第十七話:回り回って空回り
第十七話
運動会も過ぎ、学園生達にいつもの日常が戻ってくる。
そう、勉強の日々だ。
「…中間もそろそろ始まるのか」
白取冬治もせめてマシな点数はとろうといつもより授業に身を入れている。黙って運動や、勉強に身を入れていれば彼女の一人はすぐにできただろうに…と言われている人物である。
「ねぇねぇ」
「…えっと、ここはこうか」
「ねぇってば」
「…なんだよ、授業中だろ?」
隣からちょっかいを出してくる赤井陽に冬治はうんざりしてしまう。
冬治と陽が運動会で参加した障害物競走は男子が女子に告白したりするための余興みたいなものだった…冬治がそれを知ったのは運動会が終わって少し経った日だ。
知らなかった間…勝手に、振られたなどと言う噂が教室に無いに広まっていたのだった。
そして、それから冬治は『一方的に赤井陽を参加させふられた悲しい男』として馬鹿にされまくりであった。おかげで、他ルート開拓も出来ずじまいだ。
勝手に障害物競走に冬治と共に名を連ねていた陽としては、冬治と一緒に運動会が終わったら遊ぼうと思っていた。彼女はそれを忘れて打ち上げに行ってしまったのだ。
謝ろうと思っていても、空回りばかりだ。
高感度で言うと最低レベル…授業が終わった後に空き教室にうまく呼び出したかと思えば女子が着替え中で冬治は職員室へ連行されたり、休日デートに誘ったのを大喜びしていたら正午に目を覚ましたりしたのだ。当然、待ち合わせ場所に冬治はいなかった。
それ以降、冬治は陽の事を比較的親しい友人から、実際はこけにしまくっていた相手としか見ていない。
「そんなに真面目くさって勉強してもどうせ、あまり良くない点数なんじゃないの?」
陽のその言葉に少しカチンと来る冬治…彼からしてみれば、おちょくられてるんじゃないかと思えて仕方がない。
「やってみなきゃ、わからないだろ」
「無理だと思うよ~」
「ふんっ」
陽からすれば久しぶりに冬治と話せたので、ついつい調子に乗っていたりする。
「おーい、白取くーん?」
「…」
それっきり、無視されるのでちょっかいを出そうとすると何者かに頭を叩かれた。
「いたっ」
「こら、遊んでないでしっかりと授業を聞け」
「……はーい」
隣から笑われているのではないかと陽は冬治を見るがまるで居ないものかのように扱われているようだった。
お昼も、冬治はさっさと何処かへ行ってしまう。今日こそ捕まえてやろうと立ちふさがる。
「…何だ、用事か?」
「一緒に食べよう」
嫌そうな顔をされた。沸点の低い陽は早速冬治に噛みつく。
「…あのさ、何を怒っているのか知らないけど…」
「あんたの色々なからかいに頭来てるんだ」
「あんたじゃないよ、赤井陽だよ!」
「うるせぇ、どいてくれ」
「嫌だね」
べーっと舌を出した陽に冬治はため息をつくしかなかった。
「…赤井さん、実は今狼の姿になってるぜ?」
「え?う、嘘っ!」
慌てて頭やお尻を抑える友人を冬治は無視して去っていく。
教室で話していれば周りが『振られてるのにまだがんばってらぁ』『ざまぁないね』と喜ぶのだ。冬治としては、歯ぎしりしたくなるので陽と話すのは控えている。
お弁当だって屋上お一人様だ。周りのカップルどもがわかればいい等と思って食べている。
そして、そんな状況が続いて中間テストまで一週間となった。
「……やばい」
陽は頭を抱え込んでいた。帰ってマンガを読んだり自堕落に過ごした結果だ。隣の冬治はそれなりに勉強している。
「ああ、誰か優しい隣人が助けてくれないかなーっと…」
ちらりと隣を見ると、冬治が七色に勉強を教えているところだった。
「いやーさすが冬治君だね。僕だったらこんなにすぐ解けないよ」
「そんなことねぇよ」
「またわからなかったら冬治君のところに持ってくるね」
「わかれば教えるよ」
そんなやり取りをジト目で見る。
「…ふーん、七色さんと仲が、いーんだ」
「……さてと、次は移動教室だな」
運動会までは一緒に行っていたはずなのに、おいて行かれている。陽は運動会で仲良くなるつもりだったので完全に肩透かしを食らっていた。
「…はぁ」
陽は八方ふさがりだった。
「冬治くーん、一緒に行かない?」
「ああ、いいぜ」
「なぁにが、冬治くーんだ。あたしなんて、白取君に秘密を…」
そこで陽はひらめいた。
この秘密を使って、冬治に感謝…せめて、元の仲に戻るくらいに出来るかもしれない。
そうと決まれば行動あるのみ…口元を歪めながら陽は先を急ぐのであった。




