第二十一話:素直に言えない狼少女
第二十一話
中間テストも終わったある日、家に帰る途中で気がついた。
「…誰かにつけられてる?」
何となく、後ろを振り返る。其処には誰もいなかった。最近じゃ、ここらも電柱が地中に埋まってるから隠れる場所は無いはずだ。
曲がり角まで行って確認してみたものの、其処に誰かがいるわけでもなかった。
「…うーん?」
美人でボインでうなるほどお金を持っていたり、某国のエージェントなら尾行されているかもしれない…そんなことはない、ただの学園生だ。
しかし、それから歩いていてもやっぱり誰かの視線を感じるし、音もかすかに聞こえる。走りはじめるふりをして、後ろを振り返る。
「やっば!」
「…」
大きな狼がこっちに走ってきたかと思うと屋根の上に飛んでいった。
「……はぁ」
あんな知り合い、一人しかいない。
「赤井」
「え、えーっと、あたしは赤井じゃありませんよ?狼違いでは?」
「いいから、おりて来なさい」
辺りを見渡し、人がいない事を確認して、手招きをする。赤井とは違って慎重な性格なのだ。
目の前にやってきた二メートル近くの狼を睨みつける。今なら倒せそうな気がするほど、狼は縮こまっていた尻尾なんて垂れ下がって元気が無い。
「赤井、人がとおったらどうするんだ!」
「ご、ごめん」
「ほら、さっさと人間に戻れよ」
今一度周りを確認してそう告げる。
「だ、駄目だよ!計画…んぐっ…色々とこれには事情が!」
「事情?…もしかして戻れなくなったのか?」
赤井と話して居たら毎回はやしたてられたり、目の前の狼が挙動不審で何かを企んでいたからなぁ…相談しようにも声をかけづらかったのか?
少し悩むそぶりを見せて何やらポンと手を叩く。
「そ、そうなの!戻れなくなっちゃって、あは、あはは…」
「…でも、ほんの三十分前までは人間だったろ?」
右隣の席に狼が座っていたらクラス中パニックになっていたはずだ。
「……え?あ、そ、そうなんだよね。ちょっと帰り道で興奮してこうなったと思ったら落ちつこうとしても戻れなくってさ」
「深呼吸してみろ。はい、すーはーすーはー」
「すーはーすーはー…あ、戻っちゃった」
俺の頭より一個分小さくなった赤井はどうしようかと悩んでる。
「よかったじゃねぇか」
「あ、う、うんそうだね」
「…嘘付いてないか?」
「ついてないよ?」
俺の目を見ようとしない。あわせようとすれば、逸らし続けている。
「…よし、じゃあ話をしてくれたらこれまでの事は水に流してやるよ」
「え?本当?」
「ああ、俺は赤井に対しては…嘘をつかないよ」
騙したりはするけどね。
「白取君…うん、そうだね。あたしが悪いんだ」
赤井はあっさりと俺の事を信じて話し始めた。
これまで俺の事を騙していたわけではなくただの空回りだったと言う事、背後から襲ってそのまま不良のたまり場に捨てて行き、不良のおもちゃにされているところへ…恰好よく登場するつもりだったそうだ。
「……自作自演かよ」
アホだ。
でも、赤井の言うとおり、頭に来ていた俺が原因を作った事には…なるのかな。
「無視して悪かったよ。でもよ、いつでも謝るタイミングはあっただろ?」
「えっと、何だか恥ずかしくって」
照れた様子で頭を掻く赤井にため息しか出ない。
「狼に変身するのは知っているのになぁ」
ぷにっと鼻先を突いてやる。
たったそれだけで狼じゃない赤井は顔を真っ赤にさせる。
「…だ、だって、恥ずかしかったんだもん。ごめんって、そんなに軽く言えないもん」
「……はぁ。ま、お前の用事は終わったんだろ?これから赤井の家まで送って行ってやるよ」
「大丈夫だよ、あたし、強いし」
「おバカ、女の子を一人で帰すほど腐っちゃいないよ。それに、家は比較的近いんだから迷惑でもない。なにより、久しぶりに話したい事もあるからな」
「え、えーと、白取君がどうしてもって言うのならいいかなぁ」
ちらちらこっちを見る赤井にチョップをしてやる。
「あいたっ!いた」
こいつ、フラグを立てた瞬間真っ先に折りに来るタイプだな。
「…どうしても、赤井の事を家まで送り届けたいので送らせてください」
「素直じゃないなぁ」
「どっちがだ」
運動会から向こう、あまり話していなかったから話のネタに苦労することはなかった。
「じゃあな」
「うん、白取君ありがとう」
送り届けた後に、俺も自宅へと向かう。
一分も経たないところで電話が鳴り響いた。
「っと…なんだ、赤井からか…もしもし?」
『白取君が寂しいと思ってさ、家に帰りつくまで話し相手になってあげるよ』
「…遠慮しとく」
『あ、あれ?やっぱり機嫌悪いの?』
「………いいや、明日からの話のネタが無くなるからな」
『それもそうかぁ…じゃ、気をつけてね』
狼人間につけ回されるより、普通に帰るほうが危険に巻き込まれる事も無いだろう。




