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第八話:運動会が接近中

第八話

 運動会が徐々に近づいてきている。

 去年を知らないので段取りがわからない俺は図書館で黒葛原さんと一緒に(左隣だからか)四季先生から頼まれた本を探している。

「ねぇなぁ…」

 頼まれた本は『ケンコーヨガ第八巻』だ。

 絶対、運動会じゃ使わないだろうな…三十歳の数学教師、何をたくらんでいるんだろう。

 この本棚の反対に居るであろう黒葛原さんに聞こうと息を溜める。

「…っと、そういやここは図書館だったな」

 きっと、声を出したら司書様に怒られていたところだろう…かなり。

 説教が名物とは良く言ったものだ。しかも、図書館のどこに居ても聞こえてくるほどの大声で怒られる…本末転倒だぜ。

 怒られるのも嫌なので棚を回って黒葛原さんに会いに行く。

「……」

 脚立に乗って黙々と探している黒葛原さんを簡単に見つける。

 見た目も相まって図書館に潜んでそうな感じがした。

「…おっと」

 ちょうど俺から見てパンツが見える位置にのぼっていた。危ない、こういうのは俺が気をつけなくちゃいけない。

 更にもう一段、昇ろうとしたところで黒葛原さんが足を滑らせた。

「あぶねぇっ」

「……!」

 綺麗に動けたのは相手が女の子だったからか…これが男だったら多分、助けてない…何とか、落ちる前にお姫様だっこをやり遂げる。

 審査員が見ていたら満点を…。

「……」

「大丈夫?」

「……うん」

 どうやら、満点をとったつもりだったようだ。左手で思いっきり、黒葛原さんの左胸を掴んでいたりする。じっとそっちを黒葛原さんがみているが、俺はそれに気付いていないふりをして、下ろす。

 下ろしてすぐに、黒葛原さんが何かを指差す。

「……あった」

 俺と、黒葛原さんの間にこういう事が起こるのはしょっちゅうなのでお互い気にしないように(彼女は何も言ってこないのでわからないが)している。

「え?あ、本当だ」

 探していた『ケンコーヨガ第八巻』が『結構ヨガ大発汗』の隣に鎮座していた。一体何の本だ、これは。

「じゃ、先生に渡しに行こうか」

「……うん」

 二人で歩きはじめる。黒葛原さんは無口な為、俺が喋らなければ最後まで会話が無い。俺が話を振っても、あまり答えてくれないので話をするのが役目になりつつあった。

「運動会っていいよね…俺、あまり参加しないで見ていられる立場みたいだけど」

「……」

 話は聞いているようだ。でも、目立った反応はやっぱりしてくれない。

 それでも、せっかく女子といるのだから会話をしてみたかった。

「俺、黒葛原さんには期待しているよ!」

「……?」

「体操着姿、あまり見ないからさ。さすがに運動会じゃ体操服着るでしょ?」

「……うん」

 多少、スケベだと思っても構わん。黒葛原さんは俺の事を『あいつはスケベでどうしようもない奴だ』と言いふらしたりはしないはずだ。

「そうだよね、やっぱり着るよね。うん」

 色々と言いたい事はある…あるけども、相手が女子ではさすがに踏み込んで話すわけにはいかない。

「何か競技でるの?」

「……二人三脚」

「へぇ、相手は?」

「……いない」

 いつもの調子で、黒葛原さんはそう言った。

 これはチャンスではないか?

「じゃあさ、俺と二人三脚組もうよ」

「……嫌」

 どうやら、嫌われているようだ。もう一度言おう、どうやら、嫌われているようだ。

 ここで引けば、何か色々と終わってしまいそうだったので粘ってみることにした。

「お願いします」

「……」

 へこへこ頭を下げてみる。

「……他にも、余っている子、…いる」

 あ、そうなんだ。じゃあ、別にいいかな。でも、この学園って確か…男同士の二人三脚もあり得るって言っていたもんなぁ…。男二人で二人三脚か…。

「…お前と組むと凄く、あんしんするぜぇ」

「俺もだ!」

「アッー」

 今、かなり嫌なビジョンが見えた気がする。気のせいだと、信じたい。

「いや、やっぱり…黒葛原さんがいい」

「……そう」

 それだけ言って、歩き出す。いいのだろうか?

 許可してくれたのか、いまいちわからなかったものの、黒葛原さんの横に俺の名前が書かれていたからオーケーだったようだ。


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