第四十話:本当は重要なこと
第四十話
二学期も始まったある日、深弥美さんと別れて俺は家に帰っていた。
「葬式か」
家の前で喪服の人たちが集まっていた。
また高齢の男性が無くなったようで、泣いている人もいた。
「あれ?深弥美さん」
「……冬治」
家の中から深弥美さんが出てきた。
黒衣で、大きな鎌を持っている。
誰もその格好について突っ込みなんて、入れていない。そもそも気付いていないようだ。
以前、似たような事があって深弥美さんは逃げ出した。
今日は逃げずに俺の方へと歩いてくる。家から出ると、彼女の服装は黒衣から制服へと変わっていた。
「話したい事があるの」
「え?う、うん」
場所を変え、俺と深弥美さんは学園の屋上に来ていた。もちろん、勝手に入ってきた。
「あのさ、先に聞いておくけど…もしかして俺何か悪い事をしたかな?愛想尽かされちゃった?」
「……そういう、話じゃない」
「よかったー…じゃあ俺は別に気張らなくていいってわけかぁ…ほっとした」
「……気張るのは、こっち…実は死神なの」
「深弥美さんが?」
「……うん」
「ああ、だから黒衣で死神なのか」
ぽんと手を叩くとちょっと呆れられた。
お互い無言になって夜空を見上げる。
「死神って、なにするの?」
「……」
すぐに返事はない。でもこの無言はうまく説明するにはどうすればいいのか考えてくれているんだろう。
少し待つと深弥美さんは喋りはじめる。
いたって普通、自分の心の奥底を見せないように努めた無表情だ。
「……残ってる、魂を消すの」
「ふーん?」
「……この鎌で」
渡された鎌はとても軽かった。瞬きをすると、手の中から消えている。
「あれ?」
いつの間にか鎌は深弥美さんの手に収まっていた。
「……こっちの服は」
服というより、マントを纏っただけのようだ。すらりと伸びる白い足が色っぽかった。下は何もきていないんじゃないかと不安になってしまう。
「……死神の姿を見た者に不幸をもたらすの」
「不幸だって?」
「……波長が合いすぎると、夢の中で…死神に魂を持っていかれてしまう」
「夢の中…って、もしかして俺が深弥美さんに会った後、俺が見た夢って…」
「……うん、ごめん」
俺は確信してしまった。
「つまり、俺と深弥美さんは相性抜群って事だね?」
「……?」
目をパチクリとする深弥美さんに俺は続ける。
「なるほど、あの時深弥美さんは俺に黒衣の影響がないように慌てて、逃げたって事だ」
「……そう、だけど」
「っしゃ!深弥美さん優しい!」
何故かガッツポーズをする俺。
「……あまり長い間、死神の夢を見続けるとこっちで、苦しむ」
「そういえばずーっと夢見心地だったなぁ」
「……だから、冬治を殺そうとした」
そう言われてもピンとこない。
「えっと、どこら辺で?萌え殺されそうにはなったけども」
「……最初」
「最初ぉ?」
「……威厳たっぷりで、黒衣をみた家から出て…冬治を、殺めようとした」
そんなことされそうになっただろうか。鎌を振りかぶられた事も無い。
「威厳たっぷり?あれ?そうだっけ?」
「……そう、でも、冬治が転んで、押し倒してきた」
「あれは、事故だ」
「……わかってる」
深弥美さんはそれから夢の中での出来事を語ってくれた。もちろん、俺はその事を知っている。
「……夢の中でキスをしていたら間違いなく、冬治は死んでた」
「深弥美さんにキスして死ぬなら本望だ」
そう言うと軽く叩かれた。
「死ぬとか、冗談でも言わないで」
「冗談じゃあ、ないよ。本気だ」
俺の目をじっとみて、深弥美さんはため息をついた。
「……わからずや。嫌い」
「嘘嘘、嘘です。深弥美さんに嫌われるんなら、前言撤回余裕だよ」
困ったもんだと深弥美さんはまたため息をついていた。そんな深弥美さんを俺は抱きしめる。
「深弥美さん、好きだ」
「……ずっと、近くに居るから」
「え?」
「……死んだら…冬治の、魂を刈る」
「お願いするよ…あのさ、それでさっきの言葉は…プロポーズ?」
胸の中で抱きしめる深弥美さんを見ると恨めしそうな顔をされた。
「……ムードがない」
「ごめん」
「……会った時から、胸を揉んできた」
「あれは事故だ!」
「……結構、揉まれてる」
「ぐっ…」
否定できない。
抱きしめずっとそんなくだらない会話を続けた。
「……プロポーズは、冬治の方からしてね」
「えっと、深弥美さんっ俺と結婚してくれ!」
「……まだ駄目」
俺はあっさり振られたのだった。




