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第一章 異なる世界#8


「ソンヒーヌ、この辺りの修復は順調に進んでいます。今後の方針など確認したいのですが…」


「わかった。じゃあ桐生さん、我々はこの辺で」


「あぁ。頑張れよ」


「じゃあねぇイーチ君、また」


「おう!しっかり働けよ!」


 桐生達は一旦ムコーダの酒場に戻る事にした。




「おじさん!おかえりなさい!」


「ハルーカ、店はどうだ?」


「うん!今はサッチャさんが…」


 店の方を見ると、サッチャが盗賊を怒鳴りつけながらコキつかっていた。


「ちょっと!!タルの向きが違うでしょ!!ちゃんとやってよ!…そこ!適当に並べない!!」


「へ、へいっ!……チキショー…なんでこんな小娘に…」


「おい!聞こえるぞ!この女、見た目の割に強ぇんだから、あんまり言うと…」


「聞こえてるわよ…てやぁあ!!」


「あがぁっ!!?」


 小声で悪態をついた盗賊の股間に、サッチャの蹴りがクリーンヒットし、白目を剥いて倒れた。


「うへぇ…言わんこっちゃねぇよ」


「ほら!口だけじゃなくて体も動かす!!」


「へ、へいっ!!!」


「よう、サッチャ!」


「あら!帰ってきたのね!」


「こっちの方はどうだ?」


「順調に立て直してはいるんだけど…」


「何か問題か?」


「いや、大した問題じゃ無いんだけど、町の人達の中には、盗賊に怯えている人も少なくなくて…」


「まぁ、仕方ねぇよな…」


「町の今後の為にも、この町で盗賊達の働き口が見つかれば良いんだけど」


「盗賊達に仕事を斡旋するのか?」


「その方が町の盗賊被害も減るし、働き手も増えるから一石二鳥だと思うんだけど…」


「そう簡単には行かねぇよな…」


「あっ!そう言えば忘れてたわね!桐生さん、コレ」


 桐生はサッチャから金貨2枚を渡された。


「一枚多くないか?」


「町の危機も救ってくれたからね、一枚はサービスよ。アンタも店のツケとは別に、銀貨5枚用意しといたから」


「おぉ!太っ腹じゃねぇか!」


「すぐに使い切らない事ね!」


「き、肝に銘じます…」



 


 その日の夜、サッチャの酒場の2階で休んでいた桐生だったが、ふと目を覚ます。

 すると、隣で寝ていたハルーカが、窓の外を見ていた。


「ハルーカ?」


「おじさん…アレ」


 ハルーカが指差す方には、綺麗な星が輝いていた。


「星がどうかしたか?」


「違う…アレは」


 よく見ると、星の一つがこちらに向かって近づいている様に見えた。


「アレは…ハルーカ、部屋で待ってろ」


 桐生は店を飛び出し、外を見た。


「桐生さん!」


 異変に気付いたイーチ、ナンバ、アダッチ、そしてソンヒーヌのチョーテンもやって来た。


「イーチ、アレは一体…」


「わからねぇ…だけど」


「なぁんかヤバそうだよねぇ…」


「異様な魔力も感じる…なんなんだありゃ?」


 段々と近づいてくるその姿、それは桐生も見覚えのある物だった。


「…アレは……青龍?」


 その姿は、桐生が背中に彫った青龍と瓜二つだった。


「ド、ドラゴンだ!!!」


「この町に向かって来てるぞ!!」


「みんな!!逃げろ!!」

 

 イーチ達は町の人間達に避難を促した。


「総員!!緊急事態だ!!戦闘準備をしろ!!」


 ソンヒーヌとチョーテンは盗賊達に号令をかけ、ドラゴンに迎え撃つ準備を始めた。


 慌ただしく動く町の人間達。そして、ドラゴンは町に降り立ち、その姿の全貌を見せた。


「で、デケェ!!?」


「こんなもんが暴れたら、町はひとたまりもねぇぞ!?」


 恐れ慄くナンバだったが、ソンヒーヌとチョーテンは毅然とした態度で盗賊達を統率した。


「各自、町の人間の避難を優先し、ドラゴンを迎え撃つぞ!!」


「おうよ!!せっかく直してるってのに、壊されちゃたまんねぇぜ!!!」


「やってやる…やってやるぞ!!!」


 盗賊達がドラゴンに向かって行くも、ドラゴンはまるで赤子をあやすかの様にそれをあしらい、盗賊達はまるで歯が立たなかった。


「畜生…全然敵わねぇ…」


「ナンバ!アダッチさん!俺たちも行くぞ!!」


「町の危機だ!黙っていられねぇ!」


「こうなりゃヤケだ!!」


 冒険者達もドラゴンに向かって行くが、それでも焼石に水だった。


「桐生さん!」


 そこにハルーカの手を引くサッチャが現れた。


「サッチャ!ハルーカを頼む!」


「おじさん!」


「心配するな、早く逃げるんだ」


 すると、突然ドラゴンは周りの盗賊や冒険者達を尻尾で薙ぎ払った。


「ぐぁっ!!?」


「いでぇっ!!?な、なんだ一体!?」


 そして、何故かハルーカの方に向かって猛スピードで飛んで来た。


「キャアァッ!!!?」


「ハルーカちゃん!!」


「ハルーカ!うぉらぁ!!!!」


 桐生はハルーカを守る様にドラゴンの前に立ち塞がり、ドラゴンの顔面にアッパーを喰らわせた。

 ドラゴンは思わず顔を上に向けてしまう。


「さ、流石桐生さん…」


「やっぱり化け物だね、あの人」


 桐生はドラゴンに臆する事無く立ち向かう。


「ハルーカには…指一本触れさせねぇぞ」


 桐生の静かな気迫を見たドラゴンは、何故かその動きを止め、急に大人しくなった。


『……お前は一体……』


「っ!?この声は……お前なのか?」


 ドラゴンのものと思しき声が、桐生の頭に直接響いた。


『…まぁいい…お前が居るなら…その子は任せた…」


「ハルーカの事か?…お前は一体…」


 ドラゴンは何も答えず、手に持っていた不思議な玉を桐生に手渡し、そのまま何処かへ飛び去ってしまった。


「に、逃げたのか?」


「た、助かった!町が守られたぞ!!!」


 ドラゴンの撤退に湧き上がり、肩を抱き合って喜ぶ町の人間達と盗賊達。


「桐生さん!!あんたやっぱスゲェよ!!」


「………」


「桐生さん?」


 イーチが話しかけて来たが、桐生はドラゴンの言い残した言葉が気になって考え込んでいた。


「奴は一体……ハルーカ…」


 何故ドラゴンはハルーカを狙ったのか。


 そして最後の『任せる』とはどう言う事なのか。


「おじさん!」


 ハルーカが心配そうな顔で桐生に駆け寄る。


「ハルーカ…怪我は無いか?」


「うん!おじさんは?」


「あぁ、大丈夫だ」


「しっかし、ドラゴンを追い払うなんてねぇ…しかも、龍玉まで手に入れるんだから」


 サッチャは興味深そうに桐生がドラゴンから受け取った謎の玉を見る。


「龍玉?」


「その玉、とても貴重な物で、武器の素材として重宝されてて、それ一つで屋敷が買えるほどの値段になるみたいよ」


「屋敷が!?と、とんでもねぇなぁ…」


「取り敢えず、大事にとっておいた方がいいわよ」


「あぁ、わかった」


「さぁ!!ドラゴン退治の立役者!!こっちに来いよ!!」


 アダッチに呼び込まれ、町の中心部に行くと、町の人間と盗賊が集まり、酒樽を運んでいた。


「なんだ一体?」


「何って…宴に決まってるだろ!」


「ドラゴンに襲われたイージンが、英雄によって守られたんだ!!宴をやらない訳にいかないだろ!!」


「英雄って…そんな大したもんじゃ」


「いいからいいから!もうみんな酒を持って待ってんだ!乾杯の音頭を頼むぜ!!」


 みんなが期待の目で桐生を見ており、仕方なく桐生は酒の入ったマグを掲げた。


「乾杯!」


 桐生の声に合わせ、全員が酒を掲げ、大騒ぎを始めた。


「いやぁ!めでたいなぁ!」


「しかし、アンタら案外いい奴だなぁ!町の為に働いてくれた上、ドラゴンと戦ってくれるなんて!」


「べ、別に俺達は、直した建物を壊されたく無かっただけで…」


「照れんなって!!」


 すっかり町の人間達も盗賊に怯える事無く、危機を乗り越えて絆が生まれた様だった。


「おじさん…」


 桐生に話しかけるハルーカは眠そうな顔をしていた。


「ハルーカ…もう休もうか」


「でも、おじさんは…」


「いいんだ、部屋に戻ろう」


「なんだ、主役はもうお帰りか?」


「すまねぇな、みんな楽しんでくれ」


 眠そうなハルーカを連れて酒場に戻り、ハルーカを寝かしつけた。

 その間も、桐生はドラゴンの言葉を思い出していた。


「『この子を任せた』とは……ハルーカは一体?」


 眠るハルーカの隣で、桐生は理由のわからない胸騒ぎを感じていた。

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