第一章 異なる世界#5
「ホシーノ伯爵邸?」
「少し前までイージンの町を仕切ってた貴族の爺さんでな。『セイリュ商会』っつう大商会を待つ商人でもあって、イージンの町人からも評判の良い大物だったんだが、実は裏では非合法な品を取り扱ってたりするギャングのボスの様な一面もあったんだ」
「セイリュ商会…」
「そのせいで敵も多く、結果邸宅内で何者かに殺されちまったらしい。今は腹心だった『タカーベ』って貴族が商会を回してて、噂じゃホシーノを殺した相手への返しも済ませたって話だ」
「で、ホシーノ伯爵の豪邸は、殺人現場だって事で気味悪がられて買い手もつかねぇ。殺されたホシーノの霊が住み着く幽霊屋敷なんて噂もたって誰もよりつかねぇ。今じゃ浮浪者の寝床やギャングの取引に使われるようになっちまったんだとさ」
「なるほど…つまり、コミジュールの隠れ家にうってつけって事だな」
「まぁ、そういう事だ。調べてみる価値はあると思うぜ」
四人は共にスラム街へと足を踏み入れる。
スラムに入ると、一同は頻繁に声をかけられた。
「おう、イッちゃんにナンバじゃねぇか。また金が無くて帰ってきたのか?」
「まぁ、貧乏にはちげぇねぇ。金に余裕が出来たら、酒でも買ってくるよ」
「期待しねぇで待ってるぜ!」
「イッちゃん!ねぇ、タマにはウチで遊んでってくれよ〜」
「わ、悪りぃけど金がねぇからよ」
「コイツには先約も居るしな」
「う、うるせぇ!」
「ずいぶん人気者じゃねぇか」
「あぁ、俺とナンバは金の無い時期にしばらくこの辺で世話になっててな。みんな顔馴染みなんだよ」
「そんでもって、この辺りの情報を知るなら…」
そこに居たのは、これまた桐生も見覚えのある人間だった。
「あんた…」
「村長!ご無沙汰してます!」
その男は、異人町のホームレスを仕切っていた『村長』そっくりだった。
「おう、イーチとナンバにアダッチさんも…あんたは?」
「この人は桐生さんです。訳あって一緒に居るんですが、少し聞きたい事があって…」
イーチはこれまでの話をザックリと伝え、コミジュールの件を尋ねた。
「なるほどな…お前達の読みは、恐らく当たりだな」
「えっ?どう言う事だ?」
「ここ数日、ホシーノ邸から浮浪者やギャングが出入りしてんのを全くみていない。こんな事は初めてだ」
「それが、コミジュールと何か関係あるのか?」
「相変わらず察しが悪いな、お前は」
「き、恐縮です」
「中にいる奴が、人を払ってるのか」
「桐生さんはわかってるみたいだな。コミジュールの連中が居るんじゃ、浮浪者どころかその辺のギャングも太刀打ち出来ない。隠し事に最適なアソコに、誰も立ち入れないのが何よりの証拠だ。それに…」
「それに?」
「ウチのバカな奴が、コッソリ邸宅を覗いたらしいんだ。すると、どこからとも無く矢が飛んで、そいつの頬を掠めたらしいんだ。恐らく、警告だったんだろうよ」
「確定だな。コミジュールの監視役に弓矢が配られるのは有名な話だ」
「よし、早速行くか」
「まてまて!」
意気込む桐生を止める三人。
「なんだ?どうした?」
「どうしたじゃねぇよ。桐生さん、アンタどう見ても丸腰じゃねぇか」
「ゴブリンの群れにゴブリンロード一体を素手で倒したのはとんでもねぇが、それでも相手は武装した盗賊団、ましてや手練れのコミジュールともなれば話は別だ。万全の準備をしておいて損は無いだろ」
「そうだな…だけど金はどうする?」
「大丈夫だ。丁度スラムに変わり者の女技師がやってる工房があってな。腕の立つ人間ならツケで仕事をしてくれる所なんだ」
「桐生さんならうってつけだろ」
「そうか…なら、行ってみるか」
スラム街の奥、煙の匂いが近づいてくると、店の建物が見えてきた。
「アレがイージンの町の『ジュリー工房』だ」
「ジュリー……んっ?アレは…」
店の前に立つ一人の女性が、見るからに柄の悪そうな連中十人と話をしている。
「おいおい嬢ちゃん…なんで俺たちに武器を売ってくれねぇんだよ」
「貴方達みたいに大した腕も無い人達、その辺の武器屋のなまくらで充分でしょ?」
「…なんだと?」
「ウチで買ってもお金の無駄だから、やめといた方がいいわよ?」
「……そうかそうか…俺たちの腕をみくびってんなら……試しに見てみるか!?」
ゴロツキ達は剣を抜いて女性に斬りかかろうとする。
すると、桐生が斬りかかるゴロツキの腕を掴んだ。
「な、なんだテメェ!?」
「女相手に易々と手を上げるような野郎を…見逃せる程大人じゃねぇんだよ」
男は無理矢理桐生の手を振り解いた。
「へっ!!正義の味方気取りかよ!いいぜ…オメェらぶっ殺した後、この女を痛めつけてからタップリ楽しませてもらおうか!!」
「おい!桐生さん!そいつら恐らくコミジュールの下っ端だ!勝てる見込みは有るのか?」
「さぁな……だけど、放っておくわけにもいかねぇ…だろ?イーチ」
「へっ!人助けは勇者の仕事だ!」
「全く…コイツもイーチと同レベルのバカだったか」
「仕方ねぇよアダッチさん。こういうバカは何言ったって止まんねぇ。腹括るしかねぇ」
「まぁ、その方が面白いってもんだ」
ナンバは木製の杖、アダッチは大きな盾と短い棍棒を構えた。
「ゴチャゴチャうるせえぞ!!」
ゴロツキの一人が斬りかかると、アダッチが大楯でそれを防ぐ。
「どうした?そんなもんか?」
「くっ!?コイツっ!」
「ぬおりぁっ!!!」
アダッチは大楯でゴロツキを跳ね飛ばし、そのまま脳天に棍棒で一撃喰らわせる。
「グハァッ!!?」
「一丁あがりだ!」
「調子に乗ってんじゃねぇ!!」
アダッチの後方から他のゴロツキ二人が襲いかかる。
「そうはいかんぞ」
突然ゴロツキ二人を怪しげな炎が包み込んだ。
「ぐぁっちちちちっ!!?」
「火加減は弱めにしてるから、安心しな」
「魔法使いだ!アイツから潰せ!!」
また別のゴロツキが一気に近づき、ナンバに襲いかかる。
「ちょっ!接近戦は勘弁してくれ!!」
「任せろっ!」
イーチが間に入り、ゴロツキ達を切り伏せる。
「グハァッ!!!」
「よっしゃ!!後の奴らは…」
三人がふと横を見ると、その光景に固まってしまう。
「おぅらぁ!!!」
「ぐあぁっ!!」
「ば、化け物だっ!!」
「でいやぁ!!!!」
「がはぁっ!!」
桐生がゴロツキを殴り倒し、それを掴んでまた別のゴロツキにぶん投げる。そして渾身のドロップキック。三人が四人のゴロツキを倒している間に、桐生は残りの六人を倒していた。
「なぁイーチ、あの人に武器って必要なのか?」
「ま、まぁ…念のため持たせといた方がいいんじゃねぇか?」
「所謂『オークに金棒』って奴だな」
「これで片付いたか……」
「桐生さん、コイツらコミジュールの連中だ。何か聞き出せるんじゃ無いか?」
「そうだな…」
ナンバの提案に乗り、桐生は倒れている一人の胸ぐらを掴んで起こした。
「おい…コミジュールの頭は何処にいる?」
「し、しらねぇよそんなもん!!」
「こっちは大体の目星はついてんだ…ホシーノ伯爵邸で間違いないか?」
「な、なんでそのこ……ぐぁっ!?」
その時、目の前の男のこめかみを、何処からとも無く飛んで来た矢が貫いた。
桐生が矢が飛んで来た先を見ると、走り去る人影が見えた。
「おいおい、マジかよ!?」
「口止めか…アイツもコミジュール」
「ヤベェよ…マジで俺ら殺されんじゃねぇか?」
「しかし、ここまで情報を握らせたく無いって事は、俺らの読みは間違いないって事だろうな」
「取り敢えずコイツらは衛兵に任せよう」
偶々通りかかった巡回中の衛兵に、盗賊達の身柄を引き渡した。
「あのぉ…」
一通りのやり取りが終わった後、ジュリーが申し訳なさそうに入って来た。
「そうだ、アンタ大丈夫か?」
「助かったよ、ありがとう。イーチさんにナンバさん、アダッチさんと…」
「桐生だ」
「初めまして。私はこの工房の主人の『ジュリー』よ。貴方達もここに用があったの?」
「ジュリー、すまねぇがこの桐生さんの装備を見繕って欲しいんだ。その…またツケで悪りぃんだけど…」
「助けてもらっておいてお金なんて貰えないよ。今回はタダで用意してあげるわ」
「いいのか?」
「次からは有料だから、常連になって沢山お金落としていってね?」
「あぁ…約束だ」
「桐生さん、職業は?」
「『武闘家』だな」
「それで素手でも強かったのね。わかった、店に入って待ってて」
ジュリーに促されて店に入る。
店の中には雑多に素材や武器、装飾品が置かれていた。
「取り敢えず戦闘用のガントレットとグリーブ…あとライトアーマーくらいで良いかな?」
「俺はよくわからないから、ジュリーの見立てで頼む」
「了解。そしたら取り敢えず、そのヘンテコな服の上からでも付けられるもので用意するね」
桐生はジュリーの用意した装備品を、スーツの上から着用した。
「ほぉ、急拵えにしちゃ様になってるな」
「随分変わった服装だけど…やたら桐生さんには似合ってるな」
「ふっ…そうか?」
「それじゃ、桐生の装備も揃えたところで、いよいよ攻め込むか」
「はぁ…やっぱ気がのらねぇ」
「ここまで来たんだ、うだうだ言うんじゃねぇよ!」
「よし…行くぞ」




