第三十一話:優しさとは
第三十一話
夏休みになって変わった事と言えば、登校する場所が『教室』から『文化系野球部の部室』くらいだろうな。
住良木先生を入れて三人、それで一体何が出来るんだと…野球盤をしながら考える。ああ、これが『文化系野球部』の活動なのか?俺が下手なのか、それとも鈴がうまいのか…とりあえず、野球盤では同等だった。
勝ったり負けたりの勝負が続いている…二時間ぐらい。
「楽しいですね」
「…そうだな」
昨日は徹夜で遊んでたから疲れが出ているようだ。目の前がちょっとかすむ。
「お嬢様、宿題の時間です」
「わかったわ」
「っと、時間かぁ」
何せ、住良木先生がいるもんだから宿題なんてあっという間に終わってしまった。その為、俺がここにこれ以上居てもすることはない。
「ここ最近体調が悪いから俺は帰るよ」
「大丈夫なんですか?」
「はは、大丈夫だ」
親指を立てて笑って見せようとして、よろけた。
「おっと、あぶね」
掴もうとした先には支えにならないような…者しかない。鈴に手を伸ばそうとして、辞めると同時にそのまま尻もちをついてしまった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、ちょっとよろけただけだ」
立とうとして間抜けな事にまたよろけてこけてしまった。
「大丈夫じゃ、無いですよ!」
「鈴?」
いつもより数倍大きな声で鈴が駆け寄ってきた。目には涙をためている。
「流させたら、アウトですから」
住良木先生との約束を思い出す。
「あぶねぇあぶねぇ…安心してくれよ」
そういって涙をぬぐって笑ってやる。
「死んじゃったら、どうするんですか!」
「最高の式をあげますから安心してください、お嬢様」
住良木先生…ずれてるよ。
「これくらいじゃ死なないよ」
俺よりすぐに頭がとれる鈴のほうが心配だ。取れる回数が決まってるとか無いよな。
「俺帰るから」
「駄目です!住良木、お願い」
「かしこまりました」
そういってあっという間にすまきにされる俺。
「他人を縛ると言う行為はドキドキしますね」
「…しないで、下さい」
熱もタイミング悪く出てきたのか考えるのがおっくうになる。
そのまま意識がすーっと何処かに飛んで行ってしまった。
「ん?」
「目が覚めたんですね!」
目を覚ますと、隣に生首があった。
「悪い、気絶してたか」
この手の冗談を夏休み初日に覚えた(正確に言うなら一緒に行った遊園地のお化け屋敷が原因)鈴は俺にだけやってきた。
元は家族や使用人の人にもやっていたそうだ。
「こら、女の子はすぐに首を外すもんじゃないぞ。はしたない」
「まぁまぁ、驚いてしまいましたよお嬢様…さぁ、お暇でしたら御勉強を」
「お嬢様、デュラハンごっこはいけません」
などなど…色々と奇襲したらしいがどれも今一な結果に…というより、怒られて終わっている。
唯一、驚いたのは俺だけだ。スポーツバックの中に頭が入りこんでやがった。
「もう驚いてはくれないんですね」
「いいや、驚いたよ。まだ本調子じゃないだけだ…よっと」
大切な頭を抱えて、辺りを見渡す。
どうやら、鈴の部屋のようだ。
「…体は?」
「えっと、添い寝してます」
隣を見る。俺の隣に首なし死体がっ…。
一人の女の子に両脇挟まれた状態で寝てたのか。こりゃあ、貴重な体験だ。
相手が鈴で無ければ『おいおい、男にこんなことしてたら襲われるぞ』と言うのだが、天然なところがあるからなぁ…照れて混乱しそうだ。
頭をくっつけてやって、布団を立つ。さすがに同じ布団で向かいあうのは恥ずかしかった。
「あの、まだ寝ていたほうがいいです」
「でもさすがに夜には帰らないとな。迷惑かけたよ」
「今日も泊まって行っていいです…白取先輩が望むなら、ずっといてくれても…いいですよ?」
「え?今なんて…」
「ずっと、居てくれても…」
「いや、その前」
「今日も泊まって行っていいです」
今日、も?
「俺もしかして丸一日寝てたのか?」
「はい。いけないとは思いましたけど、そのまま寝てしまって…」
えへへと笑う可愛い後輩…その後輩と、一夜を明かしたと言うのか。
「晶お兄ちゃん、見えません」
「すまん、一樹」
「海、あれがお嬢様の彼氏ね」
「おわっ!?」
ふすまが少し開いて、住良木先生と他のお手伝いさんがこっちを見ていた。鈴は気が付いていないのか、人差し指を突き合わせている。
「許可が無いと、い、いけないとは思いましたけど…その、身体も汗をかいていたので拭かせてもらいました」
「そ、そうか…ありがとな」
ええい、後ろの連中なんて無視だ無視!
「いえ!白取先輩にはいつもお世話になってますから!」
こういう時こそ、こういういい雰囲気にこそ…彼女のお父さんが、出てくるべきだろう。
「旦那様、ここで出るべきではないのですか?」
使用人もちゃんと押してくれている。
「…いや、私はあの子の幸せを切に願っている…今回は空気を読んでに、出ないと決めた」
俺から見たら空気を読めていない。
「私が倒れた時は…看病、してくれますか?」
俺の後ろでもちろんです!という声が聞こえてきた。
「あ、ああ…俺でよければな」
「はい!あ、汗が出た時は…その、綺麗に拭いてくださいね。ダメ…でしょうか?」
あれ?
もしかして…
鈴って、俺の事が…好きなんじゃないのか?
「えっと、その時は…ま、任せくれ」
「はい!お願いします!」
いやいやまてまて、安直な答えは俺が振られると言うBADENDを迎える要因だ。落ちついて答えを出せばいいと思う。




