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作者: 耕路

 光夫が嶋田典子と知り合ったのは、光夫の住むマンションの隣室へ嶋田典子が越してきたことが始まりだった。顔を合わせばあいさつする隣人としての期間がしばらく続いた。

 あるとき、帰りの電車のなかで偶然一緒になり、マンションまで歩いて帰った。

 嶋田典子は一見地味な印象だったが、声は魅力的な甘い声で、会話が心地よかった。相手の電話番号を訊くと、意外にも典子は素直に教えてくれた。嶋田典子の甘い声は電話をすれば、いっそう印象に残った。

 ある晩、光夫は電話で言った。君なしでは、もう、とても我慢できない、光夫は感情を抑制しながら、ようやく典子にささやいた。わたし、光夫さんが思っているような女ではないのよ、と、そのとき典子ははぐらかすような態度で光夫に応えた。

 何日かして、決心して光夫は典子に電話を掛けた。

「今夜、君の部屋へ行くよ」

 典子は少しのあいだ黙っていたが、

「わかったわ。鍵は開けておくわ」

 と応えた。

 夜、光夫は典子の部屋を訪れた。ドアノブを回して中へ入ると室内は電気が消えて真っ暗だった。カーテンの隙間から入る街灯の光を頼りに光夫は廊下を歩いた。そのとき、なにかが、こぼれていたのか床にぬるぬるした感触があった。

 典子さん、と暗闇で光夫は呼びかけた。光夫さん、と応える声がした。    

 突然、光夫の足元になにかが巻きついた。

 部屋には、典子の姿から変異していた硬い表皮に鱗のある異星生物がいた。光夫は恐怖で身体が固まり、こうもりの顔を連想する、その生き物の頭部を凝視して、なすがままになっていた。典子の姿とは似ても似つかないその生き物の声は甘い魅力のままだった。

 光夫さん、と呼ぶ。

「逢いたかったわ」

 生き物は二重になった尖った歯の並びを見せ、光夫をますます強くきつく尾で抱きしめた。

「逢いたかったわ、光夫さん」

 再び甘い声がした。獲物を捕食するために発達した声の魔力が、身体を締めつける力に抵抗することを忘れさせ、光夫の意識は恍惚となって闇に落ちた―――。

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