第二十五話:期末テストが近いのです
第二十五話
気付けば期末テストがもう目の前。
これさえ終われば念願の夏休み突入秒読みなのだ。
「ぐっへっへー白取先生―」
お隣さんは悪い笑みを浮かべていた。
期末テスト一週間前、『なんとかなるなるなるしすとー』と一昨日は叫んでいた。
「何だ」
「勉強教えて!」
ぱんっと手を叩かれて拝まれる。
「…そう言うのは俺より点数高い人に言ったほうがいいぞ」
「無理だよー。だって、あれ見てよ」
目の下にクマを作りながら一生懸命自習している人たちの姿がそこにはあった。
「ああまでして勉強しても、得られるものなんて何もないよっ」
「点数とか、未来とか、達成感とかあるんじゃねーの?」
俺も真面目にちゃんとしているほうではないから何とも言えないがな。平均点以上は一応取れてはいるが…自慢にもならない。
「どうせ脳が覚える事を拒否しちゃうもん」
「…それで、一昨日とは違ってどうしたよ。余裕かましてたじゃねぇか」
「うん、よくぞ聞いてくれました。うちのお母さんが『次のテストで点数低かったらお小遣い下げる!』と言ってきたのです!」
「そうか、頑張れ」
自分の尻に火がつくと人間って現金だよな。わが身が一番可愛いもんだ。
「何故に俺が無条件でお前さんに教えにゃならんのだ」
「甘い、甘いよ白取君」
「今度はなんだ」
比較的薄そうな胸を(着やせだと言い張る本人)叩いて俺を指差す。
「ふっふ、今手伝ってくれたら女の子にもてない白取君にあたしがデートしてあげ…」
「冬治くーん、テスト終わったら二人でゲーセン行こうよー」
七色が手を振っている。
「ああ?わりー、後で詳しく聞くわ。それで、何だって?」
「…うう、白取君があたしに勉強教えてくれたらあたしとデートしてください」
「文脈、おかしくないか?」
涙目になってるなんて一体、この短い間に何があったんだ。
「あ、あのさ、携帯電話見せてくれない?」
「ケータイ?別にいいけど?」
いくら自習時間とはいえ、ケータイいじるなんて不真面目すぎるぜ。
「電話帳みていいかな?」
「ああ」
「女子、男子、家族、普通でわけてるんだ、ふ、ふーん…女の子のところはどうせ、あたしだけだよねー」
「終わったら返してくれよ」
これ以上話していても埒があかないので一つでも英単語を覚える方にシフトする。
「…春成、夏八木、秋口、晩冬先輩、百合先輩、がっちゃん先輩、美也子先輩、七色…あ、あの、白取君?」
「何だ?」
「あたしの分が、女の子の場所に無いんだけど」
またもや涙目である。
「ああ、この前登録したばっかりだから普通のところに入ってると思う」
ささっと操作して確認しているようだ。
「…な、ないよぉ…」
「あれ?おっかしいな…」
こっちから赤井にかける事は基本的に無いからなぁ…あっても、履歴から電話かけたりしてるし。
「まさか、ここで…男の子に…」
「待て、先生が来た」
またもやケータイを操作しようとする赤井の手から奪い取ろうとして…避けられる。
何とか二回目で奪取し、急いでポケットに滑らせようとして…腕を掴まれた。
「こら、白取君!」
「あっ…」
三十路の数学教師、四季萌子先生が俺のケータイを引っ張り出す。
「授業中に携帯電話は操作しちゃ、ダメでしょ?」
かなり近い距離でそう言われる。隣を見ると教科書逆さまに呼んで勉強しているアホがいた。
「…はい」
「没収だからね…めっ!」
めっ!って…先生、もう三十路ですよね。
そんな事言ったらどうなるのかわからない。男子生徒が『四季萌子ルートへようこそ!』『おいでませ萌子さんルート』『さようなら』等とふざけた文字をノートに書き込んで見せてきている。
次の休み時間にこってり絞られた俺のケータイに先生のアドレスがしっかりと刻まれていた。
「あ、あれ、消えねぇ…」
「白取君、遊んでないで早く勉強教えてよーっ」
「わかったよ…ま、いいか」
世の中には知らないほうが幸せの話だってある。
多分、これがそうなんだろうなぁ。
アクセス数から見ての人気順。赤、黒、青、黄の順番でした。意外な結果…というわけでもなく順当な結果ですかね。うん




