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第二十話:夢の中なら誰でも無敵

第二十話

 自分が夢を見ているという感覚が半年に一回はある。

 この前も道端で大金を拾う夢を見たとき『うわーさすがに一千万円分の札束が落ちてるわけないわ―』と妙に醒めた気分でみた気がする…勿論、すぐに目も覚めた。

 そして、今回も夢を見ていると自覚できた。

「…夢だよなぁ」

 夜空には星なんてないし、月もでてはいない。それでも、都合良く道は開けているし、自分がどこに立っているのかすぐにわかる。

 学園からの帰り道だ。

 しかも、最近見た事がある…いや、今日の光景だ。

「此処を曲がると確か…」

 光りなんて存在していなかったはずの場所に、一件だけ光がともっていた。

 お葬式か、お通夜をしている家…そして、黒葛原さんが中から出てきた。

「……」

 黒衣を着て、手には巨大な鎌をもっている。

 相手は最初から俺の事を待っていたようで黒衣をはためかせる。それと同時に、いつもは顔を隠している前髪が背面に向かってなびいた。

 まがまがしい感じが…何となくする。それでも、俺の知っている黒葛原さんに変わりはない。何かのコスプレをしているだけかもしれない。

 鎌を握りしめ、寄ってくる黒葛原さん…しっかりと顔を確認出来たところで俺はいつも思っている事を口にする。

「……やっぱり美人さんなんだなぁ…」

「……」

 そういうと、照れたようで前髪だけが顔を隠してしまった。ちっ、惜しい。

 黒衣を着て鎌をもっているその姿はさながら死神に見える。夢の中だから、幻想的で…いつもより可愛さが二割増しだ。

 向こうから一歩一歩近づいてくるので俺はさっさと黒葛原さんに近づこうとすると相手は驚いたように一歩下がった。

「避けられてるってちょっと、傷つくなぁ」

「……」

「いや、ね、最近迷惑かけてばっかりだけど、わざとでやってるわけじゃないから」

 夢の中でどれだけ弁明しても意味がない。それでも、やらないといけない気がした。

「本当だぜ?何だかそうなるんだよ。俺達さ、今一噛みあってないのかも…って、ちょっと逃げようとしないで!俺の話を聞いてってば!」

 そういって肩を掴もうとする。しかし、するっと手は抜けて…身体でぶつかってしまう。やっぱり、そのまま押し倒してしまった。

「あいたた…だ、大丈夫?」

「……う、うん」

「そうだ、どうせ夢なんだしこのまま勢いで言っちまうか」

 最近、黒葛原さんの事ばかり考えてしまう。

 きっかけはなんだったか…そんなものは無いのかもしれない。

 いつからだったか、最初からだったのか…黒葛原さんの事が気になって仕方が無いのだ。

「黒葛原さんっ」

 押し倒した状態で肩を軽く掴もうとして、前髪をどける。

 雪のような肌の白さにちょっと驚きながら、しっかりと目を見据える。

「……!」

 黒葛原さんはびっくりしているようだった。近くに落ちている鎌とか、真っ暗な空の下のせいで実感がわかないんだろうなぁ…ま、夢だし。

「俺と、今度の日曜日デートしてくださいっ」

「……う、うん。デートなら…」

「っしゃ!やったねー!」

 夢の中とはいえ、クラスメートの女の子を誘えたのだ。

 倒れていた黒葛原さんを抱き起こす。

「……」

 きゅっと、黒衣を胸の前でしっかりとつかんで直している。

 落ちている鎌も手渡してあげた。

「はい、これ。死神みたいな格好だけど何か刈るの?」

「……刈る、つもりが逆に、狩られた」

 一体何を狩られたのだろう。

「じゃ、俺は行くから」

 こういうときってお約束として…自分の家に戻って布団に入ると起きるんだよなぁ。あれ?それじゃあ俺ってただ約束取り付けただけの道化じゃね?

「ああ、そうか。今度の日曜日と言わず、これからデートじゃ…駄目かな?」

 俺、天才かもしれないね。

 夢の中だから遠慮もいらない。

「黒葛原さんっ。俺とこれからデートしてくださいっ」

「………!」

「最近、黒葛原さんと一緒に居て楽しかったんだ。だから、俺とデートしてくださいっ」

 思いっきり頭を下げた。ついでに、右手も差し出しておいた。

 待つこと数分、『こいつは駄目だ』と脳内の天使が肩を叩いてくれそうになった。

「……う、うん」

 ぎこちない言葉で俺の手を掴んでくれた黒葛原さんに俺は諸手を挙げてくるくると回った。

 それから世界は暗くなくなった。黒葛原さんと手をつないで道を歩いている。

 さぁ、これから水族館に入るぞー…と、意気込んだところで携帯電話の目覚まし時計が鳴り始めた。

「……ふぁ」

 布団の上で目を覚ます。

「……あれ?何だか凄く楽しい夢を見ていた気が…する」

 さっきまで、実際に手を掴んでいたような気がした。にぎにぎと右手を動かしてみると感触が残っている錯覚さえ覚える。

「はぁ…やれやれ」

 女の子の手を掴んでこれまでドキドキするなんてなかったかもしれないな。

 もっと黒葛原さんの事を知りたくなってしまった。

 それならやっぱり、俺の方から行動しないと…駄目だろう。


区切りとなる二十話です。今現在で終わりまでやっていますが…しっくりこないですねぇ。最終回手前まではうーん、まぁまぁと言えばまぁまぁです。非日常要素を入れたせいでまとまりが無い状態に…。七色編も野郎かと思っていましたが、これは非常に無理っぽい。

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