第一章 異なる世界#4
「特例?」
「さっきも出たけど、実は最近町の近くでの盗賊被害が増えてて、ギルドに相談したらなんでも『盗賊団』同士の抗争が近いかも知れないんだって」
「テメェの荒事に関係の無い人を巻き込むなんて…とんでもねぇ奴らだ!」
「その『盗賊団』ってのは、そんな幾つもあるものなのか?」
「王都の近くに行けば、10や20じゃきかねぇだろうな…」
「この辺りを縄張りにしてる盗賊団はたった二つ。でも、その二つが危険なのよ…」
「危険?」
「まず一つ目は『チョーテン』率いる『ハンピリュー』って言う盗賊団ね」
「チョーテン…ハンピリュー」
桐生は聞き覚えの有る名前に、ある男の姿を思い浮かべた。
「おじさん知ってるの?」
「いや…どんな奴らだ?」
「使い手ばかりが集まった超武闘派集団で、腕の立つ冒険者や衛兵相手にもお構い無しで追い剥ぎをするんだけど、アイツらはそれ以外にも『ある仕事』をして儲けているの」
「仕事?」
「どうやら、アイツらの腕を買った貴族から『何でも屋』として仕事を請け負ってるらしいの」
「何でも屋?掃除とか荷物運びとかか?」
「そんな訳ないでしょ!」
「……『殺し』か…」
「えぇっ!?」
「一部の貴族達は自分にとって不都合な相手を、ハンピリューに依頼して消してもらっているらしいの」
「とんでもねぇワルが居るもんだな…」
「そしてもう一つ、女首領『ソンヒーヌ』と側近の『ハンジュン』が率いる盗賊団『コミジュール』」
「…やはりか…」
「おじさん?」
「コミジュールはあまり姿を見せない盗賊で、武力ではハンピリューに若干劣っているらしいけど、隠密に長けた奴が多いから、盗みや暗殺が得意で、その力で大金を溜め込んでるらしいの」
「どっちもクセの強い連中で、王都の連中も及び腰になっちまってなぁ…」
「それじゃあ、追い剥ぎをやっている盗賊連中を片っ端から追い払えば良いってことか?」
「いや、実は……ギルドからの情報で、ここ最近のコミジュールの動きが不穏で、実はコミジュールの首領と数名の手練れが、このイージンの町に潜伏してるらしいの」
「なんだと?」
「さっきも言ったけど、コミジュールはハンピリューに若干戦力で劣ってるみたいで、抗争で勝つ秘策の準備の為に、今はこの町で身を潜めているそうなの」
「そんな危なっかしい奴がこの町にいたんじゃ…」
「ハンピリューに居処がバレたら、この町が戦場になってしまうわ」
「と言う事は…サッチャの頼みは『コミジュールの首領を探す事』だな?」
「そう言う事よ」
「だけどよぉ!見つけた所でどうすんだよ?危ねぇから町から出てけって言って、それで出ていく連中なのか!?」
「穏便には行かないでしょう……だからこそ、イーチと桐生さんの力があればなんとか……」
「はぁ…桐生さん、どうするよ?」
「この頼みに、報酬は出るのか?」
「勿論!銀貨5枚……いや、先立つものも含めて金貨1枚でどう!?」
「随分太っ腹だな!」
「町の危機なんだから当然よ。まぁ、なんかあった場合は王国の責任問題って事で吹っ掛ける予定だし」
「相変わらず逞しいな…」
「ゴブリンロードを倒す程の力なら大丈夫でしょうけど、万が一の事もあるし人手は多い方がいいでしょうから、仲間を連れて行った方がいいわね。ちょっと!アンタ達!!」
サッチャは奥の席で酒を傾けている二人の男に声をかけた。
「なんだサッチャ?なんか用か?」
「お前ら…」
近づいて来たのは、どう見てもナンバと足立だった。ナンバは緑色のローブ、足立は青い革製の鎧を着ている。
「ナンバにアダッチさん!二人とも居たのかよ!」
「お前が珍しく客を連れて来てたからな、何事かと思いながら二人で飲んでたんだよ」
「暇してただけでしょ?そんなに暇なら、イーチ達と一緒に人探しを手伝って欲しいのよ」
「聞いてたよ。コミジュールのソンヒーヌ達だろ?そんな危なっかしい事ごめんだぜ」
「なんだよ!手伝ってくれてもいいだろ!」
「無茶言うな、人探しなんて金にもならねぇ上に手間ばっかりかかる。オマケに相手がコミジュールじゃ割に合わねぇ。お前らに金貨一枚じゃ俺達の分前なんて雀の涙…」
「ここのツケ、チャラで良いわよ」
「なんだと!?それを先に言ってくれよ!」
「ここは一つ、お互い助け合って行こうぜ」
「切り替え早っ!?」
「ふっ…調子のいい奴らだ」
桐生がふと目線を下げると、不安そうな顔のハルーカが居た。
「ハルーカは……」
「一緒に行っちゃ…ダメだよね」
「なんだ、お前さん子連れか?」
「見つけたら一触即発、子供が居たんじゃ危なっかしくてしゃあねぇぞ。家に帰してやんな」
「いやぁ、実はな…」
イーチが二人に事情を説明すると、二人は頭を掻いた。
「なるほど…勇者に助けを求めて孤児院を…確かにイーチは勇者だどうこう騒いじゃいるが…残念ながらただの中年冒険者だぜ?」
「そんなの俺もわかってるってぇの!!」
「しかし、それじゃ帰るウチも無いって事か。宿屋にしても金が無いんじゃ…」
全員がハルーカの扱いに悩み、ハルーカも少し居心地悪くなっていると、サッチャが声を上げた。
「なら、ウチで面倒見れば良いでしょ?」
「えっ?サッチャの酒場でか?」
「良いのか?」
「タダで置いておくつもりは無いわよ?ハルーカちゃん、お皿洗いとかはやった事ある?」
「うん、孤児院でお手伝いしてたよ」
「それなら、ウチの酒場の手伝いも出来るわね?」
「うんっ!」
「おいおい、流石にこんな子供を働かせるなんて…」
「何言ってんの!」
難色を示したナンバを引っ張り、サッチャが小声で話す。
「ハルーカはどう見てもアンタらよりもしっかりしてる子なんだから、役割も無しに面倒を見るなんて言ったら余計に気を使わせちゃうでしょ!」
「そういうもんか…って、俺らよりしっかりしてるって…」
「はいはい、とにかくこの子は私に任せるって事で、アンタらは仕事の事だけ考えときなさい!」
「取り敢えず、今日はもう日が暮れちまうから、また明日だな」
程なくしてイーチ、ナンバ、アダッチは家路につき、桐生とハルーカは酒場の空き部屋を使わせてもらう事になった。
「ハルーカだけじゃ無く、俺まですまねぇな」
「イーチの家じゃ狭くて汚いから、お客さん二人も入れないわよ。それに、二人とも明日から仕事をお願いするから、しっかり休んでもらわないと」
「サッチャさん、ありがとう」
「どういたしまして。部屋のものは自由にして良いからね。それじゃあ私も家に帰るから、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
サッチャが部屋を出た途端、ハルーカはあくびをして少しフラフラとしている。
「今日は色々あって疲れただろう。もう寝よう」
「うん……」
ハルーカを横にして桐生はその場を離れようとするが、ハルーカは眠りながら桐生の服の裾を掴んでいた。
「……いつもと違う場所で、不安なのか?」
桐生は服の裾から手を離させ、その手を優しく握った。
「心配するな…俺がそばに居る」
眠るハルーカの顔を見て、幼い日の遥を思い出しながら、その手をゆっくりハルーカの胸の上に置き、桐生も寝床についた。
翌朝、イーチ、アダッチ、ナンバと共にギルドを出て、サッチャとハルーカに見送られる。
「頑張ってね、おじさん!」
「あぁ…」
「アンタ達も、気をつけなさいよ」
「おうよ!」
「さぁ!ハルーカちゃん!私達も頑張りましょう!」
「うんっ!」
二人が店の中に入った後、四人が話し合いを始める。
「さて、まずは改めて自己紹介だな。俺は『コーイチ・アダッチ』だ。元は衛兵だったが引退して冒険者をやってる。ランクはCで職業は『戦士』だ」
「『ユー・ナンバ』だ。元は薬師だったがあまり稼げなくてな。今は『魔法使い』やってる。二人と同じCランクだ」
「ナンバはそのままなんだな…」
「はぁ?どういう事だ?」
「いや、なんでもねぇ…桐生一馬だ。職業は『武闘家』だ」
「なら…桐生さんだな」
「それじゃあ、早速探すか。まずは人気のない場所を探してみるか」
「イージンで人気がないと言えば、酒場通りと宿屋通りの路地裏辺りか?」
「手分けして探そうぜ。俺と桐生さんは酒場通り、アダッチさんとナンバは宿屋通りで頼む」
「おいおい、あんなとこナンバと歩けってか?」
「良いじゃねぇか、あの辺は宿を取る金の無い連中が路地裏で……」
「そうだなぁ…まぁ仕方ねぇか!」
下衆な笑みを浮かべる二人は足早に宿屋通りに向かった。
「全く…バカな奴らだぜ…」
「俺達も行くぞ」
桐生はイーチと共に酒場通りに向かい、人気のない場所調べるが、怪しい場所は無く、一通り見回った後、町の中央で落ち合った。
「ナンバ達はどうだった?」
「いや、全くだ。ソンヒーヌどころかいかがわしい連中も見つからないと来た」
「とんだ無駄足食ったぜ、畜生!」
「こっちも成果無しだ。路地裏だけじゃ無く、人気のないところはしらみ潰しで見てみたが…」
「となると……やっぱあそこか?」
「あそこ?」
「スラムの中心、『旧ホシーノ伯爵邸』」




