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第九話:体育館倉庫でもふりたい

第九話

「じゃあ、赤井さんと白取君は体育館倉庫からボールを取り出してきてね」

「はい」

「はーい」

 二人で向かおうとするとクラスメートがはやし立ててくる。

「イイコトすんなよー」

「ばーか、するわけないだろ」

「イイコト?何それ?」

 隣で聞いてくる赤井さんに適当に応え、目的の場所へと向かう。

 旧体育館の奥にあるそうで、人っ子ひとりいなかった。

「ここかぁ…」

「通称、あいのす」

「嘘だろ…」

 本当にここでいちゃいちゃしてるのかよ。

「えっと、告白されて男子が一人で泣きくれるから、哀しみの哀だね」

「そっちの哀か」

 くだらない話をして遅くなり、また何か言われるのも癪だ。

 二人で入って一番奥のボール入れを取り出そうとする。

「うーん、重いね」

「……」

「どうしたの?あ、ブルマ姿だからってエッチな事考えてたんじゃないの?」

「変身して片づければいいんじゃないの?」

 狼人間ならこんなの楽勝だろう。俺も疲れないし、時間も短縮できるはずだ。

「あのねー、そう簡単に変身できないって。満月なんて出てないし」

「でも、興奮すればいいんでしょ?」

「そうだけどさ」

 興奮させるにはどうすればいいんだろう。うーむ…。

「率直に聞くけど、どういう時に興奮する?」

「いきなりそんな事を言われても困るよっ。ただでさえ男子と一緒に…た、体育館倉庫に居るのに…そもそも、興奮する前に、緊張しちゃうよっ」

 そう言った赤井さんの姿はしっかり狼人間になっていた。相変わらず視線だけで人を恐怖に陥れそうな眼をしている。

「よし、なってるよ。誰か来たら困るから閉めておくね」

「え?ええっ!」

「じゃ、お願いします」

「…仕方ないなぁ、今度何かおごってよ」

 乱暴に積み重なっている荷物を放り投げていき、あっさりと目的の品物を引っ張りだす。

「よし、外に…って、あれ」

 赤井さんが乱暴に荷物を放り投げていたせいで、扉の前にバリケードが出来ていた。しょうがないのでそれを退かし、扉に手をかける。

「…あれ?」

 開かなかった。もう一度試すけど、開かない。

「赤井さん、開けて…って、戻ってるし」

「ふぅ…どうしたの?」

 首をかしげる赤井さんに扉が閉まった事を告げるのであった。

「扉があかない」

「えっと、閉じ込められたって事?」

「うん」

「もうっ!どーしてくれんのよーっ」

 ぽかぽか殴られる。よかった、これが狼人間状態だったら今頃ミンチの出来上がりだぜ。

「おちつ…いや、このまま興奮させれば変身するかも」

「はっ!そうだった。またいいように使われないように…落ちつけ、落ちつけあたし…」

 熱しやすく冷めやすいのか、落ちつくのもかなり早い赤井さん。もうちょっとだったのになぁ…

「あれ?中途半端に耳としっぽだけ残ってるよ」

 犬耳にもふりたい尻尾がブルマから出ていた。

「え、嘘…」

「……赤井さん、ちょっとだけ触らせてくれない?」

「だ、駄目っ。駄目だよっ。何だかマニアックだもん。白取君のエッチ!」

 自分の体を抱きしめる赤井さん…。

「…何か勘違いしてない?」

「え?」

「尻尾を触らせてほしいんだ。別にいいでしょ?前も触ったんだし」

「…う、うーん」

 もうひと押しかな。

「別に、犬の尻尾を触っても変態!とか言われないでしょ?」

「うーん…そうかも。わかった、いいよ」

 そう言って尻尾を俺に触らせてくれる。ポケットから櫛を取り出し、といてみた。

「…ちょっと、気持ちいい…」

「そう?」

 マットの上に寝そべり始めた赤井さんは結構気が緩んだ姿をしていた事だろう。

 健全な男子としては、そっちの赤井さんに注意をもっていくべきだったかもしれない…だが、この時の俺は本体そっちのけで、尻尾に櫛を入れていたのだ。

「この地道な努力が後に思う存分尻尾をもふることが出来るわけだ」

「……ぐぅ」

 完全に寝入ってしまったところで扉が叩かれる。

「おーい、いるかーっ」

「ああ、いるいる」

「………ぐぅ」

 寝てしまった赤井さんの尻尾と耳が引っ込んでしまう。ちょうどいいタイミングだろう。

「閉じ込められちまった」

「え?マジか」

「マジだ。助けてくれ」

 眠ってしまった赤井さんを起こし、助けてもらうのだった。

 後日、変な噂がたったりもする。

 内容は白取冬治と言う男は毛深い子をもふりたい…というものだ。


今回は前作の秋みたいに後先考えていないわけでは…ございません。赤も、青も、黄色も、黒も…しっかりと考えているつもりです。黒だけは特別で、適当に流せればと思っています。

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