双子と覚悟
今回は主人公今日最強とか言いながらそれより強い方が…。
「今日はアレクにとってもいいお知らせがあります。」
風呂に入って血を落とし、誕生日会での食事が終わったあと母親がおもむろに切り出した。
「なんですか、母様?」
「いったいなんだい、マリア?」
どうやら父親にも話していないらしい。しかし、俺にいい話か。魔獣と戦わせてくれるとかか?そんなわけねぇか。じゃあなんだ?
「なんと、あなたはもうすぐ兄になります。」
兄になる?そうか…ん?
「ということはマリア、まさか!?」
「ええ、あなた。妊娠したみたい。」
やっぱりか!!そうか、俺に弟か、妹ができるのか。これで爵位継がなくてよくなるんじゃね?
「やったあ。」
「よくやったぞ、マリア。」
あんたもがんばったな。そういうそぶりは見せないでもやるもんだな。
「ふふ。あれくもよろこんでくれてうれしいわ。」
ん?まてよ?
ふと気になり魔眼で母親を見ると母親の魔力以外に別の魔力が二つあるのが視えた。
やっぱり見えるのか。ん??二つ?もしかして双子か?
それからは母親は仕事を休みずっと館にいるようになり父親も普段より母親のそばにいるようになった。そして俺も妊婦にいいとされることをいろいろやった。まあ、その結果としてメイドたちの間で優しい子であるといううわさが流れ人気者になったのは余談である。そして月日は流れ、
「おぎゃあ、おおぎゃあ。」
「ぎゃあ。」
予想通り双子が産まれた。両方女の子であった。
「おお、双子か。かわいいなぁ。」
父親はそういって顔をほころばせる。俺も爵位を譲れる相手が無事産まれたので笑顔になる。まあ、爵位の件を別にしても妹っていうのはできたことなかったし結構嬉しかったりする。そしてその夜、俺は妹が無事産まれたことを喜び、これから無事に育つようにと妹たちに願った。そして夢の中へといったのだが…。
「まじ、ごめん。」
「いやぁ、久しぶり。」
気づくと、のんきに笑っているあの旅人とかいうやつと高校生くらいの土下座している日本人のイケメンがいた。
「あれ?まさかまた死んだのか?」
おいおい、早すぎだろ。しかも理由はなんだよ。
「いや、君はちゃんと生きてるよ。今回はちょっと用事があって夢の世界をこの世界に移し替えたの。」
おお、ちゃんと生きてたか。しかし用事ってなんだ?まさかめんどくさいこと押し付けられるんじゃないだろうな?
「それは彼が教えてくれるはずだ。ねぇ天地?」
「はい。ほんとにごめん。」
日本人、天地は顔をあげてもう一度謝った。こいつはいったいなんだろうか?俺は別に謝られるようなことされてないはずだが?
「ああ、彼はね。人や植物、魔獣、動物、魔人、魔王、悪魔、神その他ほとんどの生物を創りしもの。言ってみれば、原初なるものだね。それで俺の弟になるかな一応。」
ん!?なんかやばいこと言ってないか?つまりあれだろ?こいつってすべての者にとってのご先祖様だろ?あれでもなんで兄がいるんだ?
「それはお前が知るべきことじゃないぞ?」
「っ!」
旅人に威圧される。
「やめろよ。威圧なんてしなくてもいいだろ。」
天地はそう言って旅人に触れる。すると圧迫感が消える。
「はいはい分かったよ。」
あの旅人が従った?まさかこの天地ってやつ…。
「うん、俺より強いぞ。多分現在、天地にかなうやつは存在しないな。その天地に土下座されたんだ。いい経験だろ?」
いい経験どころかありえなさすぎるだろ。
「って話を戻さないと。まずはごめん。」
また謝られた。とりあえず謝る理由が知りたいんだが。
「そうだよな。いいかい。落ち着いて聞いてくれ。ことの始まりは君の魂をマリアさんの中にぶち込んだことから始まる。あのときはいろいろあってちょっと余裕がなくて少し雑になってしまったんだ。その結果、俺の力のごく一部の残り香がマリアさんのその子宮に…。君は魂がすでに完成していた上に強かったから影響はなかったんだけどその…。」
読めたわ。ここまで聞いたらもう答えは一つしかない。
「そう。あの双子の魂が残り香に影響されちゃって、ちょっとやばいことに。いや君ほど異常な能力じゃないよ?」
いやいや、そんなこと言われても安心できるわけがない。
「だいじょうぶだって。はっきり言って君の力は極めれば少なくとも僕の息子くらいの実力にはなる…かも。」
「どっちだよ!?」
思わず突っ込む。
「まあ、大丈夫。あの双子はせいぜい神の領域までしか行かない能力だから。あ、もちろんあの能力だけの場合ね。可能性だけなら無限大だから。」
「可能性?」
「そう。僕が創ったものにはすべて無限の可能性がある。それこそ俺を超えることも不可能じゃないかもしれない。その中でも特にその可能性に気づき思いもよらない進化をするのが人間なんだよ。」
人間の可能性ね。限界なんかないってのは本当の話だったのか。でも壁ってのはあると思うがな。
「そうだね。ふつうの努力じゃ超えられない壁はあるよ?でもね、その壁はやり方さえわかれば必ず超えることができる。自身を悪魔にして超えたやつ、神と一体化して超えたやつ、神とは別の力を見つけたやつ、いろいろな人がいるんだよ。」
そう言ってる天地の顔は何とも誇らしそうでそして何かを懐かしんでいた。
「…話をもどすね。それで君にこんなことを頼むのはほんとに心苦しいんだけど、あの二人に力の扱い方を教えてあげてほしいんだ。」
「…そんなことでいいのか?」
俺はてっきり殺せとか逆に守ってやれとか言われると思ったが?
「力を自覚し望んで世界を壊すなら構わない。彼女たちの力をしって彼女たちが迫害されても俺はなにもしない。残酷で、勝手かもしれないけどね、力を得たのは彼女たち。そしてそれをどう扱うのかは彼女たち自身できめなければならない。だから俺は何もしない。今回は俺のせいで力を得てしまったから彼女たちには力の使い方だけは教えてもいいと思ってる。これも勝手かもしれないけど…それでも俺の考えは変わらないんだ。」
そういう天地の顔は前世で見たことある表情だった。それは、多くを迷い、悩み、そして信念を持った人の顔。俺が唯一戦う前から負けを認めた人の表情だった。だから俺は。
「分かった。引き受けるよ、あなたのその覚悟を。」
「ありがとう。」
天地はそう言って笑った。その笑顔はなぜかとても印象に残るそんな笑顔だった。