落とし物と拳銃1−2
ちょっと、入んないじゃん。
「……チッ。」
舌打ちしながら私は財布を無理やりポストに押し込もうとした。
仕事の空き時間にわざわざここまで来て、住所に書かれていたマンションを探し出して、部屋番号も確認して、その上でこれだ。
ポストの口が狭すぎて財布が途中で引っかかっている。
ガチャガチャと音を立てながら何度も押し込もうとするけど、びくともしない。
横にだだっ広くて、縦にも長いポストの群れから必死で部屋番号を探した私の苦労、返してほしい。しかも、こんなときに限ってコンシェルジュもいない。
「どうすんのぉ……。」
財布を持ったまま私は途方に暮れた。外に置きっぱなしも、なんか気持ち悪い。
「部屋に入るかぁ。」
しばらくマンションのエントランス前で待っていると中から住人が出てきたタイミングで自動扉が開いた。
その隙にすっと中へ入る。
ポストで確認した階数までエレベーターで上がる。 灰色の廊下に足音を立てずに歩き、目当ての部屋の前に立つ。ポケットから針金を取り出して慣れた手つきで鍵穴に差し込み、数秒。
ガチャッと乾いた音を立てて鍵が外れた。
「お邪魔しまぁす。」
何の迷いもなく玄関を開け、靴を脱いで中に入る。
左右に部屋がある細い廊下を抜けると、明るい光に満たされた広いリビングに出た。
大きな窓から昼の日差しが差し込んでいる。
フェイクレザーの赤いソファセット、ローテーブル、小さなダイニングテーブルに大きなテレビ。観葉植物が置かれ、本棚も端にまとめられていて無駄がなく、シンプルだけど居心地の良さそうな空間だった。
「綺麗に整頓されてるなぁ。」
思わず漏れた言葉に、自分でくすっと笑った。
うちのテレビ周りなんて、お菓子の袋と伸びっぱなしのゲームのコードでカオス状態だ。比べるのも失礼なくらい。
私はローテーブルに財布をそっと置いた。
任務完了。そう思って踵を返した瞬間だった。
カチャリ
小さな音を立ててリビングの扉が静かに開いた。
「やばぁ……。」
自分でも呆れるくらい、気の抜けた声が漏れた。
形だけの言葉。我ながら緊張感なさすぎる。
それでも体が勝手に反応する前に、私はそっと振り向いた。




