第一章 異なる世界#7
頭目二人の掛け声で、ハンピリュー、コミジュールの軍勢が一気に四人に襲いかかる。
「おりゃっ!おっしゃぁあ!!」
イーチは一人一人の攻撃を冷静に防ぎ、反撃をし、なんとか大人数を対処する。
「ぐぅっ!だらぁっ!!ナンバぁ!」
「とっておきぃ!!!!」
アダッチが敵の攻撃を防ぎ、その後ろからナンバが魔法で攻撃する。
三人が死に物狂いで応戦している横で、桐生は鬼神の如き大立ち回りを繰り広げていた。
「はぁっ!!おらぁっ!!だらぁあ!!」
襲いかかる敵を次から次に拳で叩き落とす。
「きしゃあぁっ!!」
「ふんっ!!!」
「ぐぁっ!!」
襲いかかって来た一人が目の前で倒れ、その両足を掴んでぶん回す。
「おぅらぁああっ!!!!!!」
巻き込まれた敵が次々に倒れ、投げ飛ばした先でも敵が一斉に吹き飛ぶ。
「な、なんだよコイツ!?化け物だぁ!!!」
「おい!お前ら!!一斉にかかるぞ!!」
「お前コミジュールだろ!?指図すんじゃねぇよ!!」
「言ってる場合かよ!!」
「ちぃっ!!しゃあねぇ…行くぞ!!!」
「おらぁああ!!!!!!」
ハンピリュー、コミジュールの四人が一斉に襲いかかるも、桐生は素早いステップで姿を消してしまう。
「ど、どこに…ぐぁっ!?」
懐に潜り込んでからのアッパー。
「な、なんだ!…ぐぇっ!?」
続いて顔面パンチからの裏拳。
「は、早すぎ……ぶぁあっ!!?」
素早く顔面に裏拳がヒット。
「に、逃げ…はぁっ!?でぇっ!があぁあっ!!!!」
手首を手刀で叩き落とされ、体制を崩して落ちた顔面を思い切り弾き飛ばした。
多人数戦の必殺『驚愕の極み』が決まった。
「いぃやっ!!!」
そこに一本の青龍刀が振り下ろされ、桐生は冷静にそれを避けたが、好機とばかりにナイフが投げられ、間一髪でそれを避ける。
「やるねぇオジサン…俺とも遊んでよ?」
「お前はここで必ず仕留める!!」
チョーテン、ソンヒーヌが桐生の前に立ちはだかる。
「しっ!!はぁあ!!いぃやぁ!!!」
「せいっ!!あぁあっ!!!」
変幻自在な太刀捌きのチョーテンと、素早い手数で翻弄するソンヒーヌ。
どちらも厄介な攻撃方だったが、桐生は虎視眈々と反撃の機会を待っていた。
「はぁあっ!!!」
そして、チョーテンの青龍刀が桐生の頭上に振り下ろされた時、桐谷は真剣白刃取りで受け止めた。
「はぁっ?マジかよっ!?」
「はぁあっ!!」
すかさずソンヒーヌがナイフで仕留めようとするが、桐生はチョーテンの青龍刀を奪い、そのままナイフを弾く。
「なにっ!?」
「おぅらぁあ!!!!」
「ぐはぁあっ!!!」
「あぁあっ!!!!」
体勢を崩したチョーテンに渾身の一撃を見舞い、そのまま雪崩式にソンヒーヌ諸共吹き飛ばした。
戦いが終わったその時、その場に広がっていたのは、一面に倒れたハンピリューとコミジュールの大群、その真ん中で息を切らすイーチ、ナンバ、アダッチ、そして、仁王立ちの桐生だった。
「や、やっぱこの人…とんでもねぇ…」
「もしかしてコイツ…龍の血でも流れてんじゃねぇのか?」
「なんにしても…人間じゃねぇよ」
桐生は倒れたチョーテンとソンヒーヌの前に立った。
「さぁ…まだ喧嘩するか?」
「いや…そんなの無理だって…俺たちもうここから消えるから」
「我々も手を引く…もう勘弁してくれ…」
二人の合図でハンピリュー、コミジュールの軍勢が傷ついた体を引き摺りながら立ち去ろうとした。
「おい…どこへ行くつもりだ?」
「…なんだ?」
「町をこんなにしたんだ…キッチリケジメはつけて貰うぜ」
「ま、マジか…」
一同が桐生の威圧に青ざめてしまった。
翌日の朝、スラム街には異様な光景が広がっていた。
「そこの柱を支えて下さい」
「はいっ!っしょ!…おい、お前!ちゃんと持てよ!!」
「うるせぇ!!なんでコミジュールのお前らの言う事…」
「現在チョーテンから指揮権を譲り受けています。文句を言う前に体を動かして下さい!」
「…チッキショー……」
ハンジュンの指揮の元、ハンピリュー、コミジュール関係無く、イージンの修復作業に当たっていた。
「まさか、こんな事になるとはねぇ…」
「全くだ…本当にめちゃくちゃな男だ」
「精が出るな」
チョーテンとソンヒーヌの元に、桐生とイーチが現れた。
「あぁ、お陰様でな」
「まったく…消火作業だけで無く、盗賊相手に大工仕事をさせるなんて……」
「アンタらが壊したんだ。責任は取ってくれよな」
「そうだ……なんなら、一丁気合いでも入れてやろうか?」
「いやっ…もう勘弁してよ…」
「ところで、アンタらこれからどうするんだ?イージンから離れてどこに行くのか?」
「ここにアンタの息がかかってる以上、俺たちは手出し出来ないって」
「また、何処かへ流れて暮らして行くさ」
「お前ら…元々この辺りの人間じゃ無いのか?」
「元はここより北の国から来ていてな。貧しい国だったが、王都の貴族に労働力目的で雇われ、海を越えてきたものの、貴族側の金が底をついたと言って突然断られ、結果我々がこの国に取り残されたと言う訳だ」
「ひでぇ話だなぁ…」
「仕事を探そうにも、この国は案外移民に優しくなくって、酒場のウェイターどころかどぶさらいもさせて貰えない。んで、路頭に迷った仲間を俺達が率いて盗賊団が出来上がったって話」
「だけどよぉ、冒険者なら出来たんじゃねぇのか?冒険者ギルドなら移民にだって仕事を回してくれる筈だぜ?」
「あぁ…まぁ、実際試験を受けて、冒険者を目指したりしたんだけどねぇ…」
「んっ?どうしたんだ?」
意味ありげに言葉を濁すチョーテン。
「イーチ君はいつ頃冒険者になったのかな?」
「えっ?確か…15年くらい前だったか?…」
「なるほど…それなら、恐らく試験官は初老の男性だっただろう」
「あぁ…確か『カシワーギ』とか言うオッサンだったな」
「『カシワーギ』…か」
「桐生さん、知ってんのか?」
「いや…」
桐生は一人の男の顔を浮かべていた。
「カシワーギは、その後すぐにギルドの試験官を引退して、元冒険者の二人が新たな試験官として配属になったのだが…これがどちらも桁違いの強さでな」
「二人?なんでまた二人も?」
「ギルドの方針で『剣術担当』と『格闘担当』で分けられたんだ。そして、特にこの『剣術担当』の試験官が異常でな…試験を受けた人間が何人も大怪我を負わされ、冒険者の道を断念させられているんだ」
「試験官なのに相手を怪我させてんのかよ!?」
「ウチの身内も例外じゃ無くってねぇ…何人も冒険者の道を諦めたんだ。まぁ、俺とかソンヒーヌは試験受かったんだけど、無職になる奴らを放っておくわけにもいかなくて、それで族を作ったってわけ」
「そうか…お前らにそんな事情があったのか…」
チョーテンとソンヒーヌの話を聞いて、事情を理解した桐生だったが、どこか納得行かなそうなイーチが口を開いた。
「だけどよぉ!それでも、周りに迷惑かける盗賊からは足を洗うべきだ!!」
「いや、イーチ君話聞いてた?俺達の中には仕事に就けない奴が…」
「それはわかってる!でも…それでももっと足掻いて、諦めずに何か方法を探すべきだ!それでも盗賊を続けて生きていこうだなんて…怠けてるのと同じだろ!」
イーチの言葉にチョーテンとソンヒーヌが眉を顰めた。
「聞き捨てならないな…この国の人間で苦労せずに冒険者になったお前に、我々の苦労など…」
「俺も昔はタダの盗賊崩れだった!!」
「なにっ?」
「俺も、ハルーカと同じ孤児だった…育ててくれた親も早くに亡くなって、路頭に迷った俺は、人様から盗んだり、無理矢理奪って生きる方法しか思いつかなかった。だけど、ある冒険者と出会ってから、俺は生き方を変える事を誓った。冒険者ギルドは、犯罪者だった俺を門前払いしたが、俺は諦めずに何度も門を叩いた。そして、半年近くしてようやく試験を受けて、冒険者になる事が出来た。それでも食えなくて宿無しの生活が続いたが、今ではなんとか地に足つけて生きてんだ!」
「イーチ……そうだったのか」
「確かに一度は挫けたかもしれねぇ…だけど、何度も何度も足掻いてみせれば、何か変わるかもしれねぇ!それもしないで人様から奪う事しかしねぇなんて、怠けてると思われてもしょうがねぇだろ!」
イーチの言葉に考えさせられるチョーテンとソンヒーヌだった。
「確かに……イーチ君の言う事も一理あるかな?」
「我々に出来ることは無いと勝手に決めつけていた節はあったかもしれないな」
「だろ!?今はこうして、街のために大工仕事だってやってるんだ!これからはまた新しい事もできるかも知れねぇ!その為だったら、俺だって手を貸すぜ!」
イーチの快活な態度に、二人も心動かされ始めた様だった。
「イーチ君って…臭い事とか平気で言えちゃうタイプよね」
「本当に単純と言うか…不思議な奴だ」
「な、なんだよ…馬鹿にしてんのか!?」
「いや…お前はやっぱり、勇者に向いているな」
「桐生さんまで…なんなんだよ!?」
先日まで命のやり取りをしたとは思えない、なんとも和やかな空気が流れていた。




