見た。
『・・・」
二人とも声が出なかった。
落ちて来たのはゴルディンの生首であった。
『なんてこった」
ジタンは唇を噛む。
衛士が慌てて首に近づこうとしたとき。
ゴルディンの生首、閉じていた眼がかっと開いた。
『お前達は生き残れない、ここが墓場になるのだ」
突然しゃべり出した。
『なんと」
レインの杖を持つ手が震える。
ー 死者に対するなんたる非礼か。
『ボルタは蘇る。彼の地を滅ぼす為に」
そう言うと口と眼、鼻、耳から黒い血を流し、静かになった。
レインが呪文を唱える。
右手に持っていた片手杖から火球が放たれた。
ゴルディンの首は炎に包まれていく。
突如、首は笑い声を上げた。
気味の悪い笑い声であった。
再びレインは火球を放つ。
ー ゴルディンよ、孫の成長を楽しみにしていたのではないか。
ー こんな死に方なぞしおって、陛下になんと報告しろと。
『レイン!」
ジタンの叫びで我に帰る。
『俺が入ったら、結界を完成させてくれ!いいか!」
『任せろ!」
だが、事態は深刻化していた。
時間が立ちすぎている。
ボルタもどきをは森の出口、すぐそこまで来ていた。
ー まずい。
『レイン!、皆を下がらせろ!真空を使う!」
一刻の猶予も無かった。『!」
ジタンが走り出した時、レインは小さな巾着袋を空中に放り投げた。
同時に。
ポンとジタンの手の中に現れた。
レインの手妻であった。
ー クレハの雫だ、貴重な二粒だが持っていけ。
ー かたじけない。
心話であった。
禁断の雫、白色に輝く美しい結晶。たった一粒の価値は一抱えある樽10個に黄金をいっぱいにつめても足りないと言われている。
王国の秘宝である。
その雫をレインはあっさりジタンに渡す。それも二粒も。
ジタンもあっさり受け取り、懐の小袋にしまう。
森の入り口手前まで、既にボルタもどきを近づいていた。
空中からの雷撃が続いている。
最後のささやかな攻撃であった。
『よし!さがれ!あとは俺がやる!」
空中攻撃部隊が下がる。
同時にジタンは両手を上げ、大きく振った。
風が集まってくる。
木の葉が踊る。
裂帛の気合と共に眼前に巨大な竜巻が発生した。
土煙が舞う。
ジタン必殺の『真空」であった。
風が幾重にも重なり合い、渦を巻いていく。
竜巻は一つから二つに、三つに分かれボルタもどきを押し戻す。
風がぶつかり合い、轟音か響きわたる。
『すごい」
兵士達はあっけにとられていた。
魔法とは異質な力である。
『結界を完成させよ!」
レインの号令と共に、魔法士達から封印の槍が森の入り口に向かって次々と放たれて行った。
光輝く槍が整然と打ち込まれていく。
甲高い金属音が辺りに響いた。
大結界が完成した。
封印の槍で作った輪が閉じたのだ。
ー 真空は精神力を容易く削ると言っていた。クレハの雫が役にたてばよいが。
結界が完成したとはいえ、安心出来る状態ではなかった。
『使える魔法士はあとどれだけ居る?」
レインの問いに側近の一人が答えた。
『あと十人程、いるかどうか、でしょうか」
連日の封印作業と空中攻撃とで魔法士の大部分は疲弊していた。
ほとんどの魔法士は魔力を使い果たし、動ける状態ではなかった。
ー 無理もない。最初から無理難題だったのだから。
それでもレインは号令を掛けねばならぬ。
ゴルディンの死を悲しむ時間も無かった。
『私も出る。動ける魔法士を集めてくれ。結界の監視に入る」
『直ちに」
『それと、衛士長に連絡を取って退避準備を速やかにせよと伝えてくれ」
『は?退避準備ですか?」
『そうだ。結界が持たなかった場合、もしくはジタン殿が敗れた場合は直ちに避難せねばならぬからな」
側近はこれで事態は終息すると思っていたのであろうか。
『避難ですか?」
まだピンとこない側近にレインは静かに言った。
『ボルタもどきが結界を突破すれば、我々にはもう止める術が無い。できるだけ速やかに避難せねばならぬ」
『それは、また」
側近は声を失った。
まさか、と思っている。
『急げよ、一つ間違えば一人も生き残れないぞ」
顔色を失った側近はバタバタと連絡に駆けていった。
ー たつた十数人でこの結界を守る羽目になるとは。
彼もまた魔力を十分消費していた。
痩せた身体にムチを打ってやっと立っていた。
50万の民の血をすすった魔獣は巨大な力放ちながら、王国に近づいくる。
まだ血が足りないのか?
レインは片手杖をたずさえ、毅然と立ちつくしていた。
12 死闘
結界に閉じ込められた為、ボルタもどき全てが一カ所にかたまり更に巨大に膨れ上がっていた。
力で結界を破壊する気だろう。
簡単には突破できないはずではあるが、いつまでも持つものではない。
時間は限られている。
巨大化し膨れ上がったボルタもどきは、黒い身体の左右に5本づつ、10本の長い足を起用に動かしながら高速で移動し、高速で足の先爪で襲い来る。
胴体の端に小さな頭部が、赤く光る眼は人間の眼、そっくりである。口は裂け牙が密集していた。
その口から奇怪な叫び声を発する。
気持ちが悪くなる、金切り声に近い。
ジタンは魔獣と化したボルタもどきの正面にひらりと立ち、巨大な岩石をも砕く禍禍しい爪の攻撃を、金属の棒『聖棒ロッド・ステア」一本で防いで見せた。
岩石を真っ二つにする爪も、ロッドステアに弾かれる。
鋭い爪もロッドステアに破壊されらる。
ロッドステアにはヒビ一つ付かない。
ただのロッドではない。
ジタン流棒術、自称ではあるが、ー 多分正式な名称があるのだろうが ー 高速攻撃の爪を全てはねのけてしまう。
棒術の一つ、『千手変化」
ジタンが棒を振ると、文字通り千の棒に変わり、旋風を起こし、ボルタもどきの攻撃を跳ね返していた。
ひらりひらりと紙一重でかわしながら、ジタンはじりじりと後退する。
ボルタもどきの爪足は森を破壊していく。
森の木々はなぎ倒され、地面をひっくり返す、デカイ岩石がむき出しになりあちらこちらにゴロゴロと転がり、その姿を現していた。
三匹の従者も果敢に挑む。
『ほい!」
飛び猿の大型十字手裏剣が、うなりをあげてボルタもどきの足を切断する。
『えい!」
猫娘が空中から爆裂剣を続けざまに投げつける。
黒い背に突き刺さり、瞬間、起爆符が爆発する。
爆音とともに炎がボルタもどきを焼く。
『む!」
犬丸は両刃の千斧を振り襲い来る爪足を叩き切る。
高速攻撃をしのぎながらボルタもどきを圧倒していた。
しかし、ボルタもどきは50万の血を飲み込んだ魔獣である。
切断した足は即座に再生し、高速攻撃に転じる。
爆発された背もすぐに塞がってしまう。
ー 5秒でいいから、その間が稼げれば。
三匹の従者にジタンはそう告げていた。
5ミル・カルナの間さえあれば、精神統一できる。そうすれば指輪を使う事が出来るはずだ。
ー だからと言って、決して無茶をするな。
ジタンはしっかり釘を刺していた。
無尽蔵のエネルギーで動くボルタもどきは決して攻撃の手をゆるめなかった。
更に攻撃の速度は上がっているように感じる。
度重なる高速攻撃で三匹の避ける動作が明らかに鈍くなっていた。
間一髪で避けていた筈なのに、皮膚を裂いて赤い血が流れる。
三匹それぞれに細かな傷が増えていた。
出血すればそれだけ体力が奪われる。
ジタンも傷が増えていた。
避けきれない、防ぎきれない、攻撃によってぎりぎりの傷がつく。
そして出血する。
『皆!下がれ!」
三匹が掛け声と共に後方に一気に下がった。
追撃するボルタもどきに、ジタンは懐の紙片を空中に放った。
人型の紙片は人の姿に転じた。
数は6。
ジタンが操られる最大の数である。出し惜しみはしない。
6人のジタンが空中に現れ、ボルタもどきの周りを遮る。
『式神分身」
幻影の如く現れた分身はボルタもどきを翻弄した。
しかし動きを抑え込むまではいかない。
目くらまし程度である。
まして長くは持たない。
強力な爪は式神を捉え、四散する。
二つ三つと紙に戻り消えていく。
ジタンは式神の影に隠れ天足を使い、空中に飛翔した。
空中から空中に跳ぶ。そしてダイブ。
急降下しながら右手を上げて袈裟掛けに振り下ろす。
指先から三日月状の白いハーケンが唸りをあげて放たれた。
『真空手刀拳」
続けざまに放つ。
真空のカマイタチがボルタもどきの10本の足を切り刻んでいく。
魔獣が叫び声をあげる。
足を切断すれば動けなくなるはずだ。
たが再生するのも早い。
更に。
『なんと!」
ボルタもどきの膨れ上がった黒い巨体から無数の足が生え始めたではないか。
足の長さが数倍に伸びていた。
『化け物め!」
ボルタもどきは全身から叫び声を上げた。
衝撃波が無差別に襲い来る。
結界が軋む。
結界が崩壊してもおかしくない衝撃波た。
ー 結界が崩壊寸前であった。。
だが、まだ持っている。
無数に増えた爪の攻撃は更に速度をあげてきた。
次々とジタンを襲う。
ロッドステアでからくも防ぐが、ジタンの体力も消耗している。
数度の攻撃でジタンは吹っ飛ばされていた。
黒い塊から生えた爪足が間髪をおかず凄まじい速さで襲い来る。
後ろに結び束ねた長い髪が、根元で切断された。
少し深ければジタンの首は落ちていたであろう。
ついでにマントも裂け、ズタズタになった。
正面から伸びた爪がジタンの頭をかすめる。
トレードマークの二本の羽根つきのテンガロンハットを真っ二つした。
額にうっすらと傷が浮き、血が滲む。
どれも間一髪であった。
それでも岩石がむき出しになっている、巨石の上にふわりと立つ。
ジタンは一息、呪を唱える。
二つに割れたテンガロンハットにあった二本のバロー鳥の羽根が、白く輝き勢いよく飛び出す。
『雷撃の矢」
魔獣の赤く光る眼を居抜き、爆発した。
同時に両手を前に突き出す。
革手袋10本の指先が白銀に光る。
『光子弾攻撃」
手袋に仕掛けられた光子弾が放たれた。
次々と魔獣の足を破壊していく。
式神、真空ともに、莫大な体力と精神力を消耗していく。
隠し武器も出し尽くした。
既に全身傷だらけであった。
テンガロンハットを失い、マントはぼろくずである。
手袋も光子弾を打ちボロくなり、捨て去る。
服は切り裂かれ、血が滲んでいる。
ロッドステアを杖代わりにして、ゆらりと立つ。
しかし魔獣もジタンの連続攻撃に再生が追いつかないようだ。
それでも、まだ動きは早い。
動きの遅くなったジタンに魔獣は狙いをつけ、とどめを差しに向かった。
『ジタン殿!」
この時、三匹が行動を起こした。
『!」
ジタンは三匹の行動を察した。
『馬鹿!まて!」
◆◆◆
レインは残る魔力を振り絞り、結界の防御を行っていた。
彼に付いてきた使える魔法士は筈かに14人であった。
使えると言うだけであって、全員魔力は残り僅か。乏しい戦力であった。
レインを含め全員疲弊していた。
それでも彼らは懸命に結界の防御を行う。
封印呪の弱まった槍に乏しい魔力を注いでいる。
そう長く続くものではなかった。
結界は既に限界に達している。
ボルタもどきの発する凄まじい衝撃波は結界の寿命を縮めた。
一人、また一人と精神力=魔力を使い果たし倒れていく。
刹那の時がなんと長いことか、レインは歯をくいしばり、立ちつづける。
レインの他にあと二人、若い魔法士が頑張っているが、倒れるのも時間の問題だ。
ー クレハの雫があと一粒ある。
ジタンに渡した物と同じ物である。
ー これを使えばまだ持つかも知れぬ、しかし。
クレハの雫は禁断の結晶である。
使用した術者の魔力をある一定時間数倍に増幅する禁断の秘薬であった。
プラスするのではない。
一定時間単純に増幅するだけである。
ただし、時間がすぎても魔力は元に戻るのではない。
増幅して使った分、ごっそり持って行かれる。
元の状態より悪くなる。
魔力=精神力が足りなければ生命力を削り、魔力として清算してしまう。
つけを払わされるのだ。
レインが今の状態でクレハの雫を使えば、効力が切れた場合どうなるのか、知れていた。
命が持たない可能性がある。
出陣の際、ラディオン陛下からきつく言われている。
『必ず生きて帰って来るんだぞ、レイン」
そう言われている。
『生きて帰ってこその勝利だぞ」
『御意」
レインは陛下にしっかり約束している。
だが、残った二人も次々と倒れていった。
レインはすかさずクレハの雫を口に含んだ。
迷わない。
魔力がドンと膨れ上がるのがわかる。
膨れ上がった魔力を一気に放出した。
魔力を残す気は無い。
限界に達している結界を支える。
ー 陛下、申し訳ありません、約束は守れそうもありません。
◆◆◆
同じ頃。
ラディオン王は近衛兵小隊を引き連れ、第一線に出撃しようとしていた。
実践用の鎧兜に盾、飾りも何もない簡素な出で立ちであった。
ただ、腰の剣は金色に飾られた宝剣であり、マントは黄金に輝く王者の物である。
アンバランスではあったが、手元にあった物を適当に身につけた結果であった。
突然の出陣であった。
予感がしたのか、胸騒ぎを覚えたのか。
側近達は必死に止めようとしていたが、いてもたってもいられないラディオン王は出撃の檄を飛ばしていた。
ゴルディンの戦死が告げられた後であった。
その時、伝令がほうほうの体で転がるように、王の御前に現れた。
伝令は年若い魔法士であった。
遠距離を高速で駆けてきたのであろう。
疲弊した顔が痛々しい。
フードのマークは沿岸部の国境監視の者だ。
『たいへ、ん、で、す」
息が切れる。
『一体どうした?」
近衛兵の一人がかけより、抱えおこし問うた。
『国境付近に、と、突如、赤いフード、の魔法士団が、数はおよそ100かと」
『なに!」
ー このタイミングで国境を越える一団だと!?
赤いフードの魔法士などこの近隣界隈で聞いたこともない。
他国の侵略?にしてはおかしい。
しかし国境を超えたとなると、捨て置くわけにもいかない。
ー いったいこれは?迎え打つ戦力は既に無い。
思わず、ラディオン王は遥か遠方の国境の方角に振り向いていた。
13 魔法龍
猫娘が高速飛翔した。
飛び猿が天空から垂直降下する。
犬丸が正面から頭部に向かい跳ぶ、
猫娘は水平移動でボルタもどきの真横にできた傷口を狙う。
身体、腹周りに微塵爆破の封印筒を20本くくり付けていた。
飛び猿も犬丸もまた爆薬を同様に巻きつけている。
三匹の従者はあらかじめ作戦を立てていた。
その時が来たら。
50年前、実験動物として破棄される運命であった。
ジタンにより実験室から救い出されて、今に至る。
楽しかった事しか思いだせない50年であった。
ジタンと共にこの世界の果てまで旅をした。
あっと言う間であった。
三匹は跳ぶ。
『この命使うは、今がその時」
同じ思いであった、
猫娘がボルタもどきの横腹に空いた傷口に向かう。
かぎ爪の足が幾本も伸びてくる。
高速で交わす。
交わしきれない爪が、右腕を切断する。
左足が消し飛ぶ。
かまわず跳ぶ。
『ジタン様、サヨナラ」
瞬間、猫娘の首がはねられる。
首を失った胴体は勢いよく傷口に突入した。
飛び猿は真上より降下する。
かぎ爪が幾本も襲う。
間一髪で避けていく。
避けきれない爪が両腕を切断する。
かまわず背中に空いた傷口に急降下する。
『ジタン殿、さらば」
瞬間、飛び猿の首がはねられる。
首を失った胴体は一直線に傷口に飛び込んでいった。
犬丸は正面の破壊された頭部に向かった。
傷口が再生されていく。
犬丸も高速で跳ぶ。
かぎ爪が高速で襲い来る。
両刃の戦斧ではじき、再生してくる頭部に投げる。
仕掛けてあった爆破符が起動し破裂する。
頭部の再生が遅れる。
すぐに爪が襲い来る。
犬丸は避けない。
左足が切断される。
右腕が消える。
『ジタン殿、御免!」
瞬間、犬丸の首が跳ぶ。
首を失った胴体は真っ直ぐ頭部の傷口に突っ込む。
三匹の同時攻撃であった。
微塵爆破の封印筒がボルタもどきの中で大爆発を起こした。
微塵爆破は爆破符の中でも最大級の破壊力がある。
だがとどめを刺すまでにはいかない。
内部から破壊されてもすぐに再生を始めていた。
恐るべき生命力である。
ジタンは少し離れた岩石の上にいた。
『早まったことを、・・・」
懐からクレハの雫を取り出し、口に放り込む。
どのような結果になるかは良く知っている。
この期を逃してはならない。
三匹が命を使って作った僅かな時である。
魔力=精神力がドンと膨れ上がるのがわかる。
意を決する。
懐からもう一つの袋を取り出す。
赤い瞳の指輪をつまみ出し、右手中指に装填した。
指輪をつけた瞬間、意識が指輪に行き成り引っ張られた。
精神が底の見えない闇の巨大な穴に落ち込んでいく恐怖が実体化した。
油断すると全ての精神力魔力が指輪に吸い込まれてしまう。
全てを投げ出したくなる、甘い誘惑が指輪から忍び寄る。
大きく息を吸い込み、精神統一をする。
ルーンの呪を唱え、焦る気持ちを整える。
真っ直ぐ右腕を前に前に出し、拳を突き出す。
中指の指輪が輝きを増す。
破壊された筈の魔獣ボルタもどきが、咆吼をあげた。
空気が震える。
この時、結界が崩落した。
何かがはぜる感覚がした。
『これで終わりだ!」
赤い瞳から赤い光線が走った。
一閃。
ボルタもどきの黒い巨体が赤い光球に包まれた。
赤い光が急激に膨らむ。
魔獣の叫び声が轟く。
ジタンはその場に崩れ落ちた。
一撃でクレハの雫の効力が消滅していた。
赤い光球はボルタもどきを包み膨れ上がるが、そこから外部に広がったエネルギーが内部の中心に反転した。
『爆縮」
内部に向かって超高熱が集中していく。
エネルギー光球が赤い輝きに変わる。
中心のボルタもどきを焼き尽くしていく。
火炎龍の熱き眼差し(ヒートビジョン)であった。
ボルタもどきを焼き尽くすまで爆縮は終わらない。
ー 我を使うとは、たいしたものよ。
ジタンの意識に流れ込む何かがいた。
ー 誰だ?
ー 火炎龍の残留思念と言えば近いかもしれぬ。
ー そんな意識が指輪に?
ー まさに魔法龍の系譜よ。
ー ・・・
ー ドラゴンリングを全て持つ物は、世界の果ての向こう側に行ける。お前はその伝説を信じて、リングを探しているのだろう?
ー さて。
ー ふふ、火炎龍の瞳は五つある。リングも五つ存在するのであろうな。そなたは幾つ手にいれたのか?
ー さて。
ー 我を五つ揃え果ての扉を前にしたとき、再び会えるかもしれぬ。
ー ・・・
リングの意識はそこで沈黙した。
ー そんなことは知っている。今さら・・・。
意識を何とか保つことができた。
しかしごっそりと精神力と体力を持って行かれていた。
上体を起こすこともままならない。
指輪はなんとか外したようだ。
手の中でしっかり握られていた。
無我夢中で外したのだろう。
そのまま指輪をはめていれば、全ての精神力、魔力、体力を奪われていたはずである。
少しして、小高い岩の上で文字通りボロ雑巾の様子で上体をゆっくり起こすことができた。
短い時間で上体を起こすまで回復するジタンの精神力は聞きしに勝るものがある。
普通に絶命していてもおかしくないはずだ。
事実、生命力も削られ身体はボロ雑巾になっている。
森が消え、瓦礫の世界に変貌していた。
瓦礫の中心に赤い光球に包まれたボルタもどきが焼かれている。
声が、かすかな声が聞こえる。
『くちおしや、ちがたりぬ、く、くちおしや・・・・・」
ボルタもどきの最後の戯言であろう。
......
ロッドステアを杖代わりにしてやっと立ち上がる。
懐から二つの小袋を取り出す。
一つ袋からクレハの雫を取り出す
一つ袋の小さな口紐を解き開ける。
クレハの雫を口紐を解いた小袋に入れた。
すると小袋の中で細かな光の粒が幾つも生まれた。
袋の中から、光の粒が幾つも飛び出してきた。
光り輝き宙を舞う。
ー お兄ちゃん、ありがとう。
ー 怪物は倒した。
ー うん。
それは、あの少女スエの声であった。
ジタンがスエの心を魂魄の結晶に変えていたのだ。
『家族の元へ行きなさい」
ー うん、かあさんが呼んでいる、ありがとう・・・・。
光は空中をクルリと舞うと空に上がり、そして溶けるように消えた。
・・・・・
赤い炎は三日三晩燃え続けた。
炎が消滅した後には白い灰の塊が残った。
一陣の風が舞うと白い灰の塊は崩れ落ち、飛ばされて行く。
後には焼けただれた瓦礫の大地が残った。
◆◆◆
ラディオン王は赤いフードの魔法士達が国境付近に突如現れた時は、さすがに肝が冷えたようだ。
謎の魔法士団現る、である。
すぐに正体を明かされた。
中央大陸ゾーンの最南端の王国エンガイヤの魔法士達であった。
だが、この世界では大陸間の親交などは有りはしない。同じ大陸内でも他国の動静はわかりづらい所がある。
今の時代、侵略戦争をやる理由が無いため、あまり他国に干渉しないのかもしれない。
『ジタン殿からの依頼ではせ参じました」
エンガイヤ魔法士団、団長がラディオン王に挨拶をした。
『ジタン殿が?」
じつは夢見のわがまま姫からの強い依頼が元ではあるが、話しがわかりにくくなるので『ジタン殿からの」になった。
ジタンの事ならば、ラディオン王も納得するはずと言いふくめられていた。
ポカンとする王ではあるが、事態が切迫しているため略式で挨拶を交換し、事に当たることになった。
ラディオン王にしてみれば心強い援軍ではあるが、やはり胸騒ぎは収まらなかった。
彼らは既に事態の重要度を聞いているし理解している。
すぐに100人の赤い魔法士達は現場に向かう。
馬よりも速く、空中を移動する。
赤い魔法士達が森であったであろう場所に到着したとき、結界の封印が砕ける時に発生する、空間を刺激する音が響いた。
『結界が崩落したぞ」
しかし魔獣の気配は無かった。
彼らは森の入り口付近で倒れている、十数人の魔法士を見つけた。
最後まで結界の防御を行っていた部隊である。
すぐに手当てが開始された。
魔力を使い果たし、気絶したらしい。
その中に、神官長のローブを纏う者を見つけた。
うつ伏せに倒れて動く気配が無い。
師団長が報告を受け駆け付けてきた。
ラディオン王より、くれぐれも速く安否の確認を頼まれていた人物に間違いない。
レインであった。
干からびたミイラのごとく、変貌していた。
駆けつけた治療専門の魔法士は、一目見て首を横に振る。
既に心臓は止まっていた。
遺体を回収しようとした時、後ろから声をかけられた。
『まて、まだ動かすな」
そこにジタンが幽鬼の如くいた。
ジタンがボロ雑巾のようになってはいるが、しっかり自分の足で立ち、そこに居た。
『そなたがジタン殿か?彼はもう...」
『クレハの雫に生命力を奪われてたのだ、まだ間に合う」
『なんとクレハの雫を、それはまた、...」
魔法士達は言葉を失う。
レインの痩せて干からびた身体を仰向けにする。
ジタンはレインの身体の上に手のひらを当て、呪を唱え始めた。
辺りがボワと明るくなったようだ。
『師団長殿、姫から預かった物はないですか?」
『あぁ、そうだった、役にたてばとこれをジタン殿に渡してくれと頼まれました」
師団長かは手のひらにチョコンと乗る程度の果実を渡した。
ー やはり彼女は予知をしていたか。
赤いリンゴよりやや小さい果実であった。
ー レイナスの宝珠。こんなものまで有るとはね。
治療法師にレインの口を開けてくれるよう頼む。
ジタンは果実を片手に握るとレインの口の上で握り潰し始めた。
周りにいた魔法士達は一様に驚いた。
『レイナスはこれが一番だよ」
真面目顔でジタンがつぶやく。
神秘の果実、レイナスの宝珠を握り潰すとは想像がつかなかった。
握り潰された果実から黄金色の果汁が滴り落ち、レインの口に注がれていった。
小さな果実から思いのほか大量の果汁が絞られ、一滴残らずレインの口に入った。
変化はすぐに現れた。
レインの枯れた身体全体が蘇る。
『上手くいったね」
唯々、皆は驚くばかりである。
レイナスの宝珠と呼ばれる果実は、生命力再生の力を持つ神秘の魔力を秘めていた。
やはり国宝級の価値がある。
ジタンはその秘宝を無造作に使って見せたのだ。
ー 私は助かったのか?
レインの心話が伝わってきた。
ー なかなか死ねないね。
- 陛下との約束を守れてよかった。
ー また変な約束をしてたのか?
ー お前には関係ない。
ー はい、はい。
ジタンは声にだして笑って見せた。
周りの者達は急に笑い出したジタンを奇異の眼で見ていた。
エピローグ
アルバンの街で奇跡的に生き残った者は1000人程であった。
あの魔獣から良く生き残ったものだ。
街は壊滅状態である。
街の中心には未だにボルタの要石が赤く染まり、鎮座していた。
巨大な街が一夜にして滅んだ噂は瞬く間に広がった。
いらぬ不安を消す為ラディオン王は部隊を派遣し、秩序の回復を急いだ。
レインはまだ体力が戻らぬまでも、指揮を執り今回の事件詳細、調査に乗り出していた。
調査は困難を極めた。
ほとんどの住人が死んでいるのだ。
その中で、ポツリポツリとパーツが揃うよいに、少しづつではあるがわかってきた事があった。いや不自然な所が浮き上がってきたと言えばよいか。
事件のきっかけである、有力者の一人娘の婚礼。
まず、その相手がわからない。
隣国の学者のたまごらしいランスと言う男。
いくら探しても隣国にランスなる人物は存在していない。
どこの誰だったのか!皆目わからない。
たった一人の出目が突き止められない、とは異常であった。
それと街の有力者である父親の豹変である。
一人娘の婚礼と言うだけで、金を湯水のように使うこと事態が不自然であった。
彼は知る人ぞ知る倹約家であったのだ。
その彼が娘の為に豪邸を新築したり、式場を新しく立てたりするだろうか?
まして職人用の宿舎や繁華街の建設まで関わっている。
彼は娘の為に全財産を使い切るつもりだったのか?
職人も1000人以上集まったとしているが、城下町にそのような募集は無かった。
城下町周辺の村や町にもないようだ。
職人募集はアンバルの街周辺しかしていないようだ。
だがそれでは職人は1000人は集まらない。
では職人達はどこから来たのか?
足取りが摑めなかった。
プツリと手がかりが切れてしまう。
そして豪雨災害である。
通常あれだけの雨が降れば河川位は氾濫をするだろう。
だが山に降ったらたどうだろう。
都合良く山には木が無い。
婚礼準備の為ごっそりと山の木は切られ丸裸にされていた。
都合良く大雨が降り、地盤が緩み山は崩れた。
その山の中腹に偶然、祟り神を封印した社があった。
山津波が発生し社が破壊されている。
偶然にしては出来すぎている。
レインはこれらの報告を受け、アンバルの災害は仕組まれた災害ではないか?と考えていた。
祟り神を復活させたい勢力があるのか?
しかし、人心を操り、天候を操作する事がはたして可能なのか?
謎が深まるだけであった。
ジタンはレインの回復を確認した後、王国を出た。
ラディオン王にも、レインにも別れを告げずに姿を消した。
ゴルディンの葬儀にも出ていない。
レインが城に戻りベッドで安静していた頃に一度ジタンが訪れた。
その時少し話しをする事ができた。
『ジタン、今回の事態。私は悪意有る者の作為を感じる」
まだ声に力が入らない。苦しい息で言った。
『うむ」
『これが何かの始まりでないかと、..考えすぎかもしれんが」
『陛下には、なんと?」
レインは薄く笑って言った。
『まだ何も、入らぬ心配かもしれぬ」
『そうだな」
『これから調査を開始していけば、わかることもあるだろうが」
『.....」
『破壊された社は早急に立て直す。他の社も確認中だ」
『うん」
しばらく沈黙が続く。
『レイン、俺はもう直ぐ、出発しようと思う」
少し驚く。
『そうか」
『また暫くしたら来るよ」
『わかった」
ジタンはそれっきり姿を見せず、誰にも別れを告げずに出発したようだ。
レインは気づいていた。
これが今生の別れになることを。
ジタンは何も言わぬ。
◆◆◆ そしてプロローグ
ジタンは街道から随分はずれた獣道から、ザーン山脈に連なる森林地帯に向かっていた。
奥に進むと次第に巨木が目立ち始める。
決して人が立ち寄らぬ、人外の森が続いていた。
凶悪な獣や、妖魔、怪獣が闇に沈んでいる。
奇怪な鳴き声があちらこちらから響く。
昼なお暗い森林を歩く。
厚く積もった枯草や枯れ葉を踏みしめて、森の奥を目指す。
時々ロッドステアで朽木を破壊しながら進む。
森林の更に奥に失われた古代の遺跡がある。
その遺跡のほぼ中心に門がたっていた。
大陸と大陸を結ぶ、古代の門。
転移の門と呼ばれていた。
ジタンはそこを目指していた。
なぜ、そんな遺跡が森の奥に有る事を知っているのか?
迷うことなく古代遺跡の門へ向かう。
失われた技術によって作動する門であった。
複雑な技法とあるアイテムを使う事により作動する。
彼はそれらを会得していた。
ジタンが誰よりも速く大陸を移動できる手段であった。
ジタンは新調した青いマントを翻し森の奥に消えて行った。
更なる大地に行くために。
ボルタ編 完
マジックドラゴン 2 へ
ボルタ編完結です。
次回はマジックドラゴン 2 列強編(仮)
今回の物語はマジックドラゴンの全体の中で後半部分になると思うのですが、
次回は全体の中の中編辺りになるでしょうか。
こう御期待あれ!




