第四十六話:藍の話
第四十六話
恐怖の学園祭を終えて(屋上にいけなくなったぜ)、俺と群青先輩の絆はより一層、強くなった…かな。毎晩、上空から群青先輩と、ゴミ箱が落ちてきて俺に直撃してグロテスクな事になると言う夢を見るけどさ。
「ねぇ、白取君」
「ん?」
「最近さ、藍先輩が未来を見てくれないんだー。試験勉強が大変なのは知っているけど、みてくれるようにお願いしてくれない?」
「俺が?」
「だって、彼氏じゃん」
そう言われると悪い気はしないんだよなぁ。
「わかった。でもさ、群青先輩にも都合があるから無理にとは言えないぜ?」
「はーい、マネージャーさんお願いね」
誰がマネージャーだ。どうせならプロデューサーさんと呼べ。こういうときはプロデューサーじゃなくてPだよ!白取Pだよ!と七色が言ってた気がするなぁ…良く知らないんだよな。
知らない事をいつまでも考えていては意味が無い。
早速群青先輩に連絡を入れた。
意外な事に群青先輩は電話が嫌いなようで通話は滅多なことでは出ないし、メールのやり取りでも『○○に来て』とか『待ち合わせ場所○○』と言った風に直接会うのが好きらしい。
放課後、校門で待ってますと伝えると了承されたのだった。了承されなかったらどうなってたんだろうな。
約束の時間は別に決めていなかったので放課後すぐに校門へ向かうと既に群青先輩が待ってくれていた。
「すみません、俺の方から呼び出したのに」
「気にしないで。わたしもちょうど話がしたかったから」
そういって先輩は歩き出した。
「あの…そこの喫茶店で話をしようと思ってたんですけど」
もちろん、俺のおごりだ。俺と群青先輩の間では用事があったほうが奢ると決められている。
「わたしの部屋でしましょう」
「え?」
言葉だけ聞くと青少年の心をたぶらかす年上のお姉さんだ。超わがままな生徒会長が言ってもこき使われるのを覚悟するだけだ。
まぁ、群青先輩の暗い顔を見るとハッとさせられるけどな。
やっぱり、この前の学園祭の件が尾を引いているのだろうか。
それから先、俺から話しかけてもいまいち群青先輩は反応してくれなかった。
「入って」
「お邪魔します」
廊下の先に群青先輩の父親、宏さんがいた気がする。
「お前、挨拶に来たのか?」
「パパ、今日は違う話だから」
「…そうか」
もうちょっと食いついてくるかと思ったら引っ込んでしまった。
群青先輩の後を追って、階段を上がり部屋に入る。
あまり部屋の中を見渡していても迷惑だろう…借りてきた猫のように落ちついて座る。
女の子のいい匂いがした。
「……」
「物珍しいものは別にないわよ?」
「女の子の部屋に入るのは、あんまりないんで…ちょっと、緊張してます」
「そう、ちょっと嬉しいかな…早速本題から入ってもらえる?」
こっちの話はその後でするから…群青先輩はそう言った。
「はい、えっと、俺のクラスメートが群青先輩に未来を見てもらいたいそうなんです」
「……そうなのね。でも、ごめんなさい。今のわたし、未来が視えないの」
「え?」
信じられないような言葉だった。
「変な話ね…冬治君の未来はちゃんと見えるのよ…今日の晩御飯はうちで食べて行くわ」
「あ、あのー…もしかして、キスしちゃったから…」
「言わないで」
顔を真っ赤にして群青先輩は唇を抑えている。俺も、恥ずかしくなって顔をそむけた。
「おい、やっぱり挨拶に来たんじゃないのか」
「うわぁ」
屋根裏から狼が一匹落ちてきた。
「お茶だ」
「あ…どうも」
「パパ…どういう事?」
俺たち二人に相対するように腰を下ろす。
「ちょっと前…そうだな、藍が小学校…低学年の時の事だ」
きっと群青先輩は可愛かったんだろうな。
「何と言うか…一人の女の子を助けてな。そいつが『一つだけ願いを聞いてやる』と言った。だから、藍が未来を見据えて行動できるようにしてくれと頼んだんだ」
俺と群青先輩は宏さんの話にただ驚いているだけだった。
そんな俺達を不愉快に思ったのか鼻を鳴らす。
「あのな、こんなふざけた話は信じられないと思う。だけど、事実なんだよ。そいつとの約束で正体は表せないがな…藍がきちんと自分の未来をみる事が出来るまで護ってやると約束もしてくれた。他の奴の未来が見えるのは偶然か、副産物みたいなもんなんだろう」
一体、そんな出鱈目な存在は何なんだ…その話を狼男にされると変に信頼性がアップするんだけど。
「でも、群青…藍、先輩は自分の未来をみる事は…出来ないんですよ?」
「かーっ、お前、鈍いな。これ以上は藍の事を思って言わない。とりあえず、お前が藍に酷い事をしたら命は無いと思えよ」
そういって凄まれた。獣というより、父親の顔だった。
変に長く、詳しく説明されても理解なんて出来ないだろう。今わかった事と言えば、郡上先輩は自分の未来を見る事が出来るようになった…そういうことだろう。
「群青先輩は、自分の未来が…今、見えますか?」
「藍でいいわよ」
一歳年上とは言え呼び捨ては難しい。
「藍、さん…未来、見えるんですか」
「うん。冬治君を介して、見る事が出来る。みる気はないわ楽しみが減りそうだから…未来が見える非日常な女の子なんて、もうどこにもいないわ」
そういって藍さんは立ち上がる。
「これからは、わたしの未来をリアルタイムで見ていく。自分の目でね」
「そうですね。お供します」
その後、俺達はゲーセンで相性チェックをやってみた。
結果はいまいちだったけど、藍さんは笑っていたのだった。




