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第四十三話:終わりを迎える生活

第四十三話

 よく一緒に居る後輩のご家族と一緒に過ごす事、一カ月が経った。朝はお手伝いさんに起こされ、夜は一緒にトランプなんかを楽しむ…結構楽しい日々だった。

「冬治さんおはようございます」

「ん、おはよう…?」

 一カ月が経った時点でこの生活に終わりが来るとは思っていなかった。

「す、鈴?なんでお前が俺の家に?」

 リビングにいつもいる住良木兄妹、そして季吉さんの姿は無い。ほんのちょっと誰かがやってきて抵抗しようとしてやられてしまった…そんな感じでちょっと散らかっているだけだ。何者かの犯行…血文字で『椎』と書かれていた…かなりうまく書かれているのを見るとどうやら余程暇があったらしいな。

「あ、あのっ」

「はいはい」

 顔を洗って意識を完全に覚醒させる。今日は休みだ。

 鈴を座らせ、コーヒーをお互いに準備してから話をする。

「お父様と住良木達がお世話になりました」

「ああ、いいよ。俺もお世話になってたからね」

 事実、住良木さん達が来てから俺の生活の質は向上していた。料理は絶品、今日の気分で履きたいと思っていたズボンが準備されている等、さすがはお手伝いさんだと言いたくなる事が山ほどあった。

 …ついでに言うなら、海さんと江利奈さんのラッキースケベもあったことだし万万歳だな、うん。

 こんな事を考えていた俺だから、鈴の言葉を聞き逃してしまった。

「私もここに住みます」

「ふぁい?」

「私も…冬治さんと一緒に住みます。パパと喧嘩したんです…だから、いいですよね?」

 いいですよねとか言っている割にはかなり強気の視線だった。

「あー…いや、さすがにまずいだろ。嫁入り前の女子が男だけしか住んでない場所に行くのはよくないよ」

 我ながら正論である。

 海さんと江利奈さんがいると思っただけでドキドキしていた(最初の数日だけだった)りしたのも今となってはいい思い出でだ。

 鈴なら聞き分けてくれるだろう…それは俺の思い込みだった。

「だ、駄目ですか…」

「な、泣くなよっ」

 慌ててタオルをとってきて顔を拭く。泣く子には勝てないとはよくいったもんだ。




「というわけで、抱き枕を貸してくれ!」

 潔く頭を下げる俺、隣羽津学園二年生だ。

「はぁ?」

 頼んだ相手は七色虹だったりする。この前遊びに言ったら抱き枕を沢山持っていて驚いたぜ…。

「ガチムキマッチョの抱き枕を貸してくれって…」

 何だか白い目で見られている気がする。勘違いされているのは間違いない。

「あのなぁ、勘違いしてもらったらまずいが…俺は後輩を襲わないように抱き枕を借りたいんだぞ」

「……つまり、狼になると?」

「なるかもしれん」

「お嫁に行く前の娘に向かってなんて相談してるんだ!」

 頬を叩かれた…割りとマジで。

「うーん、ま、いいよ。夕方冬治の家に持っていくから待っててね」

「おう、頼んだぜ…出来れば無地がいい」

「まっかせておいて!」

 昨日の夜は地獄だったなぁ…何せ、夜中に辺りを見渡して俺の部屋に鈴が忍び込んでくるんだからまずかった。

 この時の俺はこれで大丈夫だと言う気持ちで大きかった。

「ただ今戻りました」

「おかえりー…何だか変な感じだ」

 鈴は家事全般を申し出てきた。椎さんから生活費は渡すと電話があって(季吉さんのうめき声が聞こえてきた)お金の心配はいらないらしい。

 既に花嫁修業は済んでいるとのことで、存分に使ってほしいと言われてしまった。

「…晩御飯の前に、お話があるんです」

「話?」

 神妙な顔つきの鈴に俺は改まってテーブルにつく。

「これ、どういう事なんですか」

「これってど…」

 テーブルの上にたたきつけられたのは抱き枕だった。

「七色先輩から冬治さんに渡しておいてほしいと預かったものです」

 無地を頼んでも来るわけないと思っていたが…まさか、きわどい衣装の女の子が『おにいちゃ~ん』等言っているものとは…。

 こういうお約束の時は言っておかねばいけないセリフがあるなぁ。

「これは、違うんだ!」

「あ、あの…冬治さんが望むなら…『お兄ちゃん』って呼びますよ?私は年下ですから…そ、そういった類の事でも…その、やらせていただきます」

 三つ指ついてそう言われてしまった。

「や、俺は別に年下に興味はない…わけはないが」

 泣きそうな顔をされてしまう。

「こほん、年下大好き。一歳年下とかモロストライクだよ」

 何だか意図的に変態になりつつある俺…将来が心配だ。

「七色さんから『君を襲いたくないから彼はこんな陳腐なものに手を出したんだ…赦してやってくれないか』とも言われています。これは、私の責任なんです…告白もせずに、既成事実を作って冬治さんをはめようとした私が…悪い子なんです」

 やっぱり、既成事実作る気だったんですね。

 突っ込むべき場所は其処じゃない気もしたけど、まぁ、それはいい。

「私は冬治さんの事が好きですっ…と、心の底から言いたいのですがお母様が『告白は冬治君の方からしてもらいなさい。どうしようもないときだけ、告白するのよ』とも言っていたんです。私、どうすればいいんでしょう!冬治さんがこんなものに手を出して普通の女性を愛せなくなってしまったら…これってどうしようもない時ですよね?」

 確実に頼るべき相手を間違っていると思うんだ。

 薄々とは感じていたものの、やっぱり本人から想いをぶつけられると対処に困る。それはそうだ…覚悟もなしに鈴みたいなお嬢様が男一人の住居に押し掛けてくるはずがない。

「俺にとって…鈴は…」

 想いを聞いた以上(多分本人は知られていないと思っているだろう)、答えなくてはいけないだろうな。


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