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天条光短編物語集

青春は永遠に

作者: 藤原明(特訓中)

藤原明の特訓練習作品①


よろしければ読んでください。

 8月のとある某日。真夏の日差しが照りつける時期に俺、大川 大助は実家に帰省していた。

「やっぱり故郷が一番だよな~」

 手に持ったペットボトルを片手に町を見渡す。視界にはまず入るのは田んぼ、田んぼ、田んぼの風景だ。

 俺の故郷、神風町は県の中でも自然の多い町で、地産地消をスローガンに掲げている。そのスローガンの元町にあるスーパーには神風町産という商品が数多く並んでいる。

 そして川や山、そして海に囲まれた自然豊かな町風景。俺も小さい頃は良く川に泳ぎに行ったり、神風山に登ったり、海で泳いだりした。

 そんな思いで浸っている間に一軒の喫茶店の目の前にいた。

「喉が渇いたし、何か飲むか」

 鞄に閉まっていたペットボトルの残量を見ながらそう呟く。

 そんな俺の目に看板の文字が移った。

「青春の一杯……なんか懐かしいな」

 そう何かを思い出しながら、俺は店のドアを開けた。

 店内に入った俺に「いらっしゃいませ」の声が耳に入ってきた。雰囲気の良さは変わらないな。

 店員の方に席まで案内される。窓からは神風山が見える悪くない場所だった。

「何かオススメのドリンクはありますか?」

 と店員の方に質問をする。

 すると店員の方はニコリと笑いながら、メニュー表にあった文字を指差した。

「あ、アイスなんですか? オススメ」

「はい!  こちらの「君の心のような甘い甘いーーマンゴーアイス」は私のイチオシです」

 親指をビシッと立てて俺に向けてくる。

 まぁ、そこまで言うなら……

「その……「君の心のようなに甘い甘いーーマンゴーアイス」ください」

 メイド喫茶か!

「はい。かしこまりました」

 注文表のような紙にオーダーを書き終えると店員の方は調理場に走っていた。

「大助くん?」

 一息ついていた俺の耳に聞こえてくる優しい声。

 俺はその声に頭を上げる……するとそこには……

「玲奈さん?」

「そうだよ。で、やっぱり大助くんなの?」

「うん。そうだよ」

 長い髪をいじりながら、俺に声をかけてきた女性。

 髪は黒いのロング、そしてカチューシャを身に付け、まるでお姫さまのような雰囲気を醸し出している。

 俺の高校生の同級生、小川 玲奈の姿がそこにあった。

「なんでここにいるんだよ」

 俺はちょっと口調が荒くなってしまった……だって緊張するんだもん。

「大助を探しに……」

 玲奈の言葉に、俺の心臓の鼓動が早くなる。

「というのは嘘です……(うん……嘘だよ)」

 どう驚いたと言わんばかりの表情で俺を見つめてくる玲奈。高校生の頃と変わらない満面の笑み。

「嘘は言うなよ。泥棒の始まりだぞ?」

 と、ちょっと親父ギャグで場を和ませようとする。

 しかし、玲奈は何かを考えているようだった。

 そして、何かを決心したように口を動かした。


「私とデートしない?」

「い、今なんて言った?」

 俺は思わず聞き返した。

「だから、私とデートしようって言ったの、耳大丈夫?」

 俺のポカンとした表情を見てからかうような声を出す玲奈。一方の俺はそんな玲奈に突っ込みをする余裕はなくて、

「……」

 むしろ固まってしまった。人生が終わってしまったような。

「嫌なの?」

 そんな俺の姿を見て、悲しそうな瞳で見つめてくる。その瞳で我に返った俺は元気な声でこう口にした。

「嫌じゃないよ!! むしろ大歓迎だから」

「良かった!! じゃあ今すぐ行こうよ」

 というわけで俺はデートに行くことになった。


 頼んでおいた君のような甘い甘いーーマンゴーアイスを食べ終えて、俺は会計を済ませる。

 玲奈はその間にデートの場所を検索していた。

「やっぱりデートと言ったら遊園地だよね」

 真夏の炎天下の中、楽しそうに顔をしている玲奈。そして俺にスマートフォンの画面を見してきた。どうやら今回は遊園地に決定したらしい……というか何で俺とデートしたいなんて。

「このデートはあ・そ・び。言葉の遊びよ」

「なるほど。そうゆうことか」

「うん……(何で気づかないのよ)」

「何か言った?」

「何も? というかバス来たし早く乗ろうよ」

「お、おう」

 玲奈に背中を押されてバスに乗った。玲奈の顔はどこか不機嫌そうに見えた。

 バスの中は涼しい冷気で満たされていて、夏の暑さを忘れさせてくれた。俺と玲奈は一番後ろの空いている席に座った。

「バス空いてるね」

「いや……凄く混んでますけど……」

「そうかな? 都会のバスよりは空いてるよ?」

「そうかな……」

 バスの中……乗客の軍隊みたいになってますけど?

「で、今日どこの遊園地に行くんだ?」

 様子の可笑しい玲奈を見て、話題を変える。

 すると玲奈は「それはね……」と言ってバックから雑誌を取り出した。なんか最初から行く気つもりだったみたいだな。

「神山ワンダーランドだよ? 知らない?」

 俺の顔を覗き込むように見てくること玲奈。

「知ってるよ! テレビでも紹介されてたし」



 神山ワンダーランド。

 神風町の隣にある神山市内にある遊園地。

 開業は去年の4月。観覧車やジェットコースターを始めとする定番アトラクションから、神山ワンダーランド限定のアトラクションなどがあり、人気の遊園地だ。


 それから一時間ぐらいバスに乗り、神山市ワンダーランド行きの直通バスに乗り換えた。

 バスの窓からは見えるのはビル街だ。高層マンションや高層ビルがあちらこちらに乱立し、市内を歩く人々の十人十色のファッションに目を奪われ、

「何見てるのかな?」

 と、玲奈の気分を悪くしてしまった。

「コンビニの大弾幕見てただけだよ」

「二言はない?」

「何その遺言はない?みたいな聞き方」

「遺言はない?」

「いや、聞き返さなくていいから……」

 バスの車内に響き渡る楽しげに話す俺と玲奈に乗客の視線が集まっていた。すいません……静かにします。

 それから一時間後。神山ワンダーランドに到着した。

 入園チケットを買って中にはいる。夏休み中ともあって園内は多くの家族連れやカップルで溢れていた。

 俺と玲奈はまずジェットコースター乗り場に移動した。乗り場の前には長蛇の列が出来ていた。

「後、何時間待つんだろうね?」

「多分。一時間は固いよ」

「そっか……じゃあ高校の時の話しない?」

 それまでいじっていたスマートフォンをバックにしまうとそう会話を始める玲奈。

「別にいいけど」

 高校生の思い出とか嫌なやつしかないけどな。

「私に告白したの……覚えてる?」

 恥ずかしそう言葉を口にする。ていうか、いきなりその話題かよ。

「覚えてるさ……当たり前だろ」

 あれは高校二年の六月のとある日。放課後の教室で俺は玲奈に告白した。まぁ、結果はお察しの通り「ごめん」だった。その時の光景は鮮明に記憶に残っている。

「そうだよね……」

 玲奈は苦しそうにアハハと笑って見せた。

「別にあの時の事は恨んでないからな」

 辛かったです……。

「その……」

 玲奈が何かを言おうとしたその時。

 柄の悪い男二人に殴られた。俺は何もしていないのに。酒にでも酔ってるのか?

「な、何すんだよ!!」

 他の列に並んでいた人々はパニックになっている。俺は抗議の目をそのチンピラに向けてみるが、

「う……る……せ……ん……だよ」

 駄目だ。完全に酒に酔ってる。

 そして再びパンチを放ってきた。

「玲奈逃げろ!!」

 なんか世紀末の主人公みたいに叫んでみたが、玲奈はそこから動こうとしない。

「危ない!! 大助」

 このタイミングで名前を呼ばれるなんてついてない。


バンバキッ!!


「な……め……ん……な!! クソ泰子」

 俺を殴った男はそう大声で奇声を上げる。ていうか、待てよ……泰子と勘違いしてんのか!?

「ちょっと待って……俺は泰子じゃない」

「う……る……せ……え!!」

 チンピラは右手を握って構えている。殴られるのか……。そう感じた。

「ちょっと待ちたまえ……そこの酔っ払い」

 と、救世主の声が聞こえた。

 警備員さんの登場である。まったく……遅すぎるよ。

「君大丈夫かい?」

 チンピラを警棒で押さえながら、俺にそう聞いてくる。俺は「大丈夫」と答えると、警備員のおじさんはチンピラを連れて人混みに消えていった。



「夕日が綺麗だな」

 窓から見える夕陽を見ながら淡々と言う。しかし、玲奈は何も答えなかった。

「今日はごめんな……遊園地のアトラクション乗れなくて」

 ジェットコースターを乗るのを諦めた後、俺と玲奈はフードコートで昼食を食べていた。その時、突然俺の気分が悪くなったせいで、アトラクションには乗れなかった……。

「あの……大助?」

 夕陽を見ていた俺はその声に振り向く。玲奈はこちらを真っ直ぐ見つめ、何か言いたげな様子だった。

「高校生の時遊園地に誘ってくれたよね……覚えてる?」

 あの時は神風アイスランドだったな。

「あぁ、覚えてる」

「あの時は私が断っちゃったよね」

 なに? お前俺の古傷えぐりたいの?……痛いよ。

「そうだな……ていうか、今日の様子変だけどどうしたの?」

 喫茶店の時から観覧車の今に至るまでどこかそわそわしてるし、なんか顔赤いし……熱でもあるのか?

「大川大助」

 玲奈は何かを決心したように俺を見つめている。窓から見えていた夕陽の輝きがさらに輝きをまして、

「わ、私は……大助の……」

 玲奈は手をぎゅっと握りしめながら、俺を真っ赤に染まった顔で見ている。俺はその時に理解した。玲奈の伝えたい思いを……そして、

「私は大助のことが大好き!! 高校生の時からずっとずっと好きだった」

「じゃあなんで……高校生の時は断ったんだよ」

「そ、それは……大助の事が好きな友達がいたから」

 それは誰なんだ? とか、デリカシーの無いことは聞かないようにしよう。それにしても衝撃のカミングアウトだな。

「そうだったのか」

 と、適当に話題を終わらせる。

「因みにその人はオロチだよ」

 へぇ~君は話題を終わらせる気はないと。ていうか、オロチ!! うわぁ、思い出したくない名前が出てきたな。

「それは断ってたよ……オロチ(蛇神 零愛)はない」

「アハハ……」

 俺の言葉に玲奈は苦笑した。

「いいよ……遠距離恋愛になるけど」

「ほ、ほんとに? てか、いきなり返事なんて鬼畜だよ……でも、なんか大助って感じがする」

 満面の笑みを浮かべながらそう呟く玲奈。

 夕陽に照らされた玲奈の姿は天使のように美しく可愛い。この光景を俺は脳に焼き付けた。

「アハハアハハ」

「アハハアハハ」

 観覧車の車内に響き渡ったる。俺と玲奈の声。

 その声は過去を払拭していくように俺の心を明るくしていく、目の前に広がる永遠の世界が鮮やかに写る。

「じゃあこれからよろしくな……玲奈」

「うん。こちらこそよろしくね……大助」

 地平線に沈み行く夕陽を見ながら、俺と玲奈は口と口を合わせた。それを祝福するように小鳥が鳴いた。


 あれから数年後の神風町のとある一軒家。


「大助さん! いつまで寝てるの!」

 と、玲奈が叫ぶ……うっさいな

「後、8ヶ月……グヘヘ」

「寝ぼけてないで早く起きなさい!!」


バキバキ!!


「早くしないと会社に遅刻しますよ?」

「アハハ……なんか昔の夢を見ていたよ」

「昔の夢?」

「俺と玲奈のデートしたときの夢」

「そうなんだ」


 あれから数年後、俺と玲奈は結婚した。

 そして今は新たな命が玲奈のお腹の中に宿っている。

青春は永遠に。

読んでくれてありがとうございます。

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