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第五十二話:黒 (終)

第五十二話

「ただいまー」

 深弥美さんは俺が帰ってきたらすぐに返事をくれる。

 しかし、今日は静寂に包まれているだけだった。

「深弥美さーん?」

 ピンクのエプロンに包まれて俺の事を出迎えてくれる深弥美さんはどこに行ってしまったんだ?

「ん?」

 廊下に転がっていたのは破けた黒衣と、刃が折れた鎌だった。

「明日は大学の卒業式だって言うのに…どこに行ったんだろ?」

 深弥美さんのケータイに電話を入れてみる。

「繋がらねぇな…」

 深弥美さん、そして俺の部屋に入ると鋭利な刃物で真っ二つにされた深弥美さんのケータイが床に落ちていた。

「…何かあったのか?」

 破けた黒衣、刃が折れた鎌、壊れたケータイ…どういう事だ?

「胸騒ぎがする…」

 嫌な事が起こりそうだ…いや、既に終わった後か?

「こういうときはここを確認だな、うん」

 真っ先に確認したのは深弥美さんに内緒で隠したエロ本だ。

「深弥美さんの本棚にまさかエロ本が仕込まれているとは気付くまい」

 本棚に仕込まれたエロ本を確認する。

 本を抜き取った後に現れる壁と一体化したつまみを外すとそこには俺の楽園が。

「うああっ、『気になるあの子は天使っ子~天使と俺の十八禁~』が何か鋭利なもので切り裂かれてる!」

 はっ!殺気!

「……冬治」

「み、深弥美さん…どこに居たの?」

「……トイレ」

「鎌が壊れてたよ?てっきり他の死神に襲われたのかと思ったよ?」

「……直した。それを切る時に力を入れ過ぎて、壊れた…あと、嘘はいけない」

 暗い笑みだった。

「こ、黒衣もきったの?」

「……それにたいしての憤りで力任せに、引きちぎった」

 指差す先には俺のエロ本がある。

「ミサイルの直撃にも耐えるんじゃなかったけ?」

「……むしゃくしゃして、やった」

 近寄る深弥美さんに俺は素直に土下座するしかなかった。

「いや、どーしても、こういうお年頃なんです。ご理解、頂けますか?」

「……うん」

「理解していただけましたか!それはようござんした!」

「……でも、それとこれとは、別」

「ですよねー」

 深弥美さんが本気になればどうなるか、知っている俺はかなり手加減してもらったのだろう。

「深弥美さん機嫌直して」

「……あれ、してくれたら」

「あれ?」

 あれって、そんな、俺達まだ学生ですよ。

「……えっちっ。そっちじゃない」

「たとえ女の子といえどグーで殴るのは痛いよ」

「……キス、して」

 深弥美さんとそっと口づけを交わす。

「本当は、あんな恰好を…天使の姿をした深弥美さんを見たいだけなんだ」

「……え?」

「黒衣もいいけど、あれも絶対に似合うよ!」

「……考えとく」

 深弥美さんの考えとくは九割期待していい。

 それから三日後、俺の深弥美さんアルバムは一気に枚数が増えたのだった。

 子供が出来た時にでも、母親の姿を見せてあげようかなー…そう思った。

 死神に幸せにしてもらう…幸せにするなんて…転校してきたときは思いもしなかった。


黒は全編を通して書きやすい話ばかりだった気がします。一人称の存在しないキャラクターだったりもしますがね。作者の記憶があいまいで申し訳ないのですが、私とかあたしとか一切言っていなかったと思われます、はい。他の人に関係しているような人でもありました。最後まで黒は緩い存在だったのかなーと…冬治が死んじゃう話になりそうでしたけどね。さて、気になるあの子は非日常、今回で終わりになりますがいかがだったでしょうか。作者である私が言えることはただ一つ、最後までお付き合いありがとうございました、ですね。もしも次の作品があるのならそこでまたお会いしましょう。その時はもっと文章力を何とかしたいものです。

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