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第四十八話:静かなテスト

第四十八話

 二学期期末も近くなってきた…寒いし。

「そろそろ屋上で昼飯食べるのも寒くなってきたなぁ…」

 しみじみ呟いてみる…寒いし。

「……寒い?」

「ああ、寒い」

「……そう」

 隣の席でサンドイッチを食べていた深弥美さんは俺の隣で微笑んでるだけだ。

 他人に見られながら昼飯を食べるのは何とも気分が悪い。

 深弥美さんの視線を感じながら、ご飯を食べ終えると深弥美さんが抱きついてきた。

「……温かい?」

「うん、凄くいいよ」

 最近は深弥美さんからこうやって抱きついてきてくれる事が多くなった。

 人目を忍んでこの前までは抱きついてきたりしていた…それが、今では積極的にいちゃついてきているのだ!

「でもさ、俺は深弥美さんに抱きつかれて温かいけど、そっちが寒いんじゃないの?俺の体温低いからさ」

「……じゃあ、こうする」

 言うが早いか、俺の胸に自分の顔をこすりつける。俺の両胸に手を添えて、鼓動を聞いているようだった。

「……速い」

「そ、そりゃあね。速くなるよ…抱きしめていい?」

「……好きにして」

 屋上でいちゃついているのは何も俺達だけではない…でも、間違いなく言える事がある。



 どこのカップルよりも、我々が一番幸せだ!



 そんな馬鹿全開で図書館へと向かう。

 期末テストが近いから深弥美さんと一緒に勉強するためだ…いや、深弥美さんに教えてもらう為である。

 深弥美さんはそれほど成績がいいわけではない…のか、実際のところは良くわからない。中間テストでは宣言通りの点数を各教科でとってきたのだ。

「あのさ、期末でオール満点とか取れる?」

「……冬治が、望むなら」

「愛する彼氏のためなら何でもできるって?」

「……こっちが望んでも、冬治は満点取れない。つまり、冬治が愛していると言うよりもこっちのほうが愛する気持ちが…強い」

 その目に迷いなんて無かった。

 確かに、確かに…深弥美さんが俺に全教科百点取ってほしいと言っても俺は…多分、取れないだろう。

 でも、それでいいのだろうか?満点は取れずとも、努力は出来るはずだ。

「……結果が、全て」

「心を読まれた…」

「……冬治と、紆余曲折を経ても…一緒に入れるのならそれでいい」

 静かに伸ばされた手は俺の手をしっかりと掴んでいる。

「負けたよ」

「……冬治の事、好きだから」

 ここが図書館じゃないなら思いっきり抱きしめていたところだ。

「っと、俺は図書館に勉強しに来ていたんだった」

「……そう、忘れちゃ駄目」

「深弥美さんをみていると全部忘れそうになるよ。いや、待てよ…期末テストよりも深弥美さんとだらだらいちゃいちゃしていたほうが未来のためになるんじゃないのか?」

 深弥美さんの手を掴もうとしたら避けられて、数学の教科書を渡される。

「……冬治と一緒に、いたいから…勉強する」

 つまり、俺も勉強しろと言いたいらしい。

「深弥美さん…俺と勝負しよう。買ったほうが相手に好きな事をお願いできる」

「……ありがち。それに、冬治が望めばお願いは全部聞く」

 やったね!…じゃない。

「深弥美さんのほうが俺より愛が深いと言うのなら…俺はそれを超えて見せるよ」

 しばらく深弥美さんは迷っていると、頷いてくれた。

「……後悔、する」

「全教科で勝負だからね。あ、深弥美さんはオール満点とってよ」

「……冬治が、全てで満点をとっても、それじゃ勝てない」

 頭は大丈夫かという視線を向けられた。

「……ハンデ、一つだけ九十九点をとる」

「わかったよ…ちなみに何でそんな事出来るの」

「……死神パワー」

 こんな器用な事は深弥美さんでなければできない芸当だろうな。

 俺は久しぶりに、それから毎日勉強することにしたのだった…勿論、毎日いちゃつきながらの勉強だから…足元をすくわれそうだがね。

 そして、ようやく始まった期末テスト。

「……ふ、へへへへ…」

 わかる、わかるぞ…問題が全部、わかる。

 名前を書いていなかった、回答欄が一つずつずれていた、回答欄に『深弥美さん好き!』なんて書いてみたかったけど、書かなかった。

「……どう?」

「ばっちりだよ」

 最終日、全てを終わらせた俺は満足だった。

 久しぶりに頭が活性化してくれたおかげか…これはもしかしたら、もしかするかもしれない。自己採点じゃ間違いなくオール満点だ。

「保健体育や家庭科も完ぺきだったよ」

「……将来が、楽しみ」

 ぽっと頬を染める深弥美さんに俺も顔を赤らめるしかない。

「あのさ、どれを九十九点とったの?」

「……数学」

 数学と言うと、四季先生か。まぁ、あの先生が作る問題なら比較的とりやすいからなぁ…点数操作もしやすいか。

 休みを挟んで答案が返ってくる。

「…今のところ、同点か」

「……数学がある、冬治の勝ち」

 すでに他の生徒たちで満点はいない為、俺と深弥美さんが学園トップを争っている状態だ。だが、そんな事はどうでもいい、俺は深弥美さんが手加減をしている状態で負けている。

「よし、数学も満点」

 帰ってきた答案には四季先生の可愛らしい花丸が添えられている。

「深弥美さんは?」

「……満点じゃ、なかった」

「そっかぁ…」

 さーて、何をお願いしようかなぁ…。

「……百、一点」

「え?」

 見せてもらった答案…最後の問題、いくつかの部分点で構成されている問題だ。その一部に『冬治大好き』と書かれている。これは…マイナスポイントだろう。

「はーい、みんな座ってね。こほん、先生は感動しました…今回のテストは難しくしたつもりだったんですよ。それでも、このクラスに二名非常に優秀な生徒がいました。学園内でも仲良しのカップルですね」

 四季先生の目は熱っぽい…感動しているようだ。

「一人は…一生懸命最後まで何度も見直し、頑張っていました。もう一人は十五分で全部の問題を解いています…残り時間、ずっとその子の背中を熱っぽく見つめて『冬治、がんばって』って呟いていたんです。それを聞いて、先生…感動しました!」

 涙を流す先生と、唖然とする俺。深弥美さんは完全にそっぽを向いていたのだった。

 イレギュラーな事態が起きた。それでも、負けは負けだ。

「……予測不能だった」

「誰だってそうだよ」

 今、俺と深弥美さんは屋上に居る。

 寒いけど、二人一緒だ。心は温かい。

「約束だよ。俺に願い事をしてほしい。天の川とか神様じゃないけど…絶対に叶えて見せる」

「好きって、言ってほしい」

 間を開けることなく、深弥美さんは俺に告げた。

「そんなのお安い御用だよ?」

「一生、言ってほしい」

 意地悪そうな深弥美さんも可愛いもんだ。

「それこそ、お安い御用だよ」

「……うん、知ってる」

 俺と深弥美さんがもしも、喧嘩をしたらその時は…泣いて謝って土下座して許してもらおうと思う。

 俺が死んだ時は、深弥美さんに魂でも何でも刈ってもらおう。深弥美地獄とか俺にとっては間違いなく天国だろう。


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